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幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない ラス・ハリス著

1.はじめに

知人からの紹介を受け、読み進めました。

原題は、”The Happiness Trap”です。本文中にも「幸福の罠」と何度か出てきます。

しかしながら本書でいう幸福は、一般的に想像する幸福とは異なり、心理的成功、内面的な成功を指すものと捉えています。実際、日本語の副題としては「マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門」とあり、もともとはメンタル不調者へのセラピーがベースになった考え方で、本書の指す「幸福」の意味は、「豊かな、満ち足りた、意味ある人生」です。

そして、幸福以上に登場する言葉は「思考」です。具体的なマインドフルネスに関するエクササイズ以外の、理論や考え方については、「思考は現実化する」を彷彿とさせるな、と感じながら読みました。

上述の通り、少しタイトルと内容は合致していないように感じますし、直訳っぽさがところどころにあり読みにくい箇所もありましたが、全体として記載されている主旨自体はシンプルであり、よく理解することができました。

2.内容

(1)なぜ幸福の罠を仕掛けてしまったのか

  • 自分の周りの人々が皆、一見幸福そうに見える。ほとんどの人は、内面の思考や感情の葛藤を正直に表に出すことはない。彼らは「毅然とした表情」や「くじけない態度」を保とうとする。心で泣いて、表では明るい表情の化粧でおどける道化師と同じ。
  • 多くの人が悲嘆を受け入れることを拒否する。悲嘆を感じるよりも何かの行動をしてしまう。だがいくら悲嘆を追いやっても、それは心の奥深くに留まり、再び戻ってくる。ちょうどボールを水中に沈めているようなもの。押し沈めてる限り水面に現れないが、手が疲れてボールを話すとすぐに浮かび上がってくる。自分の感情に向き合い、それを悲嘆の自然なプロセスの一部であると認めることが、悲劇的な出来事を折り合いをつける唯一の方法。
  • 経験回避とは、望まない思考や感情、記憶を(たとえそうすることが危険を伴い、無意味で代償が大きい時でも)避けたり、追い払おうとすることを言う。私たちは幸福になるために嫌な感情を排除しようとする。だが排除すればするほど、感情は再生産される。この事実を感覚的に理解することは大切。

(2)あなたの内面世界を変える

  • ①思考=頭の中の言葉、②イメージ=頭に浮かぶ姿、③感覚=体の中に起こる感じ、この区別をおぼえておくことはとても大切。
  • 人間は思考に大きく依存している。思考は私たちの人生について、またそれをどう生きるかについて教えてくれる。私たちがどのような存在であり、そしてどのような存在であるべきか、いかに行動し、何を避けるべきかも教えてくれる。だが、思考はあくまで言葉でしかない。このため、しばしば「思考」を「物語」と呼ぶ。
  • 自分の思考が事実かどうかを考えるのは時間の無駄。時にはそれが必要な時もあるが、多くの場合は意味がなく、莫大な時間を費やすだけ。それよりも、「この思考は自分の役に立つだろうか?自分の望む人生を実現する行動をとらせてくれるだろうか?」と問いかける方がはるかに有益。思考がプラスに働くなら注目すべきだが、そうでないなら脱フュージョンしよう。
  • フュージョンの目的は、不快な思考を取り除くことではなく、そのあるがままの姿-単なる言葉の羅列であることに気づき、それと格闘するのを止めること。思考は時にすぐに収まり、時にしつこくとどまる。あなたが最初から思考を追い払えると思っているなら、失望とイライラを引き寄せているようなもの。
  • 嫌な思考や感情を変えたり避けたり、追い払おうとせずに、それを受け入れることを目指す。アクセプタンスとは、不快な思考や感情を好きになることではない。ただそれらと格闘するのをやめるだけ。変化や逃避、除去に無駄なエネルギーを使うのをやめれば、もっと有効なことに使用できる。
  • アクセプタンスとは、しっかりした足場を見つけるようなもの。自分の足がどこにあり、足下がどんな状態かを判断すること。その場所が好きかどうか、そこに止まっていたいかどうかは関係ない。一度確かな足場を見つけたら、安全に次の一歩を踏み出せる。自分の置かれた現実を受容すればするほど、それを変える有効な行動を起こせる
  • ラジオの音は聞こえていてもまったく注意を向けていない状態。脱フュージョンの目的は、思考においてこれと同じ状態を作ること。思考が言葉の連なりであることを知ってしまえば、それを背景のノイズとして扱うことができる。
  • ある感覚や衝動が不快だからといって、それが悪いものだということにはならない。感情自体に悪いものはない。ほとんどの場合、不快な感情が起こった理由は大して問題ではない。問題なのは、それに対するあなたの反応。感情はあくまで感情にすぎない。いちいち分析することなしに受容できれば、多くの時間と労力が節約できる。
  • 「拡張」は、基本的には感情のための居場所を作ってやること。不快な気持ちに十分なスペースを与えてやれば、それらはそれ以上私たちを張り詰めさせたり、重圧をかけたりはしない。
  • 思考の存在は認め、しかし注意は向けない。家の前を通り過ぎる車のように扱う。車が通ることは知っているが、通りかかる度に窓の外に視線を向ける必要はない。思考があなたを捉えたら、気を取られたことを自覚し、それまでしていたことに注意を戻せばよい。
  • 拡張の基本ステップ
  1. 自分の気持ちを観察する
  2. 息を吹き込む
  3. 居場所を作ってやる
  4. 存在を許してやる
  • 忘れてはいけないのは、感覚を排除したり変えようとしたりしないこと。それが自身で変わるのであれば問題ない。変わらなければそれもよし。変えたり追い払ったりするのは目的ではない。目的はそれらの居場所を作ってやること。好むと好まざるとにかかわらず、そのままにしておいてやること。
  • 思考する自己はタイムマシンのようなもの。常に私たちを過去や未来に連れ出す。私たちは心配することや将来の計画、未来の夢想、過去の出来事を蒸し返すことに莫大な時間を使う
  • 「接続」とは、あなたの「今・ここ」体験にフルに集中すること、この瞬間に起こっていることと完全につながること。接続は観察する自己を通して起こる。それは試行する自己の影響を受けたり気をそらされたりすることなしに、私たちを「今・ここ」に完全に集中させる。観察する自己はもともと判断しない
  • 退屈やフラストレーションを感じたら、それらに居場所を作ってやり、作業に注意を戻そう。思考がわいてきてもそのままにし、やっていることに再び意識を向ける。意識がさまよいだしたら(必ず何回もさまよう)心に感謝を捧げ、注意を妨げたものにちょっとの間注目し、自分がしていることに意識を戻す。
  • いつも自尊心を保つ努力を続けていると、自分の価値から遠ざけられてしまう。高い自尊心はほんのちょっとの間、幸福な気分を味わわせてくれるかもしれないが、それを保とうとする努力はあなたを疲弊させる。心の進化の仕方のせいで、「私は駄目だ」という物語は繰り返し起こる。

