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みんなのフィードバック大全 三村真宗 著

1.はじめに

本書の見返しのそでのところに、タイトルの意味が説明されています。

  • みんなの」には、フィードバックは経営者や管理職だけのものではなく、新入社員に始まりすべてのビジネスパーソンにとって必須スキルであること
  • 大全」には、フィードバックには問題点を指摘する力だけでなく、ほめる力や受け止める力も含まれること

すなわちフィードバックとは、一方通行のダメ出しでなく、双方向のコミュニケーションだということです。

なお、本書第5章には「経営戦略としてのフィードバック」があります。これは、企業文化創造だったり制度設計だったりと、関与できる人とできない人がいますので、ここでは内容を割愛します。

(文字数短縮のため、本文中にフィードバックをFBを表示する箇所があります)

2.内容

(1)フィードバックとは何か

  • 成長へのアプローチは「自己完結型の学習」だけではない。職場で一緒に働いている他者から、長所も短所もオープンにFBしてもらう「相互作用型の学習」によっても人は成長する。むしろ、そちらのほうが学びの機会は多いし、成長スピードもはるかにアップする。
  • FBスキルは、「伝えるスキル」だけではない。「受け止めるスキル(コーチャビリティ)」でもある。このスキルを高めることによって、耳の痛いFBからも逃げずに前向きに受け止められる耐性が身につく。これにより成長速度が上がり、人材価値を大きく高めることができる。
  • フィードバックの5つの基本概念
  1. マインド:「後ろ向き・責める気持ち」でなく、「建設的に・成長を願って」がFBを実施する際のマインドとして絶対に不可欠「相手の成長を願う気持ち」があるかどうかがすべての大前提であり出発点。そうすれば、言葉の選び方、話すときの姿勢やまなざしが自ずとそのマインドに合ったポジティブなものになり、FBする側の前向きな思いが相手に伝わりやすくなる。
  2. 種類:FBというと問題や課題の指摘、すわわち「ギャップFB」を思い浮かべる方が多い。しかしFBは問題の指摘だけでなく、本人が気づいていない強みや長所を伝えてあげる「ポジティブFB」も相手の成長につながる。
  3. 方向:管理職や経営幹部というのは単なる「役割」に過ぎず、人間として完璧なわけではない。長所も備えていれば、短所や課題も抱えている点では一般社員と変わりない。課題を克服して成長するためには、自分の仕事のやり方をつぶさに見ている部下からのFBはとても貴重な成長の糧になりうる。
  4. 受け止め方:実践度を高めていくためには、受け手側のスキル、耳の痛い話を受け止める心構え(コーチャビリティ)を高める必要がある。FBは空中ブランコのように”伝え手と受け手の共同作業”であり、伝え手のスキルだけでなく、受け手のコーチャビリティが欠かせない。
  5. 組織的な取組:自主性のみに頼るのではなく、経営者やリーダーによるトップダウンの取り組みも重要。

(2)ポジティブフィードバックをマスターする

  • 働く大人の場合、複雑な状況に身を置いて日々行動しているため、自分が取っている行動が周囲にとって本当に好ましいもの中どうかが自分ではよくわからないことがある。だからこそ、好ましい行動を強化するためには、他者からのポジティブFBが有効。行動の強化が定着すれば、習慣化につながる。
  • 「相手のため」だけでなく、お互いのよい関係を構築するのにも効果がある。心に届くポジティブFBを続けていれば、きっとその気持ちは相手に伝わる。そしてあなたに対する相手の心理的な距離は確実に縮まり、よい関係を築くことができるはず。
  • 相手の弱点や課題に対して、いざギャップFBをしなければならない時に大切なのが、普段から本音を伝え合える関係性になっておくということ。普段からポジティブFBを積み重ねておくことは、感じたことを率直に伝えられる雰囲気づくりにつながる。
  • 気恥ずかしさや照れ臭さは、ハイコンテクストの文化で育った私たちにとっては当然の感情。勇気をもって何度かやってみれば、相手の表情が「ぱっと明るくなる」などポジティブな反応が自分にとっても喜びとなり習慣化できるはず。
  • 比較対象が他者でなく、「過去の相手」である場合はOK。「以前はできなかったことが高いレベルでできるようになった」といったように、「相手の過去の実力や能力」と比較してポジティブFBを伝える。そうすると本人は「自分は成長したんだなあ」というように高い成長実感を得られる。
  • ポイントは前後を「but」でつなげないこと。基本は「and」でつなげる。「●●が上手。(ここで一区切りつけ、一呼吸おいてから)さらに、●●をこうすると・」というように、ほめるべきところはしっかりほめ、一度話に区切りをつけてから「but」でなく「and」敵に順接でつなげて次のゴールを示す
  • 上司が部下に対して「彼はいつも失敗ばかりしている」といった否定的な先入観を持っていると、細かい失敗ばかりがますます目について、長所や成果に目が向けられなくなる。その結果、小言が増えて、部下はますます自信ややる気を喪失する。期待されないことで成長が鈍ってしまう「ゴーレム効果」の悪循環に陥る。
  • ポジティブFBを受けた時に、何だか照れ臭くて「いえ、そんなことないです」と謙遜した覚えはないか。これが謙遜の範囲内であればよいが、度を越えて拒絶したかのような反応をしていまうのは、せっかくのポジティブFBをしてくれた相手に対して失礼だし、自分の気づいていない強みを認識する機会を見過ごすことにもなりかねない。

