1.はじめに
エドガー・H・シャインさんの本は、「問いかける技術」に続いて2冊目です。
前書は表題の通り、「問いかける」ことに完全にフォーカスした内容でしたが、本書は「問いかけ」も含み、さらに支援する側とされる側の関係に踏み込んだ、広範囲の内容になっています。
以下では、印象的だった部分を引用していきます。
2.内容
(1)人を助けるとはどういうことか
- とにかく支援には、、どうにかして物事をより楽なものにしてあげようとか、極端な場合は、すべてをやり遂げてあげようといった意味合いが込められている。支援とは、協力や協調、それ以外にもあらゆる利他的な行動となるプロセス。
(2)経済と演劇 人間関係における究極のルール
- われわれは人生の早い時期に、2つの文化的な原則を学ぶ。最初の、そして最も重要な原則は、2つのグループの間におけるあらゆるコミュニケーションが、相互的なプロセスであるべきだということ。いずれわかるだろうが、人はあらゆる人間関係で返礼を期待している。返礼をしなければ、腹を立てる人が出てくるし、関係の悪化につながるだろう。
- 2番目の基本的で文化的な原則は、文明社会におけるあらゆる関係の大部分が、年少期に演じるすべを身につける、台本通りの役割に基づいているということ。われわれは自分の役割をきちんと演じねばならず、しかもそれは与えられた状況に調和しなければならない。2人の人間が話す場合、どちらかが演技者(話す側)で、どちらかが観客(聞く側)かを決める必要がある。
- どんな相互関係においても、双方がある程度の面目を要求する。そして返礼のルールによれば、要求を出された側はそれを認めるか、相手の面目を立ててやることが必要である。
- 仮にわれわれが話を聞かなかったり、何らかの方法で恥をかかせたりして、相手の要求を受け入れないとしよう。すると相手は面目を失い、われわれは無作法だとか好戦的だとかといった印象を与えるだろう。そうした意味で、要求を受け入れてやらなければ、双方が面目を失うことは自明の理。
- 務めを果たす大人であるわれわれは、日々の生活で数限りない役割や台本を学んでいる。それによって、遭遇したり作り出したりする多様な状況を識別するプロセスが円滑に進むし、普段突きつけられるさまざまな関係にどうにか対応できるだろう。こうした文化的なダイナミクスは支援を行う状況で不可欠なもの。なぜなら、クライアントも支援者も、自分の面目を保ちながら状況に直面するから。
- 互いの関係を常に強化するプロセスは、社会の本質。それどころか、よいマナーやエチケットと呼ばれるものは、日常生活の文化で不可欠。相手の面目をわざとつぶす人間は、その人に恥をかかせることになり、結果として不快だから避けるべき人物とみなされる。極端な場合、常に社会的ルールを破っている人間は「精神障害」があると思われ、拘禁されるケースもある。
- 他人を信頼するとは、われわれがどんな考えや感情、あるいは意図を示そうとも、相手はこちらをけなしたり、顔をつぶしたり、自信を持って行ったことを利用したりしないと思うこと。
- 人は誰でも、距離を置いた事務的な関係でいたいというサインの出し方を学んでいる。そして、もっと親しくなりたいというサインの出し方も知っている。どちらの場合も公正さと公平さとが、意識的であれ無意識的であれ、その人間関係で自分がどう感じるか、その関係をどれくらい深めたいかに影響を与える。
- 要するに、信頼には社会的経済学から由来する2つの要素がある。他人を信じるとは、次の2つを意味する。
- その人間との関係の中で、自分がどんな価値を主張しても、理解され、受け入れてもらえること
- 相手が自分を利用したり、打ち明けた情報を自分の不利になるように用いたりしないと思うこと。
(3)成功する支援関係とは?
