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WHY WE DO WHAT WE DO 人を伸ばす力 内発と自律のすすめ エドワード・L・デシ+リチャード・フラスト著

1.はじめに

個人的には、7月の海の日を含めた3連休の課題図書として位置づけていました。

以下のMBA必読書50冊にも収められている著名な本です。

原題は"WHY WE DO WHAT WE DO"で、「私たちが何をする理由」という意味であり、「人を伸ばす力」という直接的な表現はありません。行動や決定に至った背景や要因を知ることで人々の内面の理解が進み、結果として他者とのコミュニケーションを向上させることができる、ととらえています。

税抜2,400円で研究論文のような調子なので、少し敷居は高いかもしれませんが、読み進めるうちに「自律」や「有能感」がいかに重要か、多くの気づきが得られます。

単に人材育成やチームビルディングの観点だけでなく、子育てにも参考になる良書ですので、ぜひお手に取っていただければと思います。

2.内容

①権威と不服従
  • 行動が自律的でないということは他者に統制されているということ。統制された行動には2つのタイプがある。
  1. 服従:権威者の考えが実現されるように従う行動。言い換えれば、服従とは、そうしろと言われたから言われたことをする行動。
  2. 反抗:期待されていることとは反対のことを、まさにその期待のゆえにするということ。
  • 偽りのない自分を生きるためには、自律的にふるまわなければならない。なぜなら、偽りのない自分を生きるということは自らが行為の主体ということであり、本当の自分に基づいて行動することだから。
  • 正しい問いは、「他者をどのように動機づけるか」ではない。「どのようにすれば他者が自ら動機づける条件を生み出せるか?」と問わなければならない。

(1)自律性と有能感がなぜ大切なのか

②金だけが目的さー報酬と疎外についての初期の実験
  • 人はいったん報酬を受け取り始めると、その活動に対する興味を失う。そして、報酬が打ち切られると、もはやその活動をしたいと思わなくなる。報酬は、自由な行為を外部から統制される行為へと変えてしまう。遊びを仕事に変え、コマの差し手をコマ自体に変えてしまう。
  • 金銭によって動機づけられるということの本当の意味は、金銭が人を統制すること。そしてそのとき、人は疎外される。疎外は、人が内発的動機づけとの関係を断ち、活動に取り組むことそれ自体を目的とした行為との関係を断ち、存在の本質的状態との関係を断つときにはじまる。
③自律を求めて
  • 特定の課題を遂行するよう求められても、それをどうやるかにある程度の自由裁量が許されていれば、一人の独自性を持った人間として扱われなかった人よりも、その活動に熱心に取り組み、より楽しむ。選択の機会を提供すること、それは広い意味で、人の自律性を支えるための主要な条件。
  • 意味のある選択が自発性を育む。人は、自ら選択することによって自分自身の行為の根拠を十分に意味づけることができ、納得して活動に取り組むことができる。同時に、自由意志の感覚を感じることができ、疎外の感覚が減少する。しかも、もし選択の機会が提供されるならば、人々は自分たちが一人の人間として扱われていると感じる。
  • 他者の自律性を支えるということは、他者の自発性やチャレンジをしようという気持ち、あるいは責任を持とうとする姿勢を積極的に励ましていくことを意味している。そう考えると、制限を設けることも場合によっては必要だろう。ただし、プレッシャーを与えるのではなく、励ますことによって自律性が支えられるということを忘れてはならない。
④内発的動機づけと外発的動機づけ
  • 単純なルーティン課題の場合は、報酬や統制によって遂行のスピードが増すことがある。特に報酬が出来高払いの場合、このような傾向が顕著。しかし、このようなやり方で遂行を完全すると、報酬が与えられる時だけはするという態度を身につけさせたり、巧妙なサボタージュをするようになるなど、別の角度からマイナスの効果が生じる可能性があるという点は重要。
  • 内発的動機づけは、豊かな経験、概念の理解度の深さ、レベルの高い創造性、よりよい問題解決を導く。その一方で、統制は、内発的動機づけや課題の遂行を低下させるだけでなく、損得勘定の実利にさとい人には、残念なことに、創造性や概念理解、柔軟性を必要とするような課題の成果に妨害的な効果をもたらす。
⑤有能感をもって世界とかかわる
  • 人はある結果が自らの行為によって生じると信じていなければ、行動に動機づけられない。内発的動機づけがもたらす「報酬」は、楽しさと達成の感覚であり、それは人が自由に活動をするとき自然に生じる。したがって、その仕事をこなす力があるという感覚は、内発的な満足の重要な側面である。
  • 自分自身を試したい、環境を模索したいという自発的な、内的な要求を誰しももっており、物事に習熟したり自分自身の有能さを確かめようとして意欲的に活動する。有能感を感じるためにはトップである必要はないし、Aの成績を取る必要もない。自分にとって意味のある挑戦を見つけ、ベストを尽くすだけでよい。

