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できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ 伊庭 正康 著

1.はじめに

最近、デカデカと字が並んでいる表紙から、柔らかいイラスト付きに変わりました。2019年初版ですが、今でも大きな書店では平積みされているのをよく見かけます。

また、Udemyなど動画コンテンツでも豊富に講師を務めていて、一度本書を読破したいと以前から考えていました。

「リーダー」と書いてありますが、上司部下の話題が多く、どちらかというと「マネジメント」の領域に近い本(リーダー=管理職)として捉えています。

そして、「これ」しかやらない、とありますが、マネジメントに唯一絶対の解などあるはずがないです。実際、何か1つのテーマを掘り下げるのではなく、「あれもこれも」書かれていて、全部取り入れようと思ったら結構大変です。

それでも、1つ1つは納得感のある内容が多く、印象に残った内容を以下に引用します。

2.内容

(1)リーダーの悩みは、「頑張るポイント」を変えるだけで解決する

  • 「力の入れどころ」を変える必要がある。「いかに速くやるか」ではなく、「いかに任せていくか」を考えるしか方法はない。
  • 部下のスキル不足が原因で「任せられない」のではなく、自分がやったほうがベターだと思っているので「任せたくない」。部下には、自分の姿を見て同じようにやってくれればいい、と考えたりするわけだが、それはエゴでしかない。
  • 早く行きたければ1人で進め。遠くまで行きたければ皆で進め」。自分以外の「他者の能力」を活かし尽くすことが、組織を成長させるリーダーの務め。
  • 厳しく伝えるのではなく、丁寧に伝える
  1. なぜ、その業務をお願いするのかを伝える
  2. 具体的にどうやればよいのか、手順を伝える
  3. その指示を聞いて、どう思ったかを確認する
  4. 不安な点、不明な点がないかを確認する
  5. その後も定期的に確認の場を設ける
  • 任せる上司は、この瞬間、部下がやっている作業を「具体的に」答えられるが、放任する上司は、「曖昧」にしか答えられない。任せる上司は、部下が感じる”不便・不安・不満”を「事実」でこたえられるが、放任する上司は「憶測」でしか答えられない。
  • 責任感がある上司ほど、マイクロマネジメントに陥りやすいもの。そこで、その責任感を「目先のこと」ではなく、「部下を成長させること」に向けてみると、マイクロマネジメントを手放しやすくなる
  • 相手を自分と一緒だとは思わないこと。育ってきた文化が異なると考え、ルールを教える。それくらい言わなくてもわかるだろう、と思った時点で歯車が狂い始める

(2)できるリーダーの「部下を覚醒させる任せ方」

  • 部下の伸びしろに期待するなら、「できる」けど、やらない。あなたが、過去の「経験」を使ってうまくやっても何の投資にもならない。部下に仕事を任せ、失敗してもいいので、経験をさせることこそが理想のリーダー。期待があれば、必ず課題はある。さっそく、「一皮むける経験を」させてあげる。
  • 部下のフルスイングを期待するなら、むしろ「フェアウェイ」の広さを感じさせなければならない。わからないフリをすることで、部下が安心して自由に発言できる。部下の主体性を引き出すために、あなたの「弱み」をうまく見せよう。
  • やるべきこと(方針)はトップダウンで決め、やり方(方法)はボトムアップで任せる
  • 「さびしい」「不安だ」なんてことを仕事に持ち出すことなく、そんな負の感情は封印しながら闘ってきた、そんな人ほど要注意。任せ上手な上司とは、この「負の感情」に寄り添うことを知っている人
  • 任せられたほうは、「何か起こった時、どうしたらいいのか」という不安を抱えているもの。ゆえに部下は、上司に現状を知っておいてもらいたい。また、やったことに対して、「これで良かったのか」という不安も抱えている。うまくいっている時こそ、「フィードバック」が大事。それが手応えとなり、次も頑張ろう、となる。

(3)「この人と頑張りたい」と思われるリーダーになる

  • 常にリーダーモードを優先する。必要とあれば、自分の企画書作成を横に置く。部下のモチベーションが下がっているなら、リーダーは自分のやりたいことを横に置いても、面談を持つことをしなければならない。
  • 理解できなくてもいい。ただ、受け止めることはできる。その人の価値観は、そうそう変わらない。大事なことはその背景を知ること。会話を重ねながら、ほかの視点もあることを少しずつ伝えていく
  • 結果を厳しく求められる職場だからこそ、結果や努力だけでなく、部下の内面をほめると効果てきめん。
  • リーダーに重要なことは、頑張ることを強いることではない。何をなすべきなのか、どうしてやらねばならないのかを考え、部下に伝えること。そしてやるからには、ムダに頑張るのではなく、スマートにやる。
  • 「仕事自体が面白い」ことを前提にするのは、現実問題として厳しい。「仕事は面白く」するもの。面白くする方法を教えるのが上司の役目
  • 生活を楽しみ、社外活動が充実しているマネジャーは、会社や社会にいい影響を与え、メンバーから信頼されている。ボスが充実している状況を”ボス充”と呼んでいる。少しでも、プライベートの一端を自己開示することもリーダーとして効果的
  • 希望は「ある」ものではなく、「気づく」もの。「未来を語る面談」をルーティンにしよう。

