管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

キャリアづくりの教科書 徳谷智史 著

1.はじめに

自社の人事制度変更を控えています。そこでは、全社員に「キャリア自律」が求められ、特にマネジャーはメンバーのキャリア形成支援が求められています。

そこで、そもそもキャリアって何?を考えたいと思って本屋に立ち寄った際、そのまんまのタイトルの本があり、手にとりました。

自分自身にとって、社内に残るという選択だけでなく、転職や副業も含めて、どのようなキャリアの選択肢があるのか、またマネジャーとして、キャリア支援はどのように行うかについて、体系だって理解ができる良本でした。

最終章は、経営や人事部にいる人にとっては「組織づくり」も参考になると思いますが、自身の足元の業務とは関係が薄いため、そこを除いた部分から印象的だった箇所を以下に引用します。(ただし、要約ではなく部分的な抜粋であるため、本書を購入して全体を読んでいただくことをおすすめします)。

2.内容

(1)私たちはどんな時代を生きているのか

  • これからやってくる「キャリア3.0」の時代。キャリアは「川下り」とも「山登り」とも違う、「旅(ジャーニー)」のようなものになる
  1. 構成要素1_目的地:「どこに行きたいのか」そして「自身はどうありたいか、どんな状態で働けることを目指すか」という目的地を、誰かに任せることなく自分で決める。最初はぼんやりしていてもかまわない。
  2. 構成要素2_武器:旅を望ましいものにするためには、武器や力が必要。すべては目的地次第。キャリアづくりの文脈で言えば、どういう準備をして自身の価値を高めるかを考える。
  3. 構成要素3_ルート:目的地に行くためのルートは1つではない。キャリアづくりの文脈で言えば、「転職」「独立・起業」「社内でチャンスを掴む」など、目的地に到達するための意思決定が該当する。
  4. 構成要素4_終わりなきプロセス:旅に山登りのようなわかりやすい「終わり」はない。道中で出会う仲間とともに、想定しない出来事にどう対応し、どう旅を楽しむのか。見知らぬ土地での旅に伴う不確実性をどうくぐり抜け、目的地にたどり着けるか。着いたら、どんな日々を過ごすのか。旅は1回の意思決定で終わりではない。どこまでも続いていく
  • 今とまったく同じ事業で、変化を起こさずに会社を存続させられると考えている会社はまずない。そして、事業を変えれば、求められる人材も変わる。過去と同じマインドやスキルセットの社員を抱え続ける前提で経営するのは難しくなってきている
  • 働く個人の視点から見れば、生涯同じ会社で、あるいは同一の業務で働く前提は無くなり、複数の組織で複数の職種を経験し、転職や副業もさらに一般化していく。
  • 分かれ目になるのは、結局、「看板」に安住していたか、自らの意思で「機会」を掴み続けたか、そこに尽きる。どんな個人も、最初は地頭の差などが目立つが、経験による成長の差がいつかはより大きく影響してくる。今の状況への違和感に蓋をして、看板に安住し、機会を先送りしているようでは明るい未来は望めない
  • 持続的な幸福度や市場価値(資産)を積み上げるためには、一時的に収入を減らしてでも他の成長機会を求めて転職したり、あるいは困難な体験にも時間を投資したりして(負債)、信頼や成長を掴むためのネットワーク(自己資本)を蓄積していく。そして、それをテコにさらなる成長の機会を掴み、自らの価値を持続的に高めていく。中長期的視点で積み上げ、将来的な経済メリットも享受する
  • 要は、自分の「今できること」だけに注目して目先の報酬最大化を狙うのではなく、自分の「今できること」にレバレッジを利かせ、チャレンジングな機会を掴み、自分の幅を広げ、成長することを目指していく
  • 企業側はもはや、個人のキャリアをすべてお膳立てしようとは考えていない。期限を切って、これから必要なスキルセット強化に向けた学習機会を一定は提供する。これは「学べる環境は用意したのであとはみなさん次第です」という意思表示。適応できない人は早期に出ていってもらいたいとうのが会社の本音。
  • 学ぶこと自体を目的化せず、何のために、どこを目指すかを明確にすること。そして、学びをアウトプットすること。学びの効果を最大化するにはこの2つが欠かせない。

