管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

課長経験者が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

絶対悲観主義 楠木 建 著

1.はじめに

会社の先輩に、なんだか仕事がうまく運ばない、ということについて相談していたところ、本書を勧めていただきました。

まず、帯を見たときに「心配するな、きっとうまくいかないから」と大きな文字で書かれています。昔読んだ「GRIT」も、最近よく耳にする「レジリエンス」も不要、と書かれています。そして、「はじめに」の中にも以下の文言が登場します。

”緊張と弛緩は背中合わせの関係にあります。長く続く仕事生活、緊張だけでは持ちません。弛緩もまた大切です。弛緩があるからここぞというおtきに集中できる。筋トレとストレッチのような関係です。”

”こと仕事に関していえば、そもそも自分の思い通りになることなんてほとんどありません。この身も蓋もない真実を直視さえしておけば、戦争や病気のような余程のことがない限り、困難も逆境もありません。逆境がなければ挫折もない。成功の呪縛から自由になれば、目の前の仕事に気楽に取り組み、淡々とやり続けることができます。GRIT無用、レジリエンス不要-これが絶対悲観主義の構えです。

どんな本だろうと思い読み始めて、ところどころで出てくるユーモアのある表現に通勤途上の電車の中で声を我慢しながら笑って読み進め、読み終えたときには心が軽くなったような気がしました。

以下では印象的な部分に絞って引用します。

2.内容

(1)絶対悲観主義

  • 仕事は趣味とは異なる。趣味でないものが仕事、仕事でないものが趣味、というのが僕の整理。趣味は徹頭徹尾自分のためにすること。自分以外の他者に何らかの価値を提供できなければ仕事とは言えない
  • 仕事である以上、絶対に自分の思い通りにならないと僕は割り切っている。「世の中は甘くない」「物事は自分の都合のいいようにはならない」、もっと言えば「うまくいくことなんてひとつもない」-これが絶対悲観主義。ただの悲観主義ではなく「絶対」がつくところがポイント
  • 仕事の向かう先にいるお客は自分の思い通りにはならない。野球であれば、どんな好打者でも凡打の方が多い。それでも負け方は確実にうまくなっていく。負け方がきれいな人こそ本当のプロ
  • 能力に自信がある人ほどプライドが高い。そういう人は失敗したときに大いにへこむ。プライドは仕事の邪魔でしかない。傷つくのがイヤで怖いから身動きがとれなくなる。動くときにも何とか失敗を避けようとするので、ヘンに緻密な計画を立てたりする。もちろん計画通りにいくわけないので、ますます疲弊するという悪循環に陥る。

(2)幸福の条件

  • 財前五郎のように「白い巨塔」の頂点に到達するのが幸せだと言う人もいれば、「黒い巨塔」の底辺にいるのが幸せだと言う人もいる。これが幸福の面白いところ。
  • 人は「幸福になる」ということと、「不幸を解消する」ということを混同しがち。不幸になる要因をどんどん潰していけば幸せになれるかというと、そんなことはない。その先にあるのはただの「没不幸」。
  • マクロ他責の鬱憤晴らしは悪循環の起点にして基点。そのときはちょっと気が晴れるかもしれないが、繰り返しているうちにどんどん不幸になっていく。しょせん1回の人生、1人の自分しか生きられない。人生晴れの日ばかりではない。それでも、生活の充実は「今・ここ」にしかない
  • 幸福ほど主観的なものはない。幸福は、外圧的な環境や状況以上に、その人の頭と心が左右するもの。あっさり言えば、ほとんどのことが「気のせい」だということ。「これが幸福だ」と自分で言語化できている状態、これこそが幸福に他ならない。

(3)お金と時間

  • 要するに、時間は平等な資源だということ。1日の時間は誰しも24時間。動かしようがない。お金ととがって時間には貯蔵性がない。買うこともできない。生きているだけで、必ず1日24時間が公平に支給される。時間と言う資源の使い方が誰にとっても関心事になるゆえん。
  • しばしば約束の時間や締め切りを破る人がいるが、「私は嘘つきです」「私は泥棒です」と公言しているに等しい。受ける以上は締め切りを守る。締め切りが守れないような仕事は受けてはいけない。断るのも能力のうち。これもまた重要なトレードオフ

(4)自己認識

  • 全員から受け入れられるということはあり得ない。ネット上で罵倒されることもしばしば。そのうち、罵倒されるのが面白くなってきた。被虐趣味ではない。「あ、こういう人からちゃんと嫌われている」という確認ができる。これが仕事にとても役に立つ。
  • 服に興味関心がある人にとっては、服装を選ぶプロセス自体に価値があるわけで、それを丸ごと人に任せてしまうのはそもそも関心がないということ。自己認識を診断ツールに頼るのは、ありていに言って、自分に関心がない。もっと自分と向き合い、自分を大切にしたほうがいいと思う。
  • 自分の経験と自分の頭で、自己認識を深めていく。日々の経験のすべてが自己認識の材料を提供している。近道はないが、回り道もない。お客とのラリーの中で自己認識を深めていくプロセスこそが重要。そこに仕事生活の核心がある