(4)部下が「自分からやりたくなる」ように導く

  • 自分はいったい何が得意か(=Can)、自分は何をやりたいのか(=Will)、何をやっている自分に意味や価値が感じられるのか(=Must)。自分のキャリアの拠り所を探る際、これらの問について内省することが大切。
  • まず「直近」と「将来」のWillを尋ねる。それでも出てこない場合は「価値観」を聞いてみる。Willを聞いたあと、必ずやってほしいのは、背景を”深く”聞くこと。そこに「温かな思い」「ちょっとした悔しかった思い」など色々なWillが隠れている。
  • 自己決定感の有無は、「失敗した時」に違いが出る。なぜうまくいかなかったのか、どうすればうまくいくのか、といったように”改善”に結び付くが、自己決定感がないと、「難しかった」「面白くない」といった負の感情だけが残る
  • 定期的に情報共有の機会を持つことは、ベテランの部下にとってもありがたいことで、自分が何をやっているのかを上司には知っておいてもらいたい。うまくいかなかった時、「知らなかった」と言われることほどキツイものはない

(5)スパッ!と「決められる」リーダーになる

  • トレードオフの決断に直面した時は安易に妥協せず、「第三の案」を出す視点で考えることをルールとする。この判断こそが、職場、事業を強くするチャンス。
  • ダメなリーダーは、いきなり「やり方」から考えて失敗する。まず、解決すべき問題に直面した時、具体的な対策から考えるのではなく、その前に「課題」を特定しなければならない。
  • 判断がつかない時は、フタをするのではなく「行動」を起こすこと。わからないからやらないのではなく、わからない時こそ実験してみよう。
  • 長期的な視座からその失敗を見ると、実は失敗ではなく、成功へのステップに過ぎない。不安な場合は、最悪の事態が起こる確率をシミュレーションしてみる。リスクではなく、取り越し苦労であることがほとんど。

(6)「リーダーの孤独」を感じた時こそ、勝負どころ

  • 「はじめてのおつかい」では、途中で泣き出してしまう子供いる。しかし、おつかいから帰ってきた子どもは、買ってきたものを母親に渡す。「全然平気だった」と言いながら。そして次からは、1人でおつかいに行けるようになる。リーダーも一緒。孤独を感じた時、泣きたくなることもあるが、必ずそれは成長への試練、成長のチャンス
  • 必要以上に悲観的にならないためのコツ
  1. まず、能力不足を悲観しない(リーダーの向き不向きを考えない)
  2. 視点を変える(ほかの視点を持つ、長い目で見る)
  3. 行動を変えてみる(教えを乞う、とにかくやってみる)
  • 苦境からなかなか抜け出せない人というのは、「自己正当化」をしてしまう人。うまくいかなかったとき、リーダーは「それでどうする」を考えるのが仕事
  • はしごを外される、やはりこれは起こること。というのも、状況が刻々と変わるので、仕方ない。その対処も含めて請け負うのがリーダー。不条理な経験があるからこそ、部下の気持ちにも寄り添いながら、厳しい判断もできるようになるし、今の状況を謙虚に受け止め、自分を横に置き、使命を果たすことに没頭できるようになる。
  • リーダーは、全員から好かれる必要はない。何かに挑戦をしようとした時、必ず反対する人がいる。でも、あまり翻弄されないことも大切。「こいつは本気だな」と思ってもらわなければならない。なので、最初にやるべきことは、誰よりも汗を流すこと。いわゆる率先垂範。
  • 飲食店で店員への言葉遣いが横柄な人は、自分の部下にも横柄に接する。まず、誰に対しても「立場」ではなく、相手を「プロ」として敬うことから始めなければならない。

3.教訓

自身も数年前に、本書でいうところの「プレイヤー上がりのリーダー」になりました。そのため、本書の指摘通り「任せる」のは苦手な部類に入ると自認しています。

一方で、プレイングマネジャー的に仕事をしていると、時間が足りないと感じる部分が多いのも事実です。上司として忙しそうに不機嫌に仕事をしていると、メンバーは声をかけにくくなり、チーム全体のパフォーマンスや士気に影響が出ます。そのため、意図して一歩引いて、自分ができることも任せ、時間に余裕を持たないといけないし、逆にそうすることでそれぞれのメンバーの真の成長を支援できます。

文中の「早く行きたければ1人で進め。遠くまで行きたければ皆で進め」という諺は、非常に重みのある言葉に感じました。(岸田首相も所信表明演説で引用しました。アフリカ説は怪しいようです。)

常にうまくいくとは限らないし、反対意見が出ることもあるでしょうけど、それでも課題に向き合い、前に進んでいかなければいけないことを再認識できる良本でした。