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生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの 伊賀泰代 著

1.はじめに

伊賀さんの本を読むのは、以下の「採用基準」についで2冊目です。

前作では、タイトルとは裏腹に「リーダーシップ」についての本でしたが、今回はタイトル通り「生産性」について記載されていました。

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働き方改革関連法案」が成立したのは2018年、今では多くの企業で「働き方改革」が掲げられ、一般的な言葉となりましたが、2016年に「働き方改革実現推進室」が出来たころから広まったのではないかと思います。

ちょうどその年に本書が初版されています。その当時の本書に書かれた考え方は、今でも十分に通用する、逆に言うと、世の中がその頃からそれほど進んではいないという印象を持ちました。

www.kantei.go.jp

2.内容

(1)生産性向上のためのアプローチ

  • 生産性が正確に理解されていない組織では、「成果を増やすために安易な資源の追加投入が行われ、生産性が低下する」「コスト削減以外の手を打たないため、生産性の向上幅はごくわずか」といった状況に陥りがち。
  • 生産性を上げるには、「成果を上げる」と「投入資源量を減らす」というふたつの方法があると理解したうえで、コスト削減だけでなく付加価値を上げる方法も併せて考えることが必要。
  • 生産性を計算するときの分子である成果の価値とは、分母である投入原材料の価値の合計値ではなく、「顧客が評価する価値」のこと。これが理解できていないと「機能を絞り込んで価格を上げる」という発想は出てこない。

(2)ビジネスイノベーションに不可欠な生産性の意識

  • 働く人が疲弊するのは、付加価値が低く、「意味があるのか?」と疑問に思えるような作業を延々と続けさせられるとき。そしてギスギスするのは、そんな人ばかりが脇目も振らず、時間に追われ焦っている職場のほう。そんな仕事はやめるなり機械化するなり、どんどん効率化することによって余裕時間を生み出せば、職番の雰囲気も明るくなるし、社員のやる気も引き出せる。
  • 思考というのは、制限が設けられるとそれをバネにして「今いるところとは異なる次元」に入っていくことができる。現実の案件にはいろんな制約がある。その制限の中でいかにいい物を作るかという挑戦こそが新しい発想につながる
  • ビジネスイノベーションとは、恒常的に生産性の向上を求められる環境において、担当者が「改善的な手法はすべて試みた。ほかに何か画期的な方法はないか?」と考えるところから始まる。

(3)量から質の評価へ

  • 「あの人は本当に優秀だ」と目される人が、長時間オフィスに滞在し、ものすごい量の仕事をこなしている人でなく、どれだけ仕事が集中しても、明確な優先順位付けと迅速な意思決定、そして高いスキルによって、みんながびっくりするほど早く仕事を終わらせてしまう人のことを指す職場となるように変えていくこと―経営者・管理者の役割には意識改革を起こすことも含まれている
  • 仕事の生産性を上げ、目の前の仕事だけでなく今後の成長のための投資や新しいチャレンジもすべて労働時間内でやり切れるようになることを目指す―そういう意識に変えていかないと、プロフェッショナルとしての成長には、常に個人生活の犠牲がセットでついてきてしまう。

(4)人材を諦めない組織へ

  • どんな組織でも選抜に漏れる人の数は、選抜される人より圧倒的に多い。このグループの生産性向上を諦めてしまうと、いくら少数の選抜組や若手社員がスキルを磨いて生産性向上に励み、高い意欲で働いても、組織全体としての生産性を上げるのは至難の業。
  • 選抜漏れ中高年と現状認識の共有が行わなければ、本人も自分の状況を客観視できず、変わらなければならないと切実に感じることができない。その状態が長く続くと「自分にはもう何も期待されていない。だから無理に頑張って成長する必要もない。」と考えるようになってしまう。それは個人にやる気や資質が欠けているからではなく、組織の人材育成能力の問題。
  • 年を重ねてからでも、誰かが自分に期待を寄せてくれ、真剣にフィードバックをしてくれ、新たなことを学ぶ機会が得られている。成果を出せば褒められるし、出さなければ率直にそう指摘される。こういった状況に置かれて初めて人は、「自分は期待されている。期待に応えなければ」と感じる。