(2)自分自身を言語化する

  • 人は人との関わりの中で生きているため、相対的に比較してしまうのは自然なこと。また自分の人生を否定したくないがために、これまでの生き方やキャリアを意味のあるものとして肯定しようとするのもまた自然な心情といえる。ただ、この「自己正当化バイアス」が強すぎると、自分でも気づかないうちに本音をごまかしてしまう。言語化にゆがみが生じ、結果として幸せとは言えない未来を招くケースが多い。
  • 固定観念の鎖」から抜け出す。自身の能力への諦め、周囲や組織への諦め、そして何かを目指すことそのものへの諦め。キャリアを再考する際には、思い込みの「鎖」を見つけ出し、その外へと範囲を広げて考えてみることが重要
  • 経験自体にいい悪いはない。事実は事実。ただ、その事実をどう意味づけるかは、自分の人生にとって大きな意味を持つ。いちばんやっかいなのは、その構造を理解しないままに放置してしまうこと。原因を自覚しないままに不足分を埋めようとすると、そのアプローチはどこか歪になる。経験と向き合ったうえで、「手放す」プロセスが大切となる。
  • 利己がある程度満たせていないタイミングでは、本質的な利他は生まれえない。まずは自身の「やりたいコト」や「自分が得たいコト」を実現する。その先に利他に向かう人もいる。「社会目的志向」という利他と「コト志向」という利己は、二項対立ではない。
  • 未来を描くときに最初にやるべきは「思考の壁」を外すこと。人は経験を積めば積むほど、理想ありきではなく、現実を起点に未来を描いてしまう。それは人としての成熟である一方、ときに不要な「思考の壁」を自らの内側に作り上げる。
  • できない理由はいくらでもある。が、いったん脇に置いておこう。ここでは「IF」、つまり「もし」今あなたに何の制約条件もなかったとしたら、やりたいこと、実現したいことは何かを考えてみてもらいたい。
  • 無理やり今あなたが思いつく範囲のみでWillをひねり出す必要はない。まずは、与えられた業務(Must)に対して、できること(Can)を増やし、成果を出す。そうすると、次の目標や業務(Must)ができて、それに向かって取り組んでいくうちにできること(Can)が大きくなり、次に目指すものが見えてくる。これがMust-Canアプローチ。
  • どんな著名な起業家も最初から未来の「ありたい姿」を明確に描けているわけではない。ある程度の方向性を仮で置いて起業し、ビジョン(Will)を掲げ、経験を積み力がつく(Canが広がる)なかで、ビジョンがより具体的にアップデートされていくことも多い。
  • 自分自身を言語化するためのステップ
  1. 知らず知らずのうちに凝り固まった、自身の価値観を紐解く
  2. 過去の経験を振り返り、自分の思考や行動の癖・軸を言語化する
  3. 思考と行動の壁を外し、描く未来を「仮置き」し、行動に移す

(3)市場価値

  • 一般的に市場価値とは、「希少性」×「市場性」×「再現性」の3要素で整理することが可能。
①希少性
  • スキルはある程度、後天的に身に着けることが可能だが、スタンスは生き方や性格など個人の特性とも関連するため、習得や矯正に時間がかかる。スタンスこそが将来的な成長に大きなレバレッジをかける。このレベルが一定以上であることは希少性がある。
  • 元リクでは、常に「あなたはどうしたいのか?」が問われ、自分自身の頭の中で「考え抜き」、「圧倒的な当事者意識でやり抜く姿勢」が求められることに加え、「チームメンバーとの連携」や、自分自身が「広く深く学び」ながら成果を最大化することが徹底されている。
  • 希少性のに関して、1つ気を付けてほしいのが「発注者の罠」。お金を使うクライアント側になる立場にあまり長く身を置くことはおすすめしない。発注側は、相手からするとお客様なので、こちらの意図をくんで動いてもらえるケースが多く、またフィードバックも得られにくい。仮に立場が逆転したときに、発注者側にいた個人に価値が出せるかというと、ほぼ出せない。
②市場性
  • これからの時代においては、「課題解決力」よりも、そもそもの課題を設定する「課題設定力」のほうが重要になる。
  • 改善は既存の延長線上にあるが、変革はすでにあるものをベースにするのではなく、そもそも論に立ち戻り、姿や形を新たに創り変えることを指す。重要なのは現状に健全な危機感を持ちながら、既存の枠組みや慣習にとらわれることなく行動していくこと。大きな変革は慣習にとらわれない小さな一歩の先にしかない。
③再現性
  • 再現性とは、一言でいえば「違う組織・環境に移った際、同等の価値を発揮できること」。大事なのは、どのような環境でも達成に向けて思考・行動できるか、異なる環境でも成功できる「ポータブルスキル、スタンス」があるのかだ。

