1.はじめに
本書の原題は”ME, MYSELF, AND US"です。
ハーバードも心理学も何も出てきません。ちょっと変えすぎ、と思います。
「ハーバード」や「スタンフォード」と書けば本が売れるのだろうと推測します。
私はというと、帯のアダム・グラント氏やダニエル・ピンク氏が推薦しているというところが気になり買ってしまいました。
表題はさておき、本書の冒頭から引用しますと、以下のことが書かれています。
私たちは、他者を理解しようとする試みを通して、自分を深く理解することになり、自分を深く理解することによって、世界を違った視点でとらえられるようになり、もっと自分の能力をいかすことができるようになります。往々にして、私たちは世界を自分だけの視点で解釈しようとして行き詰まってしまいます。
2.内容
(1)あなたを閉じ込めている檻―”メガネ”を変えて世界を見る
- 人は誰でも、あらゆる人と似ていて、一部の人と似ていて、誰にも似ていない。
- 他人をどう解釈しているかについては、「自分自身をどう解釈しているか」が大きく影響している。また、この解釈は、日々の生活におけるあなたの行動や幸福度にも深く関わっている。この評価基準は、私たちが周囲の世界を理解するための便利な「枠組み」にもなれば、私たちを閉じ込める檻にもなる。道標になる一方で、自分や他者を凝り固まった考え方でとらえてしまう罠にもなる。
- 見知らぬ他人を解釈する場合、相手の「特性」「パーソナル・プロジェクト」「物語」などは、あくまでもこちらの想像であり、事実に基づいていない。人は、「他者」の振舞いの原因を「パーソナリティ」で、「自ら」の振舞いの原因を「状況」でとらえる傾向がある。
- 人は、他者を解釈する枠組みが多くなるほど世の中に適応しやすくなり、逆に枠組みが少ないと、変化していく状況に上手く対処できず、トラブルを乗り越えることが困難になってしまう。あなたが人をどう見ているかは、世界を理解する枠組みにもなれば、あなた自身を拘束する足枷にもなる。それに囚われてしまえば、人生を思い通りに歩めなくなってしまう。
- 自分自身のパーソナリティや、望ましい人生についてよく考えるには、家族や友人、同僚など、あなたと人生を共に歩む人たちを、これまでとは異なる視点で見つめ直すことが必要。古い評価基準は、捨て去ったほうが便利なこともある。混乱や当惑を生じさせているものであればなおさら。
(2)「自分の性格」を理解するー5つの要素で適性がわかる
”ビッグファイブ”の尺度は、「パーソナリティは5つの主要な因子に還元できる」というパーソナリティ研究の共通理解を反映している。
①誠実性
- 誠実性のスコアが高い人には、「計画性がある」「規律正しい」「注意深い」「忍耐強い」「賢明」「非衝動的」などの特性が見られ、対照的にスコアが低い人には「無秩序」「自発的」「不注意」「軽率」「衝動的」などの特性が見られる。
- 誠実性の高い人は、秩序だった予測しやすい環境にはうまく適応できるし、期限内でのタスクの完了が求められる状況では力を発揮する。しかし、変化が激しく混とんとした環境は苦手。このような環境では、誠実性が高くない人のほうが、突然の変化に対応できる。
②協調性
- 協調性の高い人は、「感じがいい」「協力的」「友好的」「支援的」「同情的」という印象を相手に与える。対照的に協調性の低い人は、「皮肉屋」「対立的」「非友好的」「意地が悪い」と見られる。
- 「協調性は高すぎても低すぎてもパフォーマンスは低くなり、最適なパフォーマンスをもたらすのは、協調性が中程度のときである」と考えたほうがよさそう。いい人すぎても、意地が悪すぎても、パフォーマンスは上がらない。
③情緒安定性
- 情緒安定性が低い人は、主観的な幸福度が低く、ネガティブな感情を抱きやすく、結婚や対人関係で問題が生じやすく、仕事の満足度が低く、健康状態があまりよくない傾向があることがわかっている。対照的に、情緒安定性が高い人は、浮き沈みの少ない、安定した精神状態で日常生活を過ごせる。また、情緒安定性は、他のパーソナリティ特性を増幅するアンプのような役割も担っている。
