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スピード・オブ・トラスト スティーブン・M・R・コヴィー著

1.はじめに

著者のスティーブン・M・R・コヴィー氏は、「7つの習慣」で有名なスティーブン・R・コヴィー氏の子息です。

その親のコヴィー氏も「本書に寄せて」として紹介文を付しています。

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副題の通り、”「信頼」がスピードを上げ、コストを下げ、組織の影響力を最大化する”ことについてが主な論調で、その信頼はどんな要素から形成されるのか、それを高めるにはどうしたらよいか、について触れられています。

以下では、信頼性の5つの波のうち、「自分自身の信頼」、「人間関係の信頼」を中心に、印象的だった部分を引用します。

他の「組織の信頼」「市場の信頼」「社会の信頼」については、ぜひ本書を全体を読んでいただければ幸いです。

2.内容

(1)1つのものがすべてを変える

  • 信頼の量は常に、スピードとコストという2つの結果として表れる。信頼が減ると、スピードが低下し、コストが上昇する。それに対し、信頼が増えるとスピードが上昇し、コストが低下する。
  • 前任者が不信を作り出し、その後を継いだりすると、さらに相続税まで払わされる場合もある。新たな関係を結んだり、低い信頼しかない組織文化に新しいリーダーとして加わったりするとき、自分がやっていないことで、30%、あるいはもっと高い率で課税される恐れがある。不信が社会に蔓延すると、あらゆる種類の経済活動に一種の税が課されることになる
  • 信頼を回復するには時間がかかるかもしれないが、信頼の提供はかなり短期間で行うことができる。そして、ひとたび構築されれば、信頼は瞬く間に効果を発揮し始める。物事を成し遂げるスピードを考えれば、まさに「信頼がもたらすスピード」ほど速いものはないことを実感してもらえるはず。
  • 信頼には人格と能力という2つの要素が作用している。人格とは、他者に対する誠実さ、動機、意図など。能力とは、才能、スキル、結果、実績といったもの。そして、この両方が不可欠。誠実あるいは正直と思う人であっても、結果を出せなければ完全に信頼することはないだろう。もちそん、その逆も言える。
  • 信頼の5つの波
  1. 自分自身の信頼:決めた目標を達成したり、約束を守ったり、言ったことを実行したりする能力に対する自信のように私たちが自分自身を信頼するとともに、他者にも信頼されるということ。要するに、自分自身にとって、また他者にとって、信頼に値する人間になるということ。
  2. 人間関係の信頼:私たちが持っている他者に対する「信頼口座」を確立し、増やすにはどうしたらよいかがテーマとなる。この波の根底にある主要な原則は、「行動の一貫性」。
  3. 組織の信頼:ありとあらゆる種類の組織においてリーダーはどうしたら信頼を得られるかがテーマとなる。この波の根底にある主要な原則は「一致」。
  4. 市場の信頼:この波の根底にある主要な原則は「評判」。会社のブランド、さらにはあなた個人のブランドがテーマとなるが、そこに市場の顧客や投資家などがあなたに対して抱く信頼が反映されている。
  5. 社会の信頼:他者や社会全体のために価値を創出すること。この波の根底にある原則は「貢献」。