(3)ギャップフィードバックをマスターする

  • よく部下に対する指導の基本は「怒る」ではなく「叱る」だと言われる。しかしFBにおいては、「叱る」でもなく、「気づかせる」ことが大切。「薄々感じてている問題」だからこそ、くどくど言わずとも、さらっと「気づく」手伝いをしてあげれば、それだけで十分。
  • 伝え手が事実だと確信していたとしても、相手にとってそもそも心当たりがなかったら、相手の腹落ちが見込めない。このような場合には、意地になってそれ以上FBを続けようとしても不毛な議論になりかねないので、FBを完了させることにこだわらず、一旦引き下がるべき。
  • FBを始めてはみたものの、対話を続けることに強い抵抗を示し、なかには拒絶する人もいる。「この人はコーチャビリティが低いので建設的なFBは困難」と考え、FBをあきらめることも視野に入れる。
  • FBを最終的に受け入れるかどうかは究極的に相手が決めること。FBの対話を無理に続けて受け入れを強要しても、そのFBが成長につながることはない。
  • たとえば「納期を守らない」という仕事のスタイルはやや重めの問題。これに対して「納期を守るようにする」という裏返しの打ち手では再発を防げない。FBの直後はしばらく納期を守ったとしても、根本原因が治っていないので、しばらくすると再発してしまう可能性がある。
  • 相手の言い分をすべて受け入れる必要はない。ギャップFBを伝えようとすると、事情や背景を説明するのではなく、論点ずらしなどを始める人もいる。しかし意図的な論点ずらしなど、すべて真に受けていたらキリがない
  • ギャップFBをする側は、「こうすればよいのに」など、事前に改善案が心の中にあるケースが多いはず。けれども、伝え手がその改善案を口にしてしまうと、相手への押し付けになってしまう。FBを受ける側にしてみれば、押し付けられた改善案よりも自分の頭で考えた改善案の方がはるかに納得感を得やすく、実行に向けた意思も強くなる
  • どんな職場にもFBを伝えづらい人はいるもの。そういう人にギャップFBをするときに、思いのほか相手が心を開いてくれたりすると、伝える側はホッとして「ついでにこれも言っておこうか」と欲張ってしまいがち。しかし、複数のギャップFBは負の感情が沸く逆効果になるためにNG
  • 重めのギャップFBを行き当たりばったりでやってしまうと、相手が傷つくことがあるだけでなく、逆切れや逆恨みといった反応によって自分自身が傷つくこともある。そういう事態を未然に防ぎ、FBの効果を最大化するためには、あらかじめ段取りをよく考えておくとよい。
  • 気づき(軽め)のギャップFBは、さらっと伝えることが大切。その後にポジティブFBを付け加えることによって、後味よく終わらせることができる。
  • 他方、改善要求(重め)のギャップFBは、最初に軽いポジティブFBで相手の心を開かせるのがコツ。ギャップFBをすると、少なからず相手は同様するはず。そんなときに相手をなぐさめようと最後にポジティブFBを加えるのは禁物。要求した改善内容を重く受け止め、実際に行動してもらうためには、多少気まずさが残ったとしてもギャップFBで終えるようにする。
  • コーチャビリティの低い人は他者からのギャップFBを受け入れることができず、結果的に成長が持続しないという不利益を被る可能性がある。しかし、それはあくまで本人の問題であり、自分でコーチャビリティを高めようとしない限り、状況は改善しない。そういう人に通じなかったからといって、自信を失う必要はない。コーチャビリティの低さは相手の問題であり、あなたにどうしようもない

