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「対話と決断」で成果を生む話し合いの作法 中原 淳 著

1.はじめに

中原淳さんの本は、以下に続いて3冊目です。

自身で繰り返し読むだけでなく、周りで新たに管理職になった人にも紹介しています。

毎回、新たな気づきやちょっとした自信を得られるので、本当に助けられています。

bookreviews.hatenadiary.com

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本書でも、話し合いって何?という根本の部分から勉強することができ、非常に有用な本でした。

以下では、印象に残った部分を引用していきたいと思います。

2.内容

(1)話し合いが苦手な国、ニッポン

  • 日本人の傾向を表現するならば、「日本は同質性が高く、同調性が望まれることが多いが、心理的安全性が低い国」。人々は空気を読むことを重んじる。空気を乱すようなことを言うと、すぐに「出る杭」になる。このような環境があるために、何か皆の目の前で発言することに非常にリスクが高い、と感じてしまう。
  • 問題は「多数決」に至るプロセスにおいて、しっかりとした話し合いがなされないことと、物事を決める方法についての話し合いをきちんと行っていないこと。多数決というのは、ごく少数の選択肢だけが選ばれる仕組み。決め方についての話し合いをせず、答えを急ぎ多数決を行うと、納得感が失われていく
  • この世の中は、大事なものほど、いまだに「正解」がなく、「白黒」がついていない。そういうときほど、お互いに対話から逃げてはいけない。そういう厄介な物事ほど、対話を重視したほうがいい
  • 今や答えを「皆で考え、決めること」が必要になっている。できるだけ正しい答えを見つけ出すためには、さまざまな部署の人々が、それぞれ自分の強みを持ち寄って集まり、皆で話し合いをして、市場を探索し続けることが必要。
  • 話し合いや論理の軽視をしていると、独善を生んだり、「もう好きにして」というあきらめを生んだりする。その先に広がる未来は、一部の人が一部の都合のいいように物事を決めて破滅していく未来。このままでは、対話すること、話し合うこと、そして自分たちで合意を作りながら自分たちの未来を決めていくという民主主義の根幹が揺らいでいく。

(2)「話し合い=対話+決断」

  • よい話し合いとは、「対話する」フェイズと「決断(議論)する」フェイズ、この2つから成り立つ。
  • 対話の効果とは、「この問題についてはAとBの意見がある。この2つはこういう部分で違いがある」ことを明らかにして、いったんメンバーの間で共有すること。結論をただちに出すのではなく、まずは相互の「違い」の理解を深めるコミュニケーションを「対話」という
  • 「決める」ためには「議論」が必要。AとB、どちらの意見がもう一方の意見よりも「優れている(マシである)」かを理性的に比較検討し、最後に決めること。対話の後、議論をするからこそ決断ができる

(3)対話の作法

  • 対話とは「私」を主語にして、自分の感じたこと、思っていることを、そのまま表出するコミュニケーション。対話とは、フラットな関係のもので行われる、役職や立場を越えたコミュニケーション。よい話し合いとは「主語を私にして語ること」から「主語を私たちにして決めること」という順序で、コミュニケーションを転換していくこと。
  • 重要なのは、対話に参加しているすべてのメンバーが、何らかのかたちで、ケリのついていない課題に対して「自分と関係がある(当事者である)」と思えていること
  • 対話を引き起こすためには「フォーカスされた問い」が必要。つまり、「みんながグッと考えさせられる問い(Driving question:駆り立てる問い)をつくることこそが、ファシリテーターにとって最も重要なこと。
  • 別の言い方をすれば、対話とは、相手の脳裏に「自分の見ているもの」を描くことであり、自分の脳裏に「相手の見ているもの」を浮かび上がらせること。まずはお互いの脳裏が透けて見えないと、それらの間の「ズレ」を比較しようにも、比較しようがない。
  • さらに一歩踏み込んだ問いをつく方法の1つが、「定量的に踏み込む」こと。具体的な数字を指定して、相手の思考に制約をかけ、意見を表出させること。「気になったことがありますか?」⇒「ここ3か月で気になった出来事を1つ教えてください」と絞ることで、途端にしゃべりやすくなる。
  • 沈黙もまた「声」。深く考えていて、何を言うべきか、どう伝えるべきかを考えて沈黙している人もいる。また、猛反対しているからこそ黙っている、なんて人もいる。慎重に言葉を選び取っている人もいる。
  • リーダーが意見をその都度評価するような一言をはさむことで、いつの間にか、リーダーがメンバーのフラットな関係を崩している。権力を握っている側として、「リーダーが思っている正解」に誘導し、他の人の意見を狭めてしまう。
  • 何らかの行為(実践)を行った結果、そこで「何を言っても干されない」という経験をした「あと」で、はじめて心理的安全性というものを実感できる。
  • 結局、対話とは「自己」を持ち寄ることであり、「自己」をさらすこと。「自己を持ち寄る」のではなく、もっともらしい「外部」の声を祭り上げ、それらの外部があたかも立っているかのように「べき論」の応酬をしはじめると、議論が拮抗し、話し合いに行き詰まりが生じる
  • 「自己の表出」はときに「話し合いのクオリティ」をガラリと変えるときもある。話し合いのクオリティが飛躍的に高まるのは「個人的な物語」や「個人的な思い」を語り出したときにはじまる可能性が高いとも言われている。
  • お互いに忘れてはならないとても大切な「知的態度」は「他者の合理性」を大切にすること。「他者には他者なりの、筋道の通った世界(合理性)」があるということ。他者の行動が、外部の他人の目から見れば「不合理極まりない行動」に見えたとしても、他者は他者なりに物事を見つめ、他者の中では「一定の筋道の通った意味づけ」を行っている。
  • 対話においては、それぞれのメンバーが「今、ここの瞬間」を大切にし(Here and now)、心を場に預け(Be present)、お互いの考えていること、感じていることに耳を傾けることが重要。
  • 私たちは自分と異なる意見を持つ人たちと対話することで、それ以前の自分を客観的に認識することができる。これは、自分1人でいくら考えても得られない、貴重な経験。この効果を「他者へのリスペクト」を通した「自己へのサスペクト(懐疑)」である。
  • 対話には時間もかかる。漢方薬を日々飲み続けて体質を改善していくことに似ている。対話も継続が重要。対話を何回か繰り返していくことで、ようやくハッと気づく状況が生まれたり、共通の理解が生まれたりすることがある。