- 危険に敏感に反応するという遺伝子を持った人はまだ多く存在しており、昔と同じように集団内に危険を警告する役割を担っている。
④開放性
- 開放性が高い人は、情緒安定性が低い人と同じく、不安や抑うつ、敵意などのネガティブな感情を多く体験する。しかし、情緒安定性が低い人とは異なり、喜びや驚きなどのポジティブな感情も多く経験する。
⑤外向性
- 普段から覚醒レベルが高い内向型は、最適なレベルを維持するために、刺激的な状況を避けようとする。刺激の多い状況ではパフォーマンスが落ちることを理解しているから。そのため、周りからは人づきあいが悪いと誤解されることがある。逆に、もともとの覚醒レベルが低い外向型は、刺激的な状況を好む
- 外向型は短期的な記憶力が、内向型は長期的な記憶力が優れている。「速度を上げれば多くの仕事をこなせるがミスは増え、速度を落とせば達成量は減るがミスがない」というトレードオフにおいて、外向型は量を、内向型は質を優先させる。
- 内向型は、波風を起こすような発言を避けようとして、遠回しな表現を使う。これに対し外向型は、より直接的な物言いをする。
(3)別人を演じるー大切なもののために性格を変えるということ
- あなたがとらえている自己イメージと、他者から見たあなたのイメージの間に違いがあるとき、そこには「盲点」がある可能性がある。すなわち、他者から見たあなたこそが、あなた自身が見ることのできない「本当のあなた」であるかもしれない。一方で、あなたがとらえている自己イメージは、「パーソナルスポット」である可能性もある。つまり、他者が正確にとらえることのできないところにこそ、「本当の自分」がいるかもしれない。
- 実際には、人生ではいつも普段通りの自分でいられるわけではない。そのときに力を発揮するのが「自由特性」と呼ばれる「変化できる性格」。もとの性格と違う自分を演じることは、自分を偽るということではなく、私たちの可能性を広げてくれる、意義のあること。
- 自分にとって非常に大切なプロジェクトを実現するために、キャラクターから出るということは、「普段とは異なる行動を取る」と同時に、「潜在的な特性を表に出す」ことでもある。
- 問題を告白すると、最初は覚醒レベルの上昇が見られる。それまでに秘密にしていたことを誰かに伝えるのは簡単ではないから。しかし、その後は覚醒レベルが低下し、告白前より低いレベルで安定する。つまり、告白をした人は、免疫システムの向上などの理由によって、以前よりも健康になる。
(4)「タマネギ」か「アボカド」かー場に合わせるか、信念に従うか
- セルフモニタリングが高い人の自己概念はタマネギ(幾層にも皮が重なっているが、めくっていっても中心となる核のようなものがない)、一方、セルフモニタリングが低い人はアボカド(中に固い核のようなものがある)に喩えることができる。
- セルフモニタリングが高い人は、「キャラクターの外に出る」行動が得意だが、セルフモニタリングが低い人は、そのような行動をしなければならない理由をうまく理解できない。
- セルフモニタリングが低い人は、誰に対しても同じように振る舞う。パートナーが相手によって態度や考えをコロコロ変えているように思うと不満を感じてしまう。一方、セルフモニタリングの高い人も、パートナーに対して、「もうちょっと相手に話を合わせればいいのに」「自己中心的で鈍感だ」というふうにフラストレーションを感じることがある。
- セルフモニタリングが高い人は、実用性が高いだけではなく、「他者への気遣い」や「自分より大きなものを受け入れる」といった「原則」に従っていると考えることもできる。つまり、セルフモニタリングの低い人は、一貫性や率直さ、高い人は気遣いや人との結びつきといった「それぞれの原則」に従っていると考えることができる。
(5)主体的に人生を生きるー運命はどのくらいコントロールできるのか?
