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リーダーシップの旅 見えないものを見る 野田智義・金井壽宏著

1.はじめに

本書の序章に、本書の題名の由来になる、以下の内容の一段落があります。

リーダーシップは「見えないもの」を見る旅だ。ある人が、「見えないもの」、つまり現在、現実には存在せず、多くの人がビジョンや理想と呼ぶようなものを見る、もしくは見ようとする。そして、その人は実現に向けて行動を起こす。世の中ではよく、リーダーはついてくる人(フォロワー)を率いる、リーダーシップはフォロワーを前提とするなどと言われるが、私はそうは思わない。旅はたった一人で始まる。

この内容は野田先生によるものです。野田先生・金井先生のどちらが記載したのか見出しの1つ1つに表示され、ここまで共著感のある本は珍しいと思います。

お二方それぞれのリーダーシップの考え方がよくわかりますし、リーダーとマネジャーの対比もあり、非常に有用な内容です。

以下では、特に印象に残った部分を引用したいと思います。

2.内容

(1)リーダーシップの旅

  • リーダーシップはリーダーの中に存在するというよりも、リーダーとフォロワーの間に生じる社会的現象であり、ダイナミックなプロセス。リーダーの言動を見て、フォロワーの大半がそれをどのように意味づけるかというプロセスの中に、リーダーシップは存在する。リーダーの影響力が行使されるには、フォロワーが「喜んでついてくる」ことが不可欠の条件となる。
  • リーダーシップの旅、すなわち、前人未到の沼地を渡ったり、現状を大きく変えたり、何かを新しくつくり出したりするような挑戦は、リスクや不確実性を伴う。着手は容易でなく、時には周到な準備や事前の訓練も必要とされるだろう。しかし、本当に必要なのは、旅に出たいと思うかどうかだ。
  • 一人称で、自分が「見えないもの」を見たいと頭で考え、心の底から願う気持ち。これこそがリーダーシップのプロセスを理解するうえで最も重要だと考える。
  • 吹っ切れたリーダーは、フォロワーを導くのではなく、巻き込んでいく。沼を渡ろうと決断するのは自分一人だが、やがてリーダーの背中を見て、人がついてくる。この「振り返ると人がついてきた経験」が、リード・ザ・セルフからリード・ザ・ピープルへの橋渡しとなる。

(2)なぜリーダーシップが必要なのか

  • ヒエラルキーの中では、リーダーシップではなくマネジメントが日常的に機能する。マネジメントをあえて極端に概念化すれば、目標達成や問題解決のために手順を組み、経営資源を配分すると同時に、人員を配置し進捗を監督すること。上位に位置する人が下位に位置する人を権限で統率し、組織を統制していくこと。
  • 企業内でのリーダーシップを測る場合、「指揮系統下にいない応援団がどれだけいるか」を試金石と考えている。「後ろを振り向いたら、嫌々ではなく、喜んでついてくるフォロワーがいますか?」という問いかけによっても、リーダーシップがその場に発生しているかどうかを目に見える形で試すことができる。「喜んでついてくる」を「勝手についてきた」と言い直してもいい
  • リーダーシップとは、リーダーとフォロワーの間でそれぞれの夢がシンクロナイズしていく過程であり、その中でリーダーの夢が全員の夢へと昇華されていく。これに対して、マネジャーの原典には、人を動機づけてその行動を変えていくという側面がある。
  • 「リーダーは想像と変革を扱う」。思い浮かべたリーダーも、時代を画した人物ではないだろうか。これに対し、マネジャーは現状を維持するか、少しずつ漸進的に変えていく。組織の安定性や持続性を維持するためにマネジメントは機能するが、組織の変化を生み出すためにリーダーシップは機能する
  • 英語にはこんな諺がある。「旅を前にして、人は、そんな新しいやり方は非現実的だ、不可能だと言う。旅を終えて、人は、なぜ自分たちがそんなふうに言っていたのかすら不思議に思う」。この諺が語る創造と変革の共通点は、「事前のあまりにも高い不確実性」と「事後には当たり前だと受け入れられる常識性」ということになる。連続ではなく非連続。リーダーシップの旅において、リーダーはこの非連続を飛び越える
  • 会社を変えたい、変えようと努力を繰り返し、結局、何も変わらなかった時、人は「学習性無力感」を抱く。つまり、変革志向のミドルほど無力感を感じやすいわけで、やる気と力のある人、リーダーシップを取ろうとする人ほど疲れ果て、逆に、決められた「やらされ仕事」をこなすだけの人が元気。そんな倒錯した状況が組織の中では起きがち。

