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石橋を叩けば渡れない 西堀栄三郎 著

1.はじめに

2023年3月に「新装版」として発売されました。

ただし「石橋を叩けば渡れない」の初版自体は1972年で、自分が生まれるより前です。

著者の西堀氏は、南極越冬隊やエベレスト登頂隊の隊長を務めた方で、単なる学者や研究者として、他者の行動分析や理論の研究をしているだけでなく、日々の実践から紡ぎだされた内容です。アインシュタインが来日したときに通訳も務めているすごい方でもあります。

自分の感覚としては、日本版「MINDSET」のように思いました。今から50年以上前に、リスクマネジメントやフォロワーシップ、ポジティブフィードバックを含んだ内容が日本で出版されていたのは驚きでしかありません。

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本書は「石橋を叩けば渡れない」「五分の虫にも一寸の魂」の2作からなっていて、後者は技術者・研究者向きに感じました。以下では、表紙右肩にも記載のある「創造的生き方」がより濃く出ていると思う前者の中から、印象的だった部分を引用します。

あと書きにも記載されているように、講演内容が元になっているので、この話は前にも出てきたなという重複があったり、一貫性のある体系だった内容にはなっていませんが、それぞれ示唆に富む内容です。

2.内容

  • とにかく、強い願いを持ち続けていれば、降ってわいたようにチャンスがやってくるもの。このとき、取越し苦労などしないで、躊躇なく勇敢に実行を決心すること。
  • 一度、人類の得た知識は、二度と再び消えない。つまり、知識というものは、一度獲得したら、人類の財産として永遠に残るもの。それを後世の誰かが、役に立たせるか、役に立たせないかは、それは別の問題。
  • 「キノコは千人の股をくぐる」。一般の人は、松茸を探しに行っても、千人もの人が歩いたあとではもう見つからないだろうと考える。しかし、千一番目に行った人が「松茸があった」と拾うかもしれないという意味。他の人が探しているから、もうないだろうと決めてかかるのではなくて、毎日の仕事の中から、一生懸命に探していくことが大切。つまり、大事なのは研究的態度を持つということ。
  • 物事には、最初というものが必ずいっぺんはある。その最初をやらなかったら、二度目はない。最初のないものというのはない。
  • やるかやらないかを決心する前に、細々と調査すればするほど、やめておいた方がいいんじゃないかということになる。”石橋を叩いて渡る”とか”渡らん”とかいうけれども、石橋を完全に叩いてから、渡るか渡らんか決心しようと思っていたら、おそらく影響に石橋を渡らんということになるだろう。完全にリスクを防止できる調査なんて、できるはずがない。新しいことにはリスクがつきもので、だからこそ新しい
  • 決心してから実行案を考えるのでなければ、新しいことはできない。もうすでにやると決めているのだから、どうすればリスクが減らせるかということに集中した調査になって、これは非常に大事。
  • 創意工夫するためには、まず第一に「こんなことができないのか」と思わなければだめ。第二に「絶対あきらめたらいかん、何とかなる、何とかしてやるぞ」と思うこと。
  • 例えば、人間のために自然があるんだ、主人のために奴隷があるんだ、という考えはみんな対立。このような考え方で組み立てていこうとしている哲理を、われわれは今ここで考え直して、人間即自然、融和の人を培っていかなければいけない。
  • 人は必ず自分の型というものを持っている。あるいは理想像というものを描いている。その目で相手を見るから全部欠点に見える。個性というものは自分では変えられるかもしれないけれども、他の人では変えられないものだとあきらめる。欠点とか短所とかいわれるようなものを少し掘り下げて考えてみると、それはその人のクセだとわかる。そのクセをいいほうに振り返ることはできるはず。
  • いろんなことを手広くやると、広くなる代わりに薄く浅くなるだろうというが、広さを考えれば薄くなる、浅くなる、ということは容積一定の考え方。実は、そんなものではない。能力というのはゴム風船のようなもので、いくらでもふくれる。そうするためには、そこに内圧がかからなければいけない。その内圧は”意欲”というもの。意欲さえ出たら能力はいくらでも増すことができる
