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ウーダループ OODA LOOP チェット・リチャーズ著 原田 勉 訳・解説

1.はじめに

個人的に2023年GWの課題図書としていました。

原著のタイトルは”CERTAIN TO WIN"、すなわち、「確実に勝つ」です。冒頭の日本語版への序文のなかでも、数回「確実に勝つ」という表現が登場します。

その後、本文では、本ブログの目次のとおり、”OODAループ"そのものの内容が主になっていて、そちらが日本語タイトルになるのは自然な感じがします。

また本書は2019年に発行されていますが、原著が発刊されたのは2004年であり、少し記載されている実例は古いものとなっていたり、解雇権を持ち出せるアメリカの話なので、そっくりそのまま受け止めるのは難しい面もあります。それでもOODAループの本質がよくわかり、訳者解説を読めばPDCAサイクルとの違いも明確になります。

なお、6章と7章は、新製品・新サービスの開発や、経営企画・マーケティングに寄った内容となっているように感じたので、当該箇所を除いた中から印象的だった内容を以下で抜粋します。

2.内容

(1)強い者が戦いに勝つとは限らない

  • 電撃戦の戦略の目的は、混沌とした状況に対処することにあるのではなく、むしろそれを敵側に生じさせ、それを利用することにあった。パニックとカオスが段階的に増大していく事実こそが、ドイツ軍の「幸運の連鎖」を説明する。
  • 戦争とビジネスという2つの異なった領域における人間同士のコンフリクトのなかで、スピードを有効活用することにより、規模や技術などの敵側の物理的な優位性を相殺し、最終的には無力化することができる

(2)目に見える数字だけでは最悪の結果を招く

  • アジリティ(機敏性)が勝利へと導く。アジリティとは、外部の世界で起こっている目まぐるしい環境変化に即応して、自らの方向性(大雑把にいえば、進むべき道のようなもの)を変化させる能力を意味する。
  • 組織のなかに失敗ばかりで十分な成果をあげられていないごく一部の従業員がいたとしたら、おそらく彼ら自身の責任である。話し合い、場合によってはほかの職務に異動させる必要がある。うまくいかなければ解雇しなければならないだろう。しかし、そのような従業員が全体の10%以上となれば、それはシステムの問題であり、システムを修正し改善することに注力しなければならない。
  • モデルは定量化できるものだけを取り扱うにすぎず、指揮能力や訓練、驚愕、疲弊などの決定的に重要な要因は捨象される。従来型の思考で取り上げるのは難しいが、戦略思想家が主張する「ソフト」の決定的な効果により勝利がもたらされる。

(3)OODAループ 勝つべくして勝つための最強ツール

  • 人間、思考、兵器、この順序を守れ」。重要なのは、規模に劣った組織が決して低くない確率で勝つという事実。
  • 1940年の電撃戦の成功の源泉は、人間に対するドイツ軍のシステムにあった。それは技術的というよりも、文化的なものであった。文化は組織文化の意味合いであって国の特性という意味ではない。ドイツ軍が成功した主要因は以下4属性。
  1. 相互信頼:一体感、結束力
  2. 皮膚感覚:複雑で潜在的に混沌とした状況に対する直観的な感覚
  3. リーダーシップ契約:現場の主導性を高めるミッション(一般に上官と部下との間の契約)
  4. 焦点と方向性:オペレーションを完遂するためのぶれない軸
  • ドイツ軍の組織文化は、兵士を、戦争の恐怖とカオスのなかでさえ、自発的に行動するように促す。この組織文化のなかでは、相互信頼や皮膚感覚の原則は、詳細で文書化された指図ではなく、暗黙的なコミュニケーションをより重視する。最大のリスクは時間のロスであり、文書化して伝えていたとすれば、あらゆる攻撃は後れを取っていただろう。
  • 敵よりも高速で作戦を遂行し、心理的影響を及ぼすというアイデアは、「大きければ(あるいは金がかかっていれば)よいことだ」という規模偏重症候群から抜け出す道を提示している。指揮命令系統が乱れ官僚化しているとき、どれほどの大量の兵器が用意されていたとしても戦闘が始まる前に既に敗北していることになる。
  • コンフリクト(競争・対立)に参加するものは、次の4つの特徴的な、しかし必ずしも完全には分割することのできない活動に従事しなければならない。
  1. 観察(Observe):環境を観察しなければならない。環境には自分自身や敵、あるいはその物理的、心理的、精神的状況、潜在的な敵味方が含まれる。
  2. 情勢判断(Orient):観察したものすべてが何を意味するのかについて情勢判断し、自らを方向付けなければならない。
  3. 意思決定(Decide):ある種の決定を行わなければならない。
  4. 行動(Act):その決定を実行に移さなければ、つまり行動しなければならない。
  • 情報やアイデア流入を制限するものはどのようなものであっても、いま生じている事態に対する考えと事実の間に不適合(方向性の喪失)を生み出す。その結果、不適合の発見(したがって、その改善)にも手間取ることになる。
  • OODAループの最終版には「暗黙の誘導・統制」という矢印がある。それが意味するのは、大部分の意思決定は、暗黙的であり、かつそうであるべきだということ。多くの場合、明示的な意思決定の必要はなく、情勢判断が直接、行動を統制する。(最終版の図は以下の東洋経済ONLINEをご参照)

