管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う 坂本貴志 著

1.はじめに

本書では、定年後とは、働くのを完全にやめてから、ではなくて「60歳以降」を指しています。

そのため就業していない人ではなく、再雇用として元の職場で働いている人や、シルバー人材センター経由で別の職に就いている人々の話が中心となっています。

公表データから見た加齢に伴う変化に関する15の事実や、64歳~77歳の男女7人のインタビューから、意外とわかっていないシルバーライフを読者に伝えてくれます。

2.内容

(1)定年後の仕事「15の事実」

  • 60代後半の収入の平均額は256万円まで下がり、上位25%所得は300万円、中央値が180万円まで下がる。定年後の就業者の収入の実態を探っていくと、300万円以下の人が大半であることがわかる。
  • 収入の平均値やその分布は、就業者を分母として算出される。このため、当然であるが非就業者は算定の対象外になる。定年後は非就業となる人、つまり収入がゼロになる人が多くいるため、高年齢者全体である程度の収入を得る人は非常に少ないのが実情
  • 高齢になれば収入が減ることで所得税や住民税が大幅に減額になり、年金保険についてはそもそも保険料を支払う側から年金給付を受け取る側になる。さらに教育費や住宅費以外の項目に関しても、支出額は定年前後以降に緩やかに減少する。子供が独立し世帯人数が減少することなどから、幅広い項目で費用が縮減する。
  • 壮年期には世帯で月60万円ほどの額が必要とされる労働収入であるが、定年後は年金に加えて月10万円ほど労働収入があれば家計は十分に回る。月10万円稼ぐには、時給1000円の仕事に就くのであれば、月100時間働く必要がある。週4日勤務で1日6時間。そこまで稼げれば平均的な世帯と比べても十分に裕福な暮らしができるのが現実。
  • 思いもかけず短命に終わった場合は、年金の受給年齢の繰り下げは結果としては損につながる。しかし、公的年金もあくまで保険である以上、これを損だと嘆いても始まらない。リスクを最小化し、高齢期に安心して暮らせるために、働けるうちは働いて年金は働けなくなったときのために残しておくという選択肢は、多くの人がもっと積極的に検討してもいいと思う。
  • 職業人生の最後の瞬間まで高い役職を維持し続けるのは困難であり、生涯現役時代においては、キャリアのどこかの段階でポストオフに直面することを、誰しもがキャリアの大前提として考えなければならない。役職に就きながらただ漫然と現場で利益を生み出す社員を傍観していれば許されるというような働き方は、もはや通用しなくなる。若手の離職を防ぐ観点からも1プレイヤーとして中高年齢者に活躍してもらう重要性はますます高まっている。
  • 契約社員やパート・アルバイトという就業の選択肢を選ぶことで、自身のストレスがない範囲で日々の生活のために無理なく稼ぐことができるのであれば、むしろ定年後においてはそういった選択肢は好ましいものになる。また、仮に第一線で働くまでの意欲は持てなかったとしても、自身がいまできる範囲で世の中に貢献していこうという気持ちは社会的にも応援されてしかるべき
  • 中高年者の転職活動に民間職業紹介所が必要な役割を果たせていないのは、当然それがビジネスになりにくいから。中高年者の転職は、受入企業の姿勢や求職者の意識に課題があるケースが多く見受けられ、就職先の決定までに多くの時間を要する。また、決定しても30代や40代のような高額な報酬は望みにくく、ビジネス効率が悪くなってしまう。結果としてマーケット自体がうまく機能しておらず、転職市場全体を通じた大きな課題となっている。
  • 仕事において成長を続けることは好ましいこと。しかし、何事もそのためのコストと便益とを比較考量したうえで人生の選択をしていく必要がある。そう考えれば、定年後においても成長し続けるキャリアを追い求め続ける働き方を選ぶことは、必ずしもすべての職業人の至上命題とはならないと思う。
  • 人の能力というのはどうがんばって計測を試みたところでつまるところはわからない。だから多くの人は企業の処遇に不信感を持つのであり、それは企業活動を営む上での必然でもある。一般的には、人は精神的な安定のためにも、自身の能力に対して過大な評価をする傾向があるともいわれる。
  • 年齢を重ねるにつれて自身の能力に対する自己評価が下がっていくことは、重要な事実。このデータは、多くの人にとって、仕事に関する能力は生涯にわたって伸び続けるわけではないことを示唆している。
  • 多くの人は、定年後に仕事に関する能力と負荷の緩やかな低下を感じながらも、結果的にその関係性に納得感を抱き、満足して働いているという事実。そして、たとえ小さい仕事であっても、今ある仕事に確かな意義を見出せたとき人は充実感を持って働ける
  • 多くの人が仕事に対する希望に満ち溢れていた20代から、人は徐々に仕事に対して積極的に意義を見出さなくなっていく。そして、落ち込みの谷が最も深いのが50代前半。この年齢になるとこれまで価値の源泉であった「高い収入や栄誉」の因子得点もマイナスとなり、自分がなぜ今の仕事をしているのか、その価値を見失ってしまう。定年が迫り、役職定年を迎える頃、これからの職業人生において何を目標にしていけばいいのか迷う経験をする人は少なくない
  • 他者との競争に打ち勝ち、キャリアの高みを目指したいという考え方をどのようにしてあきらめることができるのか。それが定年後に幸せな生活を送れるかどうかを大きく左右する。
  • 定年後の仕事を考えるうえで最も重要なことは、いかにして社会で通用する高い専門性を見つけるかにあるわけではない。また、競争に勝ち残り、人に誇れるような仕事に就き続けることにあるわけでもない。定年後に豊かな仕事を行えるかどうかを決めるのは、この定年前後の意識の断絶をいかに乗り越えるかにあると考える。