(4)決断の作法

  • 対話は、参加したメンバー1人ひとりが、自分を背負った意見を持ち寄り、「ズレを表出するコミュニケーション」。よって、それだけで物事を前に進めることはできない。生産性を左右するのは、対話の後に続く、「決断(議論)」であり、「実践(行動)」
  • 近年、ビジネスの現場で流行している1on1に関しても同じことがいえる。1on1では、対話の質を上げるための事前準備や振り返りなども大事だが、最も大事なことは「面談の後に何をするか」を決めること。面談が成果を生むわけではない。成果を生み出すのは「行動」であり「実践」。
  • 民主的な話し合いにおいて、決断するときの大原則は、「自分たちのことは、自分たちで決める」こと。自分たちで決めれば、「自分たちで決めたのだから仕方がない。自分たちがこの行動のオーナーなんだ」とその決断に対して「オーナーシップ」を持つことができる。自分ごととして行動に取り組める。
  • 重要なのは、リーダーが「メンバーで話し合い、メンバーが決める」方法でいくことを、チームのメンバーに対して宣言し、全員の合意をとること。最初に「誰が決めるのか」を明確にすることが、決断においては大切
  • たとえそれが正しいとしても、性急に決めてはいけない。たとえ最終的にその意見に落ち着いたとしても、性急に決めてしまえば、そのプロセスに対して、のちのち必ず文句が出る。すると最悪の場合には議論が振り出しに戻り、かえって決定までに時間がかかってしまう。決めるときこそ、急ぐな。焦るな。しかし、決めるなら、はっきり白黒つける
  • いろいろと工夫を施し、「これだ!」という選択肢に決断できても、それで終わりではない。決断した後に、アクションを起こして、何らかの成果を出すことがゴール。アクションを起こす上で大切なのは、すべてのメンバーが「自発的フォロー」を行うこと。自分たちで決めたことは、自分たちで従う
  • 自分と違う意見が結論になったとしても、納得して、自発的に貢献することが必要。このルールが全員に共有されていないと、そもそも話し合う意味がないし、皆で何かを成すことはできない。ところが、この決めた後の自発的フォローをしない人が少なくない。みんなで決めたことなのに、決定に従わず、協力しようとしない。
  • 私たちのいる組織や職場は、環境、時代、顧客、社会の変化に応じて、常に動いている。だから、いったん話し合って、決めて行動し、「はい、終わり」というわけにはいかない。環境の変化を察知して再び対話して、決めて実践する。私たちは繰り返しの連鎖の中にいる。そんな意識を持ち、根気よく対話・決断・実践のサイクルを回していくことが重要。

3.教訓

こちらとしては対話をしたいのに、メンバーが自分を主語にした話ではなく、私が思っていそうな正解を探していそうな発言をする機会に遭遇しました。私としては、もっと自分が思っていることをストレートに表現してくれればいいのに、と思いつつ、まだまだ心理的安全性を確保するための声掛けや努力や不足していることを実感しました。

その面談終了後、別の機会を設け、一歩踏み込んで感じた内容を伝えたところ、「以前に所属していた部署では協調性が(過度に)重要視され、上司と異なる自分の意見を言うと異動させられる姿を見てきて、それが染みこんでいるのかもしれない」とのことでした。自分が思っている以上に、これまでの経験が自分の行動を縛ってしまうことがある、ということは、よくよく肝に銘じておかなければならないと感じました。

まず、思っていることを話してくれればいい、と言い続けることが必要です。その上で、うまく話し合いができなかったときに、なぜそうなってしまったのかを確認し、背景を知ること重要です。そうすることで、やっとその次につながっていくと思います。

また、話し合うだけでなく、決めたことを行動に移すことが大事です。そのためには、話し合いの最後にその場で決まったことを振り返り、誰が何をするのかまで確認することが効果的です。これは、「世界で一番やさしい会議の教科書」にも記載されていたことで、チームミーティングにも取り入れました。そうすると、発言者が何を話しているか、最後にまとめて何を言おうかなど、ファシリテーターの考える意識が高まります。

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本書の「はじめに」において、話し合いは座学でうまくならない、話し合いができるようになるためには本書だけで学んではいけない、と、実践・経験の重要性を説いています。

読んでわかった気になるだけでなく、実践あるのみと心していきたいと思います。