toyokeizai.net

  • 競争や戦闘のストレスのなかで硬直した方向性こそが、OODAループの回転を遅らせ、自らの行動を敵にとって突発的で予期できないものではなく、予測可能なものにしてしまう。

(4)OODAループはビジネスに何をもたらすのか

  • 戦争においては、技術は勝者を決める決定的な要因ではない。一方、戦略はしばしば勝負を制する要因となる。したがって、勝利する兵は、最初に勝ち、それから戦場に赴く。一方、負ける兵は、最初に戦場に行き、そこで勝利を模索する。
  • あなたの究極的な目的は、威嚇的で混乱に満ちた世界を生き残ること。囚人や捕虜も生き残る。あなたの目的は、自ら望むように生き残ることであり、「打ち勝つ」こと。したがって、勝利するためには生き残ること以上の約束が必要。
  • 計画とは、現状から将来あるべき姿へと到着するための方法についての意図のこと。戦略とは、計画を策定し管理するためのより高次な概念的装置のこと。
  • どのような戦略であれその最も基本的な関心事は、脅威に満ち、混乱した環境のなかで、自ら望むように生き残ることができる能力を高めることにある。企業や軍隊はともに人間集団であり、戦略はこの世界に対処しようと試みる各個人の努力の調整装置でなければならない。戦略は事実ではなく意図から構成される
  • 最強のチェスプレイヤーが最初に指す。対戦相手が1手指すたびに、あなたは2手指すことができると改定する。ほぼすべての駒を落としたとしても、依然として勝つことができるだろう。これは、規模の小さな組織が、OODAループを用いて、いかに大きな量的不利を克服することができるのかを描写している。多くの駒を落とした小部隊であっても、スピードで勝っていれば勝負に勝つことができる。
  • 戦略が機能している例
  1. 競争相手の社員の離職率が高い。
  2. 競争相手がしばしば経費削減という名の下に、より厳格で明確な統制システムを含む「X理論」のマネジメントスタイルを取るようになる。
  3. 競争相手が「問題の原因」を明らかにするため、魔女狩りやそのほかの内部調査を立ち上げる。
  • 戦略の原則では、過去に生じた問題を是正するために、新たな特徴が戦略に次々と加えられていく堆積作用が始まれば、その戦略すべてを投げ出し、新たにもう一度やり直したほうがよい。