 

  • どの能力をどこまで高めようと目標設定するかで、準備や臨み方もまったく異なる。こうした「ターゲットとする能力」と「どのレベル感を目指すのか」の目標がない限りは、意味のある振り返りもできないはず。
  • シビアなようだが、ここではないどこかに行けば、自分以外の誰かが環境のお膳立てをしてくれ、自分のスキルと希少性を高めてくれることなどありえない。どんな環境であれ、成果にこだわる姿勢は成長のためには欠かせない。徹底的に成果にこだわると、あるべき姿(目標)と現状の差分、身につけなければならないスタンスやポータブルスキルは、自ずと見えてくる。
  • 対話し自己の整理をしていくなかで、思考特性や行動特性の違いが見出せるケースもある。自分には当たり前だと思える行動や思考の習慣が、他者から見ると特異だということはけっこう多い。1人で考えこみすぎずに、ある程度自分のことを棚卸できたら、次は他者と話して、自分自身を捉えなおしてみてほしい。
  • テクニカルスキル=資格ではない。テクニカルスキルを上げるには時間がかかる。誰でもすぐに身に着けられるとすれば、それは希少ではない。時間がかかるからこそ、優位性につながる。まず1つ、地道に研鑽を積み確固たるテクニカルスキルを確立すること。
  • 程度の差はあれ、同じ環境にいると成長のペースは徐々に下がり、いずれ間違いなく踊り場がやってくる。そこで重要になるのは、今の延長線上にある連続的な改善ではなく、新しい機会に飛び込めるか否かだ。さらに深く、もしくはさらに多様に幅を広げるこのような非連続の経験を「クリエイティブジャンプ」と呼ぶ。自ら非連続な機会を創り出し、非連続な機会によって自らを変えよ

(4)キャリアを選択する(前提編)

  • T型の「深さの成長」に停滞や逓減を感じたら、H型に移行する1つのシグナルになる。逆説的だが、T型で1つの能力のみにフォーカスするよりも、H型に移行し別の視点が身につくことで、元々あったT型の深さにさらに奥行きが出て成長するケースも多い。いったんH型に移った後に、元のT型の専門領域に戻ってきてもよい。
  • 人の強みや志向性は、やってみて初めて気づくことも多い。そのため、いろいろな分野に興味を持ちつつ(=T型の幅を広げる)、どこに自分の強みがあるか、自分のどんな特性がどの領域とフィットするかを他者との相対比較の中で見極めたのち、もう1つの軸を深め、H型を目指してほしい。多くの方のキャリアを見てきた経験上、「自分の可能性を事前に制限しすぎないこと」がまず重要。
  • 40代以降では、残されたキャリア人生で身を置きたい環境を今一度見極めて言葉にしてほしい。自分自身に視点を閉じることなく、ここまでで得た立場や能力を「何に活かすのか」の対象まで言語化してほしい。ぜひベクトルを自身の肩書きや年収だけではなく、外に向けてほしい。
  • 人生のスピード感は人それぞれ。そして、すべてがコントロールできるわけでもない。無理に行き急ぐこともないし、シニアになったからといって、もはや自分に新しいチャレンジはできないと諦める必要もない。長い人生、休憩や脱線だってあってもいい。キャリアジャーニーという言葉には、そんな思いも込めている。

(5)キャリアを選択する(実践編)

