1.はじめに
先日読んだ「頭のいい人が話す前に考えていること」の参考図書として紹介されていたことから興味を持ち、読了しました。
日本の書籍、特に新書にしては珍しい、左開きです。
実際に横書きになっています。英文の引用や、”理科系”なので数式やグラフなども多いので、読み進めればそういう形式にした理由がわかります。
なお、本当に「理科系の研究者・技術者・学生のために、論文・レポート・説明書・仕事の手紙の書き方、学会講演のコツを具体的にコーチする」内容となっているので、ことあるごとに、”理科系の”という枕詞が多く登場します。
しかし、説明されている内容は、何も理科系に限らず、社内文書一般に言えることばかりです。そのため、”理科系の”という説明は抜きに、以下に印象的な部分を引用します。
なお、著者は漢字とひらがなのバランスも重視されているので、感覚的にはひらがなが多く登場します。ほぼ原文通りに書いていますが、漢字変換したところも若干あります。
2.内容
(1)序章
- 文書を書く時の心得は、①主題について述べるべき事実と意見を十分に精選し、②それらを事実と意見とを峻別しながら、順序よく、明快・簡潔に記述すること
- 明快に書くための心得として、
- 一文を書くたびに、その表現が一義的に読めるかどうかーほかの意味にとられる心配はないかーを吟味すること
- はっきり言えることはズバリと言い切り、ぼかした表現を避けること
- できるだけ普通の用語、日常用語を使い、またなるべく短い文で文章を構成すること
- 不要なことばは一語でも削ろうと努力するうちに、言いたいことが明確に浮彫りになってくる。
(2)準備作業(立案)
- 自分の書こうとする文書の役割を確認することが第一の前提。多少は書きなれた人も、筆をとる前に、また書き上げたものを読みかえす前に、いったい読者はこの文書に何を期待しているはずかと、一瞬、反省してみることを勧める。
- 主題に関して取り上げるべき材料の取捨にあたっては、読者が誰であり、その読者はどれだけの予備知識をもっているか、またその文書に何を期待し、要求するだろうかを、十分に考慮しなければならない。
(3)文章の組立て
- 書こうとすることについてまず大づかみな説明を与えて読者に概観を示してから、細部の記述に入る。文章の冒頭のみじかく要を得た記述によって概観がつかめれば、読者にとっては細部の記述を理解・吸収することが格段に容易になる。
- 記述・説明文の記述の順序を決めるのに肝心なのは、
- どういう順序で書くかを思い定めてから書きはじめ、途中でその原則をおかさないこと
- どうしても原則を守れなくなったら、いさぎよく方針を立て直して最初から書き直すこと
- 文章の死命を制するのは、文章の構成ー何がどんな順序に書いてあるか、その並べ方が論理の流れに乗っているか、各部分がきちんと連結されているかーなのである。
(4)パラグラフ
- パラグラフには、そこで何について何を言おうとするのかを一口に、概論的に述べた文が含まれるのが通例。これをトピック・センテンスという。トピック・センテンスと関係ない文や、トピック・センテンスに述べたことに反する内容をもった分を同じパラグラフに書き込んではいけない。
- 文章を書きながら絶えず読み返して、各パラグラフにトピック・センテンスがあるか、展開部の文はトピック・センテンスとちゃんと結びついているか、と点検する習慣をつけることを勧める。
- パラグラフが変われば、読者はトピックが変わることを期待する。新しいパラグラフでは話題はどちらに向かうのか? そのパラグラフは文章ぜんたいのなかでどういう役割を負うのか? それを明示するのは執筆者のつとめ。
(5)文の構造と文章の流れ
- 序論にあれも書きたい、これも書きたいのは人情の自然。しかし、論文は読者に向けて書くべきもので、著者の思いをみたすために書くものではない。序論は、読者を最短径路で本論にみちびき入れるようにスーッと書かなければならない。
(6)はっきり言い切る姿勢
- <はっきり言い切る>ために特別な表現技術の勉強がいるわけではない。明確に言う、はっきり書く、ぼかした表現に逃げずに明言するーにはたしかに覚悟がいる。しかし、「そうすべきだ」という理由に得心がいき、踏ん切りがつきさえすれば、あとは実行力だけの問題。
- 理屈をいえば、ト思ワレルけれども自分はそうは思わない、ト考ラレルが自分の考えは違うーと逃げの余地を残してある。<はっきり言い切る>たてまえの文書では、こういうあいまいな、責任回避的な表現は避けて、「自分は…と思う」「…と考える」と書くべき。
- 「ほぼ」「ぐらい」「ような」…の類をできるだけ削ることも大切な心得の一つ。ぼかしことばを入れたくなるたびにそれが本当に必要なのかどうかを吟味する習慣を確立すると、文章はずっと明確になる。
(7)事実と意見
- 事実の記述は真か偽かのどちらか。つまり、数学のことばを借りれば、事実の記述は二価ーtwo-valuedーである。これに対して意見の記述に関する評価は原則として多価ーmulti-valuedーで、複数の評価が並立する。
- 仕事の文書では、書くべき内容が客観的な検討に堪える十分な根拠をもっているーまさしく事実であるー場合のほかは、事実の記述としか受け取れないような書き方をしてはいけない。
- 意見の記述では、以下が原則。
- 意見の内容の核となることばが主観に依存する修飾語である場合には、基本的には頭(私は)と足(と考える)を省くことが許される。
- そうでない場合には、頭と足を省いてはいけない。
- 次の心得があれば用が足りる。
- 事実を書いているのか、意見を書いているのかをいつも意識して、両者を明らかに区別して書く。書いたあとで、逆にとられる心配はないかと入念に読み返す。
- 事実の記述には意見を混入させないようにする。
(8)わかりやすく簡潔な表現
- 流れを冷静にコントロールするために、どんなことを心がければいいか、さしあたり次の3つの心得をあげる。
- まず、書きたいことを一つ一つの短い文にまとめる
- つぎに、それらを論理的にきちっとつないでいく(つなぎの言葉に注意!)
