1.はじめに
著者は、マッキンゼーでコンサルタントの採用業務を長年務めた伊賀泰代さんです。
表題こそ「採用基準」となっていますが、マッキンゼーや外資系企業にどうしたら入社できるかといった採用に関する内容ではなく、中身は「リーダーシップ」のオンパレードです。
そして、リーダーシップとは、役職者にだけ求められるものではなく、すべての人に求められるもの、という一貫したメッセージが記載されています。
すなわち、採用に携わる人が基準について学ぶための本ではなく、これからリーダーシップを発揮したいと考えているすべての人のための本であり、以下で引用しながら内容を紹介していきます。
2.内容
(1)誤解される採用基準
- 面接担当者との会話の中で、相手の表情の変化さえ読もうとせず、ひたすらに自分が考える正しい答えを朗々と披露する人は、自分が話していることを、今、相手がどう感じているのか、退屈だと思われていないか、的外れなことになってはいないか、理解されているのかいないのか、そういったことに鈍感では、地頭がよくても仕事はできない。
- 思考力の高い人とは、考えることが好きで(=思考意欲が強く)、かつ、粘り強く考え続ける思考体力があるため、結果として「いくらでも考え続けることができる人」のことを言う。
- 問題を解決するためには、前半プロセスとしての現状分析に加えて、「では、どうすればよいのか」という、処方箋を書く後半部分が必要。何が悪いのか、ということだけわかっていても解決策にはならない。現状分析能力があっても処方箋を書く能力がないと、現状というコインを裏返しただけの解決策しかでてこない。
(2)採用したいのは将来のリーダー
- どんな分野にせよ、既存のやり方を変えるには、強力なリーダーシップが必要とされる。現実に問題を解決するのは、問題解決スキルではなくリーダーシップ。
- どんな場合でも、他者を巻き込んで現状を変えていこうと思えば、必ずリーダーシップが必要になる。自分以外の人の言動は、リーダーシップなくしては変えられない。
- リーダーシップのある人は、「成果を出すこと」を「自説が採用されること」よりも優先する。だから全員にリーダーシップがあれば、船は山に登らず、海に向かうはず。ことわざの船頭は、リーダーでもなんでもなく、単なる頑固でわがままな人。本来のリーダーとは、それとは180度異なり「チームの使命を達成するために、必要なことをやる人」。
- リーダー体験の乏しい人はメンバーとしても未熟かつ非生産的で、ハイパフォーマンスチームをつくるための障害になる。全体の方向性に影響を与えない細かいことにこだわったり、現実的でない理想論を振り回す。面倒なことが起こると突然に無関心を装い、いつのまにか自分の役割を離脱している、こういった行動を取るのは、自分がリーダーとして苦労したことのない人ばかり。組織を動かして成果を出すことがどれほど大変なことか、実体験として理解していない人がいるのは極めて非生産的。
(3)さまざまな概念と混同されるリーダーシップ
- 議論を一定期間内に終わらせ最終案を決定し、そのうえで異なる案を支持したメンバーも含めて全員が一致団結して準備を行うためには、そこにリーダーシップが必要とされる。「楽しければよい」状況で求められるのが、せいぜいまとめ役や調整役にすぎないのに対し、成果を達成するためには必ずリーダーシップが必要となる。
- 他部署の決定に「なぜそういった決断をしたのか」「他の選択肢はあり得ないのか」「他の案の方がよいのではないか」などと議論を持ちかけ、それによって成果を向上させようとするならば、そこには強力なリーダーシップが必要とされる。リーダーシップ無くしてそういった発言をすれば、それは単なる他部署への干渉となる。それでは感情的な対立を引き起こすだけで、成果の向上には全くつながらない。
- 関係者との良好な関係を維持することを優先し、「自分はやりたくないが、誰かにはぜひやってほしい」と考えるのは、リーダーシップの対極にある考え方。成果目標が厳しく問われるのでなければ、誰にもリーダーシップを発揮する合理性はない。わざわざ自分から関係者との関係を悪化させる必要はない。
