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ハーバード流交渉術 ロジャー・フィッシャー著


 

1.はじめに

自身が購入した本は、「知的生きかた文庫」として発行されたものです。

同じ三笠書房から、最下段で紹介している単行本が最新刊だと推察します。

「駆け引き型交渉」から「原則立脚型交渉」へ、すなわち、双方が言い争うのでなく、双方の主張の利点に焦点を合わせること、さらには利害が衝突する場合は、どちらの意志からも独立した公正な基準に基づいて結論を出すことを勧める内容です。

2.内容

読んでいくと、問題とは何かという定義と、自分自身の心の持ち方、相手とのやり取りの仕方とが、順番に並んでいないような印象を持ちました。

そこで、一定程度、記載順を並び替えたうえで、以下に引用します。

(1)問題とは

  • 物の見方、考え方に相違がある限り、意見の対立は存在する。相手に勝てるという希望的観測は、たとえ非現実的なものであっても、戦争を引き起こしかねない。真実が証明されたとしても、それは問題の解決には何の役にも立たない
  • 人はとかく他人を非難したがる。本当に相手が悪いと思っているときはなおさらである。こちらが攻撃をかければ、相手は当然防御態勢をとり、こちらの言うことにいちいち反論するか、もはやこちらの言うことに耳を傾けるのはやめてしまう。非難は問題と人とを分けるのを難しくし、絡み合わせてしまう
  • 交渉における基本的問題は、表面に出た立場の衝突にあるのでなく、根底にある各当事者の要望・欲求・関心および懸念(=利害)の衝突にある。その利害が、人を動かす、声高な表向きの主張の背後にある隠れた動機。表向きの立場は当人が達した結論であり、利害とはその結論を導き出した原因

(2)交渉時の心構え

  • 実質問題の解決と友好関係の維持という2つの目的は、二律背反の関係にあるものではない。要は、交渉当事者がこの2つを分離し、それぞれの本質に基づいて、それを処理する気があるかどうかである。人間の問題はあくまで人間の問題として取り扱いべきで、懸案の問題について実質的な譲歩をすることによって人間の問題を解決しようとしてはならない。
  • 解決案の内容がいかに相手方に有利なものに見えても、相手方はその作成過程から外されたことに猜疑心を抱き、それだけの理由でこれを拒絶する可能性がある。反対に、当事者双方がその解決案は自分のアイディアによるものだという感じを持っている場合は、合意の成立は容易である。ある意味で、過程はすなわち成果である
  • 一方が相手に対し直接明確に物を言っても、相手は上の空という場合がある。交渉の場であると、自分は次に何を言うべきか、といったことで頭が一杯になり、相手が話していることを真剣に聞こうとしない。相手側の言い分を聞かないのでは、コミュニケーションは成り立ちようがない。
  • 柔軟性を保つためには、自分が考えた選択肢の一つ一つを単に案として扱うこと、そして自分の希望にかなう案を多数用意すること。自分の利害を考慮した後、それに適する一つまたはそれ以上の具体案を用意し、かつ柔軟な心を持って交渉に入るべき。ただし、柔軟な心とは空っぽの心ではない
  • どういう経緯があったかについて話すよりも、何を得たいかについて話すほうが自分の利益を満足させることができる。過去の言動の言い訳を聞くよりも、「明日、誰が何をしたらよいか」を問うべき。
  • 相手方に譲歩の意思がなく、またこちらも同意できる根拠が見つからない場合には、最良の代替を探す前に、相手の不合理な主張を飲んだ場合、何が得られるか考察する。譲歩した場合の実質的な利益と、交渉の席を立つことにより得られる、正当な交渉者としての評判とを天秤にかけて、そのうえで決断すべき。
  • 交渉する理由は、交渉しない場合よりもいくらかでもいい結果を生むため。不調時対策案、つまり交渉による合意が成立しないとき、それに代わる最良の案は何か。その代替案は、交渉相手から提案される合意案を検討するうえで目安となるだけでなく、あまりにも不都合な条件を受け入れることを防ぎ、また有利な条件を拒否してしまうことを防ぐ、唯一の基準である。
  • 判断に迷う場合、こういう交渉方法は、相手が自分の親友や家族であったら用いるだろうか、ここで言ったこと、したことが、全部洗いざらい新聞に出されたとしても、恥じることはないだろうかと自問する。