  • 人生は選択の積み重ね。この1年をどのような環境で、誰と、どのような仕事をして過ごすのか。あなたが今の環境にいるならば、それは「今の環境に居続ける」決断をしているということでもある。決断とは、文字通り他の選択肢を「断つ」こと。キャリアには、常に無数の機会が開かれており、あなたは、今この瞬間も含めて、環境を選択し続けていると考える必要がある
  • 転職活動は、内定を取るためのプロセスではない。企業の中を自分の目で見て、耳で聴いて、頭で考え、本当にその環境に身を置くべきなのかを判断するためのプロセス。
  • 決断したあなたに最後に伝えたいことは、「決めた道を正解にする」視点。転職はあくまで1つの入口に過ぎない。大事なのは入社後の成長。どの組織が「正解」で、どの組織が「間違い」という絶対的な答えは存在しない。人生にABテストはない。悩んだ末に意思決定したのならば、「その選択が正解だったか」を振り返るより、選んだ組織で日々仕事をやり切り、さらなるキャリアをひらいていくほかに道はない。
  • 副業は、ほとんどのケースで時間よりも成果を求められる。投下時間ではなく成果。マーケット感覚を養うためにも、自分のアウトプットがどれだけ価値につながり、報酬として返ってくるのかをまざまざと感じてもらいたい。費やした時間は一切関係ない。むしろ短い時間で成果を出すことを考え抜き、積極的に「時給脳」から抜け出そう
  • 「社内に残る」という意思決定をキャリアにプラスにするためには、「転職できないから残る」という受動的な考えではなく、「この環境で実現することがある」という主体的な意思決定であることがとにかく重要。このスタンスの差によって、その先のキャリアの明暗が決まるといっても過言ではない。
  • うまくいった、いかなかった、の結果以上に大事なのはその要因。うまくいかなかったときはもちろん、うまくいった際も、その要因を分解し、深堀りする

(6)何が転職後の正解と失敗を分けるのか

  • 統計にもよるが、中途採用人材の2年以内での離職率は30%を超えると言われる。もっとも多いのが「入社後半年~1年」の退職。逆に入社後1年を超えると離職率は下がる傾向にある。ちなみに、早期離職は意外に、若手よりも自分に自信を持っているハイキャリアな方に多い。
  • まず最初の3日は、第一印象、関係の「きっかけ」づくり。もし第一印象が悪いと「お手並み拝見」モードが加速し、その後さらに情報や支援が得られにくくなったり、以降の関係構築の難易度が上がったりする。
  • 入社後1ヶ月は、年齢や立場にかかわらず、質問や直接的な業務内容以外の対話が許されやすいタイミング。不明点があれば、何でもこの30日で徹底的に質問しよう。特に組織カルチャーや制度がなぜ、どのような経緯でつくられたかなど、入社してからでないとわからない内容については、積極的に確認しにいきたい。
  • 30日の間で、上長や自部署以外のメンバー以外で、業務外の話もできる相談相手をつくるといい。斜めのメンターなので、「ナナメンター」と呼ばれる。ポイントは、最初から「ナナメンターをつくろう」と明確に意識すること。意識するとアンテナが立ち、適切な方が見つかりやすくなる。「自分の置かれた環境を客観的に見て、話を聴いてくれる人が身近にいる」と思えるだけで、心理的・精神的な負担は相当に解決されるので、ぜひ試してほしい。
  • 「3日」で悪い人じゃなさそうだという第一印象を与え、「30日」で小さな成功体験によって信頼を獲得できれば、その後、一気に情報が集まりやすくなったり、人(他部署や上のポジションの方)との関係を築きやすくなる。
  • 転職すると、異なる環境である分、さまざまな改善点に気が付くことがあるが、3か月程度までは、まずは自分の果たすべき役割に集中すべき。実際に、転職者が業務の成果を出していない段階で「こうしたほうがいい」などと言っても、周囲は耳を貸してくれない。むしろ指摘が先行すると、新しい組織を責めているように聞こえかねない
  • どうしても3ヶ月で成果を出そうと焦ると、個人プレイに走ってしまいがち。しかし、他者を巻き込み、場合によっては知見を借りながらのほうが断然うまくいく。当たり前だが、業務についても、組織カルチャーについても、周囲の方のほうが経験が長く理解も深い。関係を作り、カルチャーを理解できていれば、巻き込みやすい状況も作れているはず。
  • どの組織だって、無限に課題はあるだろう。しかし、新しく入った人に求められるのはそれをあげつらうことではない。わかっていながら苦労しているのであって、「解決できない背景には何があるのか」「背景構造まで理解したうえでどう解決するのか」まで踏み込まないことには、まったく意味がない。
  • 過去の成功のすべてを否定する必要はない。重要なのは、一度立ち止まり、成功スタイルのうち、「ここで通用するもの」「ここでは通用しないもの」の仕分けをすること。まず、細かいノウハウ以上に何より重要なのは、転職先の方針や思考、やり方、今起こっていることに耳を傾ける姿勢、いわば新しい組織にいる方に対する「敬意」。

