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心理的安全性のつくりかた 石井遼介 著

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心理的安全性のつくりかた [ 石井 遼介 ]
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1.はじめに

心理的安全性」とは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態を指し、要は「自由に発言できる職場」だということです。

心理的安全性は、Googleが成功するチームについて分析し公表した、効果的なチームの主要素です。

本書は以下の通り、HRアワード2021で優秀賞を受賞しており、2020年の最優秀賞は「他者と働く」、過去には「GRIT やり抜く力」や「LIFE SHIFT」なども受賞している、HR(Human Resource;人的資源)領域としては著名な表彰制度です。

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2.内容

(1)チームの心理的安全性

  • 対人関係のリスクとは、「チームの成果のためやチームの貢献を意図して行動したとしても、罰を受けるかもしれない」という不安を感じている状態のこと。心理的”非”安全な職場では、いつの間にかメンバーは必要なことでも行動しなくなってしまう。
  • 心理的安全性が高い=「ヌルい職場」ではない。目標を下げて現実に合わせるのではなく、妥協点を高く保ちながら仕事を進化させていく。このようなリーダーに人は「ハイ・スタンダード」を感じる。そして、ハイ・スタンダードな仕事をするチームのメンバーは、たとえ困難でも達成に貢献しようと努力する一人になる。
  • 日本の組織では、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4因子があるとき、心理的安全性が感じられる。
  1. 話しやすさ」:みんなが同じ方向を向いて「これだ!」となっている時でも反対意見があればシェアすることができる、「問題」や「リスク」に気づいた瞬間に感じた時に声を上げられる、知らないことやわからないことがあるときにフラットに尋ねられる。
  2. 助け合い」:問題が起きた時に人を責めるのではなく建設的に解決策を考える雰囲気がある、チームリーダーやメンバーがいつでも相談に乗ってくれる、減点主義でなく加点主義。
  3. 挑戦」:チャレンジ・挑戦することが損ではなく得だと思える、前例や実績がないものでも取り入れる、多少非現実的でも面白いアイデアを思い付いたら共有しようと思える。
  4. 新奇歓迎」:役割に応じて強みや個性を発揮することを歓迎されていると感じる、常識にとらわれず様々な視点を持ち込むことができる、目立つこともリスクではないと思える。
  • たとえ相手が”本当に”悪かったとしても、自分を問題の外に置いて相手の悪さを指摘し非難することが、相手の行動に影響を与えることはほとんど無い。少なくとも、あなたが「問題だと考える」相手から深い信頼を得られている状況でない限り、残念ながら役に立たない行動。
  • 「自分の行動は周囲の成長を思ってのことだったが、心理的安全性の観点からは小さな罰を与えてしまった」、「直後の見返りが大事なのに、忙しさにかまけて即座のレスポンスをできていなかった」等、自分自身が変えるべきポイントを見出すことが重要。

(2)リーダーシップとしての心理的柔軟性

  • 心理的安全性にとって、望ましい行動を増やし望ましくない行動を減らすことが、管理職・リーダーなどの組織に心理的安全性を構築しようとリーダーシップを発揮する人の仕事。
  • 心理的柔軟性には、以下の3要素がある。
  1. 必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる。
  2. 大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む。
  3. 変えられないものと変えられるものをマインドフルに見分ける。
  • 「善か悪か」「白か黒か」といったことを証明しようとすることは、うまくいけば少し気が済み、うまくいかないうちはイライラするというだけで、多くの場合は決して生産的でなく、役に立つ行動ではない。
  • 何か条件が満たされれば、いつか苦痛などなく嫌な気分が完全に追い出せていい気分でいられる、という幻想を捨てなければならない。「人生には苦痛があることがノーマル」で、「ビジネスでは大変なことが起きるのがノーマル」ということを心底受け入れ、理解していくことが重要。ありもしない幻想にしがみつくのでなく、前を向くために諦め、受け入れることを「創造的絶望という。
  • 「マインドフル」に見分けるとは、今この場で進行中の出来事に気づき続けているということ。気づきが不足すると「心ここにあらず」の状態となり、「目の前で進行中の出来事に集中し体験する」代わりに、頭の中の「思考」や「感情の渦」にとらわれてしまう。
  • 「自分物語」に固執している限り心理的柔軟性は失われ、問題の原因となる。「自分らしさ」や「キャラ」を守るために、役に立たない行動を続けたり、チャンスでも行動を変えられなかったり、自分自身に紐づく、固定化した行動を続けてしまう。その上、自分らしさを守るために、正当化や理由付けを始めてしまう。

