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1.はじめに
社会心理学者による、人の態度や行動を変化させる心理的な力について解説された本です。
結論だけ知りたければ、各章の「まとめ」として2ページほど記載された内容を読めばわかります。
しかしながら、その結論を得るに至る、実際に起こった出来事や、実社会での体験、各種心理実験が豊富に取り上げられ詳細が描かれており、全体を読むことでスッと内容が頭に入るように構成されています。
「返報性」「一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」の6つのテーマに区分され、それらを悪用する人々やそれに対する防衛法まで学べる内容となっています。
2.内容
(1)返報性
返報性とは、何かの恩恵を受けると、与えてくれた人に対して将来お返しをせずにはいられない気持ちになることです。
借りを返さなければという義務感は、相手への好感度という、普通ならとても大きな要因をいとも簡単にしのいでしまうところに、返報性のルールの強さが見て取れます。相手は、要求を出す前にちょっとした親切を私たちにするだけで、相手の要求が通るぐっと上がることになります。
小さな親切が大きなお返しを引き出す理由の一つは、親切を受けたままにしているときの明らかに不愉快な気分と関係があります。私たちの多くにとって、恩義を受けたままにしている状態というのはとても不愉快なものです。ずしりと肩に食い込むこの重荷を早く下ろしてしまいたい気になります。
それに加えてのもう一つの理由は、返報性のルールを破る人、すなわち他社の親切を受けるばかりで、それに対してお返しをしようとしない人は、社会集団のメンバーから嫌われます。
なお、最初に法外な要求を出す人間は、誠実な交渉相手とは見られません。最初の要求が現実離れしていると、そこからいくら要求を引き下げても本当の譲歩だとは受け取られません。本当に交渉上手な人というのは、お互いが譲歩し、対案を引き出し合うのに必要なだけ自分の最初の立場を誇張しておき、それによって交渉相手から最終的に自分が望む回答を引き出します。
「防衛法」:相手からの贈り物が、真の贈り物でなく、あなたを丸め込むための道具に違いないと思ったなら、それを用いて自分の利益を得てもいい。相手がくれるというものは何でももらっておき、丁寧に礼を述べてから、ドアの外へ送り出しましょう。結局のところ、返報性のルールは、それで正義がなされるのだとすれば、搾取の試みには搾取でお返しすべきだと主張しています。
(2)コミットメントと一貫性
ひとたび決定を下したり、ある立場を取る(コミットする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動を取るように圧力がかかります。
一貫性を保つ魅力は、他の多くの自動反応と同じように、複雑な現代生活を営む上で「思考の近道」を私たちに提供してくれることです。ある問題に対して自分の立場をはっきりさせ、強い一貫性を持つと、それ以上、その問題について真剣に考える必要がなくなります。
一度、自分の立場を明確にすると、行動をその場と一貫させようとする強い力が自然と生じます。私たちは、情報が少ない段階で行った予備的な判断にも影響を受け、最終段階の決定をその予備的な判断と一貫させようとします。
ささやかな依頼に応じる場合にも十分に注する必要があります。そうした依頼に応じることが、私たちの自己イメージに影響するかもしれません。そうすることによって、似たような種類の、もっと大きな依頼に応じやすくなるばかりでなく、最初に応じたささやかな依頼とはほとんど関係のない、様々な種類の大きな依頼を受け入れやすくなるかもしれないのです。小さなコミットメントの裏に隠された、第二の全般的な影響力こそ恐れているものです。
他人に見えるような形で自分の立場を明確にすると、一貫した人間に見られたいばかりに、その立場を維持しようとする強い気持ちが生じます。一貫している人は、合理的で確かで信頼のおける健全な人だとみなされます。こうした点を考えれば、人々が一貫していないと見られるのを避けたがるのも、さほど不思議ではありません。自分の意見が広く知れ渡っていればいるほど、体裁を気にしてしまい、意見を変えにくくなります。
人は自分が外部からの強い圧力なしに、ある行為をする選択を行ったと考えるときに、その行為の責任が自分にあると認めるようになります。圧力は、人に何かをさせることはできても、その行為に対する責任を認めさせることはできません。子供に何かをやらせようと思うなら、決して魅力的なご褒美で釣ったり、強く脅してはいけません。
また、コミットメント自体が「自らを補強する」のです。一度変化を生じさせてしまえば、一貫性を保とうとする圧力がみんなやってくれます。自らを補強するコミットメントは、理由を新たに付け加えながら成長する点が重要です。そうした行動を取るきっかけとなった元々の理由がなくなったとしても、新しく発見された理由があるため、自分の行動が正しかったと考え続けることになります。
「防衛法」:一貫性は基本的にはよいもので、不可欠でさえあるけれども、中には馬鹿げていて、コントロールしにくい、避けるべき種類の一貫性も存在すると意識することです。よく考えもしないで、ただ自動的に一貫性を保とうとしないよう、よくよく気を付けなければなりません。さもないと、コミットメント→一貫性と、機械的に続けてしまう傾向を利用して儲けを企む人の標的になってしまいます。
(3)社会的証明
社会的証明とは、人は他の人たちが何を正しいと考えているかを基準にして物事を判断するというものです。特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断します。
一般に、自分自身に確信が持てないとき、状況の意味が不明確あるいは曖昧なとき、そして不確かさまん延しているときに、私たちは他者の行動を正しいものと期待し、またそれを受け入れるようです。