- どの文を書くときにも、いつでも「その文の中では何が主語か」をはっきり意識して書く
- まぎれのない文ー一義的しか読めない文、意地悪く読もうとしてもほかの意味にはとれない文ーを書くにはどうしたらいいか。私自身は、一つの文を書くたびに、読者がそれをどういう意味に取るだろうかと、あらゆる可能性を検討することを自分に課している。
- 「簡潔に」というが、短ければいいというものではない。必要な要素はもれなく書かなければならない。必要ギリギリの要素は何々かを洗いだし、それだけを切りつめた表現で書く、一語一語が欠くべからざる役割を負っていて、一語を削れば必要な情報がそれだけ不足になるーそういうふうに書くのが仕事の文書の書き方の理想。
- 仕事の文書では受身の文は少ないほどいいと信じ、もってくるレポートや論文ー欧語直訳のような受身の文が多いーを片はじから書き直させ、受身征伐につとめている。
- 条件、その他をいくつか並べて書くときには、番号を打って、読者に「これと同格の内容がいくつか続きますよ」と予告するのが親切なやり方。
(9)説明書
- 使用手引を書く人は、その内容を熟知しているはずである。つまり、書くべき情報はすでに頭のなかに満ち溢れているので、それを整理して読者(使用者)にとって必要なものだけを洗い出すことが要件。もっと具体的にいえば、この説明書は、誰が、どういう目的で、いつ、どこで読み、どう利用するのか、を考え、それに適するように情報を選択・配列することが第一の仕事。
(10)学会講演の要領
- 講演で原稿を「読む」のは禁物。ひとが原稿を読みあげるのについていくには非常な努力がいる。複文は、読めばスラスラとわかっても、聞く段になると抵抗が大きい。眼で読むための文章と耳で聞くための文章とは構成に差がある。
- 読むときはいつでも読みかえしができるが、講演ではいちど聞き逃したら聞き手の側ではどうしようもない。つまり、ひとに聞いてもらう話には適度のくりかえしが必要。しかし、そういうふうに原稿を書くことは、通りいっぺんの努力ではできない。
- それでも原稿はつくれ。与えられた時間内に要点を尽くすためには、少なくとも初心のうちは、十分に推敲した原稿を用意すべき。
- 要旨と序論(合計でほぼ1/3の時間)は誰にでもわかるように、それ以後の部分も「半分くらいはわかったような気がする」話し方をするように、心がげてほしい。その要領は、なにが本質的かを見きわめて、ズバリそれだけを話すこと。
- スライドは、元来、文章を書くべきものではない。聴衆が「読む」のに気をとられるようでは話は浸透しない。スライドにはポイント、ポイントを示すことばや式だけを並べる。
- 「あの人は歯切れがいい」と言われる人の講演は、次の3つの条件を満たしている
- 事実あるいは論理をきちっと積み上げてあって、話の筋が明瞭である
- 無用のぼかしことばがない
- 発音が明晰
- 注意を惹きたい場合には、大きな声を出すよりも、ちょっと黙ってみたまえ。「どうしたのかな?」と聴衆の注意が集中する。そこで、「つまり…」といちばん大切なことを言う。
3.教訓
まさに、今の仕事が、
- 業務改善をはかり、その内容を文書・マニュアルにして、社内に説明する
- 事業内の他部署が作成する業務要領の内容をチェックする
- それを担当の立場でなく、管理職として確認する
といったことなので、本書の内容は実感を持って理解できます。
回覧されてくる文書を見ると、自分ががんばったところをたくさん書いて表現したいんだろうな、主語が抜けていたり述語が遠かったりで自分では理解して書いているんだろうな、という内容に遭遇します。
また、なんでこんな構成になっているのだろう、見出しのつけ方は同格・並列になっていないな、と気づくこともあります。自部署で進めている施策なのに、「~になります」「変更されます」という受け身の第三者的な表現も目立ちます。
要するに、自分がわかっている内容を主観的に文章に書いてしまう人が多い、ということだと思っています。それは、今の立場だからわかることであって、自分が起案者になれば、一次チェックする上席にはそう思われている部分もあるのだろうと推察します。
著者も、ことあるごとに、意識する、習慣にする、ということばを用いているように、漫然と書いているだけでは、文章力を改善することはできません。本書をただ読んだだけでなく、エッセンスを理解し、実践を積み重ねることができれば、格段に文章力が上げることができる良書です。
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