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心の安定について セネカ 著

1.はじめに

”人生の短さについて他2篇”の3作目として収録されています。

巻頭かつ表題になっている「人生の短さについて」は、先日にまとめました。

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本書のさいごの解説にある通り、セネカが「心の安定」で意味しているものは、必ずしも禅の悟りの境地のような静謐な精神状態のことではありません。セネカが述べているのは、なにものにも惑わされることなく、一途に我が道を行く、活気に満ちた心のあり方のことです。

2.内容

  • 自己嫌悪を発生源は、だらしのない心とそれが抱く欲望。そんな欲望は、臆病でなにもできないか、そうでないとしてもわずかな望みしか満たすことができない。だから、そんな心を持つ人々は、自分のやりたいだけのことを、実際にやったり追い求めたりすることができない。彼らは、すべてを願望することしかできない。彼らは、宙に浮いた存在。
  • ひとは、次から次に旅を繰り返し、次から次に眺める風景を変えていく。しかし、そんなことをして何になるのだろう。結局、逃れることができないのに。自分のあとを追って付きまとう最も厄介な同伴者は自分自身
  • きみは、道を閉ざされるかもしれない。活動を禁じられるかもしれない。だが、そんなときには自分の背後を振り返りなさい。そこには、どれだけ広大な領野が広がり、どれだけたくさんの人々がいることだろう。たとえその中の大きな部分が君に閉ざされたとしても、それ以上に大きな部分がきみには残されている。
  • 仕事において、われわれが吟味しておくべきこと。そのうち、一番重要なのは、自分自身を正しく評価すること。というのも、われわれは自分の能力を過大評価しがち
  1. 自分自身を吟味するべき
  2. 自分の仕事の内容を吟味するべき
  3. その仕事を誰のために、誰と一緒にするかを吟味するべき
  • 新たな雑用を生み出す仕事は避けるべき。要するに、手を出してもいいのは、終わらせることができるか、あるいは少なくともそれを期待できる仕事。そして、手を出すべきでないのは、やればやるほど際限がなくなっていき、決めたところで終わらない仕事
  • 陰気な人とか、いつも愚痴ばかり言っている人などは特に避ける必要がある。たとえ、いつも誠実で親切であったとしても、一緒にいる仲間が不安げだったり、ため息ばかりついていたりしたら、それは安定の敵でしかない。
  • 自然は、われわれがどんな苦しみを背負って生まれてくるかを知っている。だから、損害を和らげる手段として、慣れというものを作り出し、極めて過酷な災難にもすぐになじませてくれる。実際、最初の衝撃がその後も同じ力を持ち続けるなら、われわれはそれに耐えることなどできまい
  • 誰かに起こりうることは、誰にでも起こりうる」。この言葉を深く肝に銘じて毎日たくさん目にしている他人の災いは、みんな自分にも容赦なく襲い掛かってくるものなのだと用心するなら、その人は襲われるはるか以前に、武装を整えることだろう。危険がやってきてから、心が危険に耐えられる準備を始めても手遅れ
  • われわれは、無益な目的のために仕事をするべきではないし、無益な動機から仕事をするべきではない。要するにわれわれは、なんの成果も得られない無駄な仕事をするべきではないし、得られる成果に見合わない仕事をするべきでもない。なぜなら、うまくいかなかったり、うまくいっても恥じたりすれば、たいていは悲痛な気持ちになるから。
  • どんな仕事をするときでも、必ず一定の目的を設定し、その目的を見据える必要がある。そして、仕事に専心すれば心がぐらつくことはない。だが、そうしないと人は物事に対する誤った思いにとらわれて、まともな判断力を失ってしまう。
  • われわれは、何事も軽く見るようにし、心を楽にして物事に耐えるべき。人生を嘆き悲しむより、笑い飛ばしたほうが人間的。だが、笑うよりもいっそう好ましい方法がある。それは、社会的な風習や人々の欠点を静かに受け入れ、笑いにも涙にもとらわれないようにすること。
  • 実際、多くの人が涙を流すのは、誰かに見せるため。だから、見ている人がいなくなれば、その目はたちまち乾いていく。他人にどう思われるかばかりを気にするこの悪い癖は、人の心に深く根を張っている。だから、人間にとって最も素朴な感情である悲しみさえもが、まがいものと化してしまう。
  • 戦々恐々と自分を取り繕い、自分の本当の姿を誰にも素直に見せずに、多くの人々のように偽物の見せかけの生活を送っているとしたらどうなるだろう。絶えず自分のことを気にして、いつもと違う自分を見られるのを恐れているのは、とても苦しいもの。誰かに見られるたびに自分が値踏みされていると思えば、われわれはいつまでも気苦労から解放されない。
  • われわれは、孤独と交わりをうまくつなぎ合わせて、交互に入れ替えるべき。孤独は人間を恋しがる気持ちをかきたて、交わりは自分を恋しがる気持ちをかきたてる。こして、一方が他方を癒す薬になってくれるだろう。すなわち、孤独が群集への嫌悪を癒し、群衆が孤独の倦怠を癒してくれる
  • いかに肥沃であっても、休ませないと土地はすぐに枯れていく。精神もそれと同じ。いつも働いてばかりいるとその活力は衰えていくが、くつろいだ休息を少し与えてやるだけで、その力は回復する。
  • 睡眠は疲労回復のために必要なものだが、昼も夜も常に眠り続けているなら、死んでいるのと何ら変わらない。緩めることと手放すことは、まったく違うこと

3.教訓

ほぼ同じ内容で著名な人が出版すれば重刷間違いないくらい、現代でも通用する内容で、むしろ「人生の短さについて」よりも自分には強く印象に残りました。

今の時代、SNSを意識して自分の関心よりも周囲に「いいね」と認められるものを追い求めたり、リアルなつながりよりも会ったことのないフォロワーを増やそうとしたり、原形をとどめないくらい加工したプリクラを撮ったりと、自分の素を見せるよりも周囲についていくことが是という風潮が強くなっていると感じます。コロナ禍でマスクが続いたことで素顔を見せる機会が減ったことも、自分の姿を表に出すことに対する抵抗感が強くなっている一因になっていると思います。

最初は人前でマスクを外すだけのことでも、マスクを外した状態で電車に乗るのも、少し勇気が必要だと思います。でも、少し考えたみれば、コロナの前はそれが普通でした。実際、一度やってみたら、「なんだ、こんなもんか」と感じると思います。

また、前半の仕事の進め方についても、2000年前の内容とは思えません。着手する前に、何をゴールとするか、どこまでできれば合格点とするのか、しっかり決めておかないと、終わってからこんなはずじゃなかったとなってしまうのは現代でも同じです。

時代を超える古典には折に触れて手にすべき、と再認識できる良本でした。