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マネジャーの教科書 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 著

1.はじめに

「教科書」という表題になっていますが、一般にイメージする教科書とは違います。

本書は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された論文のうち、マネジメントに関連する10本(+おまけ)をまとめたもので、体系的・網羅的に整理された内容ではありません。

しかしながら、異なる論旨を10回分学べるという点では価値があると思います。

また、それぞれ1冊の本になっているもの(自身が読んで投稿したものもあり、過去記事にリンクで紹介しています)もあって、さらに深読みしたい方は、それらを購入すると理解がより深まると思います。

2.内容

(1)新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか

  • 概してマネジャーの心得は実際の仕事の中で体得していくものであり、教室で学ぶことはできない。すなわち、リーダーシップは実践を通じて獲得するスキルであり、とりわけ新米マネジャーだちは既存の能力を超えた仕事を担い、試行錯誤によって前進することで学ぶしかない
  • 権力者になったなどという幻想をさっさと捨てて、交渉しながら相互依存関係を深めていかなければならないという現実を受け入れない限り、新米マネジャーはリーダーシップなど望むべくもない。真のリーダーシップを身につけるには、自分の部下だけでなく、チームが置かれている環境も含めて管理する必要がある。
  • 権威に頼った方法では、偽りの勝利しか得られない。なぜなら、権威による服従が自発的なやる気に勝ることはないからである。誰でも、やる気が損なわれれば、その持てる力を発揮しようとはしない。部下たちが自発的に考え、行動しない限り、いかに権限移譲しようと、望むような成果は得られないだろう。
  • 新米マネジャーは直属の上司のことを、見方ではなく脅威と見る。そこで、彼ら彼女らはなんでも独力で解決しようとする。本当は助けてほしくても、ミスや失敗への罰を恐れるあまり、むしろ未然に防いでくれるかもしれない救いの手に背を向ける。

(2)メンバーを変えずにチームで変革を進める法

  • リーダーはまず、現状をはっきり理解するために、自分が受け継いだ人材の価値とチーム力学を見極めなくてはならない。次の仕事は、必要に応じてチームを再編するために、メンバー構成、目的意識や方向性、業務手法、行動特性などを新鮮な目で見つめることである。最後に、早期に成果を上げるチャンスを探り当て、それを確実に物にするためのプランを練れば、短期間でチーム構築と成果向上を成し遂げられる。
  • 「なぜそうすべきなのか」という問いだけは鬼門になりがち。チームに、みんなをやる気にさせる明快で説得力あふれるビジョンがないなら、また、適切なインセンティブがないなら、望ましい方向へと力強く前進することはおそらくないだろう。
  • チームの業務運営手法について発想を広げるには、仕事のやり方を縛っている実質的な制約を突き止め、その制約の下でチームが効率と生産性を高めるにはどうしたらよいか、自問自答することだ。
  • チームを新たに統括する立場になったら、早い段階で個別面談を行う。みんなに同じ質問をして、各人の洞察力や見識の違いを探ろう。問題が起きた時の反応は、責任を負う、弁解をする、責任転嫁をする、のいずれだろうかに注目する。

(3)新人マネジャーを育てるコーチング技法

  • 新人マネジャーが権限移譲をためらうのは、その根本に恐怖心があるためだ。まず、自分が築き上げてきた評判を失うことを恐れる。部下たちに目立つ仕事をさせてしまうと、周囲の評価は部下に集まることになる。その場合「自分もきちんと評価されるのだろうか」「上司や部下に自分が生み出した付加価値をわかってもらえるのだろうか」などと懸念する。
  • 次に、コントロールを失うのではないかと恐れる。最後に、部下に負担が過重になることを気遣って、仕事を任せないというケースもあれば、かつての同僚に不満を買うかもしれないと恐れて、仕事を割り当てられないこともある。しかし、本当に不満を買うのは、部下たちが成長するチャンスを奪われていると感じる時である。
  • 決定的なことは、新人マネジャーが上司を「後ろ盾」と見なさなくなること。新人マネジャーが上司をそう見ないということは、彼らが部下からそうみられるようになろうとしないだろう。問題は、上司の地位のせいで、新人マネジャーが委縮しているというだけでなく、彼らが上司に弱みを見せることを恐れていること。
  • 部下は絶えず上司を子細に観察している。そこにプロフェッショナリズムが感じられれば、部下もそのように振る舞うようになる。だからこそ、意識的に行動することの大切さを新人マネジャーに諭す必要がある。周囲に与えている印象について日々意識させる。少しでも後ろ向きなマネジャーを見つけたら、すぐ伝えるべき。
  • 目標を明確に持っているマネジャーは、四六時中、実務に追われるのを嫌う。協調すべきは、一連のプロセスを見ることで、考えるべき点について頭を使い、チームを効果的に推進していると確信できることである。
  • 部下へのフィードバックは、楽しくない内容や一筋縄ではいかない内容も多い。大事なのは「部下が目標を達成できるように何かしたい」という気持ちを、新人マネジャーに育ませること。姿勢を改めさせるよりも行動を変えさせることのほうがはるかにやさしい。「人格を変えろとは言えないが、態度を変えろとは言える」という古いことわざも忘れるなかれ。

