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言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか 今井むつみ 秋田喜美 著

1.はじめに

認知科学者である今井むつみさんと、言語学者である秋田喜美さんの共著です。

言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの起源にせまる

 

本書のなかに「もこ もこもこ」が紹介されています。

擬態語や擬音語、いわゆる「オノマトペ」だけで文字構成された絵本です。

もう手放してしまいましたが、子どもが小さいときにはよく読み聞かせしていました。

当時は自分も楽しくて読んでいましたが、うちの子どもたちの成長の一部にプラスに作用したのかなと感慨深く思います。

いつもは印象的だったところを引用していますが、今回は勉強になったと思うところを以下に引用していきたいと思います。

2.内容

(1)オノマトペとは何か

  • 一般に、オノマトペはその言語の母語話者にはしっくりくる。まさに感覚経験を写し取っているように感じられる。ところが、非母語話者には必ずしもわかりやすいとは限らない。実際、日本語のオノマトペは、外国人留学生が日本語を学ぶ際の頭痛のタネになっている。
  • 感覚を写し取っているはずなのに、なぜ非母語話者には理解が難しいのか。「感覚を写し取る」というのはそもそもどういうことなのか。この問題は、オノマトペの性質を理解するうえでとても重要。同時にこれは、オノマトペの問題にとどまらず、アートをはじめとしたすべての表現媒体において問われる深い問い。

(2)アイコン性ー形式と意味の類似性

  • 日本語のオノマトペはとりわけ整然とした音象徴の体系を持つ。すぐに思い浮かぶのは、いわゆる「清濁」の音象徴だろう。「コロコロ」よりも「ゴロゴロ」は大きくて重い物体が転がる様子を示す。「サラサラ」よりも「ザラザラ」は荒くて不快な手触りを表す。gやzやdのような濁音の子音は程度が大きいことを表し、マイナスのニュアンスが伴いやすい
  • 音象徴における音の使われ方、とくに音の対比のされ方には、言語の間で多様性がある。このことは、音象徴が言語現象であることを如実に示している。音象徴から生じる以上、各言語の音韻体系に制約されているのは当然

(3)オノマトペは言語か

  • 言語に多義語が多いのには理由がある。すべての意味について異なる形式が存在していたら、意味の数だけ形式を覚えなければならないことになる。たとえば、コーヒーの濃さを表すのに、すでに<強い>という意味で用いているstrongという形式が使えない。したがって新しい単語が必要になる。新たな別の形式を覚えなければならないことになり、非常に効率が悪い
  • 「ワンワン」や「バウワウ」がことばであって、音選びに完全な必然性がないために言語間で音選びが異なると考えることもできる。実際、万国共通のオノマトペはただの1つも存在しない。すなわち、オノマトペはアイコン的でありながらも、恣意性と呼べる特徴も持っているわけである。

(4)子どもの言語習得1 オノマトペ

  • 「ガヴァガーイ問題」:まったく知らない言語をはなす原住民が野原を跳びはねていくウサギのほうを指差して、「カヴァガーイ」と叫んだ。直感的には<ウサギ>」だと思う。しかし原住民は<野原を駆け抜ける小動物>を言ったのかもしれない。<白いふわふわした毛に覆われた動物>かもしれないし、<白い毛>なのかもしれない。あるいは<ウサギの肉>という意味だったかもしれない。1つの指示対象から、一般化できる可能性はほぼ無限にある。この問題は、ことばを学習する子どもたちが常に直面する問題。
  • 人物に注目するのか、動き方に注目するのか、移動する方向に注目するのかという曖昧性のある中で、オノマトペの音は子どもに、どの要素に注目すべきかを自然に教える。オノマトペには音と動作の対応があるので、一般化の基準となる意味のコアをつかむ手助けとなる。
  • 「切る」のように、音と意味の関係がわかりにくいと、<ハサミなどの刃物で対象を分断する>意味から、電気や電源を切ったり、期限を切ったりする意味への関係性がわかりにくく、子どもや外国の日本語学習者は戸惑うだろう。しかし「コロコロ」だと、その音から軽い、丸いというイメージを持ちやすいので、かなり離れた意味もなんとなくわかる感じがする
  • オノマトペは言語のミニワールド。一般的なことばと同じように、語根に接辞がついて意味が変化する。絵本の中でオノマトペは豊富に使われる。絵本を読んでもらいながら、子供は軸となる要素につく小さい要素がいろいろあることに気づく。ことばは要素の組み合わせで構成されることに気づき、大きな塊から小さい要素を抽出してその意味を考える。絵本で多用されるオノマトペから、単語の意味だけでなく文法的な意味を考える練習もしている