(5)OODAループを高速で回すための組織文化

①組織文化1:相互信頼を醸成している
  • 単純にいえば、相互信頼はOODAループのスピードを上げることになる。なぜか。まず、それはチームメンバー間で文書化する必要性がほとんどない暗黙的コミュニケーションを可能にするから。明らかに、人は書くことよりもこの方法で素早く意思疎通を図ることができる。
  • 情報の宝庫は瞬時に伝達される。ただし、それは暗黙的でしかない。他方、明示的な方法は、コミュニケーションのためではなく、文書化するために利用される。それは知らせるためではなく、自分自身を守るために使われる。文書化しようとする組織にいたとき、あなたは信頼についてあまり意識することはなかったのではないだろうか。
  • ホワイトカラーの仕事に就く大半の者にとって相互信頼に対する最大の脅威は、細部にわたって過剰に管理するマイクロマネジャー。部下はしばらくすると、自発性や仕事に対するプライドはズタズタにされてしまうだろう。「なぜわざわざこんなことをする必要があるのだ。いずれにしても上司がそれを変えてしまうだろう」といった具合。
②組織文化2:直感的能力を活用している
  • ポイントは、直感的能力の限界を拡張し、時間を要する明示的意思決定プロセスのいかなる場合でも減少させること。直感的能力を活用し、迅速な心的シミュレーションを行うことに費やす時間の割合を、可能な限り100%に近づけることに努力を傾注すべき。この水準に達すれば、他社から見れば騙しているように映る。
  • 複雑な状況に直面する都度、スキルを使い、ストレスが大きく解も明確でない状況に対する直感的な感覚を研ぎ澄ます。個人の技量を磨き、グループとしても訓練する。その結果、一体感、相互信頼の情勢が可能になり、暗黙的コミュニケーションが促進されることになる。
  • スペシャリストとストラテジストは異なる。日々、職場で同じことを16時間繰り返しているだけなら、仕事中毒になるのが関の山(そしてマイクロマネジャーになる確率も高い)。そのこと自体から、敵対的状況の中で有益な直感的能力が身につくわけでは決してない。
③組織文化3:リーダーシップ契約を実行している
  • 互いに合意を得られた理解、すなわち一種の契約は、社員の責任感を高めるのに素晴らしい手法。不本意ながら同意するのではなく、熟慮思案し、合意に至る。したがって士気が高まり忠誠度も改善される。もちろん、これらすべては相互信頼や暗黙的コミュニケーションを強化する。OODAループのスピードを上げる重要な要素になる。
  • 「実行するか、死か」という性質を補うために、部下は上司に対して絶えず報告しなければならない。信頼や一体感が適切な水準にまで高められていると、これらの報告は短く簡潔であり、上司は業務の進捗状況の全体像を容易に把握することができる。コミュニケーションとは、命令とコントロールボトムアップの側面
  • ミッションを重視した環境を整えるのに決まりきった方法はなく、本来、トップダウン型戦略とは相容れない。それに代わり、この概念の本質をなす、部下への責任と権限の全面的な移譲を行うべき。それと引き換えに、部下は自らの自発性や創造性を駆使し、基本原則と整合的な形でタスクを達成することに合意する。
  • 職務達成の方法(How)については決して指示してはいけない。方法について語ることが少なければ少ないほど、望ましいといえる。部下がミッションを達成する方法を思いつくか、達成できるかについて強い確信が持てなければ、そもそみそのミッションを打診するべきではない。数分間、2人で話し合い、何をしなければならないのかについて思いを共有できているかどうか確かめる必要がある。
④組織文化4:焦点と方向性を与えている
  • 一度、焦点が明示されれば、部下たちは主導権を発揮して迅速な意思決定を下し、彼らの行動が組織全体で実施すべき方向性に合致するように調整する。もちろん、リーダーは作戦遂行中に創出された新たな機会を享受すべく、焦点をシフトさせることができる。ある意味、焦点は「何をするべきか」を識別する役割を果たし、ミッション契約は権限委譲を行う機能を担っている
  • 焦点と方向性は、いかに獲得するかではなく、実行するか否かの問題。焦点と方向性を設定し、状況に応じてそれを変えることができるリーダー(マネジャーと書いていない点に留意)の果たすべき機能。指示書に部下に焦点と方向性を与え、自発的行動をとるように奨励している箇所が見つかるだろうか。
⑤組織文化を構築する
  • 機動コンフリクトに対処し、OODAループを高速で回すためのマネジメントには、どのような人的組織であっても、次の2つの本質的な要素が必要。
  1. リーダーシップ:共有されていない目的に向かって熱意を持って行動を起こすように人々を鼓舞する技法を含む。システムに働きかけ、なすべきことを実現するために、システムの特徴や性質自体をも変革していかなければならない。
  2. 評価:絶対的価値や相対的価値、明確な知覚、理解、把握、洞察など。ここではシステムに働きかけたり、介入したりしてはいけない。システムの実情や課題の特徴、性質については理解していなければならない。
  • 「評価」の定義を注意深く読めば、正式な報告ルート以外で、組織の健全度や進展を感知するためのメカニズムを構築しなければならないことがわかるだろう。観察することで組織がそれに反応することのないように配慮する。そうでなければ、観察は意味のないものになる。組織は評価に反応して取り繕うようになる。
  • あらゆる組織のなかには実行者と点検者がいる。新たな組織には点検者はほとんどいらない。しかし、かれれが別の職場に異動したとしても、再び点検を始めることになるだろう。リーダーシップや評価を通じてあらゆる階層で組織文化を改善し続け、抵抗勢力を排除し、実践者を昇進させ、全員が学び実験し、知識や経験を共有する
  • 種が蒔かれ、気候や土壌条件に恵まれれば、システムは自生的に育つ。庭師は設計し、植物の条件をチェックし、常に植物が成長するための条件が可能なかぎり望ましいものになるように世話しなければならない。一瞬でも世話を怠ると、すべてが台無しになるかもしれない。そして、最も重要なのは、どれくらい伸びたかにかかわらず、雑草は必ず引き抜くということ

