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PEAK 超一流になるのは才能か努力か? アンダース・エリクソン著

1.はじめに

この世に生まれながらにして才能にあふれた天才はいるのか、については、過去から幾度となく論争になっています。

本書では、①なにより重要なのは、才能はあらゆる人に生まれつき備わっていて、適切な方法によって引き出せるものであるということ、②研究によって「才能に恵まれた」人の成功において遺伝的の資質の影響がどれほどあるかにかかわらず、最大のカギを握るのは誰にでも漏れなく備わっている能力、すなわち人間の脳と身体の適応性であり、それを彼らは他の人々よりしっかり活用したということ、と結論づけています。

以下では、その結論に至った理由について、本文を引用しながら紹介していきます。

2.内容

(1)コンフォート・ゾーンから飛び出す「限界的練習」

  • 一般的に、何かが「許容できる」パフォーマンスレベルに達し、自然にできるようになってしまうと、そこからさらに何年「練習」を続けても向上につながらない。自然にできるようになってしまった能力は、改善に向けた意識的な努力をしないと徐々に劣化していく
  • 目的のある練習の4つのポイント
  1. はっきりと定義された具体的目標:重要なのは「うまくなりたい」といった漠然とした目標を、改善できそうだという現実的期待をもって努力できるような具体的目標に変えること
  2. 集中して行う:やるべき作業に全神経を集中しなければ、大した進歩は望めない
  3. フィードバックが不可欠:自分あるいは外部からのフィードバックが無いとどの部分を改善する必要があるのか、目標にどの程度近づいているのかがわからない
  4. 居心地のよい領域から飛び出すことが必要:自らをコンフォート・ゾーンの外へ追い立てることなくして決して上達はない
  • 自らのコンフォート・ゾーンから飛び出すというのは、それまでできなかったことに挑戦するという意味。壁を乗り越える方法を見つけることが、実は目的のある練習の重要なポイントの1つ。一般的に、壁を乗り越える方法は「もっと頑張る」ことではなく、「別の方法を試す」こと

(2)脳の適応性を引き出す

  • 頻繁に訓練することが、その訓練によって負荷のかかる脳の領域の変化に結び付いていく。脳は与えられた課題に必要な機能を実行する能力を高めるように、配線を組み替えることで負荷に適応していく。
  • ほとんどの人が傑出した身体能力を持っていないのは才能がないためではなく、ホメオスタシス(恒常性)の枠内に安住し、そこから飛び出すのに必要な努力をしようとしないため。つまり、「これで十分」の世界に生きている
  • 限界的練習の場合、目標は才能を引き出すことだけではなく、才能を創り出すこと、それまでできなかったことをできるようにすることにある。自分のコンフォート・ゾーンの外に踏み出し、脳や体に適応を強いることが必要。その一歩を踏み出せば、学習はもはや遺伝的宿命を実現する手段ではなくなる。自らの運命を自らの力で切り拓き、才能を思い通りに作っていく手段となる。

(3)心的イメージを磨きあげる

  • 対象とする活動がなんであれ、限界的練習の大部分はその活動に役立つ有効な心的イメージを作り上げていくためのもの。心的イメージについて1つ重要なのは、それが「特定分野に限られたもの」であること。練習した技能にしか当てはまらず、汎用的なスキルの習得などというのはあり得ない
  • 意思が正しい診断を下すうえで重要なのは、単に必要な医学的知識があるだけでなく、可能性のある症状を思い浮かべ、最も可能性の高いものに絞り込めるように知識が整理され、いつでも引き出せる状態になっていること。高度に発達した「こういう場合はこうする」という構造をたくさん持っている
  • スキルを磨くことが心的イメージを磨き、優れた心的イメージがスキルの向上をさらに後押しする。既存の心的イメージがパフォーマンスの指針となり、自分のパフォーマンスをモニタリングして評価することが可能にする。新しいことができるよう努力するのは、心的イメージを充実させ、鮮明にしていくこと

(4)能力の差はどうやって生まれるのか?

  • 練習に膨大な時間を費やさずに並外れた能力を身につけられる者は一人もいない、と言い切って間違いない。限界的練習には、まず、極めて専門性の高い技能の向上を促すような練習方法を指示してくれる教師やコーチが必要
  • 技能が限界に達し、それ以上練習してもさらなる向上は望めないという段階はない。だから競争の激しい分野でトップクラスになりたければトレーニングを積まなければならない。さもなければ進んで同じような努力をする人々と競い合うチャンスすら得られない

(5)なぜ経験は役に立たないのか?