(2)人との絆がもつ役割

⑥発達の内なる力
  • 有能さと自律性に関して言えば、ほんとうに重要なのはその人自身の認知。内発的に動機づけられるためには、自分が有能であり自律的であると自分自身で認識している必要がある。他の誰かの意見ではうまくいかない。
  • 人が自律的に生きているかどうかの鍵となるのは、自分自身の選択で行動していると心底感じられるかどうかだ。それは、自分が自由だと感じる心理状態であり、いわば行為が行為者の掌中にある状態とも言える。人が自由を感じていると報告し、そう信じているとさえ報告しているのに、自分を偽っているにすぎないというような場合も決してまれではない。
⑦社会の一員になるとき
  • 内在化の2つの形態とは、取り入れと統合。取り入れとは、ルールを噛み砕かずに丸ごと飲み込むこと。統合とは、ルールをよく噛んで「消化」することであり、これが最適な形の内在化。統合を通じて、人は重要であるが少しもおもしろくない活動ー内発的に動機づけられていない活動ーに対する責任を進んで受け入れるようになる。
  • 取り入れられた価値や規範はさまざまな結果をもたらしうるが、いずれも最適とは言えない。意欲の無さや犯行が、人々にとっても社会の担い手にとってもよいことではないのは明らかであり、かたくなな服従は、それを促した社会化の担い手を喜ばせる一方、服従する人々は大きな犠牲を支払わされることになる。
  • ある社会の中で生活していくうえで、自分がうまくやっていけるために大切な、その社会の諸側面を内在化し統合するためには、内在化すべき構造を提供する社会という文脈の中で、彼らの基本的な心理的欲求ーすなわち自律、有能さ、関係性への欲求ーが満たされているという経験を持たなければならない。
  • 自律性の支援とは、他者を自分自身の満足のために操作すべき対象と見るのではなく、人間として支援する価値のある能動的なエージェントとして認めながらかかわっていくこと。他者に責任感をもつよう期待するのなら、まずわれわれ自身が社会化の担い手としての責任を受け入れなければならない。
  • 他者とつながっていると感じていたいという欲求が、人に文化の諸側面を自然に身につけさせ、あるいは同化させ、その結果創意あふれる社会的貢献をするようになる。それが起こるのを援助しているのが、重要な他者からの自律性への支援。
⑧社会のなかの自己
  • 自我関与(自分に価値があると感じられるかどうかが、特定の結果に依存しているようなプロセス)は、他者から随伴的に評価されるときに発達するもので、価値や規範の取り入れと密接な関係にある。他者からこう見られたいと思うとおりに自分を装おうと自分自身に圧力をかけ、そうすることで自分自身のよさを感じる
  • 賞賛は、真の自尊感情ではなく随伴的な自尊感情を育てる危険性をはらんでいる。彼らはより多くの賞賛を得、それによって自分に価値があると思いたいがために行動するようになる。だがそれは、束の間の感覚にすぎない。そのような行動をすることで、彼らの自律性はさらに蝕まれていく。
  • 愛することに関して何が難しいかといえば、取り入れられた規範や心の硬さ、罪悪感、そして自己卑下感から自分自身を解放すること。それらは真の自己に基づいて、誠実にかかわりあうことを妨害している。難しいのは、本当に純粋に触れ合うことができるくらいに、心理的に自由になれるかどうか
⑨病める社会のなかで
  • 外発的な目標こそが大事だと夢中になることの背景にあるのは、その人の自己の希薄さ。外発的目標は、自分はどんな人物なのかではなく、自分は何を所有しているかに注意を向けさせる。そして彼らは、社会的に導かれた、確固とした基盤のない表面的なペルソナ(仮面人格)を作り上げる。深い満足感を感じることも、内発的欲求が充足されることもない状況では、人は表面的な目標を希求するようになる。
  • 個人主義とは自己の利益追求のことであり、自分自身のために何かを達成し、あるいは獲得しようとして行動すること。それには個人的・情緒的に独立していることをはるかに越えて、わがままの感覚、つまり自分自身のことしか気に留めないところまで行きつく。個人主義はみんなのために行動することと正反対。
  • それに比べて自律性とは、自己選択の感覚や柔軟さ、自由さを感じながら、意志をもって何らかの行為を行うということ。それは、自分の興味や価値観と調和して、責任ある行動をしようとする真の意志を感じること。
  • より大きな富と権力とを求めて戦い続けている、野心的で競争的なビジネスマンは、粗野な個人主義者ではあるかもしれないが、自律性の見本ではない。彼らの目標追求がたとえ個人の内部から発したものであったとしても、それが圧力をかけられ、強要されたものである限り、個人主義的ではあるが自律的ではない