- 他者依存型の人は、とくに「人間」に敏感で、なかでも社会的地位の高い人に影響を受けやすいことがわかっている。一方、自己解決型の人は「メッセージの内容」に敏感であり、内容に説得力を感じれば態度を変えることがわかっている。
- 私たちは、「運命は自分の力で変えられる、限界は自分の想像力がつくりだしたものだ」と信じるように育てられてきた。しかし、「コントロールの感覚を持つことは、ある程度、幻想に基づいている」ということも同時に知っておくことが大切。私たちは、自分の人生のボタンが正しく接続されているかどうか、確認する必要がある。
(6)「パーソナル・プロジェクト」を追求するー人生をかけて達成したいことを見直す
- たとえば、「10kg減量する」など直接的に表現されたパーソナル・プロジェクトは、「減量に挑戦する」といった漠然とした言葉で表現されたものより成功する確率が高く、幸福度にもいい影響を及ぼすと考えられる。可能性を考えるのではダメ。大切なのは「やってみる」ではなく、「やるか、やらないか」。
- 幸福度を高めやすいのは、プロジェクトに特別な意味があることよりも、成功の見込みが高いことのほうである。ただし、そこには「意味」と「見込み」のトレードオフがあることを加味しなければならないかもしれない。この問題に対する最良の答えは、意味と有効性の両方が、同じプロジェクトで経験されたときに、幸福度が高まるというもの。
- 幸福度を予測するにあたっては、その人の社会的地位や経済状態、人種、性別などを調べるよりも、その人が強いストレスを感じているかどうかのほうが役立つ。意義が感じられず、混沌としていて、周りの人からの理解や支援もなく、ネガティブな感情を強く感じるプロジェクトばかりに取り組まれなければならないとしたら、私たちの幸福感は下がり、人生の質も低下してしまう。
- 私たちはパーソナル・プロジェクトを変えられる。特性は私たちが持っているものであるのに対して、プロジェクトは行うもの。未知の世界への一歩を踏み出すためには勇気がいるが、結果的にはそれだけの価値が十分にある。人生を変えていくチャレンジになる。自分の心の奥底にある願望を客観的に見つめ、プロジェクトにできるかどうか、考えてみよう。
(7)自分を変える挑戦―幸福な人生を自分でつくる
- ”何においても優れている天才と、何をやってもダメなバカ”という視点ではなく、”誰でも、ある分野では技能があり、別の分野では技能がない”と考えられれば、「技能は努力によって身につけられるものだ」ということも理解できる。視点を現実的なものに変えることで、自分を含めて「人間は変わり、成長できる」ということに気づけるようになる。
- 自由特性を通じてキャラクターの外に出ることは、コア・プロジェクトの成功や持続性にもメリットをもたらし得る。私たちは自由特性によって、可能性を広げ、成長することができる。
- 内発的なプロジェクトは持続しやすく、心身の幸福度を高める。自分を変える、自分に挑戦する、といったプロジェクトは、周りから強制されたものではなく、自発的に行っているときに、有意義でコントロールできるものとなり、続けやすくなる。
- 内省の瞬間、さまざまな「自分」がいることに気づくことがある。このような自分の中での対話は、新たな発見をもたらしてもくれるが、同時に受け入れることが困難なものにもなり得る。なぜなら、あなたはなによりもまず、多面的な自分自身を受け入れなければならないから。
- これからは、自分は複数の自分で構成されていることを知り、そうしている自分を許そうしてみる。自分のパーソナリティを形づくり、幸福になるよう導き、ときには下手な冗談に笑ってくれ、必要なときに抱きしめてくれたのは、人生を共に歩んできた自分自身。
3.教訓
「あの人はこういう人」「自分はしょせんこんなもの」と、他者だけでなく自分に対してもレッテルを貼ってしまうということは起こりがちかと思います。
しかし、何か仕事で差し迫られたり、家族のことを思えば、普段のキャラクターとは異なる自分を演じることができる(これを「自由特性」というそうです)というのは、それぞれ実感があるかと思います。すなわち、自分というものは一つではない、多面的に出来上がっているということであり、実際に、会社での仮面をかぶった自分と家庭での素の自分は、皆さん相当異なるのではないでしょうか。
それと同じことが、自身が他者を見る目にも当てはまります。自身が知らない他者独自のキャラクターやストーリーがあります。記憶にある昔の相手と、今の相手は異なる考えを持っているかもしれません。意識しないと、いつもと同じ色眼鏡で社会を見てしまうことにつながりかねません。
そして、最後に出てきた内省の話は非常に印象的でした。たしかに、見たくない自分もいます。自身で意識的に内省をするだけでなく、周囲にも内省できる問いかけを行い、新たな自分の一面、何か違う一歩を踏み出し方、自分のありたい姿を見つける後押しができればよいなと考えています。