(2)第1の波:自分自身の信頼

  • 信頼性の核は4つのポイントに絞られる。誠実さ、意図、力量そして結果。一人の人間として、リーダーとして、家族として、組織としてのあなたの信頼性は、この4つにかかっている。
  • 信頼の第一の波は「自己信頼」。自分自身への信頼はあなたの信頼性全てにかかわってくる。自分自身にとっても、また他者にとっても信頼できる人物であるための誠実さ、意図、力量および実績を開発することであり、突き詰めれば、①私は自分自身を信頼しているか?、②私は他者から信頼される人物か?、の2つの簡単な質問にどう答えるか。
  • あなたの周囲の人たちの多くは、あなたの信頼性が4つの要素から成っていて、その要素ごとにあなたは高く評価されたり、低く評価されたりする可能性があることに気づいていない。
  • 樹木で言えば「誠実さ」は根っこの部分にあたり、そこからすべてが育っていく。「意図」になると、ある程度目に見える、地中から伸びた樹木の幹の部分。「力量」は樹木の枝に相当し、私たちが何かを生み出すのを可能にする。「結果」は果実。具体的で測定可能な目に見える成果であり、最も見えやすく、他者に評価されやすい。
①第1の核:誠実さ
  • 樹木に例えるなら、誠実さは根っこである。地面の中にあって、ほとんど人の目には触れないとはいえ、木全体の栄養、強さ、安定度、成長にとって絶対に欠かせない。素晴らしい力量と優れた実績を備え、さらに善意があっても、残念ながら不正直な、あるいは無節操な行動をとってしまう人が世間にはいる。「結果は手段を正当化する」という考え方がそうさせる。
  • 誠実ではあっても他の3つの核が欠けている人は、根っから正直ないい人ではあっても、所詮役立たずの人間ということになる。樹木の例えでは、いわば切り株で、ほとんど使い物にならない。正直者ではあるが、相手にされない。
  • 誠実であるためには、正直であること、すなわち本当のことを言い、正しい印象を与えることが絶対に必要。それ以外にも同じくらい重要な資質が少なくとも3つある。
  1. 一貫性:意図と行動が同じとき、その人は誠実。
  2. 謙虚:原則を認識し、それを自分自身よりも優先する。何でも自分の考えだけでは割り切ろうとしない。
  3. 勇気:困難な状況にあっても正しいことをする。
  • ほんの些細な自分との約束を守るたびに、その約束の大きさに関係なく、自信が膨らんでいく。自分の中に蓄えができていく。自分自身と、また他者ともっと大きな約束をしても、それを守ることができるようになる。
  • 広い心は人々に信頼感を与え信頼を抱かせるのに対し、狭い心は疑念と不信を生む。新しい考え方、可能性、成長に対して広い心を持ち続けることができれば信頼配当を生み出し、それができなければ信頼税を課され、現在だけではなく将来にわたるパフォーマンスに影響が及ぶことになる。
  • 最も信頼を与える思惑は、お互いの利益を追求しようとすること。人間は互いに助け合って生きていくものであることを認識し、信頼と利益の両方を築くことのできるような解決策を探し求める。
②第2の核:意図
  • 「行動」は一般的に、動機や思惑が具現化したもの。信頼性を生み出し、信頼されるのに何よりも効果的な行動は、他者の最大の利益のために振舞うこと。「私はあなたのことを気にかけている」などと言うだけなら簡単で、それが本心であることを実際の行動でもって実証しなければならない。
  • 他者の行動を、自分の意図に勝手に当てはめて解釈してしまうのは禁物。人は誰かを判断するときは、目に見えるその人の行動を基準にし、自分を判断するときは自分の意図を基準にするもの。どんな状況であっても、他者の良からぬ行動に対して、その根底には善意が存在した可能性があることを意識すべき。
  • 意図を宣言し、思惑や動機を包み隠さず伝えることは、行動が他者から誤解されている場合、特に有効。また、新しい関係で信頼を築く手段としても役立つ。自分が有言実行を実践する姿を見て、自分を信頼してほしいと明確に告げる。また自分の意図を宣言すると、信頼が築かれるだけでなく、自分の発言に対する責任感が増すという。
③第3の核:力量
  • 信頼性を生み出すうえで力量は不可欠であり、それは個人でも組織でも変わらない。力量は他者に信頼を抱かせる。目の前の仕事に必要な能力であれば、なおさら。力量はまた、やるべきことをやれるという自信も与えてくれる。
  • T-A-S-K-Sは力量の各要素について考える方法。「才能(Talent)」は人の天賦の才や長所。「態度(Attitude)」とはパラダイム、すなわち物の見方や人間としてのあり方。「スキル(Skill)」とは技能、つまり上手にできるということ。「知識(Knowledge)」は学習、洞察、理解、認識を表す。「スタイル(Style)」とは独自のアプローチ方法や個性。これらはすべて力量の一部であり、結果を生み出す手段。
④第4の核:結果
  • 結果があなたの信頼性にとって重要。他者と信頼関係を築き、維持する能力に欠かせない。結果を出していなければ、同様の影響力を持つことは絶対不可能
  • 結果を考える際、常に自問すべき重要な点が2つある。それは、「どんな結果」を自分は得ようとしているかと、「どんな方法」で結果を得ようとしているかだ。大概の人は「どんな結果」のほうしか考えない。「どんな方法」に対する答えに大きな問題が潜んでいるかもしれないことを知らない。リーダーシップというものを「信頼の構築を通じて結果を出すこと」と定義するのもそのため。
  • 他者に信頼感を与えるためには、結果さえ出せばよいというのではない。その結果に人々が気づいてくれなければ無意味。したがって、結果を他者に上手に伝える能力が重要。
  • 何をしたかよりも、どんな結果を出したのかのほうが大切。ある方法で結果が出なかったら、別の方法を試みればよい。ただだらだらとやって、「言われたようにした」などと泣き言を言ってはいけない

