|
1.はじめに
今から100年以上前、1911年に初版が発刊された古典的著書です。
ただ、「科学的管理法」と言われても、なかなかピンと来ないと思います。
従業員を単なる駒として扱い、ひたすら効率性だけを追求する、といったようなことがイメージされやるいと思いますが、決してそのようなものではなく、むしろ、マネジャー層と働き手が一体となり、緊密に協力することを勧める内容となっており、以下で本書を引用しながら紹介していきます。
2.内容
(1)科学的管理法とは何か
- 望める限りの最高の豊かさを手にするためには、誰もがどこまでも効率を追求し、日々の出来高を最大限に増やすほかにはない。この点を否定する人はいないだろう。
- 怠業の問題こそが、賃金や豊かさ、ほぼすべての勤労者の生活、さらには国内のあらゆるきぎょの将来に直接大きな影響を及ぼす。怠業、そして非効率の諸問題を一掃すれば、生産コストが目覚ましく低減する。
- 大勢を1か所に集めて同じような仕事をさせ、1日あたりの賃金基準を統一すると、多くの人々が持つ「楽をしよう」という傾向を大きく助長させることになる。有能な人材も少しずつしかし確実に仕事のペースを緩めていき、やがては最も効率の悪い人材と同じ水準に落ち着く。仕事の遅い輩が、たった半分の仕事量で同じ賃金をもらっているなら、自分だけがむしゃらにするのはばかげていると気づく。
- 科学の法則に従って仕事をするためには、現場の労働者に任せきりにしていた仕事の多くのマネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけない。一人ひとりの働き手に対して、上に立つ人々が日常的に助言を与え、親身になって手を差し伸べるのが望ましい。高圧的な態度を取ったり強い調子で発破をかけたりするのも、その逆に何の助けもせず本人の工夫にすべてを委ねるのも好ましくない。経営層と最前線の働き手が、密接に協力し合うことこそ、時代の先端を行く科学的管理法(課業タスクのマネジメント)の神髄である。
(2)科学的管理法の原則
①「科学的管理法」以前における最善の手法
- マネジャー層の大多数はもともと最前線で大いに腕を振るっていたはずだ。とはいえ、本人たちが誰よりもよく認識しているように、彼らの知識や技量は、配下で働く者たちの知識や技量を束ねたものには遠く及ばない。このため、経験豊かなマネジャーほど、仕事のやり方を躊躇なく部下に任せ、最も経済的で優れた方法を自由に選ばせている。
- 従来における最善のマネジメントとは、おおまかに言って「働き手が最大限の自主性を発揮して仕事に取組み、雇用主がその見返りに特別なインセンティブを与える仕組み」と定義できる。
②科学的管理法のエッセンス
- マネジャー層の新しい任務は次の4種類にまとめられる。
- 一人ひとり、一つひとつの作業について、従来の経験則に代わる科学的手法を設ける。
- 働き手自ら作業を選んでその手法を身に付けるのではなく、マネジャーが科学的な観点から人材の採用、訓練、指導などを行う。
- 部下たちと力を合わせて、新たに開発した科学的手法の原則を、現場の作業に確実に反映させる。
- マネジャーと最前線の働き手が、仕事と責任をほぼ均等に分け合う。かつては実務のほとんどと責任の多くを最前線の働き手に委ねていたが、これからはマネジャーに適した仕事はすべてマネジャーが引き受ける。
- 作業のペースについては、必ず適任者が何年もそのペースで仕事を続けても、体を壊さず、より大きな幸せと豊かさを手にできるように決めなくてはいけない。科学的管理法とはまさに、このような作業プランを立てて実行するためにある。
③作業や事例の研究
- 一人ひとりを尊重せず、集団の一員としてしか扱わなかった場合に、志や自主性が損なわれる。丹念に分析すると、働き手を大勢の中の一人としてしか扱わないと、一人ひとりの野心や向上心に訴えかけた場合と比べて仕事の効率が格段に落ちるという事実が見えてきた。
- 雇用主がこれまで手掛けてこなかった新しい義務や仕事をマネジャーたちが引き受けてこそ、大幅な改善が可能になる。精一杯努力しようという意欲をみなぎらせ、新しい手法を十分に理解した働き手であっても、マネジャー層からこのような手助けをしてもらえない限り、目覚ましい成果は上げられないはずだ。
- すべての事例をまとめると、有益な成果の数々は、主に次のようになる。
