1.はじめに
以前読んだWORK SHIFT、LIFE SHIFTの続編です。
原題の”THE NEW LONG LIFE”が示すように、これからの人生では特に労働する期間が長くなり、教育→仕事→引退という3ステージ型の人生からマルチステージ型になる(ここはライフシフトと同様)ので、自身を探索し、周囲との関係性を構築することにより自分の人生のストーリー紡いでいきましょうという、日本語副題の「100年時代の行動戦略」のほうが、本書の表現に近いと感じます。
また、本書は、何人かの架空のキャラクター、言ってみれば「どこにでもいる誰か」の目を通して環境変化を見ていく形を取ります。中には日本人モデルも設定されていて、日本の話題も多く登場します。また、外国人設定の話でも、日本でも起こりそうな身近な話題であり、具体的なイメージが頭の中で想像できるのが良いと思います。
3部構成になっていて、第3部は企業・教育機関・政府の課題でして、第2部までの自身の行動に関連するところに絞り、特に印象に残った点を以下に引用していきます。
2.内容
(1)私たちの進歩
- 人間の発明の能力は、驚異的なテクノロジーを生み出すだけでなく、平均寿命も大幅に上昇させてきた。その結果として、人生の長さと人生のステージに関する常識も変わり始めている。いま多くの国では、65歳以上でも健康な人が珍しくなくなった。そうした変化を受けて、老いのプロセスとはどのようなものなのか、社会の高齢化は何を意味するのか、老いるとはどういうことなのかについて、ますます疑問と混乱が生まれている。
- 予想される人生の長さが大きく変わったことで、両親の世代が下した人生の選択は、ほとんど参考にならなくなった。両親や祖父母がする必要のなかったことに取り組む必要がある。100歳以上生きる前提で人生を設計して、老後の生活資金を確保しなくてはならない。
- 世代間の不公平が懸念されるのは、税負担と年金給付の面だけではない。今日の若い世代は、人生で経験する移行の回数が多くなるし、高齢になるまで働かなくてはならない。この世代は、大学を卒業しただけでは専門職に就けない可能性もある。専攻分野によっては、高卒者に比べて給料の上乗せがほとんど期待できない場合もある。
(2)物語-自分の人生のストーリーを紡ぐ
- 暦年齢重視の年齢観を抱く場合、すべての人が毎年同じペースで老いていくと考えることになる。しかし、年齢の可変性を前提にすれば、真実とかけ離れている。興味深いことに、ある人がどのように老いるかを決める要因のうち、遺伝子的要因の割合は1/4程度にすぎないという。つまり、その人自身が取る行動や、自分でコントロールできない出来事も大きな影響を持つ。
- 年齢に関する固定観念は、ほかの人たちに対する偏見を生むだけではない。未来の自分に対する偏見も生み出す。高齢になったときの自分に対して先入観を抱くと、将来に得られる機会が制約されて、「ありうる自己像」の範囲も狭まってしまう。異世代の人と時間を過ごすことには、いまの自分と未来の自分を結びつけるストーリーをより強固にできるという利点がある。
- 重要な資源が不足していると、その不安に思考を支配されて、直近のことしか考えられなくなる場合がある。この「トンネリング」と呼ばれる現象により、人はしばしば劣悪な意思決定を下し、将来そのツケを払わされる羽目になる。
- 人工知能とロボット工学の進歩により仕事の世界に大激変が訪れたとき、大きな影響を受ける可能性があるのは、職を失う人だちだけではない。それ以外の人たちも影響を受ける。この人たちも、自分が職を失うのではないかという不安に苛まれずにはいられないし、仕事の中身がすっかり変わり、給料が減る人たちもいる。要するに、仕事をめぐる人生のストーリーで問われるべき問題は、職に就けるかどうかという点だけではない。
- 大半の職は複数のタイプの活動や業務によって構成されている。職と業務を混同してはならない。機械は、職を構成する業務の多くを代替するだろうが、すべてを代替するとは考えにくい。
- 突然失職することは避けたい。将来の計画を立てて準備することができず、未来の選択肢が限定されるから。いずれ転身を図るつもりなら、後回しにせずに、早く踏み切ったほうがいい。概して、キャリアの転換を早期に実行した人ほど、大きな恩恵を得られる。現在の選択が将来にどのような結果を生む可能性があるかを、いま知っておく必要がある。
- 経済学者たちに言わせれば、歴史上、テクノロジーの進化により大量失業が引き起こされたことはない。それに、費用対効果を考えれば、テクノロジー専門家が言うほど急速に自動化が進むとは思えないと、経済学者たちは主張する。また、経済学者たちが指摘するように、消失する職を予測するのは比較的簡単だが、新しいテクノロジー、新しい市場、新しい商品によって生み出される新しい職を予測することは難しいため、悲観論が広がりやすいのかもしれない。
- 重要なのは、キャリアの流動性が高まる時代には、一人ひとりが責任を持って主体的な選択を行う必要があるということ。昔と違って、キャリアを築くプロセスは、あなたと雇用主の共同作業ではなくなる。雇用主があなたのスキルを向上させ、新しいステージに向けた計画を立て、未来のための資金面の準備をし、キャリアのさまざまな選択肢を検討してくれる時代ではなくなる。こうしたことは、あなた自身の役割になる。
