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問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術 安斎勇樹 著

1.はじめに

帯の「問いかけを変えれば、チームが変わる、動き出す!」に非常に惹かれ、購入しました。

著者は、HRアワード最優秀賞を受賞されたこともあり、同書は未読ですが、その続編のような印象を持っています。まずは本書の印象的だったところを以下に引用し、受賞作品は別途読んだ際に改めてレビューしたいと思います。

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2.内容

(1)チームの問題はなぜ起きるのか

  • ワークショップ(工房)型の仕事のスタイルにおいては、「当たり前」だと思っていた前提に対して、ふとしたときに疑いをかけ、「本当だろうか?」「別の可能性はないだろうか?」と探り続ける姿勢が有効。このことを「とらわれを問い直す」と表現する。
  • チームが結成した初期段階のうちにお互いの個性について理解できていればよいが、そうでない場合、「部分的な分業」(部分的にでも理解することができれば協力関係を築くことができる)の状態を放置すると、チーム内に「あの人は主体性がない」「あの人は話を聞いてくれない」といった「決めつけ」を生み出し、お互いの関係性を悪化させてしまうリスクがある。
  • ワークショップ型のスタイルでは、それぞれのメンバーから主張や結論がまだ固まりきっていない「生煮えの意見」を交わすことを奨励する。一人ひとりの意見に対して、「なぜこの人はこの意見にこだわっているのか」と、お互いの背後にある「見えない前提」について深く理解しようとする土壌がなければ、異なる視点が交錯するワークショップ型のコミュニケーションには移行できない
  • 本能的な欲求にすらブレーキをかけてしまう「逸脱の抑止」は、チームメンバーの内発的な動機を阻害する「衝動の枯渇」という現代病を生み出す。規範から逸脱することを恐れ、関係性が凝り固まったままでは、それが主体的な行動や発想のストッパーとして働き、本来あるはずの衝動に「蓋」がされた状態になる
  • なぜそれをやるのか、作業の目的を感じられなくなっていても、手段そのものを続けること自体に没頭することができる。これが、「手段への没頭」という環境適応。掲げた当初は想いに溢れていたはずの目的も、次第にエネルギーが失われていく。これが「手段への没頭」によって引き起こされる「目的の形骸化」という副作用
  • 自分たちが「良い」と思える仕事を成すためには、自分たちが「良さ」の基準を持ち、そこに執着しなければならない。そして、そこから見えてきたお互いの「こだわりの違い」を、チームを豊かにする「個性」として認め合い、対話を通して深くわかりあおうとすることが必要。
  • 同時に、チームにおける「とらわれ」を疑い続けることも必要。自分たちのものの見方は、捨ててもかまわない「とらわれ」なのか? あるいはこれからも守るべき「こだわり」なのか? 自問自答しながら探索し続ける姿勢が肝要。