- マネジャーになる前に「マネジャーとしても十分なリーダーシップをすでに発揮しているから」マネジャーに昇格する。役職の裏付けがなければリーダーシップを発揮できないような人に、役職が与えられることはない。役職という権威の裏付けがないと、人を率いることができないのであれば、リーダーシップがあるとは見なされない。
- リーダーとは「成果目標を達成するために組織を率いる人」。「成果目標は妥協してもいいので、関係者全員に角が立たないようにする」、「利害調整を行って、部署間の交渉をうまくまとめる」のはリーダーシップではない。
- リーダーは細かいことに口を出さず、すべてを自分でやろうとしない方がよい場合も多い。リーダーとして他にやるべきことがあるのに、物事が万事支障なく回るよう、すべてに目配せをして走り回り、率先して現場の仕事を処理するのはリーダーシップではない。
- リーダーシップは全員に求められるもの。それぞれが自分の周りでできる範囲のリーダーシップを取れば、誰か一人が雑事すべてを担当するというような事態には陥らない。「リーダーが1人に決まったのだから、その人がすべてをやるべきだ」という誤った考えが、リーダーを雑用係にしてしまう。
- リーダーに対する建設的でない批判の大半は、「成果にコミットしていない人たち」によってなされる。リーダーが成し遂げたいと考えていること、成し遂げなければならないと考えていることに対して、賛成できない人、自分には関係がないと考える人にとっては、リーダーとは突っ込みどころ満載の強権者。自分勝手な命令者にしか見えない。
- 何より重要なことは、リーダー以外の人も含めて、「リーダーの仕事は、周りの人を楽しくさせることではなく、なんとしても成果を出すこと」と理解すること。日本でリーダーシップを取ろうとする人が、周りの協力が得られず孤立したり、批判にさらされたりしがちなのは、このことを自らのリーダー体験を通して理解している人があまりに少ないから。だから言葉遣いとか、進め方の是非といった表面的な手続きにばかりあれこれと文句がつく。
(4)リーダーがなすべき4つのタスク
①目標を掲げる
- まずリーダーに求められるのは、チームが目指すべき成果目標を定義すること。
- 人がつらい環境の中でも歩き続けられるのは、達成すれば十分に報われる目標が見えているから。その目標、すなわちゴール(到達点)をわかりやすい言葉で定義し、メンバー全員に理解できる形にしたうえで見せる(共有する)のがリーダーの役割。
②先頭を走る
- 何かを問われたときに、周りの様子をうかがうのではなく、すっと自分の手を挙げて、「私がやりましょう」と声を上げるのがリーダー。
- リーダーは、公衆の前に自らをさらし、結果がうまくいかない場合も含めて、そのリスクや責任を引き受ける覚悟があり、結果として恥をかいたり損をする可能性も受け入れる、受容性の高い人。議論をするときに最初に発言する人、大勢が同じ意見を述べているときに異なる意見を発する人も同じ。
③決める
- リーダーとは「決める人」。たとえ十分な情報が揃っていなくても、たとえ十分な検討を行う時間が足りなくても、決めるべきときに決めることができる人。議論を打ち切り、決断すべきタイミングはどの時点なのか、判断できる人。
- 全員がリーダーシップを持つチームは、全員が自分をリーダーポジションに置いて考えるため、一面的で全体の整合性が取れない意見や、理論的にはあり得るけれど現実性のない意見を言う人、間違いではないけれど優先順位の低い部分にこだわる人が存在しない。
④伝える
- リーダーのポジションにある人は、何度も繰り返して粘り強く同じことを語り続ける必要がある。わかってくれているはずの人も、その多くがわかった気になっているだけであったり、わかったような顔をしているだけだったりする。伝わっているかどうかも確認せず、「伝わっているはず」という前提を置くのは、怠慢以外のなにものでもない。
(5)リーダー不足に関する認識不足
