管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

1.はじめに

本の帯には、以下のことが書かれています。

イノベーション、商品普及、業務刷新―。

変化を阻む「抵抗」を探し出し買いs評する具体的な方法を伝授。

フィリップ・コトラー推薦

”新しいことを始めようとしているなら必ず読むべき本だ。”

もうこれだけで、読むしかないと思うのに十分な内容です。

実際、業務改善・BPR等に関与する人であれば、本当に買って読む価値がある内容だと思います。

以下では、自身が印象に残ったところを引用していきたいと思います。

2.内容

(1)魅力的なアイデアが成功しない理由

  • イノベーターたちは魅力を高めるための「燃料」ばかりに注意を向け、方程式のもう半分-自分たちが生み出そうとしている変化に逆らう「抵抗」-をなおざりにしている。「抵抗」とは、変化に対抗する心理的な力。「抵抗」はイノベーションの妨げになる。そして、考慮されることはめったにないが、変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠
  • 素晴らしいアイデアのほうが初期の推進力は大きいかあもしれないが、価値があるからといって、アイデアに対する「抵抗」が弱まるわけではまったくない。紛れもなく優れたアイデアなのに具体化しないものがあまりにも多いのは、これが大きな理由。

(2)魅力アピールに専念するのはもうやめよう

  • 「燃料」にはまったく異なる2つのタイプがあり、それぞれが私たちのために行う仕事はコインの表裏の関係にある。
  1. 促進型燃料:アイデアの魅力や説得力を高める力
  2. 回避型燃料楽天的な感情やわくわくした感情を引き起こすのではなく、懸念、疑念、不安といった感情を呼び起こす
  • イデアを売り込むとき、私たちはそのメリットばかりに目を向ける。「どうすればうまく説得して同意を得ることができるだろうか」と心の中で自分に問いかける。そして無視されたり拒否されたりすると、特典を増やそうとする。もちろん、「燃料」は重要だが、心が最優先にするものは「燃料」ではない
  • 恐怖は他の刺激と同様に、その瞬間は効果があるが、すぐに消えてしまう。人は「燃料」で一時的に従順になる。一過性の関わり合いであればそれでもよいかもしれない。だが、長期的な成果を望むのであれば、「燃料」を注ぎ続けなければならず、「燃料」に頼る施策は高くつく
  • 掲げられた目標が現実的なものと思えなかった。彼らは既にこれ以上ないほどのベストを尽くしていた。それなのに、今度はさらに多くのことを同じ量のリソースでやれと言われている。職員は元気が出るどころか侮辱されたような気分になった。

(3)「惰性」-人々が既知のものにこだわる理由

  • 人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。メリットが明白で議論の余地が無かったとしても、この傾向は変わらない。というのも、人間の心は不確実なものや変化より、馴染みのあるものや安定を好むから。
  • 多様性にはさまざまなメリットがあるにもかかわらず、馴染みのあるものを好む性質のために、似た者同士で人間関係を構築する。社会学者はこの現象を「同類性」と呼ぶ。私たちがこのような行動をとるのは、そのほうが楽だから。自分と同じレンズを通して世界を見ている人のほうが、容易に信用できる

(4)「惰性」を克服する 初めて聞くアイデアを懐かしい友人に変える方法

  • 私たちの経験によると、リーダーというものは細部を先に仕上げたいと考えるらしく、発表できる状態になるまでアイデアを表に出さないことがよくある。これでは新しい取組に従業員を慣らす時間も機会もない。むしろリーダーは、機会あるたびに自分のアイデアが話題にされるようにするべき
  • 新しいやり方を人々に提示するときには、必ず暗黙の比較対象が存在する。「現状」だ。人は、馴染みがあって快適なものと新しいものとを比較する。この比較はイノベーションの敵。なぜなら、私たちの多くは不快であることよりも快適であることを望むから。愛体制の仕組みを理解すれば、「惰性」を「抵抗」から「燃料」に転換することができる。そのためには比較対象を作ってやればよい。影響を与えるための鉄則の1つは、「選択肢を1つだけにしない」こと。選択肢が1つしかないと、人は無意識のうちに新しいものと馴染みのあるものを比較する。
  • イノベーションが「惰性」に脅かされるようであれば、馴染みのないものを馴染みのあるものに変えてやる必要がある。なぜなら、知れば知るほど「抵抗」は和らいでいくから。新しいアイデアが、得体の知れない侵入者ではなく昔ながらの友人のように感じられるようにすることを目指そう。

(5)「労力」-なぜ人は「抵抗」が最も小さい道を選ぶのか

  • 私たちは、最も少ない「労力」で最大の見返りが得られる道を探し、それを選ぶようにプログラムされている。この設計上の特徴は「最小努力の法則」と呼ばれている。新しいアイデアイノベーションに初めて出会ったとき、私たちの頭はその実施コストをとっさに計算する。求められる「労力」が大きくなるほど「抵抗」は強くなるというわけ。
  • 問うべきことは、「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか?」だ。この問いかけをすれば、新たな改善余地や優先すべき事柄が見つかる可能性がある。
  • 小さな変化が大きな影響を及ぼすこともある。何らかの手段でほんの少しだけ行動しやすくしてやることができれば、望む方向に大きく行動を変えることができるかもしれない。
  • 「労力」を要する仕事ほど魅力が薄れることを私たちは誰でも理解しているが、イノベーターにとって理解するのが非常に難しいのは、「労力」の本当の力。手続きが共通でないというのは、問題の一部ではなく問題そのもの