(2)問いかけのメカニズムとルール

  • そもそも「問いかけ」とは何か。本書における問いかけとは、仕事のさまざまなコミュニケーション場面において、「相手に質問を投げかけ、反応を促進すること」。あなたが質問することで、相手は何かしらの反応を返してくれる。問いかけとは、たったこれだけのシンプルなコミュニケーション。
  • ライトの当て方次第で、そのエネルギーは「記憶を想起すること」に活用されるかもしれないし、「価値観を内省すること」に活用されるかもしれない。うまくいけば、相手の衝動をくすぐり、固定観念に揺さぶりをかけ、深い対話的なコミュニケーションを促進できるかもしれない。チームのポテンシャルを引き出す望ましい「反応」を狙って、どの未知数に、どのようにライトを当てるとよいか、「質問」を工夫することが問いかけの本質
  • 投げかけられた質問は、相手の何かしらの反応を引き起こす過程でさまざまな「感情」を刺激する。投げかける「質問」は、相手の気持ちを前向きにも後ろ向きにもさせる。うまくいかなかったことを反省する機会はもちろん必要だが、相手が前向きな気持ちになれる質問を、意識的に投げかけたいもの。
  • 問いかけとは、「質問」をとして、相手に「ボール」を渡す行為。ボールを受け取った相手は、そこで初めて自分の頭を使って、自分らしいプレイを試行錯誤することができるようになる。忘れてはいけないパスの基本要件は、相手がきちんとパスを受け取れること。そして次のプレイにつなげられること。すなわち、相手から「自分の意見」が返ってくること。
  • 問いかけの基本定石
  1. 相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
  2. 適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
  3. 遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
  4. 凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
  • 無能さを露呈させる問いかけとは、相手の無知や未熟さを、わざわざ本人に認めさせた李、周囲に知らしめたりすることを目的とした問いかけ。これはもはや、問いかけの目標が「自分の苛立ちを鎮めるため」「失敗によって受けたストレスを発散させるため」にすり替わっているため、「ミスをしたら、上司先輩の期限を取らなければと考えるようになり、それが「とらわれ」となって、チームの関係性は悪化する一方。
  • 大事なことは、頭ごなしのフィードバックで終わらせずに、「問いかけ」の工夫によって、相手の「こだわり」を引き出そうとすること。こだわりを掘り下げる問いかけは、相手に対する好奇心から生まれる。見えない前提に「なぜだろう?」と素朴な関心を持つことで、相手の個性を引き出す「対話」のきっかけが生まれる。
  • 人間の思考には、自由度が高すぎると、かえって自由に発想できなくなる特性がある。特に自分の発言の良し悪しが少しでも評価される場面においては、自由はかえって不安の源泉になる。相手の思考を動かすためには、問いかけに適度な「制約」を設けて、考えるきっかけを作ってあげることが重要
  • 人間はロボットではないから、頭では「必要」とわかっていても、「つまらない」と感じていることには、どうしても心の底からエネルギーは湧いてこない。たまには遊び心で問いかけに味付けをしてみることで、「答えたくなる」仕掛けを施すと、コミュニケーションの質が変わり、暗黙の「とらわれ」が揺さぶられるきっかけになるかもしれない。
  • チームの中で形成された共通言語に疑いをかけずに、いつもと同じ言葉遣いで、いつもと同じように問いかけ、いつも通りの発想を促すだけのミーティングを継続していると、次第にミーティングが予定調和的になり、展開が予測できるようになってくる。問いかける側がシナリオを想定するようになったミーティングからは、本当の意味でチームにとって驚くべき成果は生まれない

(3)問いかけの作法① 見立てる

  1. 何かにとらわれていないか
  2. こだわりはどこにあるか?
  3. こだわりはずれていないか?
  4. 何かを我慢していないか?
  • 問いかけの初心者がフル活用すべきは、実は目でなく「耳」。チームのとらわれとこだわりは、使われている言葉に現れる
  • 誰かを「こういう人だ」と決めつけている発言が出ること自体が、関係性の固定化のサインになるため要注意。その理由は、人間関係において、確証バイアスと呼ばれる偏見が、関係の固定化を助長するから。確証バイアスは、一度「そうだ」と仮説を立てたら、無意識に仮説を支持する情報を集め、仮説に反する情報を排除する傾向のこと。
  • 続いて耳を傾けるべきは、未定義の頻出ワード。使われているキーワードが「どのような定義で使われているか」に着目することがポイント。定義が曖昧ななかでも何度も使われているということは、愛着が溢れる「こだわり」か、もしくは形骸化しつつある「とらわれ」のどちらかである可能性が高い。
  • 現場の観察に慣れてきたら、以下三項にした三角モデルを使って、見立ての精度を高めていく。「場の目的」と「見たい光景」を事前に想像したら、あらかじめノートやメモ用紙に記載しておき、ミーティング中に常に意識しながら進める。
  1. 場の目的:ミーティングや1on1のゴール
  2. 見たい光景:チームメンバーがどのような状態になっていることが望ましいか
  3. 現在の様子:実際にミーティングや1on1において、目の前で展開されている光景

