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天才!成功する人々の法則 マルコム・グラッドウェル著 勝間和代 訳

 

1.はじめに

原題は”OUTLIERS”で、天才という意味とは少し違い、「他から大きく外れた値」「他より著しく異なるため一般的結論を導けない人・物」といった意味です。

日本語で”天才”というと、”GENIUS”がイメージされ、最近では以下の本が店頭に並んでいるのを目にします。

本書では、単に生まれつき頭がいい、才能があるというだけでなく、世の中の潮流、社会制度や出自等の環境や外部要因によって、成功確率が一定程度左右されることを示しています。

2.内容

(1)マタイ効果

  • 成功する人は特別な機会を与えられる可能性がもっとも高く、さらに成功する。これを新約聖書のマタイによる福音書の一節、<誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまで取り上げられる>から借用して、マタイ効果と呼ぶ。成功とは、社会学者が好んで呼ぶ「累積するアドバンテージ」の結果である。
  • 私たちのつくるルールが成功の邪魔をし、あまりにも早い段階で一部の人を失敗者とみなしてしまう。成功者とそうでない者を決めるにあたり、私たち、つまり社会が非常に大きな影響を及ぼしているという事実をみんな見落としている。

(2)1万時間の法則

  • トップになれるかなれないかを分けるのは、「熱心に努力するか」どうかによる。さらに重要なことに、頂点に立つ人物は他の人より少しか、ときどき熱心に取り組んできたのではない。圧倒的にたくさんの努力を重ねている。世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、1万時間の練習が必要。
  • 人類の歴史上の富豪は1831年1840年に多く生まれていて、鉄道が敷かれ、ウォール街の重要性が増した転換期に生きた人々。ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズエリック・シュミットも全員1955年生まれでパソコン時代の幕開け時に大学生だった。その時代よりほんの少し早ければ別の道に進んでいたかもしれないし、遅く生まれていたらそのチャンスの窓は閉まっていただろう。
  • 私たちは、成功がもっぱら個人の能力の問題であるふりをする。しかし、それほど単純ではなく、特別な好機を与えられ、熱心に取り組むことでそのチャンスをものにし、成人したときにその並外れた努力が社会に認められる。アウトライアーの成功は、彼らひとりの力で勝ち取ったものではなく、育った社会が生み出したもの。

(3)天才の問題点

  • IQと成功の関係が成立するのも”ある程度の段階”まで。IQが120程度を超えれば、どうやら実社会でのはっきりした優位点には転換されない。IQはバスケにおける身長みたいなもの。選手にとって身長は十分高ければそれでよい。知性もまた同じ。
  • IQとは、ある程度まで、持って生まれた才能。ところが、実社会で役立つ機知は知識であり、習得すべき技術。そのような態度や技術はどこかで身につけなければならないが、それらが身につくと考えられる場所は家庭。
  • 実践的知能には「誰に何を言うかを理解し、どのタイミングで言うか、そしてどのように言えば最大の効果があるかも承知している」ことも含まれる。いわゆる”物事の進め方”だ。状況を正しく読み、自分の手に入れるための知能。
  • IQで測られる分析能力の類とは決定的に違い、一般的知能と実践的知能は”直角”の関係。つまり、正反対ではないがまったく異なる。一方があるからといって、もう一方があるとは限らない。
  • 成功者たちは大人になるまでに、世間を渡るためにすべきことを身につけるための助けがあった。誰も、ロックスターも、プロスポーツ選手も、ソフトウエア界の億万長者も、そして天才でさえも、たった一人で成功した者はいない

(4)航空機事故の”民族的法則”

  • 人間は各自が異なるパーソナリティを持っている。だが、各人の個性の中には、それぞれの地域社会の歴史によって受け継がれた、極めて独特な傾向や前提や行動様式が積み重ねられている
  • 興味深いのは”権力格差指標(PDI)だろう。権力格差は”ヒエラルキーに対する態度”、とりわけ、その文化が権威を重んじ、権威に敬意を示すかどうかに関係する。「自分の意見や考えを明確に上司に主張するように副操縦士を説得する仕事は、彼らが生まれ育った文化の”権力格差の格付け”に大きく左右される
  • 各国の墜落事故とPDIとの間には明らかな相関関係がみられたとき、ボーイング社の調査員は各国の感情を害さないようにおおいに苦慮した。なぜ、人は誰でも長所と短所、傾向と体質とが独特に混じり合った文化の出身者だと認められないのだろう?私たちが誰かは、私たちの出自と分かちがたく結びついている、そしてその事実に目をふさぐとき、飛行機は墜落する。