(3)第2の波:人間関係の信頼

  • 信頼の預け入れは、大きなバケツに一滴ずつ水を垂らしていくようなもの。それに対して引き出しは、特に多額となると「そのバケツを蹴飛ばす」ようなもので、たった1つの行動によってすべてを失う
  • パフォーマンス(信頼)のレベルを引き上げるためには、推進力の強化もさることながら、抑制力を取り除くことも必要。それを怠れば、片足をアクセル、片足をブレーキに乗せて車を運転することになる。結果を達成する最大の近道は時に、思い切ってブレーキから足を話すこと
  • 「率直に話す」ことの好例。なまぬるい叱責を受けるか、それとも別の部署に飛ばされるかなどといった甘い受け止め方を相手にさせず、成績を上げないと「解雇」になることを、相手にはっきり分からせる。誰だって、好き好んで言っているわけではない。だが、他の選択肢があり得るかのような印象を与えるより、そのほうがずっと親切
  • 透明性は、スピードとコストの観点から見ると極めて有効。何か思惑があるのでは、などと勘繰ったりする必要がないから。後でとやかく言うこともなくなる。体面を取り繕ったり、どの相手にどの手法を用いたか覚えていたりする手間が省ける。
  • 間違いを犯したとき、それを直ちに認めて謝罪すれば、大概は切り抜けることができる。信頼性を最も傷つけるのは、間違いをした人がそれを認めず、謝らない場合。そうすると、元々は大したことではなかった出来事がはるかに大きな問題に拡大し、それを隠そうとすれば事態はさらに悪化する。
  • その場にいない人のことをどう言うか聞いていれば、自分がその立場になったときに何と言われるか、我々はお互いに分かる。忠誠心を示す方法は、他者に花を持たせることと、その場にいない人もいるかのように話すこと
  • 「結果を出す」という行動は、反対派を味方につけるのに有効。また、新しい関係において信頼を素早く築いたり、融通性と選択の権利を獲得したり、能力の部分で失った信頼を速やかに回復したりするのにも効果がある。
  • 今度あなたが結果を出そうと思うときは、何が期待されているのかを徹底的に理解するようにしよう。自分で良い結果だと思って実現させても、評価されるとは限らない。真の信頼を築きたいと思ったら、相手が求める「結果」が何なのかを知る必要がある
  • 今日の世界における変化の速さを考えると、「より上を目指す」努力を意識的に行わない場合、元の水準に留まるわけではない。他者よりもどんどん遅れていく。周囲の人々が急速に前進していく中で、ますますついていけなくなる。従って、単なる現状維持では信頼されるどころか、信頼を低下させる。
  • 継続的改善に努める。「力量」を高める。絶えず学習する。公式・非公式のフィードバックシステムを構築する。得たフィードバックを行動に活かす。フィードバックを提供してくれた人に感謝する。自分を絶対視したり、フィードバックを軽視したりしてはいけない。今の知識やスキルだけで将来の課題に対処できると思ってはならない
  • 良いことに限らず悪いことも共有すること、誰もが目をつむっている問題をあえて持ち出すこと、タブーに切り込むこと、触れにくい問題について話し合うこと。こうしたことを適切に行うと、短期間に信頼を築くことができる。気取らず、信用できる人間であることが相手に伝わる。
  • 「期待を明確にする」という行動の根底には、明快さ、責任、そしてアカウンタビリティの原則がある。何を期待しているか分かっているはずだと思い込んだり、単に知らせるのを怠ったりすると、各人の頭に描かれる、求める結果が違ったものになる。そうすると推測するか、勝手に決めるしかなくなる。そして生み出された結果が評価に値しないと、皆が失望し、信頼、スピード、コストすべてが打撃を受ける。
  • 「期待を明確にする」という行動の影響が広範囲に及ぶ理由の1つが、人と人が関わりあうときは、それが明確であろうと暗示的であろうと、また理解されようがされまいが、必ずそこに期待が存在するということ。そして、この期待がどの程度満たされるか、または裏切られるかが信頼に影響する。
  • 「期待を明確にする」という行動は、常に双方向の行動だということを念頭に置かなければならない。どちらの視点から見ても無理のない現実的な期待を設定できるよう、社員たちの意見も聞く機会を設ける必要がある。
  • 人間関係で忘れてはならないのは、言葉というのは時に、人が本当に考えていること、感じていること、意味することのほんの一部しか伝えないということ。それどころか、全く伝えないときすらある。そこで、「まずは耳を傾ける」とは、耳以外の部分も使い、目や心でも聞くということを意味する。何かを聞くと同時に、何かを知るということ。
  • リーダーたちが部下を信頼していないために、不信が不信を招いている。つまりリーダーたちが社員の不信情勢に加担している。人を信用せず、逆にその人からも信用されないという下向きの悪循環がそこに生まれる。