- 日本における「優秀な人」の問題は、チームで取り組むことで、個人で取り組むより高い成果を達成したという経験を持たない人が多いこと。日本ではむしろ優秀な人ほど「みんなでやるより一人でやった方が早い」と考えている。
- 変わることができるのは、「問題を解決し、今までとは異なる未来を作り出すのは自分たちだ。それを率いてくれる新しいリーダーがやって来た」と考える組織。経営陣だけでなく、構成員の中にも「自分がこの現状を変えていく」という意識を持つ人が一定数いて初めて、その組織は変わることができる。
- 日本に足りていないのは、一人ですべてを変革できるカリスマリーダーではなく、あらゆる分野で働く、名もない数多くのリーダーだ。変化に必要なのは、一人のカリスマリーダーではなく、リーダーシップを取る人の総量が一定レベルを超えること。
(6)すべての人に求められるリーダーシップ
- リーダーシップキャパシティを増やすために必要なことは、以下の2つを理解すること。
- すべての人が日常的に使えるスキルであること
- 訓練を積めば、誰でも学べるスキルであること
- 場面を目にした時の言動によって、人は2つのタイプに分かれる。最初のタイプは、何らかの問題に気がついたとき、「それを解決するのは、誰に役割(責任)か」と考える。もう一方は、それを解くのが誰の役割であれ、「こうやったら解決できるのでは?」と自分の案を口にする。この後者をリーダーシップがあると言う。
- 後から「あれはいかがなものか」と言うくらいなら、自分からどうすべきか、現場で提案すべき。自分がリーダーシップを発揮することは決してないのに、結果に対して文句を言うのは無責任すぎる。世の中は”誰かが”うまくまとめてくれるのではなく、一人ひとりが力を出し合って、うまく回していくもの。
- リーダーシップのある人は、「この問題を自分が解決できるかもしれない」と思えば、声を上げることに躊躇しない。その役割にない人がリーダーシップを発揮した場合、提案内容さえまともであれば受けれられることが多い。にもかかわらず、誰も声を上げない。
- リーダーになるために、神がかったカリスマ性や生まれながらの卓越した能力、あふれるような人間的魅力が不可欠というわけでもない。リーダーとは何をすべき人なのか、そのためにはどう振舞うべきかを理解し、小さな場面でそれらを体験して成功体験を積み重ねることにより、ごく普通の人がリーダーとして活躍できるようになる。
- リーダーは参謀として地頭のいい人を使うことができるが、「頭のいい人が、リーダーシップのある人を参謀として登用し、成果を出す」というのは、概念上あり得ない。だからこそ問題解決のためには、頭がよいことより強力なリーダーシップを持つことのほうがはるかに重要。
3.教訓
今まで読んできた本の中で、マネジャーとリーダーの違いについて一番理解が進みました。加えて、リーダーとコーディネーターの違いなど、多くを学ぶことができました。
確かに、本書にあるように、どの組織においても、自分からは動かないけど文句だけ言う人や、協力的ではなく影でコソコソ話す人はいます。
振り返ってみれば、プロジェクトリーダーやマネジャーを務める以前の自分もそうだったとわかり、実体験がないと理解ができないという点は共感しつつ、自身の反省点でもあります。発刊された10年前に読んでおけばよかったと、本当に強く感じます。
また、リーダーシップが役職者だけでなくすべての人に求められる、という意味では、現在マネジャー職にある人やマネジャーを目指している人はもちろんのこと、今は目指していない人というにとっても、組織の構成員としての心構えとして必要な考え方が詰まっていて、本書を読むことで少しでも就業意識を高めることができると考えます。
ここでは割愛しましたが、本書第5章ではマッキンゼー流リーダーシップの学び方も記載されていて、より上を目指したい人にとっては非常に価値のある内容だと思います。
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