(5)管理職の使命は使命はチームの生産性向上

  • 部下を育成しても仕事の成果には”当面の間”つながらないという前提がある。仕事の成果は”今すぐ”上げる必要があるが、部下の育成には時間がかかる。すぐに成果が上がることはないと考えているため、「成果を上げること」と「部下を育成すること」が二択問題になってしまう。
  • 「目の前の成果を上げるためには、部下の育成に時間を使うより自分が頑張るほうが早い」と考える人が出てきてしまうが、管理職がそんな発想のままでは、組織の生産性が上がることはない。
  • メールは日本語であれ英語であれ、基本はテンプレート仕事であり、書くのが早い人は、その定型文をあらかじめ頭の中に持っていて、正しく使えるだけ。そんな仕事に毎回頭を抱え、ウンウンうなりながらゼロから文章を書いているなんて、本当に無駄な(生産性の低い)時間。
  • 外部要員に付加価値の低い仕事を任せてしまうと、その仕事のやり方(生産性)を改善しようというインセンティブが組織から消えてしまう。そして次第に、本来どのくらいの時間をかけてもよい仕事なのか、誰も考えなくなってしまう。恒常的に忙しい部門に必要なのは、派遣社員を雇うことではなく、仕事自体の根本的な見直し
  • 他部署からの依頼を受けて定期的に更新していた資料の中にも、いつの間にか相手部署ではそこまで必要でなくなっていた、というものもある。業務仕分けを毎年定例のイベントにすれば、「今までやっていた仕事をやめるのは特別なことではない。やるべき仕事はどんどん変わっていくもの」という意識が定着する。
  • マッキンゼーでは、みんな他者の仕事のやり方について、上司でもないのにあれこれアドバイスする。それによってチーム全体の生産性が高まり、たとえ管理職でなくてもリーダーシップをとってチームに貢献するのは当然だから。こういう意識が組織の中に定着すれば、生産性は大幅に上げることができる。管理職の仕事とは、まさにそういった環境づくりをすることにある。
  • 本当の意味で仕事ができる人というのは、少ないインプットで高い成果の出せる生産性の高い仕事のやり方を考案し、その仕事が他の人にも可能になるよう言語化し、移植できる人。そして自分自身は、どんどん違う仕事にチャレンジしていく人のこと。
  • 今は自分にしかできないこの仕事を他の人ができるようになったら、自分の存在意義が下がってしまうと社員に思わせてしまったら、組織づくりは失敗。そうではなく、「自分のスキルを共有することでチームに貢献したい」といかに思わせるか、それが管理職の腕の見せ所

(6)マッキンゼー流 資料の作り方

  • 最も重要なことは「仕事に取り掛かる前にアウトプットイメージを持つ」ということ。アウトプットイメージ=仕事の出来上がりイメージを最初に持つというのは、「ゴールが何であるかをスタート時点で意識しておく」ということ。
  • 情報収集前に具体的なアウトプットイメージを持つために作られるのが、ブランク資料。まだ情報収集を始めていないので、資料に具体的な数字は何も記入されていない。ブランク資料を上司や顧客と共有しておけば、何日も作業をした後で「欲しかったのはこういう資料ではなかった」というすれ違いが起こることもなく、意思決定の生産性を大幅に向上することができる。
  • 自分が必要としているデータを優先的かつ集中的に集めるためにも、明確なアウトプットイメージを意識してから情報収集を始めることが必要。最初に「こういう結果が出たら大きなインパクトがある」という仮説を持たずに情報をいじくり回していては、いくら時間があっても足りない。

(7)マッキンゼー流 会議の進め方

  • 議題一覧でなく、達成目標リストにすると、会議参加者がこの時間内に何を決めなければならないのか、情報として共有する必要の項目は何なのかなどがすべて書かれている。こうして会議の達成目標を具体的に明記するだけでも、会議の生産性は大幅に上がる。
  • 資料作成者が説明をすることに生産性が低いのは、「目で読む方が誰かが丁寧に話す説明を聞くより早い」という理由だけではない。時間をかけて説明する部分が、「重要な箇所」でも「意思決定を左右した箇所」でもなく、「資料を作るときに自分が最も苦労した部分、悩んだ部分」であるため。気持ちはわかるが、これも無駄な時間を増やしてしまう理由の一つ。
  • ビジネス上の意思決定とは、「確実にはわからない未知の(未来の)ことについて決断をすること」。確実にわかっていることについての決断は誰でもできるし、できても大きな価値はない。だから、まだ何もわかっていない新人にでも、自分の意見を明確にさせる。
  • 「情報が足りないから今日の会議では決められない」という話になったときは、必ず「足りないのは本当に情報なのか?意思決定のロジックは明確なのか?」という視点で確認する。「会議の時間短縮」に敏感な企業は増えているが、本当は「意思決定の生産性」についてこそ、より意識的になるべき。

3.教訓

中でも、上述2(5)の「管理職の使命はチームの生産性向上」の章は、まさに自分の身の回りで起こっていることで、本当に驚いています。

実際に、時間がないと思ったら担当者に振らずに自分で対応したり、一般職の業務をアソシエイトに移管することを考えたり、「同じチームの〇〇さんに注意してほしい。それを言うのは管理職の私ではない」と言われたり、と良い例として書かれてあることの真逆そのまんまです。

勤務間インターバル導入等、人事制度が変更されていくなか、同じことを同じようにやっていても、どこかで目詰まりを起こすことは目に見えています。そこで、やり方を変えよう、やめられる業務がないか考えよう、という話をするのですが、これまで一生懸命対応してきた業務について、なかなか自分から「自分がやっていることに意味はない」とは言い出しにくく、自分の仕事や存在意義が無くなると思ってしまう、という面はどうしてもあると思います。

自分もあと10年も経てば役職定年となり、「選抜に漏れた側」に回ることになります。自分がこのポジションにいるうちに、生産性向上にむけてできることを対応していきたいと思います。