(4)信頼を呼び起こす

  • 非常に疑い深いと、なんでも確認して徹底的に分析しないと気がすまず、スピードが低下し、コストが増加する結果になる。さらに、チャンスを失い、協力や相乗効果を絶つことにもなる。分析力は実際、自分が備えているものしかないわけで、信じられないかもしれないが、その分析は限定的でゆがめられている場合が多い。それなのに、他者の貴重な考えやアイデア、英知、物の見方を一切受け入れないため、それに気づきすらしない。
  • 信頼を得ているマネジャーの多くが、優れた人格と専門的能力を備え、信頼性がありながら「リーダー」になれないのは、「賢い信頼」を与える術を知らないから。また、他者を信頼すると口先では言っても、実際は細部に至るまで管理し、つまり「偽の信頼」を与えることもある。要するに、完全には委託していない。
  • 信頼を築いたり回復したりする最大の障害の1つは、理想的な人生とは苦労の無い人生であるというという表面的で二次元的なパラダイム。私たちが人生の行く手には困難が待ち受けている。また、人に間違いは付き物であり、他者が間違いをすることだってある。それが人生。問題は、私たちがそれにどう対応するか
  • 挫折が飛躍的進歩を生むということは、人生ではよくあること。苦労と過ちは私たちにとって、学び、成長し、向上する最大のチャンスといえる。
  • 「許す」ことと「信頼する」ことことは同じではない。「許す」とは、誰かに故意または偶然に気分を害された場合、その人に対して抱く怒りや復讐の念、非難の感情などを自分自身から取り除くべきだということ。他者の過ち、弱点、誤った選択に対する受身的な対応から自分自身を肉体的、精神的、情緒的に解放すること。許すまでは、「賢い信頼」を思う存分実行することができない。
  • 人は信頼性向を持って生まれてくる。子供の頃は誰も純真で、無邪気で、傷つきやすく、単純。時にはもっともな理由による場合もあるが、人生経験を通じて、信頼しなくなる。しかし、どんな状況にあるにせよ、私たちは実際のところ、信頼性向を維持したり回復したりする選択ができる。鍵は、許すことができるかどうか、信頼性向と分析力のバランスをとって判断力を身につけ、配当を最大化しリスクを最小化するような「賢い信頼」を提供できるかどうかにある。

 

3.教訓

信頼性の4つの核を樹木に例えるところは秀逸で、誠実さしかなく他の核がない人は「切り株」と言い捨てるなど、時に厳しい表現を含みますが、真実をついていると思います。(以下、樹木の上下がわかるよう、4つの核を再掲します)

④結果 :葉

③力量 :枝

②意図 :幹

①誠実さ:根

管理職として、資料案や社内通達案文を確認するとき、誰が起案者なのかによって、チェックにかける時間は正直なところ変えています。構成から見直したほうがいいかもと思って読むのと、誤字脱字が多いからそこは見ないとと考えるのと、もうほぼ任せていいやと思って見るのでは、かかる時間が全然変わってきます。また、人によって得意不得意があるので、同じ人でも案件によって強弱をつけて確認します。

さらに上席などの最終決裁者に回付する過程で、私自身が「お前はちゃんと見たのか」が問われることに跳ね返ってきます。「信頼」の輪は組織を連鎖しているので、全体として信頼性の高い組織は、スピード感を持って案件を進めることができるようになる、ということです。

つまり、メンバーが信頼できず、度を越えたマイクロマネジメントをしてしまうと、自分自身が組織のボトルネックになってしまう、ということを示唆しています。

入口の段階で、しっかり期待値を示し、あとはドンと構えて相手を信頼し、結果を期待することを意識したいと思います。