管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

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THE GOOD LIFE グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない

1.はじめに

人間の健康や行動に関する科学的研究は、一般に「横断研究」と「縦断研究」に大別され、本書は後者に該当します。

といっても「何のこと?」と思う方が多いと思います。私も初めて用語を聞きました。

その「縦断研究」とは、長期にわたって同一の被験者の人生を追いかけるもので、時の経過とともに人生を観察・分析します。他方、横断研究はある瞬間の世界を切り取って観察するもので、時という重要な変数を含まずに輪切りにしたものです。

本書は、1938年に始まった「ハーバード成人発達研究」の科学的研究に基づいた内容で、三世代の子孫にわたって今も進化と拡大を続けている、史上最長の縦断研究です。

2.内容

(1)幸せな人生の条件とは?

  • 幸せな人生とは、時間をかけて展開していく1つの過程。波乱、安らぎ、楽しさ、重荷、苦闘、達成、飛躍、それに恐ろしい転落がつきもの。そしてもちろん、幸せな人生も必ず死を迎えて終わる。幸せな人生は楽な人生ではない。まさに困難や苦労こそが、豊かな人生ー幸せな人生ーをもたらす
  • 「幸せな人生のの条件とは何か?」という質問の答えはたしかに存在している。膨大な被験者、研究を分析し経時的に見ていくと、パターンが浮かび上がり、幸福の予測因子がはっきりと見えてくる。健康的な食生活や運動習慣や所得水準まで、健康と幸福の予測因子はたくさんあるが、よい人間関係は一貫して効果を発揮する、際立った予測因子
  • どの研究の知見も、人のつながりの重要性を示している。家族や友人、地域社会とのつながりが強い人のほうが、そうでない人よりも幸せで、肉体的にも健康。自分が望む以上に孤立している人は、他者とのつながりを感じている人よりも早い時期から健康状態が悪化する。また、孤独な人は短命。

(2)なぜ人間関係が重要なのか

  • 人間関係の価値は一定せず、数値化しにくいが、お金は数えられる。数値として目に見えるものはときめきを与えてくれる。ゆえに、追い求める理由を深く考えず、目標に据えて邁進してしまう。やがて、文化の影響下での幸福の追求が、自分や他者の人生にポジティブな影響を与えるというレベルを超えてしまい、目標の追求自体が目的化してしまう。
  • 人間には、よい状況にもやがて慣れてしまうという面がある。幸福感は無限に高まるわけではない。どこかで頭打ちになり、そのレベルが当たり前になる。夢が実現すればすぐに慣れ、脳が新しい挑戦、欲望を求める。宝くじの当選者だって永遠に有頂天ではいられない。人生経験の受け止め方は、外の政界で起こることだけでなく、むしろ心の持ちようで決まる部分が大きい

(3)紆余曲折の人生を俯瞰して見てみよう

  • 完全に型通りの人生は一つもない。人生はもっと奥深いもの。こんな目に遭っているのは自分だけではない、多くの人が直面する変化なんだ、とわかっていれば、人生はわずかながら楽になる。
  • 成長過程において最も重要なのは人間関係。新たな人間関係が始まれば、新たな期待、新たなトラブル、新たな課題が生じるが、そのとき「準備が整っていることはまずない。たとえば、準備が完璧に整った状態で親になる人はまずいない。
  • 親になり、小さな子どもの責任を引き受けることで親になる準備が整っていく。目の前の状況が人をつくる。人間関係やライフステージが変わるたび、やらねばならないことに対応しながら生きていくのが人であり、その過程において人は変化する。それが人の成長というもの。

(4)ソーシャル・フィットネス

  • デスクワーク中心の仕事や反復動作による仕事に就いている人が健康と体力を維持したいなら、意識して身体を動かす必要がある。同じことがソーシャル・フィットネス(人間関係の健全度)にも当てはまる。筋肉と同じで、何もしなければ人間関係も衰えていく。人間関係は生き物。だからエクササイズが必要。
  • 孤独感とは身体の中で鳴り響く警報のようなもの。初めのうちは警報が役に立つ面もある。問題を知らせてくれるしくみは必要。だが、来る日も来る日も火災報知器が一日中鳴り続ける家で暮らすことを想像すれば、慢性的な孤独が密かにどんな影響を与えているかわかるはず。人は愛、つながり、帰属感を必要とする
  • 「元気をもらえる」関係は、自分に力を与えてくれるし、離れていてもつながっている感覚、帰属しているという感覚が続く。「消耗する」関係とは、緊張や不満、悩みを誘発し、一緒にいると不安を感じ、気力さえなくなる関係。
  • 消耗する人間関係がわかったからといって、その関係を断ち切るべきではない。この点は念を押しておきたい。逆に、その関係には、注意を払うべき重要性があるというサインかもしれない。今はこじれている関係にも、つながりを改善できる種が宿っているかもしれない。活かせるうちに活かさなければならない。
  • 他者を助けることは、その人自身の利益になる。寛大さと幸福の間には、客観的かつ直接的な関係がある。寛大な行動は、脳内にいい気分を生み出すし、いい気分になれば、また他者を助けようという気持ちになりやすい。寛大さは心の上昇スパイラルを生む
  • 他者との関わりは人の感情を強く揺さぶる。人との交流はうれしいことや人生の意味をたくさんもたらすが、失望や痛みをもたらすこともある。人間関係のネガティブな側面を避けたいという欲求は合理的。だが、他者との関わりから何かを得たいならば、ある程度のリスクは受け入れなければならない。また、進んで不安や恐怖の先にあるものに目を向ける必要がある。
  • 自分が二の次になるほどの、他者への強い好奇心には、生きる喜びをもたらす力がある。慣れていないと最初は戸惑うかもしれないし、努力も必要。他者の人生に対する本物の、深い好奇心は、大切な人間関係を育むうえで大いに役に立つ。好奇心が会話の幅を広げ、相手の知らなかった面が見えてくる。すると相手も、理解されている、認められている、と感じる