(6)「労力」を克服するーアイデアを実行しやすくする方法

  • 「労力」に由来する「抵抗」を和らげるときには、2つの基本的な質問を自分自身に投げかける必要がある。
  1. このように行動するのが難しいのはなぜなのか?
  2. どうすれば容易に行動できるようになるのか?
  • 「労力」が何を意味するのかを理解しなければ、「労力」を減らすことはできない。ぴんとくる明白なほうの側面は、身体や頭を酷使すること、すなわち「苦労」。「労力」の2つ目の側面は、どうすればよいのかわからないという「茫漠感」。「労力」の非常に重要な側面が茫漠感だと言えるのは、イノベーターにとっては簡単そうでも他の人からすると茫漠としているアイデアが多い
  • 「労力」の持つ2つの側面を理解することが重要なのは、その理解が「労力」を克服するための基本だから。茫漠感は「ロードマップの作成」と呼ばれるプロセスで制するのに対し、苦労は「行動の簡素化」と呼ばれるプロセスで変貌させる
  • 皮肉なことに、新しいアイデアの実行を怠る傾向が最も強いのは、そのアイデアに深く肩入れしている人たち。意志をくじく可能性のある「抵抗」を最も軽視しがちなのは、絶対に行動できると自信を持っている人々。このような人たちは、たとえ障害があっても、強い信念があるだけで十分にゴールまでたどり着けると勘違いしている
  • 賛同を得ようとするときは、「このアイデアについてどう思う?」と質問してはいけない。「このアイデアは気に入ったかな?それとももっといいアイデアがある?」と聞く。このように質問の仕方をわずかに変えるだけで、「ノー」と答えることの大変さが変わる。アイデアを否定するだけでなく、よい代替案を考えださなければいけなくなるから。
  • すべての依頼に「YES」と答えていたら、(多くのリーダーがそうであるように)本人が疲れ果ててしまう。ここでデフォルトをうまく使いこなせば、あなたは救われるはず。手を差し伸べたいと思う要求には「YES」と答えよう。ただし、最初の一歩は相手に踏み出させるようにする

(7)「感情」-最も優れたアイデアが最も大きな不安を生むのはなぜか

  • ケーキミックスが売れないもっと根深い問題というのは、ケーキミックスを使うとケーキをはいている感じがしないことだった。そこで途中で加えるべき唯一の材料として生卵を選んだ。一から作るよりも依然としてはるかに簡単でありながら、ケーキを「自分で作った」と感じることができる。
  • フルサービスからセルフサービスへ進化し続ける社会では、イノベーターの役割も進化していかなければならない。「感情面の抵抗」というリスクが高まる中では、イノベーターはかつての需要を生み出す役割から、1人1人に選択の自信を与える役割へと転身しなければならない

(8)「感情」を克服するー進歩を阻む恐怖を和らげる方法

  • 新しいことに挑戦するには勇気がいる。初心者は、知識不足や能力不足のために恥ずかしい思いをすることを恐れるからだ。他人から批判されるのが怖い。心理学では、初心者が抱える不安を「未経験者の恥」と呼ぶ。初心者が聞きたいと望んでいるのは、おぼつかない最初の数か月間を乗り切る力となる辛抱強い励ましの言葉。ある会社で特に重点が置かれているのは、初心者の気持ちに寄り添い、肯定的な態度で接するためのトレーニング。
  • 影響を与えようとしている相手のことを、”わかっていない”とか”頭がおかしい”と結論づけた瞬間、負けが確定してしまう。他者の気持ちを否定するようでは、相手の立場に身を置くことはできない。相手を否定するのではなく、何が起こっているのかを彼らの目を通して理解しようと、最善を尽くさなくてはならない

(9)「心理的反発」-変化に抵抗したい衝動に駆られるのはなぜか

  • 困ったことに、人に影響を与えようとすると、事実上その人の自由を奪うことになる。特定の道を進ませようとしているからだ。人は自由が脅かされそうになっていると感じると、自由を取り戻そうとして本能的に反発する。自律性を守りたいという欲求が「心理的反発」の原因だということがわかったのは重大な発見。
  • 心理的反発」が発生するきっかけは自由や選択肢が実際に制限されることだけではないということ。説得されていると感じるだけでも十分に「抵抗」の引き金になる