(4)あなたは「24時間働く」仕事人間になれるか

  • 仕事にひたすら打ち込み、常に臨戦態勢でいなければならないという「理想的な働き手」の文化を受け入れる人は、そうでない人を理解するのが難しい。その結果、彼ら受容者や24時間働くことを従業員に迫る中心的存在になる。仕事以外にも生活がある人のマネジメントができない。
  • パッシング(ふりをする)という戦略の見えにくいマイナス面は、「理想的な働き手」という文化に公然と異を唱えず、その文化の温存を許していること。ワーカホリックにならなくても成功できるということが実証されているのに、組織は相変わらず今まで通りに仕事を設計・測定する。
  • 仕事以外に大切にしているものを公にし、そのことで不利な扱いを受けると、他者のマネジメントも難しくなる。パッシング戦略を取る人の場合と同じく、理想的な働き手になれという圧力を受け入れるよう部下に促すのは気が進まないし、かといって抵抗した場合の代償は身をもって知っているため、これを勧めるのもためらわれる。
  • 皮肉なことに、仕事以外にも視野を広げると、仕事上の充実感はむしろ大きくなる。こうして再起力の増したマネジャーは、公司のバランスが取れた従業員こそ組織にとっての価値を創出できると気づくこともできる。

(5)「説得」の心理学

  • 人々に影響を及ぼしたいなら、友好的な関係を築くこと。友好関係を築くうえで役に立つ要素がいくつもあるが、とりわけ「共通点をアピールすること」と「相手を称賛すること」の2点が大きな意味を持っている。
  • 自身がその施策のメリットを説くよりも、賛成してくれている社員にみんなの前で意見を述べてもらうことを勧めたい。影響力は上から下よりも横方向に強く働くもの。
  • 人々は、文書で約束したことは守ろうとするもの。私たちには他人の前で首尾一貫した行動、ないしは姿勢を示したいという気持ちがある。内容を公表し、多くの人々の目に触れさせるようにしなければならない。
  • 権威をいたずらに振りかざして相手の同意を取り付けるのは、倫理に反するのみならず、逆に逆効果。しかし、この「権威の原則」は、使い方を誤らなければ、専門性・純粋な義務感・確かな共通点・真の権威・希少価値の高い情報・自発的なコミットメント、これらを土台に得られた結論は、すべての当事者に利益をもたらすだろう。

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(6)心の知能指数「EQ」のトレーニング法

  • 自己認識力が優れている人は率直に失敗の経験を口にするし、笑顔で失敗談を披露することさえ珍しくない。自己認識がもたらす証拠の1つは、自分を笑い飛ばせるユーモアのセンスである。
  • 達成感を動機に仕事をする人は、創造力を必要とするテーマを求める傾向にある。学ぶことが好きで、仕事をうまくやり遂げることに大きな誇りを感じる人である。また、仕事をもっとうまくやり遂げることに限りないエネルギーを注ぐ人である。そのようなエネルギーを持つ人は、現状に甘んじることをよしとしない。最高の仕事をするための方法をとことん追求する。
  • ソーシャルスキルに優れた人は人脈が広い傾向がある。あらゆるタイプの人たちと見解の一致を見出すコツ、つまりラポール(親和関係)を築くコツを知っている。いつも社交的に行動しているという意味ではなく、重要なことは一人では達成できないものだという前提で仕事をしている。このような人は、必要になったときにいつでも使えるネットワークを持っている。

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(7)「自分らしさ」が仇になる時

  • 自己認識が最も試される場面こそが、リーダーシップを巧みに発揮する方法を学べる絶好の機会。自分自身を発展途上とみなし、試行錯誤しながらプロフェッショナルとしてのアイデンティティを進化させれば、自分にしっくり合い、変わり続ける組織のニーズにも適したスタイルを確立することができる。
  • リーダーらしく考えられるようになるには、まず行動すること。すなわち、新しいプロジェクトや活動に飛び込み、まったく異なるタイプの人たちに接し、新しい仕事のやり方を試してみる。
  • 学習はたいていある種の模倣であり、「オリジナル」なものなどないと理解することがどうしても必要になる。リーダーとして成長するうえで重要なのは、オーセンティシティ(自分らしさ)を固有の状態でなく、他者のスタイルや言動から学んだ要素を採り入れ、自分のものにする能力として認識することだ。
  • リーダーとして成長する唯一の方法は、自分は何者かという枠を広げていくことだ。新しいことをすれば不安に駆られるが、じかに体験することで、自分がどうなりたいのかということに気づくことができる。完全に別人のように変わらなくても、こうした成長を遂げることは可能だ。