(3)相手との具体的対応策

  • 相手の言い分をきちんと理解しているということを言葉や身振りで示さない限り、相手は自分の言ったことを聞き取ってもらっていないと思う。また、理解することは同意することではない。相手の言い分を彼ら自身以上に適切に表現し、そのうえで反論を加えれば、もはや当方が彼らの意見を誤解していると思われることなく、問題の本質に向かって建設的な討議を主導することができる。
  • 自分の利害を相手方に印象づけることは、それらの利害の正当性を確立することでもある。相手方を個人的に攻撃しているのではないこと、また当方の直面している問題に注意を向けることは妥当なことだと相手に思わせることだ。相手方もこちらと同じ立場に立てば全く同じように感じるはずであることを相手側に納得させる必要がある。
  • 自分の理由を聞いてもらい理解してもらいたいときは、自分の関心と根拠を先に述べ、結論や提案は後にすべきである。十分理由を説明してから要求を切り出せば、彼等はその理由を理解にするのに違いない。
  • 相手が個人的な攻撃を受けたと感じると自己防衛的になり、こちらの言い分に耳を貸そうとしなくなる。人を非難せずに問題を攻撃すること、問題に対しては厳しく対応するが個人的には相手を支持する姿勢を示すことが大事。あくまで攻めているのは相手個人ではなく問題であることを強調する。問題の本質に対し強硬な立場を貫くことは、効果的な解決への圧力となり、他方、相手個人を支持することは当事者間の関係を改善し、合意に達する可能性を増す。成功への道は、支持と攻撃の組み合わせ。
  • 相手が個人攻撃をしてきたら、自分を弁護したり、相手に反撃したりしたいのを自制して、言いたいだけ言わせて気が済むまで待つこと。彼らの言い分を聞き、理解していることを態度で示す。
  • 選択肢の最終的なテストは、選択肢を「合意可能な提案」の形で書き出してみること。相手が一言「イエス」と答えられるような案を作り出すことは、目的にかない現実的である。目前の自己の利益のみを追求すると相手側の関心に合わせるという必要性を無視してしまうが、右のようなやり方をすれば、このような弊害を軽減できる。
  • 脅しよりは建設的な提案の方が通常は効果的。当方の望むようにすれば、どんな好ましい結果を期待できるかということを気付かせると同時に、当方も相手の立場から見た結果をもっと良くできるように努めること。自分たちを威圧しようする不当な企てに対しては、当事者の関心は「我々はこの決定をなすべきか」から「我々は外圧に屈服していいのか」に変質する。
  • 先例ほど決定を容易にするものは少ない。だから要は先例を探すこと。相手側が似たような状況で下した決定や判断や意見を調査し、それに基づくような合意案を作るようにする。これによって、こちらの希望に客観的な基準を設けることになり、相手はそれに従いやすくなる
  • 相手のメンツをつぶさない方法は、以下の3つの認識に基づき柔軟に対応すること。
  1. 問題の解決を客観的基準を探し出す共同作業としてとらえる。
  2. どの客観的基準が最も適当か、それをどう適用すべきかについて、論理的に説得するとともに、相手の論理的説得も率直に聞く。
  3. 圧力には決して屈せず、正しい原則のみに従う。
  • 一つの考えを受け入れるか拒否するか相手に迫る代わりに、そのどこが悪いかを尋ねる。相手の根底にある利害を見つけ、彼らの味方に立ってこちらの考えを修正する可能性を探るために、彼らの否定的な判断を吟味する。その結果に基づき考えを組立直せば、合意を妨げていた批判を、逆に合意の重要な要素に変えてしまう。
  • 沈黙は最良の武器の一つ。相手方が不合理な提案をしてきたり、不当な攻撃をしてきた場合には、席についたまま一言も言わないのが最良の方法かもしれない。
  • 質問をしたら間を置くこと。別の質問をしたり、自分自身の意見を述べたり、相手の気を散らしてはいけない。時には何もしゃべらないことが、最も効果的な交渉であることもある。

3.教訓

この本の中では、ひとつの寓話が紹介されています。

  1. オレンジ1つを巡って、姉妹が言い争いをしている。
  2. 結果、半々に分けることにした。
  3. 果肉を食べたかった姉は皮を捨て、ケーキ作り用の皮が欲しかった妹は果肉を捨てた。

このように、表面的な「オレンジ」を巡る主導権争いでなく、「オレンジ」を手にした後にどうしたいのかという、本質まで含めて話ができていれば、両当事者が異なるものを望んでいたからこそ、双方に満足のいく合意ができたはずです。

自分だけの見方や価値基準で話をするのではなく、相手側からはどう見えているのか、どうしたらYESと言いやすくなるかなど、自分の言い分を押し通すことだけが正解ではないことがよく理解できます。

この本を読むことにより、話し方だけでなく、メールの出し方など、他者との接点について考え直すことができ、言動を改善できるようになったと思います。