1.はじめに
原題は、"Mastering Civility: A Manifesto for the Workplace"です。
考えるわけではなく、「マスターする」「職場での公約」と、邦題より強い表現です。
本書の「はじめに」でも、職場で誰かに無礼な態度を取られていると感じた人は
- 48%の人が、仕事にかける労力を意図的に減らす
- 47%の人が、仕事にかける時間を意図的に減らす
- 38%の人が、仕事の質を意図的に下げる
という調査結果が出ていると記載されており、礼儀正しさは職場での死活問題です。
2.内容
(1)なぜ礼節ある人は得をするのか
- どの場合でも、重要なのは、その言動が本当に相手に対する尊敬や配慮を欠くものだったかどうか、ではない。重要なのは、された方がどう感じたか。尊敬や配慮を欠く扱いを受けたと相手が感じるかどうかだ。言動が相手の目にどう映ったかが問題となる。
- 原因はグローバリゼーションなのか、あるいは世代間ギャップや、職場環境や人間関係の変化、テクノロジーの進歩なのか、それは明確ではないが、ともかく現代の私たちが、自分にばかり目を向け他人にはあまり目を向けないというのは事実。そのせいで、他人の扱いが無礼なものになってしまい、結果として皆に害をもたらしている。
- 職場に無礼な人がいると、そこで働く人たちの心の健康にも悪影響があることが調査によって明らかになっている。当然、ストレスには他の要因もあり、私生活で無礼な人に会うこともあるので、そのストレスの影響もあるだろう。だが、それを考慮したとしても、職場の無礼な人たちが心の健康に与える悪影響が大きいことは疑い得ない。
- ひどい叱責を受けた原因が本人の能力不足にあったとしても、また重大なルール違反にあったとしても、それはまったく無関係で、ともかく中の誰かが誰かをひどく叱責するだけで、その企業に対する印象は極端に悪化する。事情はどうであれ、無礼な態度を見てしまうと、顧客はその企業に悪い印象を抱くことになる。
- 誰かの無礼な態度に接すると、認知のための資源が奪われてしまう。その結果、作業の能力も創造性も下がる。このことは、おそらく仕事の業績にも悪影響を及ぼすだろう。たとえ最大限の力を発揮したいと望んでも、無礼な態度に注意を奪われ、心を乱されると、それができなくなってしまう。
- 集団の中にひどい態度、無礼な態度を取る人間がひとりでもいると、それによって生じた悪感情は集団内に広がり、態度の悪い人は増える。中には攻撃的、好戦的とも言える態度を取る人も現れる。
- 他人に優しく接している人、気分の良い接し方をしている人の方が、声がかかりやすい。人に何かを頼まれる機会が多ければ、能力を証明する機会も多くなるし、良い評判も広まりやすくなる。そしてますます選ばれる機会が増えていく。こうして、「能力はあるけれど無礼な人」との差は時間が経つごとに開いていく。
- 礼節ある態度とは例えば、人に感謝する、人の話をよく聞く、わからないことは謙虚に人に尋ねる、他人の良さを認める、成果を独り占めせずに分かち合う、笑顔を絶やさない、といったことを指す。こうした態度は業績の向上にも役立つ。反対に、無礼な態度は、仕事で成果をあげる上で足枷になってしまう。
- 誰かに無礼な態度を取ること、取られることを、「自己完結的」な体験だと思っている人は多い。直接やりとりをした当事者どうしで完結することだと思っている人が多い。だが実際には、無礼さはウイルスのように人から人へと伝染していく。その後、関わった人たちすべてに悪影響を与え、人生を悪い方に導くことになる。
- 無礼な言動に触れて感情が強く動かされると、そのことは決して忘れられない。無礼な態度を取っていた人の姿を見るだけで、また無礼な態度に触れた場所に行くだけで、その時の感情が蘇ってしまう。
(2)あなたの礼節を高めるメソッド
- 行動の意図とその影響には差があることが多い、というのも注意すべき問題。あなたが同僚に対し、(これから良くなってほしいという願いを込めて)批判的な意見を述べたとしよう。言った方が善意でも、言われた方はただ、自分は過小評価されたとしか思わないことが多い。
- 他人が見て良いと感じる行動がどういうものかは教えてもらわなければなかなかわからない。どういう状況であなたが何をすれば良い結果につながるのか。何をすれば人が喜ぶのか。それを知るのは非常に大切なこと。