(5)言語の進化

  • 直感的に考えれば、子どもは少なくとも自分に向けられた「愛」については、「愛」という語を知らなくても理解できる。自然言語処理システムに、「愛」の定義をことばで与えたら(辞書の語釈をインプットする等)、機械は「愛」の意味を理解できるだろうか?
  • 「ふく」は「フー」という擬音語をもとに作られた語。「はたらく」も「ハタハタ」というオノマトペを語源に持つとされる。「ヒヨコ」は「ヒヨヒヨ」にかわいいものにつける接辞である「コ」をつけた。これらの事例は、私たちが一般語と思っていることばの多くが、もともとは対象の模倣であるオノマトペに由来する可能性を示唆する。
  • 多くのオノマトペのアイコン性は、特定の言語コミュニティの中で対象の持つ複数の特徴の中から選ばれ、見出されたもの。だからその言語コミュニティの話者は、そのオノマトペに対して強いアイコン性を感じる。しかしコミュニティ外の人間には、それほどのアイコン性は感じられない。
  • ことばを使うとき、脳はピンポイントで想起したい単語を1つだけ想起するわけではない。似た意味で似た音を持つライバルの単語が多数あったら、情報処理の負荷は非常に重くなってしまう。想起にかかるスピードが遅くなるだけでなく、言い間違い、聞き間違いも多く起こるようになる。音と意味のつながりのないほうが、情報処理に有利なこともある。
  • 日本語で「ぺちゃくちゃ話す」「ひそひそ話す」「キャーキャー言う」のように表現するところを、英語ではchatter, whisper, screamのように一語で表現し、様態情報は動詞の意味に組み込まれている。「ぺちゃくちゃ」とchatterの「チャ」も同種の音だが、英語の場合、動作の様態が動詞の中に入ってしまっているので、そのアイコン性に気づきにくく、オノマトペとも捉えられない。

(6)子どもの言語習得2 アブダクション推論篇

  • 言語習得とは、推論によって知識を増やしながら、同時に「学習の仕方」自体も学習し、洗練させていく、自律的に成長し続けるプロセス。
  • 学習は「経験の丸暗記」によるものではなく、「推論」というステップを経たもの

(7)ヒトと動物を分かつもの 推論と思考バイアス

  • たとえば、「コップ」ということばを知っていて、「ハニーディッパー」ということばは知らない子どもでも、コップとハニーディッパーが目の前にある状況で「ハニーディッパーを取って」と言われたら、躊躇せずハニーディッパーを手渡す。子どもでも未知の名前は自分が名前を知らないほうのモノの名前だと思う。これを相互排他性バイアスという。
  • ヒトは、居住地を全世界に広げ、非常に多様な場所に生息してきた。未知の脅威には、新しい知識で立ち向かう必要があった。この必要性を考えれば、たとえ間違いを含む可能性があってもそれなりにうまく働くルールを新たにつくること、すなわちアブダクション推論を続けることは、生活に欠かせないものであった。

apricot-meow.com

  • 人間はあることを知ると、その知識を過剰に一般化する。ことばを覚えると、ごく自然に換喩・隠喩を駆使して、意味を拡張する。ある現象を観察すると、そこからパターンを抽出し、未来を予測する。それだけではなく、すでに起こったことに訴求し、因果の説明を求める。これらはみなアブダクション推論。人間にとってアブダクション推論は最も自然な思考であり、生存に欠かせない武器。

3.教訓

オノマトペを含む言葉選びを、正直そこまで考えたことがありませんでした。そして、オノマトペというと、往年の野球ファンなら、長嶋茂雄さんを思い起す人もいるかと思います。

video.mainichi.jp

「長嶋さんほどの天才だからこそわかる感覚であって、凡人には理解できない」と考える人もいるかもしれません。しかし、では一連のスイングについて、自身が感じていることを一語一語正確な日本語に文章として落とし、それを読み上げたところで相手が理解できるようになるかというと、そんなことはないと思います。

toyokeizai.net

いわゆる「畳の上の水練」であって、いくら理屈だけが頭でわかったところで、実際の場面で活かすことができなければ、何の価値もないということです。このことは、単にスポーツだけの世界ではなく、仕事でも同じだと考えています。

例えば、「100点にしてから提出しようと思わずに、60点くらいのものでいいから早めに見せて」と伝えても、最初は何が100点で何が60点かの感覚はわからないと思います。そこで、「そんなこと言われても自分には60点がわからない。60点かどうかはあなたが決めること。」と考えるのか、「いったんこれくらいの状態で提出して議論したほうが早く進むようになるのか」とやり取りの中から試行錯誤してみてその感覚をつかもうと努力するのか、どちらが成長するのかは言うまでもないと思います。

仕事には知らないとできないこともあります。そこで、「そんなことを教わっていないから、できるわけないでしょう」と逆切れする人もいます。一方で、「過去に遭遇した似た用語・似た事例から、こういうことかもしれない。次からはこうやればいいのか。」と推論し、捉えることができる人もいます。もちろん、自分は後者を目指したいと考えています。