(4)コーチャビリティを身につける

  • コーチャビリティとは、「他者からの助言に心を開き、時には苦言すらも自己の成長に転化できる能力のこと。
  • アンコーチャブルな人は、平たく言えば頑固な人。他者からの助言に耳を塞いでしまうため成長が停滞しがち。成長しないので成果も頭打ちになる状況に本人は不満を感じるが、自分の力だけでは成長に限界があるため、次第に現実から逃避し始める。その結果、不満がますます募るという悪循環に陥ってしまう。
  • コーチャブルな状態とは、成長意欲が忌避の気持ちを上回っている状態。成長は「自分」という「最も大切な自己資本」を増やしてくれるもの。その「自己資本」は将来にわたり大きなリターンとなる。耳の痛い話に耳を傾けることで、長期で得をするのは結局は自分
  • ギャップFBを受けた時に、多少なりともストレスを感じるのは極めて自然な反応。伝え手がいくら配慮してくれても、受け手にしてみれば痛いところを突かれる形になるので、むしろストレスを感じない方が不自然。まずは「ストレスを感じることは当たり前」だと思い、そのストレスを受け入れる。
  • 「このギャップFBの内容が正しかったら、自分は成長できるだろうか?」と冷静に自問してみる。健全な自尊心を持つことは大切。しかし、高すぎるプライドは傲慢さと頑固さを生み、あなたの成長機会を奪うことを忘れないようにする。完璧な人間などいない、失敗はつきもの、と考えられるようになる
  • ギャップFBを受けると、人格否定された気持ちになる人は多くいる。しかし、そこはニュートラルに考え、FBは「あなたという人格」に対してでなく、「何らかの事象」に対してされていると切り離して受け止めるようにする。
  • ギャップFBは、必ずしも相手が切り出したから聞くものではなく、時には自分から求めていくべきもの。管理職から部下に積極的にギャップFBを求めることは、「うちの上司は耳の痛い話にも耳を傾けてくれる」との理解が広がり、心理的安全性を高める副次的効果も得られる。これにより組織の風通しがよくなり、チャレンジ精神が養われるなど、多くの前向きな効果を期待できる。
  • 「この人には言われたくないんだけど、助言してくれた内容は納得できるので受け入れてみよう」という考え方をするべき。たとえ相手との関係が良好ではなくても、指摘された内容に思い当たるふしがあれば、素直に聞き入れた方がよい。「What」ではなく「Who」にばかりこだわっていると結局は自分が損をする

3.教訓

さすがに「みんなの」「大全」というだけあって、上下関係なく双方向に、伝え手だけでなく受け手のコーチャビリティまで言及されていて、今まで学んだり実践してきたことの復習も兼ねて非常に勉強になる一冊でした。

会社でのフィードバックの研修というと、管理職や評価者向けだけに、対応が難しい人に対しても頑張るように、という内容です。リーダーシップの研修も同様です。

しかし、対応してみればわかるのですが、ちょっとこれはどうしようもないな、という場面に遭遇することもあります。政治家のように「誰一人取り残さない」という理想を掲げるのは簡単ですが、現実的には難しいことも多くあります。その点、コーチャリビティについてしっかり言及してもらっていることはありがたく、その理解が広がるといいなと思います。リーダーシップだけでなくフォロワーシップの重要性も同じことだと思います。

一方で、「この人には言われたくないことでも受け入れる=WhoでなくWhat」という観点は、確かに、と思わざるを得ません。コーチャビリティの低い人とはコミュニケーションが取りづらいものですが、それでも大事なことは取り入れる度量も必要です。

いくつかエクササイズとしてロールプレイングが紹介されています。勤務先で外部講師を招いて実施する研修の中でも取り入れられていて、実際に取り組んだものもあります。心を同じくする人がいたら、一緒に取り組んでみることをおすすめします。