(5)チーム力

  • チームの定義は「お互いの相互依存関係を理解し合っている人間の集団」。この定義からして、チームには規模の上限がある。お互いの顔が見えないのはもちろん、そこにある程度相互依存関係を認識できないから。
  • 目的が達成できた時点で、ミッション・コンプリート。それぞれが自由意思で次に向かっていく。それぞれの中に、「あのときはよくやったな」とか、「あいつは頼りになったな」という記憶は残る。でも、引きずらない。記憶が残ればそれで充分。スカッとした「終わり」があるというのがいいチームというのが僕の考え。
  • 会社全体の組織を云々する前に、自分たちのチームを良くするのが先決。組織全体のあり方はすぐにはどうにもならない。それでも仕事の現場で動く自分のチームについては、今すぐに変えられることが多々あるはず。
  • 現状に問題を感じ、変革を起こしたければ、問題を組織の構造や制度にすり替えないことが大切。新しい制度設計を待たず、まず自ら動く。とりあえずは自分の影響の及ぶチームに新しい動きを起こし、明らかな成功例をつくる。組織の他の人々に成果が見えれば、賛同する人が出てくる。その他大勢もそのうちついてくる。制度化やシステム化を考えるのはその後で十分。構造変革を待たずに動き出すのが本当の構造変革者

(6)友達

  • 友達というのは偶然性、反利害性、超経済性という条件を備えた人間関係である。つまりは「縁」。偶然とか無意識というものが重なって、ひょんなことから縁が生まれる。
  • たまに会っても話をしているだけで面白い。次に会うのが楽しみになる。こういう人が本当の友達だと思う。ダークサイドも含めて自分をさらけ出せる人間関係というのは、実に気持ちがイイということに気づいた。

(7)「なり」と「ふり」

  • 自分のスキなことをやっていて、人がどう思うかは全然気にしていない。それぞれの原理原則がはっきりしている。一緒にいると、この人はこういう人なんだよなということがすごくよくわかる。これが個人的に知る上品な人の共通点。
  • 品が良いということは、お釈迦様のように世俗的な欲望から解脱してしまうことではない。普通に欲はある。ただそれをなりふり構わず取りに行かない。欲望が「ない」のではなく、あくまでも欲望に対する速度が「遅い」ということ。
  • 現実には「総取り」はない。捨てることについてはきっぱりとあきらめて、執着しないのが上品な人。上品さや、欲がないということではなく、むしろすごく欲がはっきりしているとも言える。だからこそ、それ以外には無頓着になれる。潔さのメカニズムはそういうことだと思う。

(8)失敗

  • 人間は失敗の直後に正しい対応を取ることはできない。大きなショックやダメージを受けたときには、風船に穴があいたような状態になってしまう。本来回復に向けて動いていくためのエネルギーが、その穴からシューッと漏れていく。そういう状態のときにじたばたしても、正しい判断や行動ができない。回復どころかさらに間違った行動に出る。ダメージがさらに大きくなるという悪循環に持ち入り、自滅してしまう。
  • 失敗をすると正論を振りかざして責め立ててくる人が必ず現れるもの。そんなものを気にする必要はない。たとえその人が言う正論のとりに行動したとしても、失敗を避けられたかどうかはわからない。正論は単なる建前論で、何か責めてくる側が主張を正当化するための詭弁であることは多いもの。

(9)痺れる名言

  • 仕事になると、「命を懸けてやっている」とか「死ぬ気でやれ」とか言う人がいるが、本当に死んだ人はあまりいない。「仕事は仕事」と思っていたほうがかえって気持ちよく集中できる。これは大変だという事態に直面しても、「いや、そんなに大層なことではない」と思えば、また切り抜けるアイデアも出てくるというもの。
  • 周りの人を観て、俺も立ち上がろうかなと思いがちだが、機が熟していなければ、もう少し座っていようーこの構えが結局は仕事の質を高めることにつながると考えている。

(10)初老の老後

  • 自分を含めていろいろな人を見てきて思うに、「出会い頭」や「ひょんな縁」「成り行き」の積み重ねでこうなっているわけで、なるようにしかならない。結局は自分の身の丈というか、自分の実力の範囲でしか仕事はできない。それでも、なるようにはなる。禅問答めいているが、結論は「なるようにしかならないが、なるようにはなる」
  • 物理的な死の前に、才能や能力の枯渇が訪れるのが普通。世の中から相手にされなくなるときが、いつか必ずやってくる。これから先の仕事生活、絶対悲観主義の構えがますます大切になってくると実感している。

3.教訓

自身の勤める企業にはキャリアコンサルタント制度があり、いま心に抱えているモヤモヤについて、先日相談してきました。

自分からは「本来、これくらいやるんだろう、という理想がある。しかし、周囲に比べて自身の今の知識や経験では追いつかないのが現実。」という話をしてきました。そうすると、「まずは自分としての理想を描けている時点で素晴らしいこと。自分で動いてみたからこそ、理想と現実の違いが見えてきたわけで、進んでいる証拠。」というお話をいただきました。

また、上席にもなかなか仕事で貢献できていないことを正直に伝えました。すると「昔から進展してこなかった領域で、簡単なことをやっているわけではない。少しでも動き始めているし、もし理想通り進められなかったとしても首を取られるわけではない」ということを言われました。

それらの話があり、そして本書も読み終えて、「今までちょっと自分が構えすぎていたのかも」、と思うようになりました。

”「うまくいくことなんてひとつもない」-これが絶対悲観主義。ただの悲観主義ではなく「絶対」がつくところがポイント。この言葉を噛みしめていきたいと思います。

本書のはじめにの一番最後に書かれていた、”筋トレに明け暮れがちな読者にとって、本書が思考のストレッチとなれば幸いです。”という部分が少し理解できたような気がする良書でした。