(3)どうしたらうまくいくか

⑩いかに自律を促進するか
  • 自律性の支援は、あなたが他者、とりわけ自分より下の立場にいる人に対して取りうる態度であり、その人たちとの相互作用のあらゆる面に現れる。自立性を支援するには、彼らの視点を取れること、すなわち彼らが見ているように世界を見ることが必要。そうすることで、彼らの要求や行動の理由が理解できる。管理職として自律性を支援するというのは、あなたのもので働く人々の気持ち把握することから始まる
  • 自律性を支援することには、グループの一人ひとりに、その人がかかわる問題について決定させるという側面と、集団全体がその決定をするという側面がある。もっとも効果的に自律性の支援を行う管理職は、部下に意思決定をする役割を与える
  • 人を厳しく管理すれば、管理されたがっているかのように振る舞うようになる。権威ある地位の人が管理的であると、支援されるはずの人たちからやる気を奪うことになる。自律性を支援することが、管理されることに慣れている人に対しては特に難しい。彼らに選択権を与えることで自律性を促進する必要がある。
  • 罰は人を管理する方法であるが、許容範囲を設けることは管理することではない。それは責任を促すこと。もし適当な許容範囲を設け、公平な結果を伝えておけば、部下に許容範囲内に留まるか、それとも逸脱するかを決めさせることができる。
  • 実績が評価に満たないとき、その状態を批判の根拠ではなく、解決すべき問題とみることが重要。たとえその人の行動に主な原因があったとしても、それを批判的に評価することよりも解決すべき問題とみること、すなわち次にはどのように改善したらよいかを考えることが、たいていの場合、より望ましい結果をもたらす。
⑪健康な行動を促進する
  • 人が自律的に振る舞い、変容への試みが成功する高い可能性があるのは、その人が変容を是認しているときだけ、すなわち、心から、しかも、プレッシャーを感じないで変わろうと決意しているときだけ。
  • 心から変わろうと決意して、変化に伴う不快をも受け入れようとしているときは、変わるための努力が成功に結び付きやすい。自分の動機づけに純粋な興味を持つことが、行動の変化を成功させる出発点。このことは、なぜ変わろうとするのかを自分に問い、その答えを率直に考えることを意味する。
⑫統制されても自律的に生きる
  • 人の行動がどの程度自律的、創造的で、生き生きしているか、内発的に動機づけられているかは、パーソナリティと社会環境が自律性を支援する程度との相互作用によって決まる。人々のパーソナリティは社会環境にも影響し、それがまたパーソナリティに影響を与える。
  • 世界が欲しいものを与えてくれるのを待つのではなく、自分の望むことが実現するように積極的になる。より自律的に行動することで、環境との相互作用過程が自分自身のためにはたらくようになる。
  • 侮辱されたとしても、拒否される、捨てられる、解雇されるなどの現実的な結果が何も起こっていないのならば、それが多少心痛むものであっても、侮辱を話し手の攻撃性として理解するし、それほど脅威を受けなくても済む。刺激を異なって解釈することを学ぶことで、自分の感情をより効果的にマネージすることができる。
  • 感情に関して統合的であるほど、その感情に対してどう振る舞うかに自由があると感じる。感情が行動を決める代わりに、どう行動するかを選ぶための1つの情報となる。行動は感情の自覚と達成しようとする目的を考慮したうえで選ばれる。自律的であるとき、人は感情を十分に経験することができ、それをどう表出するかを自由に決めることができると感じる
  • 生きていることの本当の意味は、単に幸福を感じることではなく、さまざまな人間の感情を経験すること。幸福感の追及がほかの感情を経験を妨げると、望ましくない結果が起きる可能性がある。
  • 人生はさまざまな経験に満ちている。人は成功し、失敗し、関係を築き、愛する人を失う。そして、人は、もちろん失敗したり、相知る人を失ったりすることを望ましいが、これらの経験に伴う純粋な感情経験することは、人生の変化に対してうまく適用していくのに必要。感情を経験することは、もっとも満足を与える自己実現的な生き方の1つ。

