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キャリアコンサルタントのためのカウンセリング入門 杉原保史 著

1.はじめに

この原稿を書き始めた2024年3月3日は、国家資格キャリアコンサルタントの試験日です。私は次回7月の受験を目指して学習中の身です。

本書のまえがきで、「キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能士の方々、またそれらの資格取得を目指す方々を意識して書きました」、と記載されています。実際に、養成講座の講義内容のよい復習ができる良本だと思います。

2.内容

(1)実際編

  • クライエントは好きで相談に来たわけではない。やむを得ず相談に来た。たいていのクライエントは、カウンセラーに気持ちを汲んで欲しいという欲求を抱いている。そしてほとんどのクライエントは、自分の人生のストーリーに、しばし耳を傾けてほしいと願っている
  • クライエントの反応から、直接学ぼう。それこそが最高の学び。本や指導者から学ぶことも重要だが、クライエントの反応から得られる学びとはそれとは次元が違う。クライエントから直接に学ぶことができるカウンセラーこそ、力強く成長していくカウンセラー
  • カウンセラーはクライエントの話を受容的な態度で聴くことが基本。受容とは、クライエントの話を、クライエントが意味するように、クライエントの体験を追体験するように、クライエントに寄り添うように聴くということ。クライエントはこのように感じたんだ、このように思ったんだ、このような体験をしたんだと、理解するように聴くこと。そこには価値判断や、正誤の判断は含まれない。つまり需要は、クライエントの話の内容を肯定することではない。
  • カウンセラーにしている作業は、ほぼ、クライエントに自分の感じていることや考えていることを明確にしていくことだけ、心の世界を探索するよう助けているだけ。そういう作業をただじっくり重ねていけば、クライエントはしばしば自ら道を見出していく
  • クライエントの気持ちを受け止めるように、整理するように、そしてクライエント自身が振り返ることができるように聴いていく。クライエントが自分自身の心のひだに注意を向け、自分自身の感じていることをはっきりさせ、自分自身に気づいていけるように聴いていく。何か特別な知識を伝えたり、教えたりすることが必要ではない。基本は、ただクライエントの心の動きをなぞるようにして描き出し、伝えていくこと。
  • クライエントが、自分は価値のない人間だと言えば、「そうなんだ。あなたは価値がない人間なんだ、そう感じてるんだね」と受けとめる。クライエントにとって、不快な気分がいかに耐え難いかを聴き、それに共感する。それができて初めて、クライエントは自分から「だからって、いつまでもこんなことをしていてはダメ」と言い出すもの。
  • 口調や態度から、あせりや不安が感じられることがよくある。カウンセラー自身がクライエントのあせりや不安にオープンな態度を取り、それを受け容れ、感じ、味わい、それに触れながら、ゆったりとした雰囲気でただ「あせりがありますね」と言葉にしていく。穏やかにゆったりと。決してあせりを取ろうとか、減じようとプレッシャーをかけるのではなく、ただ言葉にする。まるでテーブルの上にリンゴがあるにふと気づいたとき「ああリンゴがありますね」と言葉にするのと同じように。
  • 将来を決められないでいると、そのために前に進めず、経験が増えていかないので、いつまでも決められない状態のまま留まってしまう。前に進むことにより、経験が蓄積され、自分にとって大事なことや、自分の好きなことが細かく分化してくる
  • カウンセラーから見ると、不合理だとか、無理があるとか思われるような目標が示されても、即座に否定せず、その目標の背後にあるクライエントの気持ちや欲求を探索しよう。納得できない目標を拒否したり、カウンセラーが合理的だと思うような目標に誘導したりすることがカウンセリングではない
  • 「今、不安な考えやイメージが湧いているみたいですね。どんな考えやイメージがあなたを不安にさせているのか、ここで二人でじっくりとよく観察してみましょう。じっくり心の中を見て、あなたを不安にさせる考えやイメージを、一つ一つていねいに詳しく観察して、教えてもらえますか?」。面接場面の今ここで何が起きているかに注目することが非常に重要。カウンセラーがクライエントを直接に観察できるのも、変化をもたらすような影響を直接及ぼすことができるのも、面接場面の今ここをおいて他にない。最も重要な影響力の機会。
  • 単に紹介先情報を教えて行くように指示する、ということだけが「リファー」ではない。リファーが必要と判断されるような状況についての、クライエントのさまざまな思いや考えを引き出し、一緒に検討し、合理的で建設的な判断を共有することも、「リファー」のスキルに含まれる
  • ともかく、クライエントの否定的な感情や考えを尊重し、理解し、クライエントの体験してきた世界からすれば、それも妥当な反応だと認めていく。クライエントの考えや感情に好奇心を持って聴くことができるといい。
  • ほとんどの転職支援のケースで、同じ価値観、同じ職業観、同じ人生観のままで、単にあっちの職場からこっちの職場、あっちの仕事からこっちの仕事へと移ることはできない。さまざまな傷つき、挫折、喪失の体験がある。これまでの生き方を見つめなおし、これからの人生をどう生きるかを考え直す作業が求められる。そうした過程をサポートし、ともに歩むキャリアカウンセリングは、かなりの程度、心理カウンセリングとは異なる。
  • 価値とは「この地球という星の上で過ごす短い時間をどのように過ごしたいか」ということを思うとき、胸の奥深くに感じる願望のこと。価値をはっきりと自覚している人は、たとえ不安や恥を体験することになったとしても、価値を実現するための行動にしっかりと取り組んでいく。そういう経験を重ねる中で、その人の人生において、不安や恥の果たす役割はどんどん小さくなっていく。