(5)「水田」と「数学テスト」の関係

  • 稲田では、同じ規模のとうもろこし畑や小麦畑より10倍もの労働力を必要とする。ある試算によれば、アジアの稲作農業者の年間労働量は3000時間にのぼる。稲作では、膨大な労働力だけでなく厳密さも要求される。
  • 数学は能力ではなく態度。試みることを厭わなければ、数学が得意になる。成功とは、粘り強さ、辛抱強さ、勤勉を厭わない意思の結果であり、それらがあればれば、たいていの人がすぐに投げ出すことに時間をかけて取り組める。
  • 数学の成績と、そのテストに対する大量のアンケートの回答数には相関がある。上位ランクはシンガポール、韓国、台湾、香港、日本であり、5か国の共通点はもちろん、稲作という伝統と意義のある仕事によって形成された文化である点。これらの国では、過去数百年にわたり、裕福とは言えない農民が、年に3000時間こつこつ働きながら、「1年360日、夜明け前に起きた者で、家族を豊かにできなかった者はいない」、こんな言葉を言い合ってきた。

(6)学力格差

  • 読む力に関しては、屈託のない夏休みをのほほんと過ごしたか、サマーキャンプや美術館、読書などをして過ごしたか、授業を受けていないあいだの学び方の違いで大きく差が出る。貧困家庭でも、KIPPアカデミーという教育支援を受けることで学力を向上した事例もある。

motoyamakatsuhiro.hateblo.jp

  • 必要なのは、新しい校舎でも広い運動場でもぴかぴかの設備でもない。IQでも頭の回転の速さでもない。もちろん、それらは素晴らしいが、重要な点は”機会”。
  • 本書で紹介した物語のすべてが、「成功とは、予測しうる道をたどるもの」と告げている。もっとも頭のいい人間が成功するのではない。また、成功とは、人間が自分のために行う決断や努力の総和でもなく、むしろ贈り物(ギフト)だ。アウトライアーは好機を与えられた者、そしてそれをつかむ強さと平常心を兼ね備えた者だ
  • 成功者は、歴史と社会、好機と遺産の産物。その成功は、異例のものでも謎に満ちたものでもない。それらは、複雑に編み込まれた、優位性と受け継いだ遺産から生まれる。自ら勝ち取った分もあれば、単なる幸運で手に入れた分もある。だが、そのどれが欠けても成功者は成功者になり得なかった。つまるところ、アウトライアーは、最初からアウトライアーだったわけではない

3.教訓

本書によって、持って生まれた能力だけで人生のすべてが決まるわけではなく、逆に、いくら能力が高くてもそれを活かす機会に恵まれなければ成功者にはなれない、ということもよく理解できました。

例えば、生まれた年がいい効果をもたらすことがあれば、悪い効果をもたらすこともあります。

その1つが、勝間和代さんが解説でも記載されているように「就職氷河期」です。その前後の年代の人々と何ら能力的には差がないのに、新卒募集の多寡に違いが生まれ、社会人を正規雇用としてスタートできるか否かの差が生じて、生涯賃金が大きく変わってきます。

また、生まれた年だけでなく、就職先でエポックメイキングな事象が起こったときに、どの部署で何をしていたかも、その後の会社人生に大きな影響を及ぼすと考えます。

私個人としても、顧客管理システムの刷新を検討していたとき、たまたま主要検討部署の同僚に誘われて参画したことによって、はじめてID管理の重要性を理解し、大規模システム開発の経験ができたことによって、その後にその周辺領域に手を入れるときには、かなりの確率で「また参画してほしい」という声が掛かるようになりました。

また、今でこそデジタルトランスフォーメーション(DX)が一般的なことばになりつつありますが、黎明期には何をしていいかわからなかったのに、経営層から「何とかして」と言われて大変そうだった先輩が、今ではその部門を率いる社内の有名人になっている、という事例にも出会いました。

これらは、われわれが最初からその領域に詳しかったわけではなく、別の誰からがその椅子に座っていたら、代わりにその人が第一人者になっていたかもしれない、ということで、「機会の重要性」を示すいい事例だと思います。

機会については、どうしても外部環境に左右される面は否定できませんが、新たな研修等のプログラムが始まれば自ら応募するなど、能動的に行動できる部分もあると考えており、常に将来に向けたアンテナを張っておくことも重要だと考えています。