(3)旅の一歩を阻むもの

  • 険しいリーダーシップの旅を歩んでいくうえで、周囲からの信用はあった方がいい。多くの場合、旅は一人では歩めない。例えば、背中で見せてついてきてもらうにしても、価値観や感情に訴えて人々を巻き込んでいくにしても、周囲は信用蓄積の度合いを意識し、それによって反応するだろう。たとえ、私自身が信用蓄積など一切気にするつもりがなくてもきっとそうだ。
  • 言いたいことは、初心を忘れないことがいかに困難かということだけ。それに、手段であった信用蓄積が、いつの間にか目的に変わってしまい、かつての夢や志が消え失せていく政治家がいたとしても、誰が笑ったり、批判したりできるだろう。現実に染まっていくのは、政治家だろうか、ジャーナリスト、教育者、ビジネスマン、官僚だろうが、同じなのだから。
  • 何かを達成するための手段だったものが、守るべきものとなり、それ自体に本当に意味があるのかどうかを問う気持ちが薄れるについて、いつしか自分を縛る足かせに変わっていく。蓄積した信用も同じ。貯め込んだものが捨てられなくなると、人は旅への一歩を躊躇してしまう。蓄積した信用は、それを使うためにあるのに、それを守ることが優先順位の上位になってしまう
  • 理論を越えて重要な点は、貯金(貯めた信用)はおろさなければいけないということ。自分が積み重ねてきたものをおろして使う。ある場面においては、それを捨てるぐらいの勇気がなければ、リーダーシップの旅は始まらないし、旅を歩み続けることもできないだろう。周囲からの信用による呪縛と、自分が本当にやりたいことへの思いが葛藤を生む時、リーダーに結果としてなる人は、自らの価値尺度によって決断を行い、その状況を超克しようとする。この超克には、痛みを感じつつも何かを選択する感覚が必ず伴う。
  • 新しいものを創出したり、現状を大きく変えたりするようなチャンス、言い換えれば、リーダーシップにつながる何かが、ふと見つかったとしよう。そのチャンスに今と同じエネルギーをつぎ込めば、何かを実現できたかもしれないのに、そこから意識的に目を背け、忙殺を言い訳にしてしまう。絶えず多忙に追いまくられているにもかかわらず、本当に意義があると思われること、本当に必要だと思われることを、「できる私」が避けて通ってしまう。これがアクティブ・ノンアクションの核心。
  • 「結果としてリーダーになった」人は、この「私が私でいる」という自負が比較的強いのではないだろうか。自分への矜持に近いものだろうか。私には、これが、リーダーシップの旅において重要な役割を果たしているように思えてならない。

