1.はじめに
本の帯には、以下のことが書かれています。
イノベーション、商品普及、業務刷新―。
変化を阻む「抵抗」を探し出し買いs評する具体的な方法を伝授。
フィリップ・コトラー推薦
”新しいことを始めようとしているなら必ず読むべき本だ。”
もうこれだけで、読むしかないと思うのに十分な内容です。
実際、業務改善・BPR等に関与する人であれば、本当に買って読む価値がある内容だと思います。
以下では、自身が印象に残ったところを引用していきたいと思います。
2.内容
(1)魅力的なアイデアが成功しない理由
- イノベーターたちは魅力を高めるための「燃料」ばかりに注意を向け、方程式のもう半分-自分たちが生み出そうとしている変化に逆らう「抵抗」-をなおざりにしている。「抵抗」とは、変化に対抗する心理的な力。「抵抗」はイノベーションの妨げになる。そして、考慮されることはめったにないが、変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠。
- 素晴らしいアイデアのほうが初期の推進力は大きいかあもしれないが、価値があるからといって、アイデアに対する「抵抗」が弱まるわけではまったくない。紛れもなく優れたアイデアなのに具体化しないものがあまりにも多いのは、これが大きな理由。
(2)魅力アピールに専念するのはもうやめよう
- 「燃料」にはまったく異なる2つのタイプがあり、それぞれが私たちのために行う仕事はコインの表裏の関係にある。
- アイデアを売り込むとき、私たちはそのメリットばかりに目を向ける。「どうすればうまく説得して同意を得ることができるだろうか」と心の中で自分に問いかける。そして無視されたり拒否されたりすると、特典を増やそうとする。もちろん、「燃料」は重要だが、心が最優先にするものは「燃料」ではない。
- 恐怖は他の刺激と同様に、その瞬間は効果があるが、すぐに消えてしまう。人は「燃料」で一時的に従順になる。一過性の関わり合いであればそれでもよいかもしれない。だが、長期的な成果を望むのであれば、「燃料」を注ぎ続けなければならず、「燃料」に頼る施策は高くつく。
- 掲げられた目標が現実的なものと思えなかった。彼らは既にこれ以上ないほどのベストを尽くしていた。それなのに、今度はさらに多くのことを同じ量のリソースでやれと言われている。職員は元気が出るどころか侮辱されたような気分になった。
(3)「惰性」-人々が既知のものにこだわる理由
- 人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。メリットが明白で議論の余地が無かったとしても、この傾向は変わらない。というのも、人間の心は不確実なものや変化より、馴染みのあるものや安定を好むから。
- 多様性にはさまざまなメリットがあるにもかかわらず、馴染みのあるものを好む性質のために、似た者同士で人間関係を構築する。社会学者はこの現象を「同類性」と呼ぶ。私たちがこのような行動をとるのは、そのほうが楽だから。自分と同じレンズを通して世界を見ている人のほうが、容易に信用できる。
(4)「惰性」を克服する 初めて聞くアイデアを懐かしい友人に変える方法
- 私たちの経験によると、リーダーというものは細部を先に仕上げたいと考えるらしく、発表できる状態になるまでアイデアを表に出さないことがよくある。これでは新しい取組に従業員を慣らす時間も機会もない。むしろリーダーは、機会あるたびに自分のアイデアが話題にされるようにするべき。
- 新しいやり方を人々に提示するときには、必ず暗黙の比較対象が存在する。「現状」だ。人は、馴染みがあって快適なものと新しいものとを比較する。この比較はイノベーションの敵。なぜなら、私たちの多くは不快であることよりも快適であることを望むから。愛体制の仕組みを理解すれば、「惰性」を「抵抗」から「燃料」に転換することができる。そのためには比較対象を作ってやればよい。影響を与えるための鉄則の1つは、「選択肢を1つだけにしない」こと。選択肢が1つしかないと、人は無意識のうちに新しいものと馴染みのあるものを比較する。
- イノベーションが「惰性」に脅かされるようであれば、馴染みのないものを馴染みのあるものに変えてやる必要がある。なぜなら、知れば知るほど「抵抗」は和らいでいくから。新しいアイデアが、得体の知れない侵入者ではなく昔ながらの友人のように感じられるようにすることを目指そう。
