1.はじめに
1兆ドルコーチの名は、ビル・キャンベル。
スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、グーグル創業者などを育て上げた、伝説のコーチです。
その方から実際にコーチを受けた人々のエピソードが多く盛り込まれた、実践的な内容となっています。
2.内容
- 有能なマネジャーやリーダーになるためには、有能なコーチにならなければならない。コーチングはもはや特殊技能ではない。有能なコーチでなければ、有能なマネジャーではいられない。
(1)マネジャーは肩書きがつくる、リーダーは人がつくる
- 君がすぐれたマネジャーなら、部下が君をリーダーにしてくれる。リーダーを作るのは君じゃない、部下なのだ。
- どんな会社の成功を支えるのも人だ。マネジャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことだ。マネジャーは「支援」「敬意」「信頼」を通じて、その環境を生み出すべきだ。
- 全員に共通認識を持たせ、適切な議論を行い、意思決定を下すために、ミーティングを利用する。1on1で解決できそうな問題であっても、スタッフミーティングでそれを話し合えば、協力し合いながら難題に取り組む練習をチームにさせることができる。
- 経営トップがすべての決定を下すようでは、その正反対の環境になってしまう。なぜなら部下は自分のアイデアをマネジャーに認めさせることに終始するからだ。そうした環境では、最適解ではなく、最高権力者へのロビイングに長けた者、言い換えれば政治が勝利を収める。
- コンセンサスではなく、最適解を得ることを重視する。コンセンサスを目指すと「グループシンク(集団浅慮)」に陥り、意思決定の質が低下しがち。最適解を得るには、すべての意見とアイデアを俎上に載せ、グループ全体で話しあうのが一番。正直に問題を公開し、とりわけ不満が出ているような場合には、率直な意見を述べる機会を全員に与える。
- チームと問題を話し合うとき、君はいつも最後に話すようにしろ。君は答えを知っているかもしれないし、それは正しいかもしれないが、答えをただ与えるだけでは、力を合わせるチャンスをチームから奪ってしまう。正しい答えにたどりつくのは大事だが、チームみんなでそこにたどりつくプロセスも同じくらい大事。
- 最適解が生まれない場合、マネジャーは決定を促すか、自ら決定を下さなくてはならない。マネジャーの仕事は議論に決着をつけることと、部下をよりよい人間にすること。決定を下さないのは、誤った決定を下すよりたちが悪い。
- どんな状況にも、誰もが納得できる不変の真理が存在する。「第一原理(ファースト・プリンシプル」だ。第一原理はどんな会社にも、どんな状況にも存在する。意見には反論できても、原理には反論できない。なぜならすでに全員がそれを受け入れているからだ。困難な決定を迫られたとき、そうした第一原理を全員い説明し、思い出させることがリーダーの役目だ。そうすれば、決定はずっと下しやすくなる。
- 適切なプロダクトがあり、適切な市場に適切なタイミングで提供できるなら、可能なかぎり早く世に出せ。小さな問題やすぐに対応が必要なこともあるだろう。だがとにかくスピードが肝心だ。
- 情報はあらかじめ送付して、出席者たちが目を通し、質問を持って会議にやってくることを期待しよう。「期待」するとは、口先だけでなく本気で期待するということだ。宿題をやらない者は、会議に出る資格はない。
(2)「信頼」の非凡な影響力
- 要は信頼している相手には安心して自分の弱さを見せられる。
- コーチは何かが起こっているかを常に把握している必要があり、コーチする相手からはプライバシーを尊重してくれる存在と見なされていなくてはならない。
- 信頼とは、常に意見が合うということではない。むしろ、信頼している相手には異を唱えやすいのだ。信頼関係のあるチームにも意見の相違は生じるが、感情的なしこりは少ない。