(10)「心理的反発」を克服する-オーディエンスの自己説得を手助けする方法

  • 自己説得の効果をはっきりと示す疑いようのない証拠がある。それぞれの喫煙者同士が1対1のペアを組み、「話し手」の喫煙者は「聞き手」の喫煙者に対して、喫煙反対を訴える記事を読み聞かせた。同じメッセージでも、それを聞かされた人より読み上げた人のほうがその主張に説得力を感じ、禁煙への意欲が高まっていた。メッセージの発信元が内側からなのか他の人からなのかが変わるだけで、説得力に差が出た
  • 人々の賛同を得ようと思ったら、何をすべきかを指示するよりも質問をするほうがアプローチとして優れている。合意点や一致点を明らかにする質問から始めると、新しいイノベーションやアイデアは一段と受け入れられやすくなる。人は「YES」と答えているうちにプロセスに関与しているという感覚を強めていく
  • 激しく敵対している人が相手であっても一致点はほぼ必ずあるもの。「自分と違う考え方を受け入れる用意はあるか?」という質問から会話を始めるといい。相手の反対感情が強い場合はなおさらそうしたほうがいい。そうすると、人はこの質問には「YES」と答えなければならないという強いプレッシャーを心のうちに感じる。「はい、あなたの意見を聞きたいです」と相手に言わせることができれば、「心理的反発」が解消して心を開かせることができる。
  • イノベーターは全部の脚本をつい自分で書き上げようとしがち。自ら問題を突き止め、最適な解決策を自分で判断する。オーディエンスはイノベーターのち密な指示にひたすら従わされる。このやり方だと、あらゆることを自分でコントロールできるためイノベーターにとっては魅力的かもしれない。だが、自分のアイデアを受け入れてもらいたいのであれば、人々をそのプロセスに招き入れる必要がある
  • 外からプレッシャーをかけられると、「心理的反発」が増幅するために逆効果になる。変化に対する内面からの強いコミットメントこそ、イノベーターが求めているもの。

3.教訓

現在の自身の仕事が、業務運営改善だったり、新システムの導入だったりするので、本書に記載されている事項は痛いほどよくわかります。

上司対部下の関係性のとき、指示した通りにやらせるのでなく、ある程度の裁量をつけて細かいやり方を任せたほうが、自身での工夫する余地とコミットを引き出すことができ、お互いに「自分がやった感」を持つことができます。

一方で、1対多の関係性で幅広く意見を募ると、レビューのための時間を余分に確保する必要があり、立場の異なる人から出る意見によっては収集がつかなくなったりすることがあるのも事実です。スケジュール全体が伸びればリリースが伸びますし、当然、要件が増えれば必要対応工数も増加してコストアップにもつながるため、余計に費用対効果の目線が厳しくなります。

どこまでを事務局が主導し、どこまで現場の意見を取り入れるのかは永遠の課題であり、答えは1つではないと思います。その場その場で最善策を見つけていくしかありません。少なくとも、「こういうことをやる」ということは小出しにして、「ああ、あの話ね」という状態を作っていくことの重要性を認識しました。既存業務の変革に関する方であれば、これらの「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の4種の「抵抗」があることを認識しておくことは大切であり、良本としておすすめいたします。

働くひとのためのキャリア・デザイン 金井壽宏 著

1.はじめに

本書は、キャリアコンサルタント養成講座の先生から、中でもこれは、ということでおすすめいただきました。受講生の多くが手にとり、それぞれ思うところがあったと反響も大きかった本です。

メインのターゲットとして以下の5つを挙げています。

  1. ミドル・マネジャー
  2. 学生
  3. キャリア・デザインを模索する人びと
  4. 人事スタッフ
  5. キャリア論に興味のある研究者、学生、実務家

私の場合は、1,3,5に該当しています。単なる読み物としても非常に興味を持てるだけでなく、かつキャリアコンサルタントの理論の勉強という観点でも頭の整理に役立ちました。

今回は、かなり自分自身に向けての備忘録・リンク集の意味づけ色が強いものとなっておりますが、キャリアについて少しでも関心のある方には興味を持っていただけるのではないかと考えています。

2.内容

(1)キャリアは働くみんなの問題

  • キャリアでは、それが自分の長期的な生き方、働き方にかかわっている。それが運んでいく大事なもの。たった1回限りの仕事生活における節目での選択の流れがキャリアにほかならない
  • 人生やキャリアのメタファー(隠喩)の一例。ろうそく:悪い冗談のようだが、ゆっくり確実に短くなっていって、最後は火もろうそくそのものも消える。一見暗いメタファーではあるが、光はしなやかに燃えていて凝視の対象にもなる。時間の有限さを感知するにはもっとも適切なメタファーかもしれない。
  • エドガー・シャインは、次の3つの問いについて内省することが、キャリアについて考える基盤を提供するという。
  1. 自分はなにが得意か。
  2. 自分はいったいなにをやりたいのか。
  3. どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるのか。
  • 気を付けなければならないのは、ひとはしばしば、自分が得意なことを、好きなことだと勘違いしてしまうこと。これはそう考えると短期的には都合がよいためであり、はまりやすい罠。得意なことイコール好きなことだと短絡してしまうと、「便利屋」にされてしまうので、うまくできることをやりたいことのように思い続けるのはよそう。「なにがほんとうのところしたいことなのか」という問いは、けっこう難しい問いだ。