(2)理論編

  • できるだけ具体的に何が起こったのかを明らかにしていく。環境の物理的な刺激や対人関係だけでなく、感情、感覚、イメージ、考えなど、そこで生じてきた内的な刺激についても、関連するものを時系列に沿って明確化していく。また、その時に取った行動もできるだけ具体化するように尋ねていく。このような訊き方をしていくと、クライエントも客観的に何が起こっているのかを整理して捉えられるようになり、気持ちも整理される。
  • クライエントのプロブレム・トークは必要以上に長引かせないほうがよいと考えられている。というのも、問題について詳しく語れば語るほど、問題に捕らわれていきやすくなるから。それよりも問題についての語りを解決についての語り、すなわちソリューション・トークへと軌道修正していくほうが有用。クライエントが自分にとっての解決イメージをできるだけ具体的に生き生きと明確に描けるよう援助していく。
  • どんなに問題があると言っても、その問題の深刻さが無限に広がっていかないよう支えている潜在的な努力がある。それらの努力を見出して、承認し、讃え、補強していく。そうして、すでにクライエントが成し遂げている解決をさらに強めていく。
  • 「どうなったらこの悩みが解決したと言えますか?」と尋ねてみても、「わからない」という答えしか返ってこないことも多い。そのような場合には、質問を言い換えながら、あきらめずに繰り返し尋ねる。クライエントには解決イメージを描く能力があると信じる。その思いがクライエントをエンパワーし、動かす。そもそもクライエントのとっての解決のイメージは、そのクライエント自身にしかわからないもの。
  • 無条件の肯定的尊重:クライエントがたとえカウンセラーから見て、不合理だ、破壊的だ、愚かだ、などと思えるようなことを言っていても、そうした自分の思いは脇に置き、クライエントを尊重する気持ちを維持することができているとき、無条件の肯定的尊重ができているといえる。カウンセラーがこの条件を満たしているとき、クライエントは変化に向かって動き出す。
  • 共感的理解:ともかく、相手の体験を理解しようとする姿勢をもって相手とかかわり、そこで感じられるものを通して、相手を理解することを共感的理解という。クライエントの人格が変化するためには、カウンセラーが知的理解に終始していてはダメで、共感的に理解しようとすることが必要。
  • 自己一致:クライエントの話を集中して没頭的に聴いているとき、ただ専心的に聴いているとき、カウンセラーは自己一致しているといいます。自己一致の状態にあるとき、カウンセラーは自分の経験に開かれていて柔軟。その言葉には真実味があり、存在感や確かさがある。
  • カウンセラーが希望を捨ててしまえば、クライエントが希望を持てないのは当然。クライエントの変化を援助したいのなら、まずはカウンセラーがクライエントは変化すると心から信じること。それ自体が変化を促進する強力な働きかけ。
  • カウンセラーがクライエントを観察するときには、カウンセラーがクライエントにどんな考えや態度を持っているかが、クライエントに影響を与える。それによってクライエントがカウンセラーに見せる表情も態度も、話す内容も変わってくる。そのことがまたカウンセラーのクライエントに対する考えや表情を変化させる。
  • 肝心なのは無意識の心の動き。無意識の心の動きは、言葉にして直接語られることはない。本人が話す内容を聞きながら、一方で話されないように避けられていることを模索する。「当然あってよさそうなにに語られないもの」「妙にさらりと通り過ぎたところ」「言いよどみ」などがポイント。クライエントの恐れや不安を和らげる助けができないかと願いながら、それらがどこにあるのかを感受しようという構えで話を聴いていく。
  • 「抵抗」は、気づきをもたらそうとして取り上げている内容が、クライエントにとって確かに不安や恥や自己非難をもたらす苦痛な内容であることを示すサイン。だから、抵抗はその精神分析治療がうまくいっていることを示すサインでもある。
  • クライエントが抵抗に気づくことは、抵抗を緩める効果をもたらす。その結果、カウンセラーがもともと気づかせようとしていたものが、気づきに上ってきやすくなる。抵抗するクライエントと敵対せず、抵抗を、不安や恥などの何らかの否定的感情の体験を避けようとする自然な心の動きとして理解していくことが大切。そこに温かい注目、好奇心や関心を注ぐことが大切。

3.教訓

キャリアコンサルタントは聞きにくいことを聞くのが仕事。そこには相談者が見たくない自分もいる。抵抗があるのも自然な働き。むしろ、そこに聞くべきポイントが隠されています。

相談者に「うーん」と唸ってもらったら、その内容について自分事としてとらえてほししいというカウンセラーの意図が伝わった証拠。その後に自問自答や内省が始まります。

そして、解決方法を決めるのはあくまで相談者。カウンセラーは相談者が具体的な行動イメージを持てるように伴走していくだけ。相談者が解決方法を教えてほしいと言っても解決思考にならずに、「こうしましょう」とも言わず、誘導もせずに、相談者の力を信じる。面談時間の最後のほうに見えてくるかもしれないと思い、対話をしたいと思います。

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