(5)人生への最高の投資ー「注意」と「気配り」のすすめ

  • 時間と注意はあとから補充することができない。時間と注意こそ人生そのもの。時間と注意を相手に差し出すとき、私たちはそれらを単に「費やしたり、払ったり」しているわけではない。自分の命を相手に与えている
  • 研究成果によれば、人は起きている時間の半分近くを、そのときにしている行為以外の何かを考えることに費やしていた。人間の意識は一度に1つのことしか処理できない。マルチタスクは脳に大きな負荷がかかる。タスクの切り替えには、労力と時間がかかる。しかも、元のタスクに戻り、その対象にしっかりを注意を向けるにはさらに時間がかかる。注意の質もまた、犠牲になっている。
  • 苦労の質や規模には違いがあり、社会の変化のスピードも昔は今ほど激しくはなかったが、人間関係を育むための効果的な解決策は今と同じ。それは、時間と注意を今、目の前にある時間のために使うこと。
  • コミュニケーションは単なる情報の交換ではない。実際に人と触れ合い、誰かのそばにいることには、感情的作用や心理的作用、さらには生物的作用もある。ソフトウェアでできることには限界があるため、オンラインの交流体験は現実の体験とは別物だし、制約も多い。生身の他者の存在はテクノロジーでは代用できない。誰かと一緒にいることに代わりうるものはない
  • 重要なのは共感しようとする努力。つまり、相手を理解するのはすばらしいことだが、理解しようと努力するだけでも、人間関係は大きく改善される
  • 注意を向け、気を配るとは、その瞬間を生きている相手を尊重し、敬意を払うこと。自分自身に注意を向け、自分の生き方、自分が今いる場所、将来たどりつきたい場所を確認すれば、最も注意を向ける必要があるのは誰なのか、何なのかが見えてくる。注意は最も価値ある資産。

(6)問題から目を背けずに立ち向かう

  • 人はみな、人生を歩むうちにある種の対処様式を身につけていくが、それが石のように固定されてしまうことがある。実は、ある種の頑固さが人を脆弱にすることがある。変化し続ける環境に柔軟に対応することは、非常にパワフルなスキルになる。このスキルの有無が、大地震のような試練を小さな被害で乗り切れるか、それとも崩れ落ちるかの分かれ目になる。
  • たいていの場合、感情が生じるのは、自分にとって重要な何かが起こっているサイン。そうでなければ、感情がわいてくることもない。その感情は、人生の重要目標、不安の種、大切な人間関係などに関わっているかもしれない。この感情が生じているのはなぜだろう?と自問するのは、自分にとって大事なものを見つけるよい方法。大事なものを明確に把握できれば状況をもっとうまく解釈できるようになる。

(7)パートナーとのグッド・ライフー隣に寄り添う人とのつながり

  • 結婚生活において意見の相違がほとんどないのは悪いことではない。だが、まったく波風を立てないことで、代償は生じないのだろうか?心を閉ざし、本音を隠し、あえて本心を明かさないようにする人はいるものだが、必ずしも相手がそれでいいと思っているわけではないことは覚えておくべき。親密な関係は、相手を理解し、相手からも理解されているという感覚の上に築かれるもの
  • 親密な関係においては、感情の動きからわかることがたくさんある。少し立ち止まり、自分がどう感じているかを見つめ直すだけで、非常に有益なツールになる。感情は、心の奥に秘めた願いや怖れ、他者の行動への期待、パートナーに対する習慣的な見方を示している
  • 人は誰しも、それぞれに弱さや怖れ、不安を抱えている。そのため、意見の不一致があると、自分を守るため、反射的に相手に背を向けてしまう。こうした感情に向き合うのは簡単ではない。意見の不一致は、心の奥底の感情に光を当てるきっかけになる
  • 弱さを認め合うことは、関係の強化や安定につながる。無理に強がることなく、自然体で支えあえるようになる。強い信頼の絆を築けたらそれで一安心というわけではない。なぜなら、どんなにすばらしい関係も必ず衰えるから。親密な関係は生き物だり、人生の季節がめぐるなかで放っておいても育つものではない。注意を向け、栄養を与える必要がある。
  • たしかな絆があれば、必要なときに支え合い、頼り合うことができる。相手に尽くすことは自己犠牲を伴うが、充実感をもたらす。単純に言えば、二人で一緒にストレスに対処するカップルは、健康や幸福、そして人間関係における充実感を受け取ることができる