  • 目的をはっきりと一人一人にわからせるのが職制の義務。しかし、この目的を達成するための手段は各自の自由。このことが一番大切。つまり、そこに考える余地を与える。与えられた人は、与えられた自由の度合いの分だけ責任を感じ、その責任をとった分だけ意欲を感じる。意欲を持てば、その人はそれだけ能力が増してくる。能力を増すことによって、向上心という人間の本来持っている人間らしさというものを満足させることができる。
  • 片一方はやらされていると思うから疲れる、もう一方は自分でやっていると思うからちっとも疲れない。つまり自発的にやるというところに、非常な意義がある。人間的欲求というのは自分で考えたように実行したときに満たされるもの。
  • リーダーというものは、いかなる理由があっても、外に向かっては絶対の責任があるということを忘れてはならない。それを何の責任もないとか、誰の責任とか、そういうことは一切言えないというところに、リーダーたる者の一番大事な点がある。
  • 仕事の目的とそれを達成する手段とは、きっちり分けておくべき。目的は絶対で、リーダーはそれを与えるべきもの。しかしその手段はやる人の自由に任せるべき。けれどもそれは、目的のためには手段を選ばないということではない。自由というものの背景には、必ず制約とか制限とかがある。
  • リーダーは、そのグループに対してはリーダーだけれども、ひとつ上位のグループに対しては、メンバーあるいはフォロワーということになる。だから、よきリーダーたらんとする者は、よきフォロワーでなくてはならないという1つの原則が、ここに成り立つ。
  • 能率というのは、目的を果たしながら、最も要領よく手を抜くこと。目的は果たさなければならない。しかし、目的さえ果たせば、途中のプロセスは、実はたいした問題ではない。目的よりも途中に手がこんでいるのを尊重するのは、職人仕事であって、現代の技術の精神とは一致しない。
  • 人間は創造性を発揮する自由を本能的に求めている。その本能の抑圧に対する不満を解消するには、一人一人がまず自ら、自分自身がどうすればこの創造性を発揮できるかということを徹底的に勉強し努力しなければいけない。勇敢にやらなければだめ。それは人に対してでなく、自分に対して勇敢でなくてはならない
  • 事実というものを眺めるときに、先入観を持って眺める、あるいは自分で組み立てたロジックの上において見る、というような立場では、本当のことがつかめない。つまり虚心坦懐にそのデータを集め、そしてそれを虚心坦懐に眺める、あるいはデータの語るところを虚心坦懐に聞かなければいけないもの。
  • 切迫感と知識とが一緒になったとき、初めて知恵が出てくる。切迫感を感じなきゃ、知恵も生まれない。自分に与えられた仕事の範囲は、自分自身の責任と考え、何とかそれをよくしなければならないという風にすると、知恵が出てくる。
  • 提案者は育てる努力をしてくれている上司の一挙一動を真剣に見つめている。そんなに努力をしている上司を見て、提案が検討の結果ダメになったとしても、提案者は納得するもの。「よし、次にはもっと良いアイデアを考えるぞ」となり、創造性発揮の何よりの励みになる。そして成功すればますまる張り切る。この循環が非常に大切。
  • 勇気とは、思い切って決行する気迫。人間が、何か新しい行動をしようと決心するとき、自分の心の中にそれを拒む抵抗がある。自信がないからやめておこう、というのは勇気がないとしかいいようがない。「勇気」は「自信」に先行する。

3.教訓

難しい課題になると「できない理由探し」に遭遇することが多いと思います。あまりに無計画に始めるのも考え物ですが、どうせ計画通りに行かないことは多いので、まずはやろうと決めて始めてみて、やりながらアジャストすると、方向性が見えてくることもあります。「リスクを取らないことが最大のリスク」とザッカーバーグ氏も話しています。

また、管理職になる人は、それまでの結果が一定程度認められたからこそ昇進していると思うので、「私はこうやって結果を出してきた」という自負があると思います。ただし、他のやり方だとより早くより高い効果が出せた可能性もあり、自分の方策が唯一絶対ではないことを認めないといけません。「それは違う」と相手を否定して、自分がやったほうが早い病に陥りがちですが、自分が手を動かすのではなく、それぞれの人の個性や意欲を活かしてどうすればチーム全体で最善に動けるかをマネージていく必要があります。

本書は特に新しい環境に身を置き、新たな仕事に取り組むときに、背中を押してくれる内容です。前半は担当者寄り、後半は管理職寄りの内容に感じますが、仕事の進め方に特化した内容でなく、生き方そのものにフォーカスが当たっています。そのため、学生のうちから読んでおくと自主性を伸ばすのに有用であると思い、教育用としてもおすすめできる良書です。