管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

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アサーティブ・コミュニケーション 戸田久美 著

1.はじめに

著者の戸田久美さんは、アンガーマネジメント協会の理事もされている方です。

私の所属する会社において、管理職向けに「アンガーマネジメント」や「アサーティブ・コミュニケーション」の社外研修があり、戸田さん講師の講義を受けたことがあります。

「アサーティブ」とは、自他を尊重した自己表現or自己主張のことで、単に自分の意見をゴリゴリと押し通すことではありません。

研修自体が非常にわかりやすかったのですが、当時から少し経験を積み、改めて本書を読むと、よい復習と新たな学び・気づきが得られます。以下2.において、自身が印象的に思った個所を引用します。5章には、ここでは紹介しきれないほど、いろんなタイプの方への対応事例が出てきますので、ぜひ手にとって全体をお読みいただくことをおすすめします。

ちなみに、以下から自身の怒りのタイプを動物に例えてみるとどうなるかという、無料診断もできますので、ご参考まで。

www.angermanagement.co.jp

2.内容

(1)アサーティブ・コミュニケーションとは

  • アサーティブコミュニケーションでは、以下のマインドを持つことを大切にしている。
  1. もしお互いの考えや価値観が違っても、相互尊重・相互信頼をもとに建設的な議論ができる
  2. お互いが正直に、率直に忖度せずに伝え合う
  3. 違いがあったとしても対等な姿勢で対話できる
  • 直接相手に攻撃的な言動をしない「受身的攻撃」にはさまざまなものがある。言葉がなければ、相手はなぜ不機嫌になるのか、正確に理解できない。言葉なく責められることが何度も繰り返されると、相手は「面倒な人だな・・」「できれば関わりたくない・・」と感じるもの。やがて付き合いを最小限にしようと避けていく。
  • 非主張的な自己表現とは、「自分を抑えて相手を立てる自己表現」を指す。遠回しな言い方をする、語尾まで言わない。このような表現をしている人は、自分の言いたいことを率直に相手に伝えられないため、ストレスを溜めてしまいがち
  • 怒ること自体悪いことではない。適切な表現の仕方をすればいい。ネガティブな思い込みを手放せるようになると、コミュニケーションの取り方もガラッと変わる。「適切な表現ができれば相手に伝わる」と信じて相手に向き合うことも、コミュニケーションでは大切。
  • 非主張的な表現は相手に気を使わせ、困惑させ、イラッとさせてしまうこともある。かえって相手を攻撃的にしたり、相手にマウンティングさせてしまったりする原因にもなっている。
  • 怒りとは、自身の「べき」が思う通りにならないときに抱く感情。「べき」とは自分の理想、願望、期待、譲れない価値観を象徴する言葉のこと。怒る必要のあること、ないことの線引きを明確にすることは、怒りを扱ううえでとても重要。

(2)アサーティブになるための準備

  • たとえ立場に違いがあっても、相互尊重のもとに、伝えたいことは伝え合えること。必要以上にへりくだったり、コントロールしようとしたり、押し付けようとしないこと。これらを心がけることが、「心のなかでは対等」という状態。
  • 相手に耳の痛いことを言わなければいけないとき、何か改善してほしいことを要求するといった、言いにくいことを伝えるときには、「わたしは相手にわかるように伝えられる」という自分への信頼と、「この人は耳を傾けてくれる」という相手への信頼の両方が必要。信頼の気持ちを持つことで、臆することなく相手に伝えることができるようになる。
  • 人は誰でも不完全なところがある。できないこと、間違うこと、失敗もある。でもだからといって人としての価値が下がるわけではない。相互信頼を土台にした対等なコミュニケーションをとるためにも、自分のよいところ、できていることはもちろん、不完全さを認める勇気が大切
  • 相手の言うことにすべて同意して、飲み込む必要はない。「同意できなくても理解はしよう」という姿勢を大切にする。
  • すべてのことを議論もせずに丸く収めようとするのは、とても不自然で不健全なこと。話し合いやミーティングの目的は、丸く収めることではない。どこにゴールを設定しているのかを見直してみると、「交渉」で意見を交わしたり、「No」と言ったりすることができるようになる。