不確かさがあるときは、周囲を見回して、他の人々の行動の中に手がかりを求めるのが自然な傾向です。他の目撃者がどう反応しているかによって、その出来事が緊急事態であるのかそうでないのかを知ることができます。ただ、ここに1つ落とし穴があります。私たちは落ち着いて取り乱さない人間だと人から見られたいと思っているので、その証拠を探す場合でも、平然とした風で何気なくチラッと周りの人を見がちです。したがって、人々の目に入るのは、少しも慌てず、何らアクションを起こさないでいる人々の姿になりがちです。その結果、社会的証明により、無情にもその出来事は緊急事態ではないと解釈されてしまいます。
私たちは他の人の行動から、自分にとっての適切な行動を決定しますが、そうした傾向がとりわけ強くなるのは、その「他の人」が自分と似ている場合です。
「防衛法」:社会的証明のような自動操縦装置を完全に信頼してはいけません。ときどき装置を点検し、状況の中にある他の証拠ー客観的な事実、自分が以前に体験したこと、自分自身の判断ーにそぐわない反応をしていないか確かめないといけません。
また、群衆が示す証拠に自分が釘付けになっているときは、周囲を定期的に見渡す必要があります。この簡単な安全確認を行わないと、誤った社会的証明に引きずられ不運をたどることになりかねません。
(4)好意
承諾誘導の技術の使い手なら誰しも、好意を持っている相手からの頼みには、イエスという圧力があることを知っています。
外見的魅力のある人は、才能・親切心・誠実さ・知性といった望ましい特徴を持っていると自動的に考えてしまう傾向があります。これは「ハロー(後光)効果」と呼ばれるもので、ある人が望ましい特徴を持っていることにより、その人に対する他者の見方が大きく影響を受けることを言います。
私たちは、自分に似ている人を好みます。この事実は、意見や性格特性、経歴、ライフスタイルなど、どのような領域の類似性においても当てはまります。したがって、私たちから行為を獲得し、言うことを聞かせようとする人は、様々な方法で私たちと似ているように見せかけ、その目的を達することができます。「似た者同士ですね」と言って近づいてくる相手には注意が必要です。
悪い知らせを伝えるものは疎まれます。人間には、不快な情報をもたらす人を嫌う傾向があります。たとえ、その人が悪い知らせの原因でないとしてもです。悪い出来事やよい出来事とただ関連があるだけで、私たちは人々に良くも悪くも思われてしまいます。
「防衛法」:承諾誘導の技術の使い手に対しては、好意を持ち過ぎないように気を付けることが非常に重要です。そのような感情に気づければ、取引のメリットと販売者を分けて考え、判断材料には取引の中身だけを使えるようになるでしょう。
(5)権威
権威と認められた人からの情報は、ある状況でどのように行動すべきかを決定するための思考の近道を提供してくれます。
権威ある地位にいる人はそれだけ情報や権力を握っているわけですから、正当に確立された権威者の意向に従うのは理屈に合っています。実際、理屈に合いすぎているせいで、私たちはしばしば、全く理屈に合わないような場合であっても、思わず権威者に従ってしまいます。盲目的な服従は多くの場合、私たちに適切な行動を取らせてくれますが、私たちは考えているのではなく、単に反応しているだけなので、明らかに不適切な行動を取ってしまう場合も出てきます。
また、権威があるような見せかけだけで十分です。私たちは、権威の実態と同じくらい、その権威を表わすシンボルにも影響されやすくなっています。そのシンボルは「肩書き」「服装」「装飾品」の3つです。
なお、階層制度のある組織では、権威のある者が敬意をもって扱われるだけでなく、そうした権威を持たない者がしばしば失礼な扱いを受けることがあります。
「防衛法」:権威の命令に従うべきか否かを決めるうえで、2つの点に自問することが非常に役立ちます。まず、「この権威者は本当に専門家だろうか」というものです。権威の証拠に目を向けることによって、自動的な服従という落とし穴から逃れることができます。
2つ目は、「この専門家は、どの程度誠実なのだろうか」です。私たちが言うことを聞くと、専門家にどのくらいの利益が入るのか、ちょっと考えることによって、不適当で自動的な影響力に対抗する安全弁が1つ増えます。
(6)希少性
手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくる、という希少性の原理は、私たちの様々な行動に影響を及ぼしています。とりわけ危険性や不確実性の高い状況では、何かを失うかもしれないという脅威は、人間の意思決定に強力な役割を果たします。
希少性の増大、あるいは何か別の理由、によって、ある対象にそれまでよりも接しにくくなったときも、その状態に反発(リアクト)し、以前よりもその対象が欲しくなり、より熱心に入手しようとするようになります。
とりわけ革命を起こしやすいのは、ずっと虐げられてきた人々ではなく、よりよい生活の味をいささかなりとも経験した人々です。彼らが経験し、当然のものと当てにするようになった経済的・社会的改善が突然手に入りにくくなったときに、彼らは以前にも増してそれを欲するようになり、時には武力蜂起してそれを確保しようとします。自由ということに関して言えば、しばらくの間だけ与えることは、全く与えないより危険なのです。
限られた資源を求めようとする際、競争がいかに重要な意味を持ちます。あるものの数が少なくなるだけでも、それが一層欲しくなるものですが、そこに競争が加わると、欲しいという気持ちはさらに高まります。
「防衛法」:希少性の高いものは、それが手に入りにくいからといって、その分美味しかったり、感じがよかったり、音がよかったり、動きがよかったりというわけではない、ということを決して忘れてはいけません。
3.教訓
読んでいけば、自分でも過去に同じような失敗をした経験がいくつか見つかると思います。
我が家でも、正規サイトとチケット転売サイトを誤認し、「あと●分で締め切ります」というような表示を見て、慌てて発注したら割高なものだった、ということもありました。
このような防衛法だけでなく、うまく使えば仕事を円滑に進めることができる、という目線でも活用していきたいと思います。