(8)上司をマネジメントする

  • 多くの人が、部下がどのような情報や援助を必要としているのか、上司は魔法を使ったかのように察知し、それを用意してくれると考えている。もちろん、その通りに部下を気遣う素晴らしい上司もいるが、すべての上司にこれを期待するのは危ういくらい非現実的である。
  • 上司は、無限の時間や百科事典並みの知識、さらには超能力の持ち主ではない。また、悪魔のような敵でもない。上司もプレッシャーや心配事を抱えており、それらは部下が望むところと相容れない場合もあるが、その大半に正当な理由がある。
  • つまるところ、上司の期待を見極めるのは部下の仕事だ。そのような期待は、例えば「上司がどのような問題を、いつ知らせてほしいと考えているか」など広範であり、また「いつまでにプロジェクトを完了すべきか。それまでにどのような情報を必要としているのか」など、非常に具体的でもある。

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(9)人脈の戦略

  • リーダーとマネジャーを分かつのは、自らの目的地を見つけ出し、そこに至るうえで必要な助力を周囲から得られるかどうかである。リーダーは利害関係のある相手に声をかけ、協力者や支持者の輪を広げ、社内の権力地図を把握し、これまで交流のなかったグループの間を取り持つ。
  • 戦略上のネットワークを使いこなせる人は、その影響力を間接的に行使する。要するに、自分の知り合いに動いてもらうのではなく、知り合いに頼み、その知り合いに自分が必要とする行動を取ってもらうのだ。
  • 人脈は使ってこそ意味があり、また使うことでさらに広がっていく。まずはちょっとした頼み事から始めたり、知人と知人を紹介する仲介役になったりするとよい。とにかく何でもやってみることだ。何事もそこから始まり、自分も何かに貢献できるという自信が得られるだろう。

(10)マネジャーの時間管理法

  • マネジャーは部下に対応する時間を最小限にするか、部下にはまったく時間を割かずに、自分の時間の中の、自由裁量の部分を増やす努力をすべきである。そうすれば増えた時間で、上司や組織に要求された業務をうまくさばけるようになる。
  • 部下が主導権を握って仕事をする主体性を育ててやらない限り、部下たちが主体的に行動するように、マネジャーはいつまでも監督しなければならない。ひとたび部下の仕事の主導権が上司の自分に移ってしまえば、その時点でマネジャーは自分の仕事の主導権を失い、自由裁量の時間に別れのキスをすることになる。
  • マネジャーが真っ先に行うべきは、部下に対応する時間をなくして自由裁量の時間を増やすことである。二番目に行うべきは、新たにひねり出した自由裁量の時間の一部を使って、部下の一人ひとりが実際に主導権を持ち、仕事でそれを発揮するように取り計らうことである。そして三番目には、増えた自由裁量時間の残りで、上司と組織に対応する時間で「いつ」「何を」行うかを自分の手でかじ取りするのだ。これらのステップはいずれもマネジャーの手腕を高めるだけに留まらず、マネジャーが自分の業務時間管理に費やす時間の価値を無限に高めてくれる。
  • 部下に問題を戻して自身で解決してもらうとなれば、部下にその意欲と能力の両方が備わっていることが前提。しかし、上司なら誰でも知っている通り、実際には部下にその両方が備わっているとは限らない。その場合、全く新しい問題が浮上してくる。権限移譲は通常、人材育成と同義である。つまり、当座は、自分で問題を解決するよりもずっと時間がかかる

3.教訓

マネジャーになった直後に読んでおけばよかった、という内容ばかりです。

ただ、これから取り入れても遅くない内容も多く、決して新任マネジャーだけに有益な情報ではなく、将来的に応用の効く内容です。

特に、10番目の時間管理は、まさにその通り、という内容でした。本来、上司が部下の進捗管理を行うべきところ、上司が部下からボールを受け取ってしまうと、上司が部下から進捗管理を受ける立場になってしまい、自分が自由に使える時間が無くなってしまう、というのは、全く今の自分に当てはまっています。

本稿の電子版が、過去の最高の売り上げを誇る論文の1つ、というのも非常に納得感があり、当該内容だけでも読む価値が高いと感じました。