- 最高のチームは「補完的なスキルセットを持つ、性格の似通ったメンバーからなる」という一般通念の誤りは証明された。そうではなく、最高のチームとは「心理的安全性が最も高いチーム」なのだ。そしてその出発点となるのが信頼である。
- コーチとの関係から最大の価値を引き出すには、教えられる側がコーチングを受け入れる姿勢でいなくてはならない。コーチャブルな資質とは、「正直さ」と「謙虚さ」、「あきらめず努力を厭わない姿勢」、「常に学ぼうとする意欲」である。
- ただ言葉を聞き取るだけじゃない。相手が言いそうなことを先回りせず、とにかく耳を傾けろ。
- 質問の姿勢は、すぐれた聞き手になるために欠かせない。発見や洞察を促すような質問をしょっちゅうする人は、最高の聞き手だと相手に思われる。
- 従業員の話を聞く、声をかけるといった「ありきたりの何でもないこと」が、すぐれたリーダーシップの重要な側面だ。そうした行動は従業員に「自分は尊重されていて、目に見えない名もなき存在ではなく、チームワークの一端を担っていると感じ」させることができるからだ。
- フィードバックは徹底的に正直で率直に、そしてできるかぎり早く与えよ。ネガティブなフィードバックは人目のないところで与えよ。
- マネジャーはこうしろああしろと頭ごなしに言うもんじゃないと考えていた。何をするかを指図するな、なぜそれをやるべきかという物語を語れ。
- 勇気を奮い起こすようにチームを駆り立てるのはマネジャーの仕事だ。勇気を出すのは大変なことだ。人は生まれつき失敗を恐れ、リスクを怖がるようにできている。だからマネジャーはためらいを乗り越えるよう、部下の背中を押してやらなくてはならない。
(3)チームファースト
- 「自分の成功が他人との協力関係にかかっていることを理解している人、ギブアンドテイクを理解している人、つまり会社を第一に考える人」を探す必要がある。彼らが何かを犠牲にしたり、他人の成功を喜ぶことがあるかどうかに注目すればいい。
- 大事なのはそれまでやってきたことでも、これからやろうとしていることでもなく、日々やっていることなのだ。これはチームメンバーに求める最も重要な資質。毎日仕事に出てきて、精いっぱい働き、インパクトを残す人。つまり、実行家だ。
- 「正しいプレイヤー」を見つけよ。人に求めるべき最も重要な資質は、知性と心だ。つまり、すばやく学習能力と厳しい仕事を厭わない姿勢、誠実さ、グリット、共感力、そしてチーム・ファーストの姿勢である。
- 勝利を目指せ。だが献身、チームワーク、誠実さをもって、常に正しく勝利せよ。
- 「チーム・ファースト」。スタープレイヤーから2,3番手のプレイヤーに至るまでの全員が、個人の利益よりチームの利益を優先させる覚悟を持たなくてはならない。こうした熱意があればこそ、チームは偉業を成し遂げられる。
(4)パワー・オブ・ラブ
- 「やさしい組織」になる。人を大切にするには、人に関心を持たなくてはならない。プライベートな生活について尋ね、家族を理解し、大変なときには駆けつけよ。
- 人を助けていいのだ。一肌脱げ。それが正しいことで、全員のためになるという確信があるなら、頼みごとを聞いてやれ。時間や人脈などの資源を、人のために惜しみなく仕え。
3.教訓
現在の会社において、コーチング、1on1の重要性が多く語られ、ミドルマネージャーは関係する研修を全員受講するようになり、実際、対話を始めています。
その中で感じることは、本書にも言及のあった、コーチングをする側がいくら頑張っても限界があり、教えられる側のコーチャブルな姿勢があってこそ、というものです。
自身がいち上司であっても、グループ頂点企業の社長やCEOでない限り、必ず上司が存在します。コーチングする側として偉ぶるのではなく、自身がまずコーチャブルな資質を持っていることが周囲に伝わらないと、いいチームを築くことはできないことを強く感じることのできた良本でした。