- 成長することが自立を意味する文化においては、自分に主導権があると感じたい気持ちが強く、特に男性の間で顕著。自立した人間とは、支援を求める必要がない人を意味する。たびたび支援を求めなければならないと、屈辱を感じる。
- そもそもどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントは一段低い位置(ワンダウン)にいるため力が弱く、支援者は一段高い位置(ワンアップ)にいるため強力である。支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、当初から存在するこの不均衡を認めず、対処しないせいだ。
- 支援者が陥る罠は、行動を急ぎすぎて解決に至らないことと、仮定上の問題に助言を与えたり指導したりする結果、真の問題が何かを知る機会が失われること。仮定上の問題に取り組んでも、人間を対等なものにする役にはほとんど立たない。
- 支援の大半の状況では、問題がふたたび起きたときにクライアントが解決できるようにしてやることが目的の1つ。クライアントの依存心を徐々に薄れさせて、励ましてやる関係にならなければならない。
- あまりにも早く助言を与えれば、クライアントの立場をさらに下に置くことになる。本当に求められているものが何かを知らないうちにいきなり助言を与えてしまう。
- 実を言えば、影響を受けることを厭わないという気持ち(クライアントが本当に言わんとしていることに耳を傾け、問題への先入観を捨てること)が、人間関係の平衡を保つ最も効果的な方法。
- 支援者は自分の感情の性質を自覚するべきだし、支援者とクライアントの関係の中には成り立たないものもあることを覚悟していなければならない。依存心の強いクライアントに「あなたを助けられる自信はありません。あなたはもっと積極的に、自分で解決策を見つけるべきだと思うからです」と言う。
- 支援者はクライアントが求めていそうなものよりも、さらに多くを与える能力があると自認しているため、支援だと思ったものが有益だとして受け入れられなかったと感じたとき、失望する。
(4)支援の種類
- ひとたび任務を与えてしまうと、クライアントは支援者が見つけ出す答えに頼りきるようになる。クライアントは、どんな情報やサービスが本当に役立つかわからなくなり、無力になりがち。しかもクライアントは、自分が理解し利用できる情報があるにちがいないと思い込む。
- プロセス・コンサルタントの役割の中心にあるのは、クライアントが主体的であり続けるように、つまり診断や改善のイニシアティブを保持し続けるように、クライアントを励まさねばならないという前提。なぜなら、識別された問題を抱えているのはクライアントだけだし、自らの状況の真の複雑さを知っているのも、自分たちの文化で何がうまくいくかを心得ているのも彼らだけだから。
(5)控えめな問いかけ 支援関係を築き維持するための鍵
- 重要なのは、問題を前提とした質問で話を促さないこと。それこそクライアントが否定したがっていることかもしれないから。質問は抽象的な内容を常に避け、抽象概念や一般的な事柄よりは、もっと詳しい例を求めよう。
- 要するに、クライアントには洗いざらい打ち明けてもらわなければならない。さもなければ支援者はどんなことが起きているのか、現実的に意味をつかめない。
- 質問して、原因についての仮説を立てれば、クライアントは支援を求めようとする動機に焦点を当てさせられ、話しているうちに、そんな状況になった理由を発見するだろう。(なぜ、そのようなことをしたのですか?)
- 人間関係や状況を評価するうえで、感覚や感情が関わってくることは避けられない。しかし、支援者は地位を築くことや面目を立てることを常に意図すべき。支援者はクライアントが傷つきやすく、敏感な領域を知るようにしなければならない。そうしたものを避けるか、思いやりのある態度で対処すべき。
(6)「問いかけ」を活用する
- 一段低い位置にクライアントが慢性的にいるなら、支援者はイニシアティブを取って支援を申し出るべきであり、絶えず頼みごとを必要とするせいで、クライアントがあまり自尊心を失うことがないようにしなければならない。
- 過剰な支援の被害を受けたり、支援者に口を出されすぎたり、不適切なときに介入されたりしたら、そうした影響に何らかのサインを送るのはクライアントなのだと覚えておくことが有益。支援者は自分の支援がもう必要なくなるのはいつか、助言してもらう必要がある。クライアントが何も言わなかったり、怒って立ち去るだけだったりしたら、たいしたことは達成できない。
(7)チームワークの本質とは?