(2)揺れ動くキャリア観

  • マイケル・アーサーは、変わりつつ新しいキャリアのあり方を「インテリジェント・キャリア」または「バウンダリーレス・キャリア」-職務・組織・仕事と家庭・産業の壁を越えて動くキャリア-と呼んでいる。同様にD・ホールは、「変幻自在の(プロティアン)キャリア-と名付けている。

doda-x.jp

  • 節目や移行期は危機。でも、危機という漢字を見ればわかるように、「危険」と「機会」がともに存在する。だから、節目にはイケイケどんどんのままではなく、歩みをしばし止めて、内省する必要がある。危機と知っていてしばしも足を止めないというのはいかがなものか。危険と機会の両方に目をやるためには、淵ではゆっくり歩かないといけない。
  • イリアム・ブリッジズのトランジション論は「終焉→中立圏→開始」の3つのステップで説明する。移行期というのは、ある状態が終わり、別のある状態が始まるということであるのに、多くのひとが後者の「開始」ばかりを目にして、いったい何が終わったのかという「終焉」を往々にして不問にしている。移行期が大きく重要な転機であればあるほど、「終焉」から「開始」へとさらりとは移れないもの。徐々に新たな始まりに向けてしっかりと気持ちを統合していく時期が必要で、この谷間の時期をブリッジズは「中立圏」と呼んだ
  • 中立圏というのは一見どっちつかずの宙ぶらりんな段階だが、それは決して消極的な段階ではないことに注意しておきたい。慣れ親しんだもの、去りつつあるものと心深く直面しながら、わくわくもするが不気味でもある新しく突入する世界に気持ちを向けるための積極的な段階。これをくぐらなかったひとに限って、過ぎてしまった過去を振り返ってしまう
  • ニコルソンのトランジション・サイクル・モデルでは、第一に、サイクルは通常、1周回って終わりというわけではなく、ある1周が終わったと思っても再び第一段階に戻ってきて次のサイクルが始まるということを想定している。1周する度に発達しているかどうか、より自分らしく生きられるようになっているかどうかが鍵。節目をくぐる度に一皮むける。

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  • いったんもうだめだと思ってしまうと、それが自己成就的予言(思ったとおりに実現してしまうこと)になってしまう。それは、残念ながら次のサイクルにまで尾を引くことになる。せっかくまた異動の時期が来ても、端から期待や自信を持てなくなってしまう。仕事意欲も失せていく。これが悪循環の場合。
  • くぐっているときにはつらい修羅場のような経験が、後から大変な自身に結びつくこともある。しかし、その際にはサイクルの途中で投げやりにならないこと、必要な支援は上司やメンター、人事部に求めることも忘れないでほしい。すべてひとりで背負い込まないほうがいい。

(3)キャリアをデザインするという発想

  • いいものに出会い、偶然を生かす(掘り出し物=serendipityを楽しむ)には、むしろすべてをデザインしきらないほうがいい。ドリフトしてもいいというより、節目以外はドリフトすべきだといってもいい。
  • どの程度自覚的に選んだか、あるいはどの程度詳細に将来を描いて選んだかには、ばらつきがあっても、節目ではそのような選択を行うことが大事。節目では、おおまかでもいいから、この方向で行くというのをしっかり選んでいてこそ、その後はドリフトしても偶然がほほ笑む。自分の人生やキャリアを選び取る、切り拓いていくという発想が一切ないまま、ずっとドリフターズであるのはよくない。
  • D・ホールはキャリアを定義するための前提として、次の4点を指摘している。
  1. キャリアそのものにいいキャリアと悪いキャリアがあるわけではないと仮定している。キャリアそれ自体は、成功や失敗を含意しない。したがって、サビカスも述べたといわれる通り、キャリアにアップもダウンもない
  2. たとえもし一歩譲って、キャリアに成功や失敗があるとしても、それは他の外部のひとの観点からではなく、そのキャリアを歩む本人によって評価されるのがよい。自分らしく生きられているとか、ハッピーだという気持ちにかかわる。
  3. キャリアには、主観的な側面(価値観や態度やモチベーションの変化など)と客観的な側面(特定の職域への移動を決定するというように観察可能な具体的な選択行動)の両面があると前提している。
  4. キャリアはプロセスであると考えられている。長期にわたって追求される仕事で、そこで生じる仕事関連の諸経験が連続していくプロセスをキャリアと考える。
  • モチベーションは、いわば短距離を走る瞬発力を説明するのに対して、キャリアは、いわば長距離を歩み続ける持久力を説明しようとする。
  • いくら他のひとの世話にはなっていても、やはり自分の人生、自分のキャリアだから、最後には自分が決めたといわざるを得ないはず。振返っていい選択だったものも、悪い選択だったものも、悪い選択と思しきものも、究極的には自分。
  • ①キャリアの節目のデザインは自分で選び取るということ。②節目にさしかかるとき、あるいは人生そのものが他のひとたちとのつながり、相互依存のなかに自分がいるということ。このふたつは両立可能。

(4)最初の大きな節目

  • 偽ったことを語るという文字通りの嘘を「黒い嘘」というのに対して、大切なことを故意に語らないことを「白い嘘」という。入社案内や会社案内には、それなりの品格を持った会社なら黒い嘘は決して存在しないけれども、そうとう高い志を持った会社でも白い嘘は混じっている。その結果、マイナス面はあまり書かれずパンフレットは全体的には会社のいいイメージに覆われている。
  • かつてのリクルート法のパラドクスは、定着率が悪いからいいイメージを伝えておこうとする結果、いいイメージから期待をふくらませて応募者が会社に入ってしまうために、仕事についた後にはかえって現実とのずれに起因する幻滅が大きく(リアリティ・ショック)、意図とは逆に定着率がさらに悪くなるという悪循環であった。
  • RJP(Realistic Job Preview)は何も「悪い点」「課題・問題点」のみを告げることではない。いいことも悪いこともできるだけまるごと学生に伝えて、それでも来たいと思うひとに応募してもらえばよいという考え方。学生の側が節目の大切な判断をする際、ほんとうに役立つ情報を提供するのがRJPの使命。