(3)生きるに値する人生を創造する

  • 価値を発見するためのシンプルなエクササイズがある。自分が80歳になったつもりで、人生を今日一日の出来事のように振り返ってみよう
  1. 私は・・を恐れることにあまりに多くの時間を費やしすぎた
  2. 私は・・のようなことにはほとんど時間を使わずにきた
  3. もし時を戻せるなら、今までやらなかったことで、何をするだろうか
  • 「これが私の価値かどうかわからない」という悪魔は、自分の答えを疑わせることによって、自身を弱めようとする。これに対処する方法は、自分に以下の質問をすること。
  1. もし奇跡が起こって、誰からでも全面的な承認を得られるとしたら、自分の人生で何をし、どんな人間になろうとするだろうか?
  2. 他の人の価値判断や意見から自由だとしたら、今とどのように違うことをするだろうか?
  3. 自分の葬式に集まった最も大切な人々の会話に耳を傾けられるとしたら、どんな言葉を聞きたいだろうか?
  4. 余命があと1年だとして、どのような人間としてふるまい、何を成し遂げたいだろうか?
  5. あと数分しか生きられないとしたら、携帯から誰に最後の電話をし、何を告げるだろうか?あなたにとって一番大切なものとは何だろうか?
  • あなたよりも死者のほうがうまくできるような目標設定をしないようにしよう。何かを食べるのをやめる、あるいは落ち込むことをやめる、何かをやめること、やらないことは死者のための目標だ。これらを生きている人間のための目標(生きている人間のほうがうまくできること)に変えるために、「もし私がこの行動・感情・思考を完全にやめたら、私はそれに代えて何をするだろうか?どんなふうに自分の行動を変えるだろうか?と問いかけよう。
  • いい気分に必要以上に囚われてはいけない。それをおいかけることを人生の目的としてはいけない。いい気分はあなたを訪れ、そして去っていく。他の感情と同じ。それがやってきたら楽しみ感謝しよう。しかし、それにこだわらないこと。その意志に任せ、来て去っていくことを許そう。
  • 何かに挑戦しなければならなくなった時、心はそれをやらない理由をいくらでも思いつく。「疲れている」「難しすぎる」「失敗するに決まっている」「値段が高すぎる」「時間がかかりすぎる」「ひどく落ち込んでいて無理だ」等。しかし心配はいらない。それらをありのままに見て、それが単なる言い訳であることを理解すれば問題ない。

3.教訓

考えても仕方のないことを考え続けたり、切り替えよう切り替えようと思うと逆に頭によぎったり、誰しもが経験したことがあると思われる内容が、言語化されています。

そこで変に考え方を変えようとするのでなく、「そういうもの」と割り切って受け入れるということが大事だと思います。

また、引用としては最後に記載した「何かに挑戦しなければならなくなった時、心はそれをやらない理由をいくらでも思いつく」には苦笑しかありませんでした。個人的には産業カウンセラー向けの学習に関心がありますが、「お金も時間もかかるしな」とまさに考えているところです。まずは体験講座に通うところから、モードを変えていきたいと思います。

なお、冒頭にも記載したように、マインドフルネスの仕方についても多く触れられています。今回は割愛しており、本書を手にとって全体を読んでいただければ幸いです。