(7)他者のキャリアづくりを支援する

  • 言うまでもなく、キャリアに何を求めるか、もっといえば、人生に何を求めるかは、誰しも同じということはない。ここを認識しているつもりでも、自身の当たり前を相手も当たり前と思っているという勘違いに陥りやすい。無意識に過去の経験をベースにしたアドバイスを押し付けてしまう「自己正当化バイアス」。
  • メンバーとともに働いているマネジャーは、改めて自身に問い直してほしい。会社が目指す姿と、事業の意味合いを、メンバーが納得できるレベルで説明できているか?個々のメンバーのキャリアの志向を理解できているか?そのうえで、組織の方向性とメンバーのキャリアを紐づけて、機会を提供できているか?
  • もちろん、組織で働く以上、すべての業務が個々のメンバーのやりたいことや、成長目標と直結するわけではないのが現実。ただ、個人の「ありたい姿」、成長との重なり、ひいては市場価値向上を、組織の方向性と紐づけて少しでも機会提供という姿勢が、メンバーからの信頼にもつながる。
  • 若手に限らず、転職活動中の人ですら、最初から自分がどうありたいかが完全に言語化されているケースはほとんどない。多かれ少なかれほとんどの人が、他人との対話を通じて、言語化できたり整理できたりしていくもの。つまり、大切なのは「Willがあるかないか」ではなく「Willをいかに具体化するか」のプロセス
  • Willの具体化を意識していると、すぐ「どんなことが実現したい?」と問いかけてしまいやすいが、それはハードルが高い。「これまでの仕事で楽しかったのは何?」と問いかけ、次に「それはなぜそう思ったのだろう?」というように、「出来事」と「理由」を2段階で分けたほうが答えやすい
  • さらに、もしも可能であれば聞いてみてもらいたいのは、本人の挫折経験や、コンプレックスだと感じていること。ここも同様に「出来事」と「理由」の2段階に分けて、「何があったのか」と「なぜそう感じたのか」を聴くのが望ましい。
  • プライベート上の制約や悩みを抱えている場合は、「Willの具体化」と言われてもとてもそこまで想いが至らない。大事なのは、Willや成長を強いることなく、いったん状況を理解し、待つ姿勢を持つこと。上長が理解してくれているというだけで大きな心の支えになることは多い。「わからないことがあることをわかっておく」ことで、意図せずメンバーを追い詰めることを避けられるかもしれない。
  • とはいえ、「あなたの明確な強み、そして課題は何か?今後の実務で高めていきたい能力は何か?短期と中長期で何をしていくのか?」と聞かれても、すぐに明確に答えられる人は珍しいだろう。また、本人にある程度、自身の強みと弱みがあったとしても、自己評価と周囲からの評価がずれているケースも存在する。楽観主義の過大評価、謙遜しすぎの過小評価、いずれもある。
  • 「能力の理想形」を仮置きできたら、続いて行うべきは、その現在地の確認。抽象的な表現だと機能しづらいので、あくまで具体的に、仕事と紐づけて「○○の業務で△△がどこまでできている/いない」のように言語化し、目線合わせができると望ましい。その際、Canについては、可能な限り主観を排して、本人が自らを客観視できるよう具体で伝えること。
  • よくないのは、「現在の業務から離れられると困る」という理由だけで、ずっと「こなせはするが、やりがいが薄れている業務」に本人を閉じ込めてしまうこと。業務を管轄する立場として気持ちはわかるが、キャリア3.0の時代には他者のキャリアづくりを支援できるマネジャーこそ市場価値が高まることを、今一度思い出してもらいたい。
  • とはいえ組織として事業を営む以上、本人の希望する能力開発だけを考えるわけにもいかない。だからこそ、組織の求める役割と本人の意向の双方をふまえて、複数の選択肢の中から、現実的にどの能力を高めていけると望ましいかの対話が必要
  • どんな仕事であっても、細分化していけばどんどん「作業」になりやすくなる。ただ、だからこそ目の前の業務が自身のWillにとってどういう意味があるのか、また自部署や全社のビジョンやパーパスにとってどういう意義を持っているのかを伝達し、共有していくことが大切になる。
  • すべての仕事で、本人のWillやCanと組織のMustを完全に接続することは難しい。ただ、何か1つでいいので、短期で、本人のWillに近い、Canの開発につながる領域でアサインできる業務を探す。最低限のラインとして、ここは明確に意識したい。そのうえで重要なのがメリハリを利かせた対応。
  • ゴールと現在地を確認したら、直近の振り返りに移ろう。ここで重要なのは、メンターや上長が話すのではなく、本人に、自分で、今の進捗や状況について伝えてもらうこと。本人の内省がより深まるため、基本的には、どんな面談でも、まず相手にセルフフィードバックをしてもらった後に、それに関連付けて上長がフィードバックを返すのが鉄則。納得感の醸成やモチベーションの向上、アクションの改善へのつながりやすさがまったく変わってくる。
  • 本人の悩みが深かったり、なかなかモヤモヤが晴れない場合は、「1回の面談ですべてを解決して、なんとしても次のアクションまで設定しないと」という気負い自体をいったん脇に置いてみよう。今回は、モヤモヤしている現状を聞くだけにしておいて、本人が「解消したい」という気持ちになった段階で、「いかに解決するか」について対話する場を設けるのでも十分。上長やメンターも、完璧主義になったり、型にはまりすぎないほうがいい