www.persol-wd.co.jp

(5)節目ごとの生涯キャリア発達課題

  • グループとタスクという二面はそれぞれ、仲間集団を維持し人間関係を大事にするリーダー行動と、集団の課題達成のために仕事の枠組みを創り出すというリーダー行動に関連している。この両面がよくできるリーダーが最も望ましいと言われてきた。直属の上司のリーダーシップ行動が、新人の適応に大きく影響すると聞いても納得がいくだろう。
  • 「キャリア・ミスト(霧)とキャリア・ホープ(希望)」は、両者がある限り、「希望があるのか確認したいのに霧があって見られない」という気持ち(→だからやめずにいるのか?)、あるいは「霧が晴れると希望が無いのがわかると怖い」という気持ち(→だから、大きな不満はないのにやめることになるのか?」は、いくつになってもありそうな心理的カニズム。
  • かつてユングは、40歳を「人生の正午」という限りなく美しくも寂しくもある言葉で形容した。多くのひとは、そこを境に、人生は下り坂になるというように答える。しかしユングは、午前の昇る太陽の勢いはすさまじいが、その勢いゆえに背景に追いやったもの、影になってしまっていたものを、しっかり統合していくのが、人生の正午以降の課題だという。正午より後には、午前には陰だったところにも光が当たる。深い意味で、真の個性化は、40歳以降に始まる。
  • 人生のまんなかあたりでは、逆算が自然とできるので、仕事についてもあとプロジェクト・タイプの大きな仕事が3回まわったら、この会社では定年かと気づく。だから、ほんとうにやりたいことを考える。会社の戦略と両立しながら、自分なりに実現したいと思う夢を、戦略という名の絵に描いて、実現したいと真剣に思い始める。逆算ができる歳ごろになるということは、積極的に、本当にやりたいことをやり始めるにしくはないということ。
  • アイデンティティの概念の提唱者としてのみ知られがちのエリクソンは、8段階の発達段階からなる独自の漸成説と呼ばれる人間発達のライフサイクル論を展開した。それぞれの発達段階に、発達課題が乗り越えるべき対立項(一方をクリアするか、それがかなわずまずい状態に陥るかを示す)とともに、そこをクリアしたひとに根付く勢い、強みを体系的に提示した。

39mag.benesse.ne.jp

  • 成熟期(壮年期)において、過去のベストテンジョブを思い浮かべて、もうそれ以上のことはできないと言って、干上がっていくひとが出るのがこの発達段階。そうではなく、若手を育成したりマネジメントに携われるようになったら、そのひとは生殖性・世代性という発達課題をクリアしたことになる。そして、そのようなひとにしかできない深いレベルの「世話」「面倒見」という美徳を身につけることになる。
  • 生殖性VS停滞という発達課題の対比が示すとおり、この時期を境に、ますます創造的になるひとと、停滞してしまうひとに分かれる。いかなる形でかつてのベスト・ジョブをより深く自分のなかに統合し、より若い世代を育むかなかで、継続して意味のある創造的なものを生み出すことができそうか、内省してみること、これができれば、いくつになっても一皮むける経験をさらに重ねることができるようになる。
  • ミドルでの課題は、破壊と同等もしくはそれ以上のエネルギーを創造に向け、両者の緊張関係に自分なりの折り合いを付けること。あるいは、自分の中に破壊性を認め、それに責任を取れること。知らないうちにひとを傷つけていた、といったことがないように、自覚的にならなければならない。これがミドルの時期。
  • 人生の正午から午後に入るということは、やがて自分もいつか死ぬということを自覚することでもある。それは、太陽が沈むという意味ではネガティブだが、残りの人生で何ができるかということを真剣に考えるようになるという意味では、ポジティブな節目にもなりうる。ヤングのときにスタート地点で茫獏と思った以上に、切迫感を持って自分のライフワークとは何かを問うことは重要
  • 「いくつになっても夢をもつこと」もまたとても重要なこと。実現しない夢に馴れ合うのではなく、現実の前で吟味しながら、この夢だったら実際に追及できる夢を持つこと。興味深いことに、レビンソンたちの中年男性の研究では、人生半ばで自分を語るときに出てくるキーワードのひとつが夢。

careerconsultant-study.com

(6)元気よくキャリアを歩むために

  • どのように働きかけても世界は自分の思うようにはならないという経験を何度も繰り返してしまうと、ひとは無力感を感じ、希望や夢を失いアクションを起こさなくなってしまう。しかしセリグマンの主張に含まれる重要なポイントは、無力感は生まれつきではなく、学習されるということ。いい循環に回ることが大事。