- フィードバックは批判のための批判になってはいけない。何か少しでも改善が見られれば、それを伝えることも大切。
- 睡眠が不足すると、理解力も低下してしまう。物事を正しく理解できず、状況に正しい対応ができなくなる。他人の感情や意図を正しく読み取る能力も下がってしまう。他人の顔の表情や声の調子から、何を思い、何を考えているかを感じ取ることができなくなる。また自分の感情表現にも異常が起きる。顔の表情や声の調子がどうしても否定的な感情を表現するものになりやすい。
- 管理職やチームリーダーを務めているのなら、部下やメンバーと良好な関係を築くには、まず温かい人になるべき。どうしても自分が有能であることを早く証明したいという気持ちに駆られる人が多い。しかし、一度温かい人だと感じると、その人に対する評価は上がりやすくなる。温かい人になることは、自分の影響力を高めるための早道。温かい人は信頼を得やすい。信頼が得られると、自然に周囲から情報やアイデアが多く集まってくる。
- 相手が温かいかどうかの判断を下すのに要する時間は、わずか0.033秒という短さだ。相手が温かさに欠ける人だということ、無礼な人だということを人間は本当に一瞬の間に感じ取るし、一度、そういう判断を下すと、その人を簡単には許さない。
- 笑うことは自分だけでなく、周囲にいるすべての人に影響を与える。何も言わなくても、笑っているだけで、人を安心させるし、親近感も抱かせる。何より人を元気づける。
- 存在を認められていると感じることはとても大事。そう感じるかどうかは、ほんの一瞬の態度で決まることが多い。つまり、ほんの一瞬の態度が良ければ、相手を元気づけることができるということ。元気づいた人はきっと仕事に熱心に取り組むだろう。反対に、一瞬の態度が悪ければ、それだけで相手は認められていないと感じてしまう。
- 話をよく聞いていれば、それだけ重要な情報、アイデアが手に入りやすくなる。あなたがもし管理職で、部下に「この人は話を聞く気がないな」と思われたら、何か良いアイデアがあっても伝えようとはしないし、役立つ提案もしないだろう。
- 悪いところがあっても、気を使って言わないのは、その人を下に見ることであり、侮辱であるばかりか、必然的に失敗へと導くことでもある。自分より下だと思っている人には、はじめからあまり期待をしない。だから、正しいフィードバックもしない。その結果、相手が何か失敗をすれば、自分より本当に下であることが証明されたと感じてしまう。そんなことをしていては、組織全体の業績は決して上がらないだろう。
- 職場で礼儀正しくあるためには、微笑むだけでは不十分で、他にも必要なことはたくさんある。大きくわけて次の5つ。
- 与える人になる
- 成果を共有する
- 褒め上手な人になる
- フィードバック上手になる
- 意義を共有する
- 良いリーダーはスポットライトの下で自ら輝くが、偉大なリーダーは、自分だけでなく自分の下にいる人たちを輝かせる。他人の能力や努力を素直に正当に評価するような謙虚さが重要。誰もが他人を素直に評価するような環境では、もともと持っている人間性、能力を超えるような成果を上げる可能性が高まる。
- 人は良い仕事をしたときに上司から感謝の言葉をかけられるだけで自尊心が高まり、自信を深めるという。これは他人を信じること、喜んで人を助けようとすることにもつながる。
- まず大事なのは、フィードバックを受ける側になる人をよく知ること。そしてフィードバックを受けたとき、彼・彼女がどういう感情になるかをしないしなくてはいけない。フィードバックを与える際、重要なのは、常に未来に目を向けること。最終的には、その人がこの先、前進するためにはどうすればいいのかがわらるようにしなくてはならない。
- 人の心をつかむには、努力、やる気、成果を必ず認め、褒め、報いる姿勢を見せる必要がある。一人ひとりのサクセスストーリーを必ずチーム全体で共有する。物事が前に進んでいることを皆が認識できること、皆が自分のいる意味を感じられることも大切。リーダーが必要に応じ、自分の時間とエネルギーを惜しみなく注ぎ込むようにする。
