1.はじめに
キャリアコンサルタントや産業カウンセラーの授業や試験では、カウンセリングに関し本当にさまざまな理論を学びます。そして、実務においては何が本当に有用な理論なのか気になり、生成AIに尋ねてみました。
すると、ロジャーズの「来談者中心療法」に続く2番目に、「動機づけ面接」が挙がりました。もっと有名な理論があるのになぜこれが、と意外感がありました。そして、たまたま2026年になり、本入門書が出版されたことを知り、早速購入しました。
本書の”まえがき”では、以下のような「両価性」についての記載から始まります。
やるべき理由は最初から知っている。それでも今のままでいたい理由も、同じだけ確かにある。人はその真ん中で揺れます。
この揺れに、説教でも放任でもなく、相手と並んで歩く方法で関わるー動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)は、そんな対話のスタイルです。
本書は、基礎編と実践編に分かれており、実践編は8名の専門家による論文調の内容です。以下では、主として基礎編としてのMIの中身について中心に記載し、実践編では印象的だった一文をピックアップして紹介していきます。
2.内容
(1)動機づけ面接とは
- MIでは、「変化すること」と「そのままでいること」の価値の間でゆれ動くジレンマを「両価性(Ambivalence)」としてとらえ、クライエント(CL)の抱える両価性を明確にする。その上で、「行動すること」の価値や理由が高まるようにCLの発言を促すことにより、変化への動機を高めることを目指す。
- 援助者が変化に対して賛成の立場を取れば、CLはバランスを取ろうとして反対の立場に立とうとする。すなわち、CLが変化に向かって歩みを進めるためには、援助者が指示するのではなく、CLの内面に存在する動機を引き出し、CL自身が変化に対して賛成の立場を取りやすいように関わる必要がある。
(2)スピリットとタスク
①スピリット
- パートナーシップ:臨床家は臨床における専門家であるが、CLもまた、自分自身のことを誰よりも知っている自分自身の専門家であることを忘れてはならない。両者の間に上下関係はなく、対等な立場で相手の発言を尊重することが重要。
- 受容:CLの発言や行動について批判せず理解しようとする姿勢。
- 思いやり:CLの利益を最優先すること。
- エンパワメント:MIにおける臨床家の役割は、CLが自らの内部にある深い井戸から水を汲み上げられるように手助けすること。決してCLの空の井戸に、水を注ぎこんで満たすことではない。
②タスク
- 関わる:信頼関係を築き、いわゆる作業同盟を確立するタスク。どのような作業においても信頼関係ができていることが前提。
- フォーカスする:CLの目標を達成するためには、行動変容だけでなく考え方を変えることや、現状を受け入れることなど心のあり方も含めてさまざまな変化についての道のりがあることも考えておきたい。
- 引き出す:重要なことは、「変化を支持する意見をCL自身の口から語らせること
- 計画する:「変わるか否か」や「なぜ変わるのか」ということよりも、「いつ・どのように変わるか」に面接の焦点が移っていく。
(3)チェンジトークと維持トーク
- チェンジトーク(Change Talk, CT)とは「変わりたい」や「このままではだめだ」といったような、人が変化に向かって進もうとしていることを示す発言。
- 準備チェンジトークとは、変化の準備段階においてみられるCTであり、主に変化に対する気持ちや考えが表明される。願望(Desire)、能力(Ability)、理由(Reason)、ニーズ(Needs)のいずれかに相当する。
- 実行チェンジトークとは、変化につながる具体的な行動についての発言であり、CLが両価性の解決に向けて動き出すための手がかりとなる。コミットメント(Commitment)、活性化(Actvation)、段階を踏む(Taking steps)の3要素。
- 維持トーク(Sustain Talk, ST)とは、実際の面接の中で、CTと一緒に、変化に否定的な態度を示す発言や、現状のままでいようとする発言。
- MIの特徴の1つは、「CLのCTに焦点を当て、強化する」こと。STには反応せず、CTに意図的に焦点を当てることで、CLは変化に賛成する立場から自分の状況を説明することとなり、「そうなんです。今のままではいけないと思って…」など、さらなるCTを引き出すことができるかもしれない。
(4)MIのコアスキル
- 開かれた質問:CLは臨床家側の先入観や一般常識に影響されることなく、自分の進みたい方向について理解を深め、自由に述べることが可能となる。
- 是認:たとえCLの取り組みが上手くいっていなかったとしても、CLの置かれた状況をリフレーム(全く別の視点から見直す)したり、CLの性質に着目して何か良い点を伝えたりすることも是認となる。
- 聞き返し:「~ですか?」ではなく「~ですね」のように、語尾が下がり調子になることが推奨される。質問は相手に何かしらの答えを求めることであり、「答えろ」という要求。CLが発言したことは、CLの考えや経験のほんの一部を表しているに過ぎない。推測を加えて聞き返すをすることで、CLの自己探求に勢いが増し、会話が先に進みやすくなる。もちろん、臨床家が的外れな推測をしてしまうこともあるが、その場合は間違いに気づいたCLが修正してくれることが多い。
