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フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 中原淳 著

 

1.はじめに

本書において、フィードバックとは「耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」と端的に表現されています。より具体的には、

  1. 情報通知:たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)
  2. 立て直し:部下の自己のパフォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画を立てる支援を行うこと(振り返りとアクションプランづくりの支援)

と、単に結果を通知するだけでなく、そこからの立て直しを含む概念とあります。

本書を読んだきっかけは、1on1、コーチングの勉強をしようと思い、「ヤフーの1on1」を読んだ際、フィードバックに関しては一番の本と紹介されていたことから手に取ったものです。

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2.内容

(1)なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか?

  • 若い部下が育たないのは、あなたのせいではありません。過剰に自分自身を責めないでください。それは、職場環境の変化によって構造として生まれている現象です。
  • 「スパン・オブ・コントロール」の研究によれば、同じ目標を共有する5~7人の部下を直接管理することが、1人の上司の限界とされています。にもかかわらず、組織のフラット化によって新人マネジャーが10人以上の部下をいきなり抱えれば、きちんと面倒を見られない部下が出てきて当たり前です。
  • 中間管理職の仕事の難しさは、「他者を通じて物事を成し遂げなければならない」ということ。この「他者」の代表といえるのが「部下」ですが、一口に部下といっても、一人ひとり、能力も違えばモチベーションも異なります。キャリアに対する意識も、組織や職場に対するコミットメントもまるで違います。このような人たちに自分の望み通りに動いてもらうためには、個々の価値観の違いを理解しながら、それぞれにコミュニケーションの仕方を考えなければならず、そこが非常に難しい。

(2)部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編

  • 部下育成の基礎理論には、以下の2つの考え方があります。
  1. 経験軸:部下を育成するためには、実際のリアルな現場での業務経験が最も重要
  2. ピープル軸:人が業務の中で成長するのは、職場の人たちから、さまざまな関わりを得られたとき
  • 本人の成長にとって最も重要なことは、外部からの情報通知によって、自分の行動に乗り越えるべきギャップが存在することを認識し、自分の行動や結果にしっかりと「向き合うこと」です。
  • 相手に刺さるフィードバックをするためには「できるだけ具体的に相手の問題行動の事実を指摘すること」が必要です。よって、私たちはフィードバックを行うために必要なデータを、事前に部下の行動を観察することで徹底的に収集していくことが求められます。
  • SBI情報(Situation:状況、Behavior:行動、Impact:影響)を準備し、具体的にどの部下のどの行動が問題なのかを指摘することで、部下はどの行動を改善すべきなのかがわかります。より先のプロセスにおいては、そうした問題行動がなぜ起こってしまったのかについての真因探求を行えるのです。
  • フィードバックのプロセスは以下の5点。
  1. 信頼感の確保:フィードバックは、まずは相手の成長を願い、相手の意思をリスペクトする態度から始めましょう。どんなに厳しいことをいうにしても、そうした信頼感がベースになければ、人は行動を変えません
  2. 事実通知:大切なことは、このセッションの「目的」を最初にストレートに述べてしまうこと、「一緒に話し合っていこう」「一緒に改善策を考えよう」と述べることです。回りくどい言い方をしても、どんな婉曲表現を使ったとしても、フィードバックは「痛み」を避けることはできない。この段階では、無理に「褒めること」も無駄に「非難する」必要もありません。なすべきことは、あなたが事実だと思うことを、鏡のように話し、しっかりと相手に突きつけることです。
  3. 問題行動の腹落とし:上司は部下の問題行動を立て直す手伝いをすることが求められるのですが、そのためにはこの段階で「部下が自分の行動が問題であることを理解していなければならない」のです。そのときに重要なのは、今の現状が、目指すべき目標と相当かけ離れていることを、しっかり認識してもらうこと。
  4. 振り返り支援:振り返りのプロセスでは、場合によっては沈黙してしまう部下が出てくるかもしれません。しかし、決して沈黙を恐れないでください。沈黙を恐れるあまりに、本来相手が言葉にしなければならないものをこちらが言葉にしてしまうと、学びや行動変化にはつながらない場合が多い。部下の振り返りの段階では①何が起こったのか?、②それはなぜなのか?、③これからどうするのか?の3点を話してもらうように導いていきます。
  5. 期待通知:しっかりと期待を伝えたうえで、再発予防を伝えることがポイント。①今抱えている問題は、どのような場合に再発してしまうのか?、②再発してしまいそうになったら、自分としてはどうするのか?という対策を話し合っておくと、問題を繰り返す可能性が想定的に低くなります。

(3)フィードバックの技術 実践編

  • いったん始まったら、こちらも逃げられないのがフィードバックです。腹をくくってください。相手から逃げないでください。しっかりと相手に向き合ってください。
  • 感情的にならずに、まずは徹底的に聞いて、受け入れ、そのうえで返すこと。どんな反論や反発でも、聞いていれば「論理のほころび」が出てきます。そのときが刀を返すチャンスです。かくして「対話」が続きます。フィードバックとは、受け入れて攻めること、負けて勝つこと
  • フィードバック前には必ず「脳内予行演習」をすること。部下の問題点をどのようなロジックで伝えるか、事前に作戦を立てることです。集めた情報を簡単にまとめておけば、頭が整理され、体系立てて話すことができます。それに加えて、「部下に言い返されたらどのように答えるか」というようなことも脳内で予行演習をしていくとよいでしょう。
  • 厳しいことを言って、相手がしょんぼりしていると、フォローを入れたくなる気持ちもわかりますが、下手に褒めたりねぎらったりすると、ポジティブな発言の方にスポットが当たってしまい、厳しいことを指摘した効果が薄れてしまいます。特に、なんでも都合の良いように受け取る人にフォローをすると、フィードバックの内容を完全に忘れてしまいかねません。
  • 誰かが言わなければ、部下は成長しませんし、あなたの部署の業績も上がりません。支援できるのは、管理職であるあなたしかいないのです。そして、職場をまとめていくのも、管理職であるあなたしかいません。耳の痛いことを言って嫌われるのは、管理職の役割の1つです。
  • 残念ながら、フィードバックをどんなにうまく行っても、変わらない人というのはいます。私たちは、そうした場合がありうることをまずは認めましょう。そして、そのときには過剰に自分を責めないでください。相手は「大の大人」として、意思を持って「変わらない」ことを選択しているのです。

3.教訓

これまで、ポジティブフィードバックはまだできるが、ネガティブフィードバックを実施することは非常に苦手で、大きな悩みの1つでした。研修等で同じ立場の人と話しても、似たような感覚を持っている人が多かったように思います。

本書においては、「情報通知」だけでなく「立て直し」をセットで論じているので、1on1をするにしても、まさに今、自分が一番が知りたかった内容でした。

相手をしっかり観察して悪いところは具体的に何が悪いのかを指摘し、こちらも逃げずに向き合い、問題を認識してもらわないことには、その先の行動変化が伴いません。

あと、悩んでいるのはあなただけではない、嫌われるのも役割、うまく対応しても変わらない人がいる、そんなに自分を責めないで、ということも文章にしてもらえると、自分に対する悲観的な考えも少しは晴れるような気がします。

また、本書では4章で、タイプ別、シチュエーション別のQ&Aも紹介されています。例えば、①逆ギレタイプ」、②お地蔵さんタイプ、③逆フィードバックタイプ、④大丈夫です!タイプ、⑤傍観者タイプなどがあり、あなたの周りも「いるいる!こういう人!」と必ず思い当たることがあるはずです。

対応を詳細を知りたい方は、是非本書を手に取って、もらえたらと思います。新書なので、1~2時間でいい勉強ができます。