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駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する 中原 淳 著

 

1.はじめに

中原淳さんの本は、「フィードバック入門」に続いて2冊目です。

世代が近いこともあって、育ってきた時代、社会人になったころの状況、それから今に至る環境変化について、共有・共感できることが多く、非常に勉強になることが多いと感じています。

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自身が読んだのは、増補版ではなく旧版のほうですが、その中から印象に残った箇所を、以下に引用して紹介していきます。

2.内容

(1)マネジャーとは何か?

  • 何よりもまず最初に直面しなければならないことは、最も根源的な「マネジャーがどんな存在なのかを知ること」、そして「マネジャーが実務担当者とは異なることを理解すること」
  • マネジャーを一言でいうと、「Getting things done through others」。すなわち「他者を通じて物事を成し遂げた状態にすること」をいう。つまりこれまで「自分のタスクを追ってきた人」「自分が動いてきた人」が、マネジャー候補になって「自ら動かないこと」を求められている。「エキスパート」としての自分のあり方を一部棄却し、「自分以外の人」に「仕事をさせること」が求められる
  • ここでいう「他者」は「部下」だけでは不完全。部下以外のさまざまな「雑多な存在(上司や他部門、経営者含む)」と付き合い、かつ彼らを動かしていくことが求められる。マネジャーの日常は、「組織の(さまざまな人々の)狭間を動くこと」に費やされる
  • マネジャーになるプロセスとは、「”仕事のスター”から”管理の初心者”に生まれ変わること」。その機能を果たせるようになるためには、やはり「学び」と、そのための「移行期間」がどうしても必要。誰もが最初は初心者。
  • マネジャーには、日々の経験(出来事)から学び、自らを振り返ることを通して内省すること(リフレクション)、それによって自分なりのノウハウややり方を蓄え、次のアクションを作っていくことが求められる。

(2)プレイヤーからの移行期を襲う5つの環境変化

  • キャリアの転換期に対処するためには、自己(Self)の属性や、他者から受けられる支援(Support)の中身を知っておくことに加え、自分が置かれている状況(Situation)をしっかりと把握し、戦略(Strategy)を立てることが大切。この枠組みを4Sシステムと呼ぶ。
  • 移行プロセスは、①突然化、②二重化、③多様化、④煩雑化、⑤若年化という5つの環境変化にさらされ、実務担当者からマネジャーの移行が困難になっている。
  • マネジャーが「プレイヤーとしてかける時間と「マネジャーとして働く時間」のバランス、つまり「プレマネバランス」をうまくとりながら仕事を進めるのは、そう簡単なことではない。少なくともプレイングに過剰に時間を当てているマネジャーは、一般的なマネジャーよりも職場業績が低い
  • 「マネジャーとして働き続ける」ためには、準備や学びや覚悟が今まで以上に必要。マネジメントを始める前には、あらかじめ、これから起こるであろうことを知り、またマネジャーになった後には、自らの挑戦課題と向き合い、アクションを取っていく必要がある。

(3)マネジャーになった日

  • 新任マネジャーが実務担当者からの移行において乗り越えなければならない課題は、①部下育成、②目標咀嚼、③政治交渉、④多様な人材活用、⑤意思決定、⑥マインド維持、⑦プレマネバランス、の7つ。
  • マネジャーになることは、「納得のいくように仕事」はできるが、それは「厳しい責任」と引き替え。納得のいくように仕事の割振りを行い、目標管理を行える。しかし、その反面で成果を出さなくてはいけない。
  • 「プレイヤー村」から「マネジャー村」に入ってきたマネジャーは、最初は右も左もわからずに揺れる感情とうまく付き合いつつ、少しずつ能動的に振舞い、自分の職場に働きかけることを通して、不透明感や不確実性を自ら払拭していく。時にはうまくいかないことや寂しさを感じることもあるが、その先にはポジティブな世界が広がっている。
  • 部下育成は、「ちょっと危なっかしい部下にあえて難しめの仕事を振り、マネジャーとして進捗を管理すること」が大切。
  • マネジャーは、まず現場を観察しなくてはならない。職場には、どんな人間関係が存在しており、誰を動かせばだれが動くのか、に関する情報を、いわばフィールドワーカーのゆに集め、それらの情報から作戦を練る。
  • 英語の”manage”は、もともと「やりくりする」という意味。マネジャーが為しうることは、物事がひとつでも前に進むための「やりくり」をすること。