(5)「労力」-なぜ人は「抵抗」が最も小さい道を選ぶのか
- 私たちは、最も少ない「労力」で最大の見返りが得られる道を探し、それを選ぶようにプログラムされている。この設計上の特徴は「最小努力の法則」と呼ばれている。新しいアイデアやイノベーションに初めて出会ったとき、私たちの頭はその実施コストをとっさに計算する。求められる「労力」が大きくなるほど「抵抗」は強くなるというわけ。
- 問うべきことは、「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか?」だ。この問いかけをすれば、新たな改善余地や優先すべき事柄が見つかる可能性がある。
- 小さな変化が大きな影響を及ぼすこともある。何らかの手段でほんの少しだけ行動しやすくしてやることができれば、望む方向に大きく行動を変えることができるかもしれない。
- 「労力」を要する仕事ほど魅力が薄れることを私たちは誰でも理解しているが、イノベーターにとって理解するのが非常に難しいのは、「労力」の本当の力。手続きが共通でないというのは、問題の一部ではなく問題そのもの。
(6)「労力」を克服するーアイデアを実行しやすくする方法
- 「労力」に由来する「抵抗」を和らげるときには、2つの基本的な質問を自分自身に投げかける必要がある。
- このように行動するのが難しいのはなぜなのか?
- どうすれば容易に行動できるようになるのか?
- 「労力」が何を意味するのかを理解しなければ、「労力」を減らすことはできない。ぴんとくる明白なほうの側面は、身体や頭を酷使すること、すなわち「苦労」。「労力」の2つ目の側面は、どうすればよいのかわからないという「茫漠感」。「労力」の非常に重要な側面が茫漠感だと言えるのは、イノベーターにとっては簡単そうでも他の人からすると茫漠としているアイデアが多い。
- 「労力」の持つ2つの側面を理解することが重要なのは、その理解が「労力」を克服するための基本だから。茫漠感は「ロードマップの作成」と呼ばれるプロセスで制するのに対し、苦労は「行動の簡素化」と呼ばれるプロセスで変貌させる。
- 皮肉なことに、新しいアイデアの実行を怠る傾向が最も強いのは、そのアイデアに深く肩入れしている人たち。意志をくじく可能性のある「抵抗」を最も軽視しがちなのは、絶対に行動できると自信を持っている人々。このような人たちは、たとえ障害があっても、強い信念があるだけで十分にゴールまでたどり着けると勘違いしている。
- 賛同を得ようとするときは、「このアイデアについてどう思う?」と質問してはいけない。「このアイデアは気に入ったかな?それとももっといいアイデアがある?」と聞く。このように質問の仕方をわずかに変えるだけで、「ノー」と答えることの大変さが変わる。アイデアを否定するだけでなく、よい代替案を考えださなければいけなくなるから。
- すべての依頼に「YES」と答えていたら、(多くのリーダーがそうであるように)本人が疲れ果ててしまう。ここでデフォルトをうまく使いこなせば、あなたは救われるはず。手を差し伸べたいと思う要求には「YES」と答えよう。ただし、最初の一歩は相手に踏み出させるようにする。
(7)「感情」-最も優れたアイデアが最も大きな不安を生むのはなぜか
- ケーキミックスが売れないもっと根深い問題というのは、ケーキミックスを使うとケーキをはいている感じがしないことだった。そこで途中で加えるべき唯一の材料として生卵を選んだ。一から作るよりも依然としてはるかに簡単でありながら、ケーキを「自分で作った」と感じることができる。
- フルサービスからセルフサービスへ進化し続ける社会では、イノベーターの役割も進化していかなければならない。「感情面の抵抗」というリスクが高まる中では、イノベーターはかつての需要を生み出す役割から、1人1人に選択の自信を与える役割へと転身しなければならない。
(8)「感情」を克服するー進歩を阻む恐怖を和らげる方法
- 新しいことに挑戦するには勇気がいる。初心者は、知識不足や能力不足のために恥ずかしい思いをすることを恐れるからだ。他人から批判されるのが怖い。心理学では、初心者が抱える不安を「未経験者の恥」と呼ぶ。初心者が聞きたいと望んでいるのは、おぼつかない最初の数か月間を乗り切る力となる辛抱強い励ましの言葉。ある会社で特に重点が置かれているのは、初心者の気持ちに寄り添い、肯定的な態度で接するためのトレーニング。