www.hrbrain.jp

  • 今までやってきたこと、できたこと、できなかったこと、できたことがすごくうれしかったこと、できたけれどさほど感動しなかったこと、できなかったけれど落ち込まなかったこと、できなかったことが未だにくやしくて仕方がないことなどを振り返る。振り返ると改めて見えてくる方向感覚というものがある
  • 大きな方向感覚で三叉路や四つ辻で進む道を選べば、ずっと過度に張り詰めている必要はない。四つ辻でも青信号が続いていることもある。過剰にデザインしきらずに、移行期以外では、流れを楽しめるキャリア・ドリフトもできるひと。そんなひとをケセラセラ、成り行き任せ、ドリフターズとばかにしてはいけない。
  • K・レビンが主張したとおり、緊張がひとを動かす。しっくりきてしまうと発達レベルがその心地よさを感じた段階で止まるかもしれない。発達するということは、常に成長の痛みを伴うもの。
  • 肩書には必ずしもとらわれずに、自立的・自律的にその気になれば生きられるような人が頑強。そして結局他社にも通用するぐらいのひとが、その会社でも大きく貢献している。その意味での就業可能性(エンプロイアビリティ)が問われている。
  • ひとの発達も、知的面・身体面・情緒面・社会面・仕事やキャリアの面が一体となっている。○○面と分ける発想自体が意味ある全体という視点からは問題。ハンセンは、このような立場から自分のキャリア・デザイン論をILP(Integrative Life Planning, 統合的人生/生活計画)と名付ける。

www.recurrent.co.jp

  • ひとは、ひとりで生きているわけではないから、自分に納得のいく仕事であるばかりでなく、他の人びととの関係性のなかで、自分の仕事の意味・意義が定義できないと、いつか空しくなる。なぜこの仕事をしているのかという問いに、深く温かく(同時に厳しく)、そして社会との関係のなかで答える縁となるのが、精神性にほかならない。

3.教訓

これまで、単に試験勉強として欧米中心に研究されてきたカウンセリング理論を学んできました。しかしそれでは、○○ソンという名前が多かったり、理論としても共通項として似たような部分もあって、字面を追っても理解があまり進んでこなかったというのが実感としてありました。

しかし、本書については、金井先生が日本人として、日本の職場や働き方と照らし合わせながら説明されています。そして、実際に第一章でも、以下のような記載があり、自分のこれまでの社会人生や今の立場を反芻し、今後どうしていきたいのか噛みしめながら読みました。そのため、理論の学習としても実際の足元の課題認識としても、自身の理解が進んだ良本でした。

どこかで(他人ごとではない)自分の問題、自社の問題(学生の場合には、自分が入ろうとしている会社選択の問題)として、オーバーラップさせながら、キャリアの節目での選択がもつ意味合いをぜひ考えてみてほしい。それがないと、キャリア・デザイン論の理解は、深まらない。

本書についての感想は、読む人の背景や立場によって全く異なるものと推察します。しかし、そのそれぞれの違いが大事なのだと思いますので、ぜひ手に取って全体を通して読んでいただくことをおすすめいたします。

自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義 ブライアン・R・リトル著

1.はじめに

本書の原題は”ME, MYSELF, AND US"です。

ハーバードも心理学も何も出てきません。ちょっと変えすぎ、と思います。

「ハーバード」や「スタンフォード」と書けば本が売れるのだろうと推測します。

私はというと、帯のアダム・グラント氏やダニエル・ピンク氏が推薦しているというところが気になり買ってしまいました。

bookreviews.hatenadiary.com

 

bookreviews.hatenadiary.com

表題はさておき、本書の冒頭から引用しますと、以下のことが書かれています。

私たちは、他者を理解しようとする試みを通して、自分を深く理解することになり、自分を深く理解することによって、世界を違った視点でとらえられるようになり、もっと自分の能力をいかすことができるようになります。往々にして、私たちは世界を自分だけの視点で解釈しようとして行き詰まってしまいます。

 

2.内容

(1)あなたを閉じ込めている檻―”メガネ”を変えて世界を見る

  • 人は誰でも、あらゆる人と似ていて、一部の人と似ていて、誰にも似ていない。
  • 他人をどう解釈しているかについては、「自分自身をどう解釈しているか」が大きく影響している。また、この解釈は、日々の生活におけるあなたの行動や幸福度にも深く関わっている。この評価基準は、私たちが周囲の世界を理解するための便利な「枠組み」にもなれば、私たちを閉じ込める檻にもなる。道標になる一方で、自分や他者を凝り固まった考え方でとらえてしまう罠にもなる
  • 見知らぬ他人を解釈する場合、相手の「特性」「パーソナル・プロジェクト」「物語」などは、あくまでもこちらの想像であり、事実に基づいていない。人は、「他者」の振舞いの原因を「パーソナリティ」で、「自ら」の振舞いの原因を「状況」でとらえる傾向がある。
  • 人は、他者を解釈する枠組みが多くなるほど世の中に適応しやすくなり、逆に枠組みが少ないと、変化していく状況に上手く対処できず、トラブルを乗り越えることが困難になってしまう。あなたが人をどう見ているかは、世界を理解する枠組みにもなれば、あなた自身を拘束する足枷にもなる。それに囚われてしまえば、人生を思い通りに歩めなくなってしまう。
  • 自分自身のパーソナリティや、望ましい人生についてよく考えるには、家族や友人、同僚など、あなたと人生を共に歩む人たちを、これまでとは異なる視点で見つめ直すことが必要。古い評価基準は、捨て去ったほうが便利なこともある。混乱や当惑を生じさせているものであればなおさら。