(4)旅で磨かれる力

  • リーダーに求められる資質をあえて要素分解するならば、「構想力」「実現力」「意志力」「基軸力」の4つだと考える。中でも重要なのは意志力と基軸力であり、普段はこの2つをまとめて(広義の)基軸力と呼んでいる。
  • やるといったら絶対やる、とことんやる、途中で逃げないというのは、リーダーシップの条件の1つであり、読者の皆さんにはエクスキュート、ルビコンを渡る、あるいは背水の陣、ポイント・オブ・ノーリターンなどの言葉を字面を眺めながら噛みしめてほしい。
  • 私たちは、逃げ道の無い難局に追い込まれると、ギリギリの判断を迫られる。時間的制約がある中で、自身の納得する解を見つけなくてはならず、しかもすべてを取ることはできなくて、何かを捨てざるをえない。葛藤が渦巻き、重圧に押しつぶされそうになる。そんな場面で決断してこそ、自分というもの、自分がよりどころとするものがあぶり出されてくる
  • 修羅場で、私たちは自分と対峙する。対峙するとは、自分には何ができて、何ができないか、何を約束できて、何を約束できないかを明確にせざるをえない状況に追い込まれること。のるかそるかの場面で、出世、自己保身、経済的報酬、プライド、あるいは周囲への配慮、人へのコミットメントといったものの中から、自分にとって必要のないものを、その都度決断しながら捨てていく。そぎ落とし、だけど最低限これだけはどうしても必要だと思われるものが最後に残った時、その人にとって本当に大切なもの、絶対に守るべき価値観が、くっきりと形をもって立ち現れる
  • 難しい話でもなんでもない。戦略的思考とかコミュニケーションスキルを磨く前に、魅力的な人間であること、リーダーシップはこれに尽きると言ってもいいかもしれない。

(5)返礼の旅

  • 利己を否定するところからは、リーダーシップは始まらないし、無私を強調しすぎると、旅は一部の生まれつきの聖人だけが歩めるものとなってしまう。「すごいリーダー幻想」への後戻りだ。ただし、旅を歩む人(結果としてリーダーになる人)の利己が利己で留まる限り、旅はより大きな挑戦につながっていかないし、いつの間にか脇道にそれたり、停滞したり、失速してしまう。
  • 私たちが本当の本当に何かをやりたいと思う時、周囲の人は協力を惜しまない。そして協力を得た時、私たちの中には心境の変化が起きる。自分が前へと突き進めるのは、ついてくれる人たち、サポートしてくれる人たちのおかげだという気持ちがわく。自分が先頭に立つから人がついてくるのではなく、人が後押ししてくれるから自分が先頭に立てる。やっていける。自分が他人を支えているのではなく、他人が自分を支えてくれている。利己と利他は渾然一体となる。
  • 自己中心性とは素直さの表れでもある。ジコチューを徹底的に極め、時に社会から逸脱した行動を取るように見える人は、何事かを成し遂げた時、旅における新たな岐路に立つ。その岐路に置いて、人とのふれあいなどを通じて素直さをさらに発展させ、社会性を帯びていく人と、ジコチューにとどまった人とに分かれていく。
  • 人は旅を始め、続けていくうちに、いつ振り返っても人がついてきてくれる経験をし、自分の夢がみんなの夢になるプロセスの中で、利他性や社会性に目覚め、責務感を身につけていく。「すごい人」だから身につけるのではなく、身につけなければ、旅を続けられないから、自然に人間が磨かれていく
  • 20年、30年と旅を続け、その旅が終わりにさしかかった頃、「すごい人」になったリーダーを私たちは目の当たりにする。しかし、その時点でのリーダーのありように目を奪われ、「自分にはとてもできない」「自分には関係ない」と思ってしまうと、リーダーシップは私たちの手のひらから、再びポロリとこぼれ落ちてしまう。「リーダーシップの旅」という名の映画はたっぷり2時間ある。ラスト10分を観るだけでは映画の意味はわからないし、ラストシーンがすべてであるはずがない

3.教訓

本書を読んで、単に役職上や名目上の表示にかかわらず、どんな人がリーダーなのか、リーダーシップとは何なのか、深く理解することができました。

ただ理解できるようになったのも、自分が一定のシステム開発のプロジェクトリーダーや、本書でいうマネジャーの経験をしたからであって、無役職で経験が浅いときの自分が読んだと仮定して、今回ほど腹落ちしたのかは正直わからないという感覚もあります。

でも、そのような時期(例えば本書発売当初の2007年)の自分に対しても、本書は将来のために絶対読んだほうがいい、と言うのは間違いないと思います。

組織運営としてうまくやれるマネジャーになりたいという方よりも、現状を改善するためにリーダーシップを発揮したいと考えている方には、本当に良書なので、ぜひ手に取って全体を読んでいただければと思います。