(2)「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで

  • 定年前後の価値観の変化は、雇用形態が正社員から非正規社員に変わる定年時よりも、その前の40代から50代のときの経験が影響しているケースが比較的多くみられる。この時期に、典型的には組織内でステップアップしていく過程で仕事について悩む経験をする。同時に、高い業績を残し続けながら出世レースを駆け上がっていく道に行き詰まりを感じる。定年後に豊かに働き続けている人に現役時代の仕事を振り返ってもらったとき、多くの人が語るのはまさにこの時の経験
  • 定年後のキャリアでは、定年前のキャリアで培った狭義の専門性を直接活かせる仕事に就くことに必ずしも執着しなくてもよいことがわかる。また、定年後は人が羨むような大きな仕事にもはや固執しなくてもよいということがうかがいしれる。
  • 定年前後の仕事のギャップは、高い役職に就いていた人ほど大きくなる。しかし、管理職として働いていた人たちは、様々な利害経験者との調整を行った過去の経験から、どのように働きかければ人は動くのか、どのように自身の感情をコントロールすれば周囲と摩擦を起こさずに物事を進めていけるかなどを経験的に学んでいる。これらの経験をうまく活かすことで、定年後の仕事で成功している人も多く存在している。
  • 定年後に幸せに働き続けるための要件としてあげたいのは、利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事である。孤独は人の幸福度を下げると言われているように、生活を営む上で人とつながることは重要。この点、定年後の人たちにとって、仕事を通じて人とのつながりを持てることは、幸せに生活していくうえで重要な要素となっている。
  • 定年後の仕事をこれまでのキャリアの延長線上で考えることは適切ではない。現在の家計の状況を踏まえつつ、かつ現役時代の仕事を通じて形成されてきた先入観や社会通念にとらわれず、自分自身の現在の幸せにかなう仕事を選んでいくことが大切。

(3)「小さな仕事」の積み上げ経済

  • 生涯現役が求められる現代において、多くの人のキャリアは拡張するだけのものではなくなる。こうした現実は必ずしも前向きなものではない。ただ、転機に向き合うのがつらいからといってそれを避けていれば、自身を取り巻く環境変化に対して適切に対処することはできなくなってしまう。
  • 転機は往々にしてつらいもの。しかし、そこに正面から向き合わなければ、前には進めない。そして、自身の転機に向き合ったそのあとに、仕事を心から楽しめる瞬間が訪れるのだということを、多くの人に気づいてほしいと思う。
  • これまでの日本社会は、高齢期に働かないでも豊かに暮らせるための社会保障制度をいかに充実させるかということに、政府も個人も腐心しすぎてきたのかもしれない。残念ながらこれからの時代においては、働かないで豊かに暮らしたいという人々の願いの中に、持続可能な解は見いだせない。
  • そうであれば、高齢期に働き続けてもなお幸せな生活を送ることができる社会を目指すという方向性が、現代社会における現実的な答えになるのだろう。そのためには、たとえ小さな仕事であっても、自身ができる範囲で働き続けたいと考える人を政策的に支援することは何より重要となる。

3.教訓

読書前は、”さみしい老後の現実をある程度覚悟しておいてね”、という内容と想像して読み始めましたが、手取りも責任も減っていき、縮小均衡していくこともそんなに悪くないな、と思わせてくれる内容でした。

何についても知らないことが一番怖くて、ある程度の中身を想像できれば「そんなものかな」と思うことができます。まだ役職定年は数年先ですが、この時点で少し先の未来を感覚としてつかんでおくことはすごく勉強になったと感じています。

自身の父親も、定年退職後に、つい最近まで15年間ほど交通指導員などをやっていました。たいした収入にはなっていなかったようですが、交通祈願の研修旅行にいったり、緩いつながりを持つことはいい生活リズムになっていたと思います。

私もあまり気負わずに、趣味や交流に今から少しずつでいいので意識を向け、自然体で老後を迎えられるようになれたらいいなと考えています。