(2)「自分の性格」を理解するー5つの要素で適性がわかる

”ビッグファイブ”の尺度は、「パーソナリティは5つの主要な因子に還元できる」というパーソナリティ研究の共通理解を反映している。

①誠実性
  • 誠実性のスコアが高い人には、「計画性がある」「規律正しい」「注意深い」「忍耐強い」「賢明」「非衝動的」などの特性が見られ、対照的にスコアが低い人には「無秩序」「自発的」「不注意」「軽率」「衝動的」などの特性が見られる。
  • 誠実性の高い人は、秩序だった予測しやすい環境にはうまく適応できるし、期限内でのタスクの完了が求められる状況では力を発揮する。しかし、変化が激しく混とんとした環境は苦手。このような環境では、誠実性が高くない人のほうが、突然の変化に対応できる
②協調性
  • 協調性の高い人は、「感じがいい」「協力的」「友好的」「支援的」「同情的」という印象を相手に与える。対照的に協調性の低い人は、「皮肉屋」「対立的」「非友好的」「意地が悪い」と見られる。
  • 「協調性は高すぎても低すぎてもパフォーマンスは低くなり、最適なパフォーマンスをもたらすのは、協調性が中程度のときである」と考えたほうがよさそう。いい人すぎても、意地が悪すぎても、パフォーマンスは上がらない
③情緒安定性
  • 情緒安定性が低い人は、主観的な幸福度が低く、ネガティブな感情を抱きやすく、結婚や対人関係で問題が生じやすく、仕事の満足度が低く、健康状態があまりよくない傾向があることがわかっている。対照的に、情緒安定性が高い人は、浮き沈みの少ない、安定した精神状態で日常生活を過ごせる。また、情緒安定性は、他のパーソナリティ特性を増幅するアンプのような役割も担っている
  • 危険に敏感に反応するという遺伝子を持った人はまだ多く存在しており、昔と同じように集団内に危険を警告する役割を担っている。
④開放性
  • 開放性が高い人は、情緒安定性が低い人と同じく、不安や抑うつ、敵意などのネガティブな感情を多く体験する。しかし、情緒安定性が低い人とは異なり、喜びや驚きなどのポジティブな感情も多く経験する。
⑤外向性
  • 普段から覚醒レベルが高い内向型は、最適なレベルを維持するために、刺激的な状況を避けようとする。刺激の多い状況ではパフォーマンスが落ちることを理解しているから。そのため、周りからは人づきあいが悪いと誤解されることがある。逆に、もともとの覚醒レベルが低い外向型は、刺激的な状況を好む
  • 外向型は短期的な記憶力が、内向型は長期的な記憶力が優れている。「速度を上げれば多くの仕事をこなせるがミスは増え、速度を落とせば達成量は減るがミスがない」というトレードオフにおいて、外向型は量を、内向型は質を優先させる。
  • 内向型は、波風を起こすような発言を避けようとして、遠回しな表現を使う。これに対し外向型は、より直接的な物言いをする。

(3)別人を演じるー大切なもののために性格を変えるということ

  • あなたがとらえている自己イメージと、他者から見たあなたのイメージの間に違いがあるとき、そこには「盲点」がある可能性がある。すなわち、他者から見たあなたこそが、あなた自身が見ることのできない「本当のあなた」であるかもしれない。一方で、あなたがとらえている自己イメージは、「パーソナルスポット」である可能性もある。つまり、他者が正確にとらえることのできないところにこそ、「本当の自分」がいるかもしれない。
  • 実際には、人生ではいつも普段通りの自分でいられるわけではない。そのときに力を発揮するのが「自由特性」と呼ばれる「変化できる性格」。もとの性格と違う自分を演じることは、自分を偽るということではなく、私たちの可能性を広げてくれる、意義のあること
  • 自分にとって非常に大切なプロジェクトを実現するために、キャラクターから出るということは、「普段とは異なる行動を取る」と同時に、「潜在的な特性を表に出す」ことでもある。
  • 問題を告白すると、最初は覚醒レベルの上昇が見られる。それまでに秘密にしていたことを誰かに伝えるのは簡単ではないから。しかし、その後は覚醒レベルが低下し、告白前より低いレベルで安定する。つまり、告白をした人は、免疫システムの向上などの理由によって、以前よりも健康になる

(4)「タマネギ」か「アボカド」かー場に合わせるか、信念に従うか

  • セルフモニタリングが高い人の自己概念はタマネギ幾層にも皮が重なっているが、めくっていっても中心となる核のようなものがない)、一方、セルフモニタリングが低い人はアボカド中に固い核のようなものがある)に喩えることができる。
  • セルフモニタリングが高い人は、「キャラクターの外に出る」行動が得意だが、セルフモニタリングが低い人は、そのような行動をしなければならない理由をうまく理解できない。
  • セルフモニタリングが低い人は、誰に対しても同じように振る舞う。パートナーが相手によって態度や考えをコロコロ変えているように思うと不満を感じてしまう。一方、セルフモニタリングの高い人も、パートナーに対して、「もうちょっと相手に話を合わせればいいのに」「自己中心的で鈍感だ」というふうにフラストレーションを感じることがある。
  • セルフモニタリングが高い人は、実用性が高いだけではなく、「他者への気遣い」や「自分より大きなものを受け入れる」といった「原則」に従っていると考えることもできる。つまり、セルフモニタリングの低い人は、一貫性や率直さ、高い人は気遣いや人との結びつきといった「それぞれの原則」に従っていると考えることができる。

(5)主体的に人生を生きるー運命はどのくらいコントロールできるのか?