3.教訓

4章から6章、その中でも特に6章は実際に「転職」したこと前提に記載されています。しかしながら、記載されている内容やアドバイスは、何も転職に限った話ではありません。通常の異動や昇格など、勤務する環境が少しでも変われば、自身の仕事の仕方として参考にできる内容ばかりです。

また、ここでは詳細には説明しませんが、実際の年代別のアドバイスや、出産・介護時の対応など、かなり細かい事例まで触れられているので、同じ状況になる方・なろうとしている方にとっては有用だと思います。

そして、転職だけとっても、転職エージェントやスカウト型サービス、求人広告の違いなど、メリットデメリット含めて記載されています。実際に転職まで行かなくても、転職「活動」をすると、自身の再現性だけでなく、希少性も市場性も同時に見えることを「エア転職」と呼び、「エア転職」し、市場に自身をさらけ出し、どう認知されるかを確かめるのが最も有効という記載は、だいぶ心を揺さぶられました。

なお、自身の足元の最大関心事はマネジャーとしての「他者のキャリア形成支援」です。実際に面談していても、メンバーが強み・弱みをしっかり語れる人はほとんどいないし、明確なWillを持って言語化できているひともごくごく少数というのが現実です。本書でもそれが現実だし、マネジャー側も完璧主義にならないほうがよいという部分は、安心感を持つことができました。

ただし、安心するだけではなく、本書で学んだことを生かして、実際の支援につなげていくための血肉にしたいと考えています。

若いうちに読んでもまだ実感が湧かないかもしれませんし、50代を超えると少し遅いかもしれません。自分自身のことだけ考えれば30代~40代に読むのがベターかと思いますが、マネジャーや人材サービス業としてのキャリア支援に関わる方であれば、どんな年代で読んでも、それぞれ参考にできる情報が詰まっています。

約550ページあるので、内容の引用も自身の考えも長くなりましたが、それだけ読みごたえもあり、自身の勉強にもなる良本です。