- メールを書く時には、相手が受け取るのは書かれた文字だけである、ということに注意する。一度に伝えられる感情はひとつか、せいぜい2つ。口頭でのコミュニケーションで非常に多くの情報を伝えてくれるボディランゲージや、声のトーンの変化などは、そこには一切ない。つまり、伝えようとしたことが誤解される、あるいは伝わらないという危険性が非常に大きくなる。
- メールの使い方で何よりも良くないのは、直接会って伝える必要があることをメールで伝えてしまうこと。微妙な問題、揉める恐れのある用件などにはメールを使ってはいけない。
- 特にリーダーは、勤務日、勤務時間であっても、送ったメールにすぐに返信があると期待してはいけない。上司が即座の返信を要求する人だと、部下は気が散り、ストレスをためることになる。メールの返信に追われて重要な仕事に集中できなくなれば、生産性は下がるだろう。
(3)無礼な人に狙われた場合の対処法
- 同僚に無礼な扱いをされた場合、相手と話し合うべきか否かを迷う人は多いだろう、そういうときは次の3つのことを問いかけてみてほしい。3つの問いへの答えがすべてYESだったら、相手と面と向かって話をする。
- 加害者となった同僚に何か言い返しても、身体的な危険はないか
- その無礼なふるまいは意図的なものか
- その人が無礼な態度を取ったのははじめてか
- 3つの問いへの答えが一つでもNOだった場合は、相手と直接話し合ってはいけない。そして、その後、相手と接触する際には、4つのことに注意する。
- 会話を手短にする
- 相手にとって有用と思えることだけを話す
- 友好的な態度を保つ
- 常に毅然とする
- 「この逆境はあなたにとってどういう意味があると思うか」。人間にとって重要なのは、自分の置かれた状況を自分でどう解釈するかだと考えているからこう尋ねる。あなたに対して無礼な態度を取る人間がいるとする。そのままでは何もいいことはない。ただ、その状況から何か学べることはないか、と自分に問いかけるだけで違うだろう。
- たとえ職場で無礼な扱いを受けた場合でも、仕事以外の活動が充実している人はそうでない人に比べ、健康を維持しやすい。それによって、自分の人生が充実しているという認識、感情が得られる。会社を出た時に何をすれば自分が幸せになれるかを考え、何か見つかったらすぐに始めてみよう。
- 忘れてはならないのは、決めるのは常に自分だということ。ここで無礼な人間に出会ったことをどう解釈するかを決めるのも、無礼な態度にどう対処するかを決めるのも自分。あなたはどういう人になりたいのか、無礼な扱いを受けたからといって、このまま萎縮してしまうのか、それとも、さらに大きくなっていきたいのか。よく考えてみよう。
3.教訓
今の職場は、周囲に不機嫌な人が本当に多いです。電話相手の営業担当者を、今後も相談したいとはとても思えないような口調で突き放したり、部下から提出された書類を「これじゃ全然わからん」と一刀両断したりと、心理的安全性とは程遠い世界です。
本書にも記載のあった通り、自分自身が直接怒られているわけでもないのに、今後同じような目にあうかもしれないと想像したり、そんなことも知らないのかと見下されるのではと考えたり、萎縮するようなことが頻繁に発生しています。
しかしその状態をどう捉え、どう対処するのか決めるのは自分です。世の中、常に追い風が吹いているわけではなく、むしろ順調に物事が進んでいかない割合の方が高いと考えています。その時、「この逆境は自分にとってどんな意味があるのか」を考えることは、そこで自分がどう振舞えばよいかを決めるきっかけになります。それだけでなく、将来振返ってみたときに、あの時にこういうことがあったら今の自分がある、と思えることにもつながります。
無礼な人がいることの弊害はよく理解できたので、まずは自分がそうならないと考えるだけでなく、相手から見ても「礼儀正しさ」を認められるようにするにはどうしたらよいかもあわせて考えられる人を目指したいと思います。
また、最後のほうに、「仕事以外の活動が充実している人は、自分の人生が充実しているという認識、感情が得られる」という話もありました。私自身もキャリアコンサルタントの勉強をして、社外の友人が出来たことで、すごく実感を持ってわかる感覚です。たまたま、先日、ロッチのコカドさんも、ミシンに出会って生きるのが楽になった、という記事を読みました。それなりに有名になった芸能人でも、そういうことを考えるんだなと、意外感がありましたが、少し親近感も覚えました。