(3)アンコンシャスバイアスの影響に気づく

  • 不満な気持ちを抱いてただ悶々としているだけでは何も解決しない。こういったときに大切なのは、「今後どうしたいか」、自分にとっての理想的な未来を考えていくこと。本当はどのようなことを伝えたいのか、どう伝えたいのかを相談。伝えることで相手の真意がわかることもある
  • アンコンシャスバイアスは誰でも持っているものだからこそ、自分の思い込みを押し付けていないか振り返り、相手の意見を確認しながらコミュニケーションを取ったほうがいい。
  • 失敗経験が過去に何度かあったとしても、「あのときはそういう結果になった」という事実があるだけ。「すべての場合においてそうに違いない」「また同じようになったら怖い」と考えるのは、本人の思い込みにすぎない。自分自身の意志で思考をリセットしていく必要がある。

(4)アサーティブな表現のポイント

  • 相手に言うか言わないかは、すべて自分で決めていいが、仮に「言わない」と決断したときに大切なことは、「誰かのせい、環境のせい」という他責にはしないようにする。
  • 「言えない」と「言わない」は違う。言わなかったことに後悔が無く、その結果の責任も取れる選択をすることが、アサーティブ。もしも、言えなかったことの後悔を抱えてしまうのであれば、それは非主張的な表現に当てはまる。
  • 事実と主観が混ざっている状態では、思わぬ受け止め方をされ、関係性がこじれてしまう可能性がある。注意をするとき、お願いをするときなどは、主観と事実を切り分けて話すことがとても大切。
  • 人によってどの程度のことを意味するのかが曖昧な、共通認識にならない言葉を選んでしまったとき、自分が期待する程度と相手が認識する程度が食い違ってしまい、ミスコミュニケーションを起こしてしまう。
  • 言っていることと、実際に表現していることが違う人を相手にしていると、まわりは本当にやりにくいもの。かえって相手に気を遣わせる分、いつまでも「察してほしい」という態度を取り続けていると、「やりにくい」と感じて、離れていく人も多くなってしまう。

(5)ケース別対応例

  • 相手の発言に、決めつけや思い込みと感じることがあっても、まずはいったん相手の意見を受け止めるようにする。そのうえで、相手の言動に対して感じたことを自分が言うか言わないかを判断し、言うと決めたなら率直に伝えることが大切。相手に対して、「そう決めつけないでください」と責め立てるのは厳禁
  • 「かまって行動」をしてくる相手に対して、OKとNGの境界線を引けたら、「ここまではできるけれど、ここからはできない」ということを相手に伝える。そして、一度引いた線をずらさない。ぶれてしまうと、相手の甘えの気持ちが増長してしまう。
  • 相手が感情的になったり、威圧的になったり、怒りを爆発させたりすると、こちらも冷静な判断ができなくなってしまう。感情をぶつけられたら、まずは「この人は今どんな状況にあるのか?何を要望しているのか?」を冷静に判断する。ここを把握できなければ問題の解決ができないため、丁寧に確認する。
  • クレーム対応のゴールは、相手の機嫌を取ることではない。クレーム対応時には、「こちらができることを行う」「相手の機嫌をよくすることまではできないと割り切る」の2点を意識する必要がある。
  • 「何かを言って働きかけたところで、どうにも変わらない。何の変化も期待できない」と心から感じてしまったら、思い切って「これは難しい。解決は無理!」と割り切るようにする。すべての案件を100%解決できる人はほぼ存在しない
  • 「感情的に物を言う」ことと、「感情を伝える」ことはまったく違う。「●●が不安、●●で困っている」というように自分の感情を上手に伝えることは、どんな関係性同士でも心がけたい点。

3.教訓

人は誰でも攻撃的や非主張的な面を持っていて、相手や環境によって無意識的に使い分けています。例えば会社ではいろいろと指示出しをするが、家庭だと配偶者の手のひらの上で転がされていたり、その逆だったり、ということも起こります。

そして、非主張的な方と話をしていると、「それで何が言いたいの?」となって、ついついこちらの口調が厳しくなってしまうこともあります。また、怒りっぽい人を前にすると、言いたいことを直接言わずに、こちらから下手に出ることもあります。そうなってしまうと、対等な関係ができず、いい話し合いとならないため、議論が深まらずに終わってしまいます。それはお互いにとっても組織全体にとっても不幸なことです。

やはり一番よくないのは「言えない」ことです。言いたいのに言えない鬱憤がたまったり、言わないと相手に伝わらかったり、何もいいことはないので、とにかくチームメンバーからは思っていることを話してもらうことを意識しています。そして話してみて、自分の思っていた反応と違うことが返ってきたら、「ああ、これは自分の思い込みだった」と学習すればいいと思います。

最初から100点の会話・コミュニケーションをしようと考えると、準備にも時間がかかりますし、一歩目を踏み出すことが難しくなります。まずは普通に話せばいいんだというフラットな空気感を作っていきたと思います。