(4)成果を挙げるため、何を為すべきか

マネジャーへの「生まれ変わり」は、「あなただけの課題」ではなく、「みんなの課題」。マネジャーのラーニング・スパイラルの途上にいるのは「あなた」だけではない。みんながこのスパイラルの旅人

①「部下育成」を克服する
  • 企業は学校とは違う。企業の場合、マネジャーが持っている時間や精神的余裕をすべての部下に均等に配分することはできない。育成といえども、中長期の視点を入れつつ、優先順位を決めていくこと、リソースが増えていき状況が許すようになれば、範囲を拡大していくことが大切。
  • 部下の伸びしろや成長意欲は必ずしも均一ではなく、十把一絡げにくくることはできない。育成に当たっては、まず自分の部下について整理し、現段階ではだれに対してどのように育成資源を透過するのか、中長期的には、その配分をいかに変えて、職場の能力を高めていくのかを考えていく必要がある。
  • 部下が業務内容や目指す目標についてしっかりと納得をしていなければ、その後にどんな背伸びや挑戦を含む仕事を当てても、部下は納得しないし、振返りを促されても奏功しない。
  • 部下育成は、「快適空間」でもなく「混乱空間」でもない、ほどよい挑戦が求められる「挑戦空間」をつくること。その空間では、①業務内容や目標について部下の腹に落とすこと(≒目標咀嚼)、②挑戦を含む業務経験を与えること(ストレッチ)、仕事の進捗を見て、部下の振返りを促すこと(内省)が大切。
  • 初任者にしてみれば、質問できる相手は多いに越したことはないし、指導員(OJT)以外の人との接点があれば、いろいろな仕事のやり方を見る機会が増える。
②「目標咀嚼」を克服する
  • 「目標咀嚼」に求められることは、船の行く先を決め、乗船させ、それぞれに役割を与えて、大海に漕ぎ出していくこと。つまり、マネジャーは、誰もが理解できる言葉で目標を示し、部下に納得してもらい、彼らのモチベーションを高めたうえで、部下の行動を引き出さなくてはならない
  • 意識したいことは、職場メンバーに同じ船に乗ってもらうための「ポジティブ・ストーリー」をつくること。
  1. 私たちは今、どのような状態にあるのか?環境はどのような状況なのか?
  2. 短期的/中期的/長期的には、何を達成するのか?
  3. 最後にどのようなポジティブな世界が広がっているのか?
  • ビジネスにおいて「伝えること」とは「マネジャーが言葉を口にすること」ではなく、マネジャーが口にしたことがメンバーに理解され、腹に落ち、さらには実行されることを意味する。この長いプロセスを乗り越えるためには、「繰返し」が必要になることは言うまでもない。
③「政治交渉」を克服する
  • 最も大切なことは「相手を知ることを通して、関係をつくること」。上司を知り関係ができ始めたら、次に大切になるのは「段取りを踏んだ客観的なロジックをつくること」。上司を動かすためには「ロジック」が必要。
  • 上司同様、他部門も「情」だけでは動かない。「数字=他部門にとってのメリットを冷静に提示すること」と「錦の御旗=会社全体のことを考え、一汗かかないかという思い」を使って、動かしていくことが求められる。
  • 関係を深めなければならなくなってから事を起こしても、遅いことが多い。「いざという時、難しい相談がしやすくなるよう」、日常的な関係構築を行っていく必要がある。
④「多様な人材活用」を克服する
  • 相手に迎合してしまうと「年長者の言いたい放題」になってしまい、その悪影響は職場に蔓延する。年長者への対応を誤り、「のさばらせておく」と、職場の雰囲気や他の職場のメンバーにも悪影響をもたらす。
  • 年長者への対応は、1つ間違ってしまうと、職場には「経験も知識もない人間はモノを言ってはいけない雰囲気」などが生まれてしまうので、注意が必要。数の多いグループを味方につけて牽制し、「ややこしい人たち」を圧倒してしまうことが必要になってくる局面もある。
  • パート・派遣社員の人たちは、「仕事の全体像」が理解できないままに、部分的・特定的なタスクのみを切り出されて仕事をしている。それらの方が、職場の仕事全体や事業全体にとって、どのような貢献をなしているか、意味づけることが必要。
  • 中途採用社員の行動レベル「何ができて、なにができないのか」、認知レベル「何を知っていて、何を知らないのか」、知識レベル「自組織に関して何を誤解していて、何を理解しているのか」という境界を、対話を通して探っていかないといけない。
  • 必要に応じて、中途採用社員に、「Unlearn(学習棄却)」を促すこともポイント。前職での経験や慣習にしがみついている場合は、そのままではやっていけないことを伝え、前職で身についけた行動を学習棄却し、必要な行動を再学習させることが重要
⑤「意思決定」を克服する
  • 意思決定を行ううえで最も大切なことは「現場から学ぶこと」。どんなに意思決定力のあるマネジャーでも、現場から正確な情報が上がってこなければ、適切な意思決定を行うことはできない。
  • 部下から学び、部下から現場の情報を吸い上げる際には、「部下は、自分に不都合を生じさせる内容にはバイアスをかけて上にあげてくる可能性がゼロではない」ことに注意。部下からの情報は謙虚に聞くことは大切だが、それをそのまま鵜呑みにしてはいけないということも、また真実
  • 場合によっては、49%の人が反対で51%が賛成、という場合もある。しかし、マネジャーの意思決定は、そもそも「そのようなもの」。すべての人の賛同が得られないからといって、不安に感じる必要はない。自信を持って「決めきること」が大切で、決めきった後は「やりきること」「やりきらせること」が大切
⑥「マインド維持」を克服する
  • 実際、個人というのは、それほど強いものでもなければ、それほど頑健なものでもない。それは時に翻弄されたり、戸惑ったり、揺れたりする存在。マネジャーとて、所詮「人」。そういうときのためにも、自己のために、「かかわり」や「つながり」を維持していくことは、自己を平静に保つことにつながる。
  • 誰かが自身に何か言ってくれるのは、自信もその人に対して何らかの形で役に立てているから。ネットワークとは「ある」ものではなく、自ら「つくりだすもの」だり、そして「メンテナンスするもの」。マネジャーにとって、「マインド維持」を克服するため、「孤独にならない日々の努力」をすることは大切。
⑦「プレマネバランス」を克服する
  • 自分のサポートなしでも、他人に任せることができるものがあることがわかる。実践したいことは「自分がやらないことを決める」こと。