(6)訳者解説 いま、なぜOODAループなのか

  • OODAループはPDCAサイクルとは対極的なものであり、両者の使い分けとバランスが大事であるにもかかわらず、実務ではPDCAサイクルが偏重される傾向が強い。特に、PDCAサイクルの中で計画(Plan)が重視され、そこに時間をかけるあまり、適切なタイミングを逸するという弊害も見られる。
  • PDCAサイクルの呪縛の下では、砂上の楼閣を準備し、上司や関係者にプレゼンしなければならない。上司が有能であればあるほど、砂上の楼閣は突っ込みどころ満載であり、プレゼンターはあえなく撃沈する。結果、新しい動きはすべて組織内で抹殺される。OODAループが有用なのは、不確実性が高く情報の信頼性も低い領域であり、そこでは計画から入るのではなく、まずは観察が重要になる。
  • PDCAサイクルがどちらかとしては演繹的アプローチであるとすれば、OODAループは機能的ないしは仮説形成的なアプローチになる。まずは事実の観察(Observe)が出発点になり、そこから何らかの判断をし(Orient)、決断し(Decide)、行動に移す(Act)。PDCAサイクルは計画(Plan)が重視されるのに対し、OODAループでは特にビッグOと呼ばれる情勢判断(Orient)が鍵となる。
  • PDCAサイクルは計画を緻密に行う事前対応、OODAループは計画ではなく事実を観察したうえでの対応、すなわち事後対応を重視する。したがって、扱うデータは、PDCAサイクルでは予測データが主になるのに対し、OODAループの場合は事実データが問題になる。そしてタスク遂行に要求される専門性やタスクの特殊性は、OODAループの適用領域のほうが高い傾向にある。専門性と特殊性が高いからこそ、適切な知識、経験がある現場の担当者に判断を一任する。
  • OODAは必ずしもループではない。段階的、逐次的なプロセスではなく、同時並行的なプロセスであり、そこでは直観や暗黙的コミュニケーションが重要な役割を果たす。正解の無いなかで解を探すためには試行錯誤が不可欠であり、このような試行錯誤が促進されるのは形式的、段階的なPDCAサイクルではなく、暗黙的、同時並行的なOODAループになる。
  • PDCAサイクルは不確実性が低く、定型的な業務では必須のもの。一方、不確実性が高く、非定型業務ではOODAループのほうが望ましい。マネジャーとは担当するPDCAサイクルの責任者、変革型リーダーとは管轄下にあるOODAループの責任者であると整理することができる。
  • OODAループを単なる仕組み、ハウツーとしてだけ捉えたとすれば、その本質を見逃したことになる。できるだけ戦いを避けるという不争の徳であり、無の働き、勢いの流れ(それはしばしば心理的な勢いとなる)に逆らわずに従うということ、そしてその勢いの方向性を有利な方向に展開するように、形を通じて間接的に働きかけるということ。

3.教訓

巻末の訳者解説だけで38ページあり、そこまで読み込むことでOODAループとPDCAサイクルの違いについて日本人向けに理解できるようになっています。

本文中では、これだけ見える化暗黙知形式知が叫ばれているなか、以心伝心や阿吽の呼吸が推奨されているので、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。

しかし、理解が進むについてどちらか一方が優れているというのではなく、状況や場面によって使い分けることの重要性がわかるようになりました。

たとえば今、とある業務ではBCP的に複線化・多役化の推進を担う一方で、別の業務では新システムへの移行・ペーパレス化を、同時並行的に進めています。

前者では、まずは現担当者がミスをしないで同一反復作業を短時間で対応できる仕組み作りが求められます。こちらは、過去の実績から、いつどれだけの件数のオペレーションが発生するかわかっています。それにどのような体制・方策で臨むかを決めて定点的に結果を振り返り次回につなげていく形なので、PDCAサイクルが適しています。

一方で後者は、どの程度システムの仕様を要求するか、オペレーションの集約や担い手変革の仕方によってどこまでの効果が生み出せるか不透明な面があります。また、プロジェクトのため、開発スケジュールやリリース時期が決まっていて、各マイルストーンに向けて短期間で意思決定し進めていく必要があります。そこで、細かい部分までいちいち部門長まで判断を仰いでいたら、時間は全く足りません。時には考慮漏れだったり、工数不足に見舞われ、修正を余儀なくされることもあります。

ここで重要なのは、メンバー全員にゴールイメージが共有されていて、意識統一ができていると、「では次に何をしたらよいか」を口に出さなくてもメンバー間で自発的にスピード感を持って軌道修正ができることだと思います。それがOODAループの主眼で、目的があいまいだったり、単に言わなくても「察してほしい」だったり、リーダーがそう言ったからだったりとは真逆の世界観です。以下の「失敗の本質」が言わんとする内容に通じるものがあると感じました。

bookreviews.hatenadiary.com

フレームワークについて、単に知っている、使い分け方を理解している、というだけでは足りません。メンバーとの相互信頼がなければならず、マイクロマネジメントせずに権限移譲して自発的行動を促すという、心持ちのほうがむしろ重要だと感じました。

文書化して再現性を持たせることの重要性を認識しつつ、言わなくてもわかる世界観をどうチームで作り出していくかを考えていきたいと思います。