(4)問いかけの作法② 組み立てる

  • 立場や役職が上であることのデメリットもある。立場が上の人が下の人に問いかける場面では、あなたの意思や意図にかかわらず、トップダウン型の関係性を生み出してしまう。そして、あなたがチームの評価者であればなおさら。
  • 立場が上の人に問いかける際に気を付けなければならないことは、質問は組織やチームに石を投げて攻撃する手段ではないということ。あくまで、上司も含めた「仲間」のポテンシャルを活かす手段として、自分の立場だからこそできる前向きな問いかけを模索してみる。
  • チームの目指す方向性がはっきりしているのに、なかなか前に進めない場合、チームの根底にある「こだわり」が曖昧ではっきりしていないか、余計な固定観念が「とらわれ」としてズレを生み出しているのか、どちらかの場合が大半。うまく言葉になっていない「こだわり」らしきものに未知数を定めて深堀りするか、足かせになっている懸念がある「とらわれ」らしきものに未知数を定めて揺さぶりをかけるか、どちらかのアプローチが有効な場合が多い。
  • 主語の抽象度を上げれば上げるほど、問いかけられた相手の視座を上げ、俯瞰的な発想を促進する効果がある。もしチームメンバーの視点が、自分の業務や手段に閉じていて固定観念が形成されていたり、各人が自分のことばかり考えて前提にズレが生じていたりした場合には、主語を「チーム」や「組織」に引き上げた質問を組み立て、同じ視点から対話するコミュニケーションを促進するとよい。
  • 逆に、チームメンバーが問題の原因を「組織」あるいは「社会」に帰属させ、他責的になって主体的に試行錯誤できなくなっている場合は、あえて主語を「あなた」に下げて、自分ごとで考える機会を作ることが必要かもしれない。ただし、会社のために「あなたはどう変わるべきか?」という聞き方は、これ自体が他責的で、やや高圧的。相手は詰問されているように感じるかもしれない。
  • 質問の方向性は、「主語のレベル」の視座の高低を表した縦軸に、時間軸を横軸とすることで整理することができる。
  1. 組織・社会×過去=歴史
  2. 組織・社会×未来=ビジョン
  3. 個人×過去=経験
  4. 個人×未来=願望
  • 質問に制約をかけることは、この探索のプロセスや範囲をおおまかに指定すること。具体的に以下の4つのテクニックが有効。
  1. トピックを限定する
  2. 形容詞を加える
  3. 範囲を指定する
  4. 答え方を指定する
  • トピックを絞ることで、考えるポイントを1点にさせる方法は、質問に具体性が生まれることで、相手は考えやすくなる。アイデア出しのミーティングの場面でも、チームの意見が分散することを防ぎ、意見をまとめやすくなる。
  • ポジティブな形容詞と、ネガティブな形容詞を対で用意して、それぞれの具体例を質問したり、それらの境界線を質問する。メンバーの発想が似通っていたり、対話が堂々巡りになって着地できなくなっていたりする際に、思考の解像度を高めて、コミュニケーションの幅を広げる手段として有効。
  • こだわりの種が見えたら、疑問視「Why(なぜ?)」「When(いつ?)」を活用した質問形式で掘り下げる。一人ひとりの個性を支えている「こだわり」は、一朝一夕で醸成されるものではなく、これまでの人生経験の中でじっくり培ってきたものであるから。Why型、When型などの提携質問で、背後にあるストーリーを炙り出していく。
  • チームにおいて普段から使っている「言葉」の力は偉大。良くも悪くも、普段どんな言葉遣いをしているかに、思考が左右される。逆に言えば、チームのとらわれに揺さぶりをかけるうえで、「別の言葉に言い換える」ことは、さまざまな場面で効果を発揮する。パラフレイズの定型文「その言葉を、別の言葉に言い換えるとどうなりますか?」
  • 数値化のパラフレイズは、回答される数値そのものよりも、その後に「なぜその数値なのか」を追加で質問し、理由を語ってもらうところに意義がある。人によってその理由は違うはず。理由を語り合うことによって、互いに基準のズレがあったことが可視化され、揺さぶりにつながる。