(5)座談会:生の声で語られる「マネジャーの現実」

  • 「好かれたい」という気持ちを捨てなきゃいけない。人は誰だって「いい人ぶりたい」が、言わなくてはならないときは言わなくてはならない。
  • 「自分がわかっていることは、相手もわかっている」と思い込んでいたが、かみ砕いて伝えないと、実務担当者の心には響かない。
  • 実務情報については、現場に近い部下のほうが意外とよく知っていて、部下なりに地に足の着いた判断をしていることもある。
  • 今は情報化が進んでいて、極端な話、われわれが内外時間をかけて培ってきた業務ノウハウを新人がインターネットで調べて入手することもできる。そうすると、言い方はともかく、上司としての優位性を示しづらい。
  • プレイヤーとしても結果を出しているマネジャーなら、それほど細かく部下のケアをしていなくても、部下はついてきてくれる。
  • 自分にできないことを誰かにやってもらうときは、ゴールを明確に見せ、その人のやる気を高めて、その人にしかできないことをやってもらわなくちゃいけない。それこそがマネジメント。自分が代わりにできる程度なら、マネジメント能力はそんなに問われない。

3.教訓

自身がマネジャー職についてから、もう数年が経ちました。

その間、コロナ禍が発生したり、DX化が進んだりして、自分が担当者時代だったころとは、ずいぶん環境が変わったので、過去の経験だけでは語ることはできなくなりつつあります。

加えて、本当に飲みにいく機会はほぼゼロになり、業務から少し離れて、お互いのこと(上下だけでなく、メンバー同士も)を知る機会も減りました。

そんな中でも、マネジャーは判断して、責任を持つことが求められます。

本書を読み、自分も成り立てだった当時、入ってくる情報量・質の違い、求められる範囲の広さ、自分のこと以外に使う時間の多さなど、何を言われているのかもわからずに右往左往していたことを思い出します。

また、今でも思い悩んでいること、今後の職場に移ったときにも活かせると感じたことも多く、これからマネジャーを目指す人だけでなく、一定期間マネジャーを務めたきた人にとっても有用であると思います。

最後の、各業界のマネジャーの座談会の中での一言一言も、みんな同じようなことで悩み、同じようなことを考えているんだなということもわかり、ぜひ手に取った読んでもらいたいと考える一冊です。