- サマライズ:CLの話す内容にはSTとCTの両方が含まれるが、サマライズではこの両者を含めつつ、自然にCTにフォーカスが当たるようにしていく。この時、サマライズを行う順序も重要であり、STから始めてCTで終わるようにするとよい。そして、STとCTをつなぐ際には、「しかし」などの逆接を用いず、臨床家が双方を対等に並べていることを示す「一方で」「そして」などを用いるのがよい。サマライズの最後に、「ほかには?」という開かれた質問を加えれば、カウンセラーが取りこぼしてしまったことをCLが補うことができるだろう。
- 許可を得た上での情報提供と助言:最も重要なことは、情報提供や助言が臨床家からの一方的な指示とならないよう、事前にCLから許可を得ること。
(5)動機づけ面接の学習プロセス
- MIがクライエント中心療法と大きく異なるのは、MIが意識的で、戦略的で、目的志向的なアプローチということ。MIではCLのCTを引き出し、内にある動機づけを高めることでCLが抱える両価性を解決することを目指す。オペラント条件付けの観点CTを選択的に強化し、変化への抵抗となるSTを最小化する方向でCLの発言に反応すること。
- CLからCTを引き出す代表的な例は、開かれた質問を行うこと(例えば、「この変化はどのようにあなたに良い影響を与えますか?)。表れたCTを聞き返し、是認を行い、必要に応じてサマライズを行うことで、よりCTを深めることができる。
- 重要なのは、抵抗に対して反論しないことであり、臨床家が抵抗を誘発せず、抵抗が生じたときにそれを和らげる方法を学ぶことが目標となる。
- 変化の計画を立てたとしても、それだけでは行動変容が起きるに十分でない。CLが変化へのコミットメントを明確に言葉にしなければ、行動変容が起こる可能性は低い。コミットメント言語を引き出し、選択的に強化する。
(6)実践編
- MIを身につければ、「聞くのがあなたの義務でしょう」と言われたときに、「話しても話しても、全部じゃない、まだ足りないという感じがあるのですね」と聞き返せるようになる。
- CLの「減らすだけにしたい」との発言を、単なる現状を求めるSTと捉えるのではなく、何らかの形で現状から変わろうとする要素を含むCTとみなし、CTの要素を抽出して強化していくことができる。
- 持ち続けるメリットを先に尋ねる順番が重要。元の認知を持ち続けるメリットについての発言(ST)をある程度話してもらうことにより、別の認知を持つメリットについての発言(CT)を引き出しやすくなる。
- 「変わりたくない」と話して治療に拒絶的なCLであっても、多少は「変わりたい」気持ちを持っている。CL家族が依存症の病態を両価性として認識し、「変わりたい」という言動を強化することによって両価性のバランスを変化させることを目標とするイメージを持てると、CL支援に疲弊することが少なくなる。
- CLは問題に取り組まなければならない、行動を変えるべき、問題を持った人間である、という治療者側の姿勢は、支援において「危険」。動機づけ面接は、CLに変化を強要すない。そして、変化に対するCLの両価性を問題とみなして、CLがそこから早く出るように押すことともしない。CLの両価性に共感し、そこに一緒にとどまる。これはCLに尊重を伝えるもっとも良い方法。
- 対象者に関わる専門職は、人は、ありのまま受け入れられ、サポートされていると感じたときに変わるのであって、他者から無理やり直面化させられたときに変わるのではないという事実を十分に認識し、適切な対応ができるようトレーニングする必要がある。
- 大切なことは、それぞれの当事者が認識している自分自身がおかれた状況の背後にある願望やニーズ(このままでは困る)という、本当に大切に思っていることを知ることによって、調整の余地が出てくるということ。
3.教訓
「はじめに」にも書いた通り、本書を読む前の私は、なぜ「動機づけ面接」がこれほど高く評価されるのか、正直よく理解できていませんでした。しかし読み進めるうちに、その理由が一気に腑に落ちました。
これまでカウンセリングで学んできた
- 相手が思わず「そう、その通り」と感じる言葉を返す
- 「AなのにBと感じるんですね」「CだからDと感じるんですね」と、両面に焦点を当てる
といった技法が、実は動機づけ面接の理論に基づいていたことがつながったのです。「両価性」という概念を知り、さらに次のような展開がCLの“変わりたい気持ち”を支えるのだと理解できました。
- 先に維持トークから始めてチェンジトークで終わる
- すると「そうなんです」とさらなるチェンジトークが引き出される
- 表れたチェンジトークを聞き返し、是認し、要約することで、よりチェンジトークを深めることができる
後半の実践編では、実際のカウンセリング場面を題材にした応答例が豊富に紹介されており、「こう応じるとCLの内側が動くのか」という具体的なイメージが掴めました。
悩みを抱える人の話を聴くとき、こんなふうに寄り添い、変化を支えられる応答ができるようになりたい──そう強く思わせてくれる良書でした。
- 価格: 2640 円
- 楽天で詳細を見る