  • 他者依存型の人は、とくに「人間」に敏感で、なかでも社会的地位の高い人に影響を受けやすいことがわかっている。一方、自己解決型の人は「メッセージの内容」に敏感であり、内容に説得力を感じれば態度を変えることがわかっている。
  • 私たちは、「運命は自分の力で変えられる、限界は自分の想像力がつくりだしたものだ」と信じるように育てられてきた。しかし、「コントロールの感覚を持つことは、ある程度、幻想に基づいている」ということも同時に知っておくことが大切。私たちは、自分の人生のボタンが正しく接続されているかどうか、確認する必要がある。

(6)「パーソナル・プロジェクト」を追求するー人生をかけて達成したいことを見直す

  • たとえば、「10kg減量する」など直接的に表現されたパーソナル・プロジェクトは、「減量に挑戦する」といった漠然とした言葉で表現されたものより成功する確率が高く、幸福度にもいい影響を及ぼすと考えられる。可能性を考えるのではダメ。大切なのは「やってみる」ではなく、「やるか、やらないか」。
  • 幸福度を高めやすいのは、プロジェクトに特別な意味があることよりも、成功の見込みが高いことのほうである。ただし、そこには「意味」と「見込み」のトレードオフがあることを加味しなければならないかもしれない。この問題に対する最良の答えは、意味と有効性の両方が、同じプロジェクトで経験されたときに、幸福度が高まるというもの。
  • 幸福度を予測するにあたっては、その人の社会的地位や経済状態、人種、性別などを調べるよりも、その人が強いストレスを感じているかどうかのほうが役立つ。意義が感じられず、混沌としていて、周りの人からの理解や支援もなく、ネガティブな感情を強く感じるプロジェクトばかりに取り組まれなければならないとしたら、私たちの幸福感は下がり、人生の質も低下してしまう。
  • 私たちはパーソナル・プロジェクトを変えられる。特性は私たちが持っているものであるのに対して、プロジェクトは行うもの。未知の世界への一歩を踏み出すためには勇気がいるが、結果的にはそれだけの価値が十分にある。人生を変えていくチャレンジになる。自分の心の奥底にある願望を客観的に見つめ、プロジェクトにできるかどうか、考えてみよう。

(7)自分を変える挑戦―幸福な人生を自分でつくる

  • ”何においても優れている天才と、何をやってもダメなバカ”という視点ではなく、”誰でも、ある分野では技能があり、別の分野では技能がない”と考えられれば、「技能は努力によって身につけられるものだ」ということも理解できる。視点を現実的なものに変えることで、自分を含めて「人間は変わり、成長できる」ということに気づけるようになる。
  • 自由特性を通じてキャラクターの外に出ることは、コア・プロジェクトの成功や持続性にもメリットをもたらし得る。私たちは自由特性によって、可能性を広げ、成長することができる
  • 内発的なプロジェクトは持続しやすく、心身の幸福度を高める。自分を変える、自分に挑戦する、といったプロジェクトは、周りから強制されたものではなく、自発的に行っているときに、有意義でコントロールできるものとなり、続けやすくなる。
  • 内省の瞬間、さまざまな「自分」がいることに気づくことがある。このような自分の中での対話は、新たな発見をもたらしてもくれるが、同時に受け入れることが困難なものにもなり得る。なぜなら、あなたはなによりもまず、多面的な自分自身を受け入れなければならないから。
  • これからは、自分は複数の自分で構成されていることを知り、そうしている自分を許そうしてみる。自分のパーソナリティを形づくり、幸福になるよう導き、ときには下手な冗談に笑ってくれ、必要なときに抱きしめてくれたのは、人生を共に歩んできた自分自身。

3.教訓

「あの人はこういう人」「自分はしょせんこんなもの」と、他者だけでなく自分に対してもレッテルを貼ってしまうということは起こりがちかと思います。

しかし、何か仕事で差し迫られたり、家族のことを思えば、普段のキャラクターとは異なる自分を演じることができる(これを「自由特性」というそうです)というのは、それぞれ実感があるかと思います。すなわち、自分というものは一つではない、多面的に出来上がっているということであり、実際に、会社での仮面をかぶった自分と家庭での素の自分は、皆さん相当異なるのではないでしょうか。

それと同じことが、自身が他者を見る目にも当てはまります。自身が知らない他者独自のキャラクターやストーリーがあります。記憶にある昔の相手と、今の相手は異なる考えを持っているかもしれません。意識しないと、いつもと同じ色眼鏡で社会を見てしまうことにつながりかねません。

そして、最後に出てきた内省の話は非常に印象的でした。たしかに、見たくない自分もいます。自身で意識的に内省をするだけでなく、周囲にも内省できる問いかけを行い、新たな自分の一面、何か違う一歩を踏み出し方、自分のありたい姿を見つける後押しができればよいなと考えています。