1.はじめに
先日、ファシリテーションに関して以下の本を読みました。その際、あわせて購入していたのが本書です。
ただ、本書のあとがきにも出てくるように、会議のファシリテーションと組織変革のファシリテーションは内容が異なります。
「世界で一番やさしい会議の教科書」は前者ですが、本書は後者寄りに該当します。また、組織変革に関していえば以下も有名な本で、両者のいいとこ取りをしたような内容に感じました。
2.内容
- ファシリテーターにとって、フェアであることは大切。そのためには、発言を記録しているだけでなく、時には反対の立場に立って、異なる視点から発言を促すことも必要。
- ジョハリの窓。自分にも他人にもわかっている「開放の窓」の領域を広げる。
- 自己開示すると、防衛規制も減り、安心感が生まれ、信頼関係が醸成される。
- 正しくフィードバックされると、人は満足感を味わい、信頼関係につながる。
- 与えられた目標に対して、より高い自己目標を掲げなくて、どうして所期も目標が達成できるのか。10%下げろと言われたから、10%を自己目標としているようでは、とても達成できない。結局後でできなかった理由を探すはめになる。
- 開かれた気持ちにするのがアイスブレークだから、アイスブレークの機会に自分の心を自ら開く努力が必要。硬い心は他人の意見を軽視し、言葉尻だけを取り上げ、曲解しようとする。そういう無意識的な拒絶反応が自分の心にはあることを意識して、心のアイスをブレークすると効果的。
- 自分たちの都合が、前者のそれに優先するという議論を、我々はしていはいけない。しかし、そういう部分最適化が全体最適化に優先する議論を無意識にしてしまうことはよくある。そういうとき、ツリー構造を描きながら議論すると、全員で真の目的を共有することができる。いったん目的が共有化されると、改めて視野を広げ、もっと有効な気づかなかったような解決策を考えられることもある。
- 一般的な質問で役に立つのは、全体を意識させる質問、(平均でなく)分散・多様性を意識させる質問、自分たちがコントロールできるものとそうでないものを意識させる質問、時間軸を意識させる、基準を意識させるなどが有効。
- いきなりいろいろ質問をしても、参加者が硬くなったり、防衛的になって、発言しなくなることも少なくない。ファシリテーターの質問の順番としては、Yes/Noで答えられるような簡単な質問から入って気分をほぐしてから、核心にせまる質問に移っていくという心遣いも必要。
- 物事がまとまる、つまり「収束」する前に、必ずいったん「発散」という過程を通る。いろいろな考えを出し、試行錯誤を繰り返し、検証する。その後「収束」に向かう。いきなり「収束」させてしまうと、いいアイデアを逃してしまったり、不完全燃焼して不満が残ったりするもの。
- 「タイムマシン手法」。自らの提案が受け入れられ、改革は大きく進んだと仮定し、その世界ではどういうことが起こっているか想像する。
- 「フォース・フィールド・アナリシス」。あるべき姿を妨げている「力」。たとえば、そうしようとしていないのか、能力がないのか、やろうとしている他にやるべきことがあってできないのか?どういう「力」が働いてそうなっているのかを考える。
- 誰でもコンフォートゾーンにいたい。気を付けているつもりでも、知らず知らずのうちに、安きに流れることは誰にでもある。積み上げでは出てこない厳しい目標設定(ストレッチゴール)をして、皆で前向きに工夫してチャレンジする。そういう風土を作れると会社は強くなる。
- 事業変革に力をかけすぎると、肝心の基幹事業に遅れが出る。大方のトップは「両方やれ」と叱咤するが、現実にはそうならない。たいていは今の事業を優先し、事業変革のほうはお茶を濁すことになる。この悪いパターンに慣れきってしまっている会社では、事業改革計画が承認されたら、それで終わり。「これでやっと本業に戻れる」と言って、計画書は棚上げにしてしまう。
- 変革の推進は孤独な作業。陰口も聞こえてくる。露骨に足を引っ張る人も出てくるかもしれない。それには、祭儀に結果が出るまで待たずに、進捗を計測して変革が進んでいることを声高に認め、喧伝する。努力している人たちを誉め、表彰する。それらが当事者たちを勇気づけ、周りの関心も高め、変革を成功に導くことになる。マネジメントの仕事。
- 「ニュースペーパーテスト」。新聞の一面に記事がデカデカと取り上げられた場合のことをできるだけ鮮やかに思い起こさせ、冷静な判断を引き出す。
- コントロールできないことをぼやいても何も変わらない。自分でできることに集中しよう。それによって、自分が直接コントロールできないものにまで、影響を与えることができる。自分と相手はゴールが違うのじゃないか、何が意見の違いをもたらしているのか、どうやれば相手の協力を得ることができるのかを冷静に考え、自分の力の及ぶことに集中する。
3.教訓
ファシリテーターとして機能するには、単にツールを知っているだけでは務まりません。適切な状況で、適切な使い方をすることが求められます。
上述2.では、個人的に印象に残った部分だけピックアップしているので、なんだか単なるツールの説明のようになってしまっています。しかし本書はストーリー仕立てになっているので、実際にその場その場でファシリテートする人がどのようにツールを使いこなしているか、イメージを持ちながら学ぶことができます。
「世界で一番やさしい会議の教科書」とは、抜擢されたファシリテーターが能力を発揮して昇進をしていくストーリーは本書と共通ですが、登場人物の背景が大きく異なります。
「世界で一番やさしい会議の教科書」は、どこにでもありそうな1つの課・チームを対象にしています。一方の本書は、本部長クラスや全社プロジェクトを担う優秀な若手の集まりだったりします。必然的に、専門用語が多くなり、不祥事案のニュースリリースや最終的にはM&Aなど、経営に関する内容も多いので、その周辺の予備知識がない人にとっては、多少ハードルが高いように感じます。
まずは前者を手にとって、会議のファシリテーションから始め、相応の立場にいたり全社PTのメンバーに選ばれたりして業務変革を担う場面になれば本書を手に取ると、より理解が進むのではないかと思います。自身にとっては双方が良書でした。
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