(4)この本で言いたかったこと

⑬自由の意味
  • 人間は自分たちの真の制限を受け入れることで、自由を見つけるのであるが、それだけで社会の中で効果的に機能するとはいえない。個人にとって重要な挑戦は、一方で自分にとって意味のあるそのような社会の恣意的な制限を受け入れつつ、自由の感覚を維持すること
  • 人間の自由とは、真に自律的であることを意味する。そして取り入れられたもの、固定した内的な構造、麻痺した自己吟味、制限への反抗などに縛られずに行動することを意味する。自由であるということは、意思に基づいていると感じられることであり、真の自己によって自らの行為が決定されていることを意味する。
  • 真の自由とは、環境を変えることに前向きであること、環境に敬意を表することとの間にバランスを見出すこと。心理的に自由であることは、他者を受容する態度を伴う。われわれは、最終的には、一人で生きているのではなく、大きな組織の一員として生きている
  • 人間の自由の中心にあるものは、選択するという経験。自律的であるとき人々は、どう行動するかの選択を経験する。しかし、統制されているとき(服従するにせよ反抗するにせよ)、選択がないと経験する。

3.教訓

数字のみの営業目標などの外圧や、権威ある人からのお達しなど、いわゆるやらされ感で動いているうちは、能動的な行動を生み出さず、組織全体にいい結果をもたらすことはない、ということがよくわかりました。

実際、子どもに対して、このサイトで紹介しているような長い人生で見たら今読んでおいたら必ずプラスになる本や、新たに発売され話題になっている本を、「読みたかったら買ってくるよ」とすすめても、一向に読もうとはしません。それより、自分の意志で書店に行き、自分の興味で自費で購入した本は、しっかり最後まで読みます。例えば自身がよく会社で周りにすすめる「外交談判法」は、子供に見向きもされませんでした。

bookreviews.hatenadiary.com

業務のアサインや評価でも、同じことだと思います。

とにかく「これはあなたのタスクです」とだけ伝えても、単なる作業としかとらえてもらえません。会社や部がどういうミッションを背負いどこに向かっているのか、その中でこのタスクがどういう位置づけなのか、これを完遂することでどういう世界が待っているのか、などを期待値を込めて話し、細かいやり方は担当者に任せ、自分自身で意味づけをし理解してもらうことが重要です。

プレイヤーとして優秀な管理職の中には、他者との交渉や方針含めて入口はすべて自分で整理し、組立てが終わったものを作業として下ろす、という行動を取る人がいます。任された担当者は、あまり考えなくてもその通りにやれば一定の成果が出るので、「やっぱりあの人はすごい、ついていけば大丈夫」と錯覚することになります。

ただ、それでは本書のような”自律”した状態ではありません。当然ながら人事異動はあります。そのためその管理職が抜けると、組織全体として考える力が末端まで浸透していないので、次なる課題が与えられたとき、対応する人材が育っていないためにあたふたする、ということになっていきます。

自分自身ができることでも担当者に任せ、初めから正解を教えることなく、聞かれたことにアドバイスし、「こう考え、こうやれば自分でもできるんだ」という有能感を与えることができるように持っていきたいと考えています。