- 働き手それぞれの判断に代えて科学を取り入れる。
- 働き手が成り行きで仕事を選んで覚えようとするのではなく、会社の側で一人ひとりの人材を吟味、指導、育成したうえで、つまりある意味で実験の対象としたうえで科学的な視点から人選と能力開発を行う。
- 各働き手に問題の解決を委ねるのではなく、マネジャーそうが部下と密接に協力しながら、科学的な法則に沿って仕事を進める。
④科学的管理法の実践
- 法則を導くための一般的な5つのステップは以下の通り。
- 分析対象の作業に非常に長けた人材を選り抜く。
- 各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを押さえるとともに、使用ツールについても把握する。
- 各基本動作に要する時間を計測し、最も短時間でこなすための方法を選ぶ。
- 適切でない、時間がかかりすぎる、役に立たない動作などをすべて取りやめる。
- 不要な動作をすべて取り除いたあと、最も要領のよい、最適な動作だけをつなぎ合わせ、最善のツールを用意する。
- 平凡な生徒に対して、課題も与えずに、ただ「がんばれるだけがんばれ」などと発破をかけても進歩は見込めない。大人もこれと同じ。一定の課題を決まった時間内にこなすよう指示しない限り、平凡な働き手が会社に最大限の満足をもたらし、自身もこれ以上ないような満足に浸るのは不可能。
- 学生と労働者の唯一の違いは、学生は自ら進んで師に教えを乞うのに対し、科学的管理法に下では、その性質上、指導者の側が働き手に接近しなくてはならないということ。現実に、働き手は、進歩し続ける科学の下、指導者からの指示を受けながら仕事をすると、知的レベルは変わらなくても、より高度で興味深い仕事をし、利益にもより大きく貢献できるようになる。
- ツールについても手法についても、改善提案があれば遠慮なく提出するよう、働き手たちの背中を押すべきだろう。その結果、新しい手法が古い手法よりも明らかに優れているとわかったなら、標準として採用すべき。提案者に対しては、改善の功労者として大いに称え、創意工夫の報奨を支払うのが当然だろう。
- 働き手に影響を及ぼすような変革については、初めはとにかくゆっくりしすぎるほどの時間をかけ、まずは1人だけを対象とすべき。最初の1人が新しいやり方のほうが自分に大きなメリットがあると得心するまでは、それ以上の変革を進めるべきではない。こうして一人ひとりの意識を無理なく変えていく。
- 科学的管理法は、1つの要素で成り立っているのではなく、いくつもの要素が組み合わさったものである。
- 経験則ではなく、科学
- 不協和音ではなく、調和
- 単独作業ではなく、協力
- ほどほどでよしとするのではなく、最大限の出来高
- 一人ひとりの仕事の効率アップと豊かさの追求
- マネジャーと働き手が折に触れて意見を交わしながら緊密に協力し合うことこそが、何にも増していさかいや不満の解消につながる。同じ目標に向けて一日中肩を寄せ合うようにして仕事をし、共通の利害で結ばれているなら、いつまでも対立を続けるわけにはいかないはずだ。
3.教訓
本書の研究対象となっている業務は、日本でいえば明治時代、第一次世界大戦前のことでもあり、肉体労働が中心です。
例えば、シャベルすくいの作業において、名人を選んできて、一回あたりにすくう重量を調整し、1日の作業量を最大化する話が出てきます。調査を踏まえ、作業者に自由にシャベルを選ばせるのではなく、鉱石をすくうなら小さなシャベルを、灰をすくうなら大きなすくう中身に応じたシャベルを用意して作業者にあてがう、という内容です。
これこそまさに、科学的な管理方法です。
すなわち、今の時代の知識労働に置き換えると、
- ベテランの経験や勘だけに頼るのではなく、まずは作業を分解し見える化する。(いわゆるAS-IS分析)
- ペーパレスにしたり自動計算ツールを導入したり、最適な業務フローを再構築する。(いわゆるTO-BEの検討、BPR)。
- どのような能力持った要員が何名必要かを割り出す。(最適人員配置)
- 1on1ミーティング等で継続的な成長促進・信頼構築を図る。(コーチング手法)
といったもので、将来的にもベースとなる考え方ではないかと感じます。
読み終わった今は、副題として「マネジメントの原点」と記されている意味がしっかりと理解できます。