(3)行動分析でつくる心理的安全性

  • 人々の行動は、「きっかけ」と「みかえり」によって制御されている。次回、同じような「きっかけ」があったとき、「みかえり」の影響により、同じ行動を取る確率が上がると考える。同じ行動を取る確率が上がる「増えるみかえり」のことを「好子(こうし)」、「減るみかえり」のことを「嫌子(けんし)」と呼ぶ。
  • 相手に言われたことや状況に単に反応するのではなく、自分がこの行動を選択することは、相手にどのような「きっかけ・みかえり」をもたらすのだろうかと考えることが重要。
  • 例えば、ミスの報告を受けた上司は、ミスを減らしたいと思って「問い詰める」という「みかえり」を与えると、意図と異なり、ミスを減らすのではなく報告を減らす効果を持つ。嫌子を使うことで行動をやめさせようとすることは、あまり役には立たないので、問題行動を減らしたい時は、代わりとなる望ましい行動への「好子出現」が使えないか、まずは検討する。
  • 「個人攻撃の罠」の本質は、結局、個人の内面(やる気、自身、性格、能力など)を責めたところで、解決・行動変容にはつながらない
  • 「行動の品質」と「歓迎したい行動自体」を切り分ける技法を導入する。なぜかというと、「行動の品質」を評価すると、望ましい行動(品質は低くても、その行動自体は歓迎すべきもの)に、すぐ罰を与えてしまうから。
  • 出てきた意見に対して、いきなりディスカッションするのでなく、他の意見も洗い出し、可視化したうえで、優先順位の高そうなものからアプローチする。「意義ある意見の対立」はむしろ推奨すべきで、相手に指摘・フィードバックするときは、「あなたはこうすべき」ではなく、「私にはこう見えた・私はこう感じた」という「I message」で伝えることが役に立つ。
  • 結局のところ、チームで働くことの利点は、強みを発揮し弱みをカバーし合うこと。上席者自身が「完璧を捨て、強みで輝き、弱みを委任する」ことや、メンバーの「困難や逆境があっても行動を取り続けられる領域を知る」ことによる最適な配置は、よい「きっかけ」となる。

(4)言葉で高める心理的安全性

  • 言われた通り、ルール通りに行動することに強く従うことは、自分の人生を他者に委ねることになってしまうという問題がある。さらに、他者から与えられる言語的な「みかえり」を重視し、実際に行動から得られる「みかえり」を無視するという問題もある。現実や顧客の反応は「このままではダメだ」と示しているにもかかわらず、心理的柔軟性に欠けた、硬直した役に立たない行動パターンを取り続けてしまう可能性がある。
  • 言われた通りの行動が実行されてしまうのは、ルール策定者やマネージャーが説明をさぼってしまうことが大きな原因。「こうすればいい」「こうしてはいけない」といった行動ルールだけを伝えるのではなく、そのルールがどういうときに活用できるのかという「きっかけ」や、推奨された行動するとどんな結果になるかの「みかえり」とセットで伝えると、目的地にたどり着くための適切な行動が模索できる。
  • 実際に行動が起きるかどうかは、ルールを提示する人の影響力、信頼性に依存する。「リーダーの言う通りにやってみたが、はしごを外された」「言う通りにしたが、感謝やフォローも無かった」といった、過去の歴史が影響力・信頼性を左右する。ルールを守らなくても何も起きない状況が続くと、ルールではなく「ただ言っているだけ」となり、メンバーの行動を変容させる力をやがて失う。

(5)心理的安全性導入アイデア

  • できることしかできない。自分の役割、責任、強みで輝き、弱みは正しく委譲した方がチームとして最大限の成果が出る。あまり背負いこみすぎず、助けてもらう、メンバー相手でも相談にのってもらうことは、むしろチームを話しやすくし学習を推進する。人に頼られるとうれしく思う人は多いもの。
  • 過去の失敗について素直に語る自己開示をする。単なる失敗談ではなく、「その失敗から学んだおかげで今がある」というような文脈に接続することが望ましい。
  • 自分でもすぐ解決できないような、困ったニュースが報告されたら、メンバーと目線を合わせる。叱ったり問い詰めたり、逃げたりするのではなく、「それは困った、どうしようか」と一緒に困る。
  • 「誰に何をもたらすのか」を問い直す。例えば、プロジェクトのゴールを「新システムを導入すること」に置くのか、「組織の営業マンをシステムを通じてサポートし、欲しい情報を欲しいタイミングで迅速に提供すること」に置くのかによって、プロジェクトの意味が違ってくる。

3.教訓

この本を読むことにより、リーダーは完璧でないといけないとか、チームの理想像としてこうあるべき、といったハードルを下げることができました。

変に自分の立場に固執することなく、変えられないものを変える努力をやめ、自分の信頼性を高める行動を取る意識を大切にしたいと考えます。

そうすることで、メンバー間の交流が活発になると思いますので、今後も以下を念頭においたチーム運営を心掛けたいと思います。

  1. 行動分析の観点から「やらなかったら罰を与える」よりも「やったら褒める」仕組みへ変える
  2. 望ましくないことを禁止するより、望ましいことをやり続けたくなるように設計する
  3. ルールや制度の意味意図が伝わり、そのルールを守ることが意味がある状況を作る