  • 組織のパフォーマンスを高める第一歩は、関係者が従来通りのやり方を捨てなければ向上など望めないと認めること。それには世間にはびこる3つの誤解に気づき、排除することが必要。
  1. 人間の能力の限界は遺伝的特徴によって決まっている:正しい練習法を用いれば、誰だって自分が選んだ分野で能力を伸ばすことができる。才能は自分で作るもの。
  2. 何かを長い間継続すれば徐々に上達する:同じことを全く同じやり方でいくら繰り返しても上達はしない。むしろ停滞と緩やかな能力低下は避けられない。
  3. 努力さえすれば上達する:専門的能力を伸ばすことを念頭にデザインした練習方法を用いなければ、努力してもそれほどの改善は見込めない。
  • メンターあるいはコンピュータプログラムから即時フィードバックが得られる練習法は、技能向上に途方もない威力を発揮する。この練習法は「オフライン」での訓練、すなわちミスが致命的な結果につながりかねない実践の場以外で繰り返し練習することが意味を持つ、さまざまな分野に応用できる。
  • もちろん任務を遂行するにはそれなりの知識も必要だが、最終的にモノを言うのは「何を知っているか」ではなく「何ができるか」だ。この知識と技能の区別こそ、従来の上達方法と限界的練習の違いの中核を成すもの。限界的練習の主眼は、技能とその改善にある。
  • 聞いたり見たりするだけでは、フィードバックを得たり、新しいことに挑戦してミスを犯し、それを修正することで徐々に新たな技能を身につけていく機会は全くと言ってよいほどない。それで何かを学んだ気になるかもしれないが、腕が上がることはほとんどない。
  • 正しい問いが見つかれば、問題は半分解けたようなもの。プロあるいはビジネスの世界で技能を高めるというテーマにおいて正しい問いは、「適切な知識をいかに教えるか」ではなく「適切な技能をいかに向上させるか」

(6)苦しい練習を続けるテクニック

  • プライベートレッスン、グループレッスン、一人での練習、あるいは試合や競技をすることも含めたありとあらゆる練習から最大の効果を引き出すカギは、自分がしていることにとにかく集中すること
  • レーニングの大部分が単純に何かを繰り返す作業のように思えるスポーツでも、一つひとつの動きを正しくやることに意識を集中すると上達が加速する
  • 指導者がいなくても効果的に技能を高めるには、3つのFを心がけるといい。Focus(集中)、Feedback、Fix(問題を直す)。技能を繰り返し練習できる構成要素に分解し、きちんと分析し、弱みを見つけ、それを直す方法を考えよう。
  • 上達が伸び悩んでいるとき、原因となっているのはそのすべてではなく、ほんの1つか2つの構成要素に過ぎない。問題は、それがどれかだ。管理職なら業務が忙しくなったとき、どんな問題が起こるか注意してみよう。発生する問題はおそらく特異なものではなく、もともと存在しているが日頃はあまり目につかない弱みの表れであることが多い。
  • エキスパート全員に共通している点が2つだけある。一つは夢があったこと、そしてもう一つは限界的練習を知って、その夢を実現する方法があると気付いたこと。夢を追いかけない理由などない。限界的練習は、絶対に自分には手が届かないと思っていたさまざまな可能性への扉を開いてくれる。

(7)「生まれながらの天才」はいるのか?

  • 親や教師が子供のやる気を引き出す方法はいろいろあるが、最終的には意欲は子供自身の中から湧き出てくるべきもの。さもなければ続かない。子供が小さいうちは誉め言葉やご褒美などでやる気を出させることもできるかもしれないが、いずれその手は使えなくなる。意欲を長持ちさせる方法として親や教師にできるのは、練習を子供が楽しめる活動と結びつける方法をともに考えてあげること。
  • 傑出したプレーヤーは長年にわたるひたむきな練習を通じて、長く苦しい努力の過程で一歩一歩並外れた能力を身につけていく。手っ取り早く上達する方法はない
  • もちろんIQテストで測定される能力は初期段階には役に立つ。しかし長期的に勝利するのは、知能など何らかの才能に恵まれて優位なスタートを切った者ではなく、より多く練習した者
  • 結論としては「生まれつき才能がある人」を特定する方法は、これまで誰ひとり見つけていない。
  • 生まれつきの違いより練習の効果を重視すべき理由として重要なのは、「自己充足的予言」の危険。何かができないと言われた子供たちは、そう思い込んだまま大きくなる。予言が自己充足する。これが生まれつきの才能を信じることの弊害。

3.教訓

本書を読めば、どれだけ遺伝的に資質があったとしてもその後の努力がなければ開花しないこと、逆に言えば成功している人は必要な努力を続けたこと、がよくわかります。

  • 単に時間をかければいいというものではないこと
  • 我流ではなく、優れた教師やコーチが必要であること
  • ただ頑張るという根性論ではなく、他にいい方法がないか考えること
  • 大事なのは、何を知っているかではなく、何ができるかであること
  • 手っ取り早く上達する方法などないこと

わかった気になっているだけではダメで、とにかく実際にやってみて、ミスを犯して、それを修正する経験が重要です。

社会人としては、自分の意志だけではどうにもならないことは多いものです。自身で振り返っても、自分が言い出したことでなく誰かが始めたことを引き継いで、最後まで仕上げる使命を与えられたことは一度や二度ではありませんでした。前任者は何でこんなことをやろうと思ったんだろう、という後ろ向きな気持ちを持ったこともありました。

実際に稼働させるように持っていくことは、構想することとはまた違った難しさがあります。現場の皆さんに理解されるにはどうしたらよいかを考え、それを大勢の前で説明し動いてもらうことが必要で、毎回何の問題もなくうまくいくことなどありえません。時に疑問をぶつけられることで、「ああ、こういうことを伝えないといけないんだな」ということが実際にわかり、非常によい経験になりました。

そういった失敗も含めた経験を数多く積んでいくことで、「次はこうしたらいいのでは」というイメージができるようになっていきます。そうして一定のアウトプットが残せるようになると、「あの話であればアイツに話を聞いてみよう」「声をかけてみよう」と思われることが増えていきます。

自らの意思でなくても与えられた機会を自分としてどう捉え、そこから何を学び、今後どうしていくのがよいかの戦略を考え、それに向かって努力することが、将来を切り拓くことにつながるということをこれからも意識したいと思います。