- 未来の選択肢を検討する際は、それぞれの選択肢で何が時間配分の最大の決定要因になっているかを基準に考えるといい。あなたは、お金を稼ぐことを優先させて時間配分を決めたいのか。それとも、スキルの幅を広げることや、家族や友人と過ごす時間を増やすことを優先させたいのか。それぞれの選択肢を選んだ場合、未来の自分を危険に陥らせることがないかをよく考えよう。
(3)探索-学習と移行に取り組む
- いくつもの移行を繰り返しながら長い職業人生を送るためには、学び続ける必要がある。自分が次に何をしたいのか、そのゴールに到達するためにどうすればいいのかを知り、そのために必要なスキルを習得しなくてはならない。3ステージの人生では、学習はもっぱら最初のステージで行うものと決まっていた。しかし、マルチステージの人生では、学習は自らの選択で行うものになる。本人が学習の機会を活用して学ぼうとしなければ、制度上、学習を強いられる機会はほとんどない。
- 脳が健康な状態にあってはじめて学習が可能になる。脳が新しいことを吸収して学べる状態でなくてはならない。脳が人間特有の複雑な活動を行う能力は、その人がどのような感情を抱いているかに大きく左右される。強い不安やストレスを感じている人の脳は、変革と学習の能力が大きく減退する。そのため、どうしても大人の学習は難しく奈る。多くの職場では不安とストレスから逃れられない。
- ほとんどの人は、仕事を通じて学習している。その気になれば、自分の仕事の範囲を広げることにより、学習の余地を大幅に拡大することも可能だ。例えば、別の部署や別の土地で働く機会をつかんだり、他部所への一時的な配置換えを願い出たり、日常業務とは別に特別プロジェクトに参加したりすればいい。また、仕事のあり方を見直して、いつ、どこで、どのように働くかについての裁量とコントロールを強めることもできる。
- 実際、多くの人は、給料など、仕事に関するほかの要素よりも、自律性を重んじている。自律性は、脳の健康にも好影響を及ぼす。自律性を持てている人は概して、ストレスをあまり感じず、燃え尽き状態に陥る可能性も比較的小さい。
- 大人の学びには、一緒に学ぶ仲間たちで構成される「コミュニティ・オブ・プラクティス(実践共同体)」が大きな役割を果たせる場合があるとわかっている。人生における移行を成功させるためには、人的ネットワークを変容させることが不可欠だ。
(4)関係-深い結びつきをつくり出す
- 人間関係を深めるために投資しなければ、移行の回数が増える結果として人生が細切れになる危険が出てくる。自己の意識とアイデンティティを見失い、漂流状態に陥りかねない。
- 多くの国では、若者が職を見つけ、キャリアの最初の一歩を踏み出すことが難しくなりはじめている。若者たちは、職業人生で激変を経験する可能性が高く、人生最初に受けた教育を頼りに職業人生を最後まで乗り切ることは難しいだろう。これまでの世代は3ステージの人生を送ることで職業面と経済面の安定を手にできたが、そのアプローチが通用しなくなりつつある。今の若い世代は、生涯ずっと悪戦苦闘しなくてはならないように見える。
- 多くの場合は、世代にレッテルを張ることが安易なステレオタイプ思考を助長している。その結果、新しい長寿時代にあらゆる年齢層の人たちが直面する課題が覆い隠されてしまっている。世代のレッテルは、世代間の共通項よりも相違点をことさらに強調し、世代間の結束でなく、世代間の対立を生み出しかねない。
- マルチステージの人生の本質は、エイジ(=年齢)と人生のステージの結びつきが弱まることにある。人生がマルチステージ化する時代には、引退したあとではじめてコミュニティ活動に携わるのではなく、生涯を通してコミュニティと関わるほうが理にかなっている。ボランティア活動に取り組み、無報酬で働く姿勢は、人生を通してはぐくまれていく習慣と言ったほうがいい。
- 重い病気になれば、いくら高度な教育を受けていても、仕事に復帰できる確率は低くなる。実際、自らの健康状態を「まずまず」「悪い」「非常に悪い」と答えた人は、そうでない人に比べて、職に就いている割合が20%も小さい。そのうえ、職を持っている人の場合も所得が20%少ないという。この影響は生涯にわたって続き、さらには引退後にも影を落とす。所得が少ない人は、受け取る年金の額も少ないからだ。
3.教訓
最近多く叫ばれているリスキリングよりも、「リカレント教育」を推奨されているように感じました。
両者の違いや周辺知識の詳細は以下のリンクが参考になると思います。中ではマルチステージ型の人生についても図による解説があります。
www.persol-group.co.jp
ただ、多くの人にとって、何らかの経験やきっかけがない限り、自らの意思で新しいことを学ぶのは簡単ではないと思います。学ぶのには、時間もお金もかかります。本書では無料のYouTubeで独学しただけでグッチのイラスト広告に採用されたモンレアル氏が紹介されていますが、毎日14時間を費やしていて、日常の会社生活や家庭生活をしながらというわけにはいかず、レアケースと感じます。
また、これまでのキャリアと全く関係のないことを学び、違う領域で生活していくことも現実的ではなく、何かのきっかけがあって周辺知識を深めるのが第一歩だと考えます。いきなり、現状の知識を2倍にするのは簡単ではありません。しかし、1%の変化を100回繰り返す(1.01を100乗する)と2.7になるというよく聞く話が示す通り、小さなことから始めても、継続的に学ぶことで、将来大きなリターンが返ってくる可能性があります。
政府や今の会社がすべての面倒を見てくれるわけではありません。自らの意思で学び続けること、かつそれを健康的に実施することの重要性について、改めて認識できる良書でした。