(5)問いかけの作法③ 投げかける

  • どんなに優れた質問であっても、相手が聞いていなければ意味がない。仮に聞いていたとしても、答えるための心の準備が整っていなければ、「深く考えられた反応」は返ってこない。チームのメンバーが問いに向き合う姿勢がなければ、問いかけは不意打ちになってしまい、良い思考やコミュニケーションにつながらない。チームのポテンシャルを引き出すための問いかけは、相手の無能さを露呈させるためではなく、相手の個性にライトを当てるために投げかけられるべき
  • 人は心の準備ができていない状態で、唐突にアイデアを求められると、どうすればよいか(How)のレベルの、表層的なアイデア脊髄反射で答えがち。ところがある程度、深く熟慮するモードになっているときには、「そもそもユーザにとって、このアイデアはなぜ物足りないのか」など、なぜ(Why)のレベルから議論をする余裕が生まれる。
  • 相手の意見にリアクションをせぬまま淡々と必要な問いだけを投げかけ続けると、チームの話し合いの質感も、ドライなものになっていく。相手の意見について、なんでもよいので「受け止めたこと」を言葉にして示すことで、共感的なコミュニケーションは進んでいく。共感的なコミュニケーションを日々疎かにしていると、相手は心理的な不安から、次第にあなたに対して「防御」をするようなマインドセットになってしまう。
  • 印象を強めるために質問の文言がむやみやたらに長くなってしまっても、相手の注意はかえって分散してしまう。意識をしておくべきは、一度通して聞いて、質問の意図が理解できるかどうかということ。問いかけはシンプルに越したことはない。レトリックを過剰に活用しすぎないようにしましょう。
  • 10年以上も問いかけの技を探求しているにもかかわらず、事前に練りに練ったはずの質問が、うまく機能しないことはいまだにある。「問いかけがうまくいかないときは、チームの状況を正確に見立てるためのチャンスだ!」と前向きに捉えるようにする。
  • 問いかけは万能な方法ではない。どんなに事前に見立てをして、戦略的に質問を組み立てても、それはあくまであなたの「仮説」。練り上げた質問を固示して、自分の仮説に固執するのではなく、メンバーの反応を謙虚に受け止め、そこから自身の問いかけの技術と姿勢を内省する「学習者」としての姿勢が重要
  • 懐に一歩踏み込むコツとしては、いつもよりフランクな雰囲気で、現在が「本音を言いにくい状況である」ことを代弁して共感を生みながら、「正直」「ぶっちゃけ」「本当のところ」など、本音を引き出すためのちょっとしたワンフレーズを加えること。
  • 「素人質問」的な問いかけをうまく使って、AKY(あえて・空気・読まない)の態度で踏み込んでいく。そのうえで「私はどんな意見でも大歓迎なので、あんまり気にせず、正直な意見を教えてください」などと、本音を抑圧しているストッパーを事前に外しておくことも有効なフォローになる。
  • 忘れてはならないことは、質問に答えてくれた相手の反応に、ポジティブなフィードバックを返すこと。フィードバックと言っても、相手の回答に評価を下す必要はない。「いいですね」「そういう意見もあるのですね」「〇〇さんらしいいですね」といったような、ちょっとした一言でよい。

3.教訓

問いかけは大事ではありますが、単に問いかければいいというものではありません。

意見が出ないときによくやってしまいがちな、「無茶ぶり」「不意打ち」はよい問いかけではないことはよく理解できました。また、愛着が溢れる「こだわり」や、形骸化しつつある「とらわれ」という言葉や考え方も、絶妙な表現だと思います。

普段から使っている「言葉」の力は偉大で、良くも悪くも普段どんな言葉遣いをしているかに思考が左右される、という説明にも納得感があります。たとえば、社内の業務セクションとして、「フロント」「ミドル」「バック」という形に分けて議論することがあり、そのさい、どうも皆さんがそれぞれ、都合よく相手セクションがここまで対応してくれるだろう、という勝手な線引き・思い込みで話していることがあります。

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よく使われるがいまいち定義があいまいな言葉は、最初から共通認識ができるようにしておくことが重要です。そうでないと、最後のほうになって、「そういうつもりで話していたわけではなかった」「それだと前提が違ってくる」と、決まるものも決まらなくなります。皆さんそれぞれの固定観念で話をするもの、というくらいに構えておく必要があると思います。

そして、以下のような問いかけは早速取り入れ、議論を活性化したいと考えています。

  • 主語の抽象度を上げて問いかけて相手の視座を上げ、俯瞰的な発想を促進する
  • 他責的になっている場合はあえて主語を「あなた」に下げ自分ごとで考える機会を作る
  • 自由度が高すぎても逆に答えづらく、範囲を限定して聞いてみる
  • 数値化でパラフレイズし、「なぜその数値なのか」を追加で質問し、理由を語ってもらう