(8)家族のグッド・ライフーライフステージによってつながり方は変化する

  • 時とともに家族全員のライフステージが変わっていくと、家族関係も必ず変化する。この避けられない変化にどう対応していくかが、家族の関係の質を決める最重要因子の1つ。特定の順調な時期に必死でしがみつこうとしても、やがてその時期は過ぎ去っていく。新しい役割や新しい課題に向き合いながら前に進んでいくほかないし、同伴者がいたほうが必ず楽になる。
  • 目の前に訪れるチャンスを見出し、軌道修正のチャンスとして活用するためのシンプルな4つの方法。
  1. ネガティブな感情から目を背けず、しっかり注意を向けること
  2. 想像していた以上にポジティブな経験が訪れたときには、そのことに気づくこと
  3. 他人のよい行動を「キャッチ」するよう努力すること
  4. 人は予想外の行動をとるものという考えを持ち続けること
  • 自分のことを生まれたときからずっと知っている人は家族以外にいない。怒りたくなる気持ちはよくわかる。でも覚えておいてほしい。これから先も、親以外に自分のことをこんなふうに気遣ってくれる人はいない。

(9)職場でのグッド・ライフーつながりに投資しよう

  • 職場の人間関係には自分の努力でコントロールできる部分があるし、日常生活をすみやかに改善してくれる力がある。人は必ずしも仕事を選べるわけではない。だが、私たちは思っている以上に仕事を通して幸せになれる。
  • 職場で過ごす時間は家庭で過ごす時間に、家庭で過ごす時間は職場で過ごす時間に影響を与える。この相互作用の根底にあるのが職場と家庭の人間関係。仕事と家庭のバランスが崩れる場合は、職場か家庭のどちらかの人間関係への対応が間違っている可能性がある
  • 従業員同士がおしゃべりして楽しそうにしていると、「仕事をサボっている」「生産性を下げている」と考える管理職もいる。実際には逆。研究によれば、職場に親友がいる人ほど、仕事に意欲的に取り組んでいる。とりわけ女性はそうで、職場に親友がいるかという質問に「はい」と答えた女性たちは、しごとに意欲的に取り組む人の割合が2倍になっていた。
  • メンターシップ(助言・指導する/される)という関係は、メンターとメンティの双方にとって有益。メンターの立場にある人は、次世代を育てる。積み重ねてきた経験や知恵を自分の代で終わらせず、次の世代に伝えることは特別な喜びをもたらす。職業生活を通じて、自分に与えられたもの、そして与えてもらいたかったものを次の世代に与えることができる。
  • 仕事が嫌になるときは誰にでもある。だが、仕事をしている時間は人と交流できる大きな機会になる。仕事に勤しむ一日一日が、価値ある経験をもたらす。一日が人間関係を通して豊かになれば、幸せな人生につながる。仕事もまた、人生。

(10)友情とグッド・ライフー友とのつながりが人生を左右する

  • 周りをよく見渡してみれば、友人に注意を向けて人間関係を充実させるという、すばらしい機会を見逃してきたことに気づくかもしれない。人生を大いに充実させる機会はありふれた日常の中にある。友情のほうからこちらに働きかけてくることはない。だが、放置していてもひとりで育まれるものではない。
  • 友人関係も、家族関係と同じ原因によって損なわれる。慢性的な対立、倦怠、好奇心の欠如、注意をきちんと向けない、といった問題だ。
  • まず、友人の言葉に耳を傾ける態度を身につけること。耳を傾けることには、話を聴く側と聴いてもらう側の両方に同じくらいのメリットがある。耳を傾け、相手の人生経験を真摯に受け止めることで、聴き手と話し手がそれぞれの殻を破り、「開かれて」いき、双方の人生が豊かになる

3.教訓

夏季休暇中の個人的な課題図書として読みました。ゆっくりと時間をかけて本書を読み、人生を振り返ることができたのはいい経験になったと考えています。

本書の中には、実際の質問がいくつか登場します。例えば以下のような内容です。

  • 助けが必要なときに本当に頼りにできる人は誰ですか?全員の名前を挙げてください。
  • 苦しい時期を乗り越えるための自分なりの哲学はありますか?
  • 配偶者との関係を5つの言葉で表してもらえますか?

もちろん、実際に回答された内容も記載されています。それを見ながら、自分だったらどう答えるだろうか、と考えながら読みました。

家族のなかでも、感情が湧きあがったり、意見の不一致があっても、それは自然なこと。そう思ったときにいろいろと言い合える関係かどうかが重要です。

また、全員が平等に年を取っていきます。子どもの成長・進学、親子の距離感、会社での期待値、体力の低下など環境の変化だけでなく、その日の出来事や気分によって、感じ方も変わってきます。

それも生身の人間同士がつながっているからこそ起こることで、今この瞬間は大切にしないといけない、と改めての気づきになる良本でした。