- 影響を与えようとしている相手のことを、”わかっていない”とか”頭がおかしい”と結論づけた瞬間、負けが確定してしまう。他者の気持ちを否定するようでは、相手の立場に身を置くことはできない。相手を否定するのではなく、何が起こっているのかを彼らの目を通して理解しようと、最善を尽くさなくてはならない。
(9)「心理的反発」-変化に抵抗したい衝動に駆られるのはなぜか
- 困ったことに、人に影響を与えようとすると、事実上その人の自由を奪うことになる。特定の道を進ませようとしているからだ。人は自由が脅かされそうになっていると感じると、自由を取り戻そうとして本能的に反発する。自律性を守りたいという欲求が「心理的反発」の原因だということがわかったのは重大な発見。
- 「心理的反発」が発生するきっかけは自由や選択肢が実際に制限されることだけではないということ。説得されていると感じるだけでも十分に「抵抗」の引き金になる。
(10)「心理的反発」を克服する-オーディエンスの自己説得を手助けする方法
- 自己説得の効果をはっきりと示す疑いようのない証拠がある。それぞれの喫煙者同士が1対1のペアを組み、「話し手」の喫煙者は「聞き手」の喫煙者に対して、喫煙反対を訴える記事を読み聞かせた。同じメッセージでも、それを聞かされた人より読み上げた人のほうがその主張に説得力を感じ、禁煙への意欲が高まっていた。メッセージの発信元が内側からなのか他の人からなのかが変わるだけで、説得力に差が出た。
- 人々の賛同を得ようと思ったら、何をすべきかを指示するよりも質問をするほうがアプローチとして優れている。合意点や一致点を明らかにする質問から始めると、新しいイノベーションやアイデアは一段と受け入れられやすくなる。人は「YES」と答えているうちにプロセスに関与しているという感覚を強めていく。
- 激しく敵対している人が相手であっても一致点はほぼ必ずあるもの。「自分と違う考え方を受け入れる用意はあるか?」という質問から会話を始めるといい。相手の反対感情が強い場合はなおさらそうしたほうがいい。そうすると、人はこの質問には「YES」と答えなければならないという強いプレッシャーを心のうちに感じる。「はい、あなたの意見を聞きたいです」と相手に言わせることができれば、「心理的反発」が解消して心を開かせることができる。
- イノベーターは全部の脚本をつい自分で書き上げようとしがち。自ら問題を突き止め、最適な解決策を自分で判断する。オーディエンスはイノベーターのち密な指示にひたすら従わされる。このやり方だと、あらゆることを自分でコントロールできるためイノベーターにとっては魅力的かもしれない。だが、自分のアイデアを受け入れてもらいたいのであれば、人々をそのプロセスに招き入れる必要がある。
- 外からプレッシャーをかけられると、「心理的反発」が増幅するために逆効果になる。変化に対する内面からの強いコミットメントこそ、イノベーターが求めているもの。
3.教訓
現在の自身の仕事が、業務運営改善だったり、新システムの導入だったりするので、本書に記載されている事項は痛いほどよくわかります。
上司対部下の関係性のとき、指示した通りにやらせるのでなく、ある程度の裁量をつけて細かいやり方を任せたほうが、自身での工夫する余地とコミットを引き出すことができ、お互いに「自分がやった感」を持つことができます。
一方で、1対多の関係性で幅広く意見を募ると、レビューのための時間を余分に確保する必要があり、立場の異なる人から出る意見によっては収集がつかなくなったりすることがあるのも事実です。スケジュール全体が伸びればリリースが伸びますし、当然、要件が増えれば必要対応工数も増加してコストアップにもつながるため、余計に費用対効果の目線が厳しくなります。
どこまでを事務局が主導し、どこまで現場の意見を取り入れるのかは永遠の課題であり、答えは1つではないと思います。その場その場で最善策を見つけていくしかありません。少なくとも、「こういうことをやる」ということは小出しにして、「ああ、あの話ね」という状態を作っていくことの重要性を認識しました。既存業務の変革に関する方であれば、これらの「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の4種の「抵抗」があることを認識しておくことは大切であり、良本としておすすめいたします。