- 成果をあげるチームとは、各メンバーが自分の役割を適切に果たすことによって、ほかのメンバーを助けているチームだと定義できる。そうすれば、業績を達成するプレッシャーが大きい時でさえも、相互の信頼関係が確かなため、メンバーは公正さを感じられる。つまり、チームワークの本質とは、すべてのメンバーにおける相互の支援を発達させ、持続させるということ。
- グループの中でより高い地位にある人間が、他人の言葉に積極的に耳を傾けることによって謙虚な姿勢を見せるチームは、ほとんどの場合うまくいく。傾聴は、よい結果を出すには他者が重要だという認識を伝え、皆がグループの中で公正・公平だと感じられるアイデンティティや役割を育む心理的空間を作り出す。
- 互いを受け入れているからといって、互いに好意を持っているとは限らない。成果をあげるチームは、愛の集会である必要はない。とはいえ、メンバーは互いを充分に知っていなければならない。グループの任務を達成する中で自分の役割を果たすことを、ほかのメンバーが信頼できるぐらいには知り合っておくべき。
- 一般的にフィードバックは、求められた
(8)支援するリーダーと組織というクライアント
- 代表と支援関係を築いたなら、連帯して、すぐ下の層にいる者との関わり方を決めなければならない。どんなときであろうと層を飛ばせば、その層にいるメンバーは仲間外れにされた気分になり、現状を理解しようとはせずに、故意にせよ無意識にせよ、支援プロセスを破壊してしまう可能性が非常に高いだろう。
- リーダーシップの重大な側面は、支援を受け入れる能力と、組織のほかの人間に支援を与える能力。なぜなら、組織とはさまざまな文化の集まりであり、行動の変革がなされるべきグループの文化を理解するまで何一つ変わらないということを、常にリーダーは受け入れなければならない。
(9)支援関係における7つの原則とコツ
- 与える側も受け入れる側も用意ができているとき、効果的な支援が生じる。
- 支援関係が公平なものだと見なされたとき、効果的な支援が生まれる。
- 支援者が適切な支援の役割を果たしているとき、支援は効果的に行われる。
- あなたの言動のすべてが、人間関係の将来を決定づける介入である。
- 効果的な支援は純粋な問いかけとともに始まる。
- 問題を抱えている当事者はクライアントである。
- すべての答えを得ることはできない。
- 認識置くべき重要な点は、支援を求める必要性が、われわれのまわりにさまざまな形で常に存在しているということ。そこで、そうした支援の必要性に気づくか気づかないかの選択や、支援を与えるか否かの選択をする必要がある。
- 支援を受ける用意にも問題が含まれている。というのも、支援は求めるか求めないかにかかわらず、提供される場合が多いからだ。もし、私が急に支援を申し出られたら、他人の主導権に対して反応し、一時的に低い位置に置かれたという感情に対処しなければならないだろう。
- 過剰な支援や不適切な支援をしないために、支援者はときどきプロセス・コンサルタントの役割に切り替えて、与えられている支援がまだ適切なものだと確かめる用意をしておかねばならない。クライアントも支援者も、ある時点でふさわしいものが、別の時点で適切だとは限らないことを心得ておくべき。
- 専門的な支援者は熱心すぎる友人に対しては得意、役に立つ時間を過ぎても支援を続けようとする、善意の努力を遮ることが重要だと私は気づいた。役割を変える時期だとクライアントから言われない限り、支援者はそれを知る方法がない。
- 支援しすぎたり、間違ったやり方で助けたりすれば、逆効果となり、迷惑でおせっかいな人とみなされるかもしれない。問題は、あなたが何をしようと、あるいは何をするまいと、いくつもの合図を送っているということ。
- 間違いは頻繁に起こっているが害はない場合、支援者はその都度ミスを指摘するより、そのまま放っておいたほうがいい。間違いを自分で見つけることを覚えれば、クライアントは自信を得る。
- 何が最も効果的かを決められるのは、結局のところ、クライアントだけだということを支援者は覚えておくべき。したがって支援者には、それをクライアントが見つけられるように手を貸すことしかできない。
3.教訓
支援する側もされる側も同じ目線に立って、お互いの準備やタイミングが整っていないと、客観的に見た最善の支援策であったとしても、当事者間ではなかなか合意するのは難しい、ということがよく理解できました。
- 支援者とクライアントに信頼関係がないと本音は話せない。
- 本音を話してもらわないと、何が真の支援につながるのかわからない。
- 支援を得るには「一段下の位置」になる心理的負担があり、素直に「支援して」とは言いづらい。
- 支援策が、クライアントとして指摘を受けたくないことかもしれない。
このあたりがループします。ではどうしたらいいの?ということになりそうですが、この状態を前提として受け入れ、それでもどうすればよいかを考え、前に進んでいくことが必要です。
そして、支援策を採用するかしないかはクライアント次第です。支援者側が押し付けるものではなく、採用してくれなかったからといって相手を責めても仕方がありません。また、クライアントが自立したのであれば、いさぎよく支援者の立場から退くことも必要です。
相手に心から望まれる支援とはどういうものか、ということがよく理解できる良書でした。