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問いかける技術 確かな人間関係と優れた組織をつくる エドガー・H・シャイン著

1.はじめに

監訳者による序文に、日本語題と原題についての言及があります。

よいリーダーもコーチも、指示・命令する以上に、いつも相手に問いかけをしているものだ。もっとも、ただやみくもに質問すればいいわけではない。よい人間関係の構築に役立つのは「謙虚に問いかける」ことだ。これが本書全体を通じてのキーワードであり原題(Humble Inquiry)でもある。

また、著者による「はじめに」によると、「謙虚に問いかける(Humble Inquiry)」の定義は以下の通りです。

「謙虚に問いかける」は、相手の警戒心を解くことができる手法であり、自分では答えが見出せないことについて質問する技術であり、その人のことを理解したいという純粋な気持ちをもって関係を築いていくための流儀である。

そして、本書の読者想定として、

本書は広く一般の読者を想定して書かれているが、とりわけリーダーシップを担う立場にいる人たちに読んでもらいたい。(中略)人の上に立つ者こそ、「謙虚に問いかける」ことが必要だ。なぜかというと、物事が複雑に絡み合い、人が協力し合わなければ進められない仕事こそ、信頼に基づく良好な人間関係が欠かせないのだ。それなくしては、部下が安心して上司とコミュニケーションをとることはできない。

なお、「リーダーシップとは、役職者にだけ求められるものではなく、すべての人に求められるもの」ということは、以下の「採用基準」を読むと理解することができます。

bookreviews.hatenadiary.com

2.内容

(1)謙虚に問いかける

  • まず、私たちは3つのことを自分に言い聞かせなければならない。
  1. 自分から一方的に話すのを控える
  2. 「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
  3. 傾聴し、相手を認める努力をする
  • 社会学的に見ると、質問せずに一方的に話すことは、相手を上から見下ろすような格好になる。すでに自分も知っている、あるいは検討済みのことを相手に言われてしまうと、少なくともイライラうするし、あまりにひどいと不愉快になる。
  • 「あなたの言うことに耳を傾けます。会話の主導権を握っているのはあなたです」。主導権を相手に私、向こうも私を無視したわけでも利用したわけでもないので、こちら側には「信頼」が生まれる。同様に、こちらが相手に関心を示し、注意深く話を聞いたのだから、向こうも私を信用する。つまり信頼関係を築くことのできる会話とは、両者が投資を行い、その代償として価値のある何かを受け取る相互作用
  • 自分では質問しているつもりでも、単に言葉づかいが変わっただけで、結局は自分が言いたいことを質問の形式に置き換えただけか、あるいは自分が正しいことを確かめるために相手に聞いているにすぎない場合が多い。しかし、自分ではそのことに気づいていない
  • 本書で語ろうとしている「問いかける」という行為は、相手に対して興味や好奇心を抱くという態度から導かれるもの。そこには、もっと率直に語り合えるような関係を築きたいと願う気持ちが含まれている。

(2)実例に学ぶ「謙虚に問いかける」の実践

  • 相手をとるか自分をとるかという選択を迫られた場合、二人にとってどうするのがいいかという視点で考えよう。互いの関係に焦点を当てる。ほんの少しだけ自分が変わればうまくいくことが多い。何も二人の関係を大幅に見直す必要はない。自分が少し変わることによって、二人で一緒に問題を解決するようになる。
  • 何かを聞かれたとき、相手が本当に必要としていることがわかるまで、慌てて返事をしないこと。相手が正しい質問をしたと思い込まないようにすること。
  • 「謙虚に問いかける」は、チェックリストに従って行動したり、あらかじめ用意された質問のとおりに聞いたりするのではなく、あくまでも相手を思いやる気持ちや純粋な好奇心、会話の質を高めたいと望む気持ちから生まれる行為

(3)ほかの問いかけと「謙虚に問いかける」はどう違うのか

  • 「自分ばかり話すのではなく、これからはもっと相手に問いかけよう」と単にそう思うだけでは不十分。質問の仕方には実に多くのアプローチがある。
  1. 謙虚な問いかけ:謙虚な姿勢で尋ねようとしているときは先入観をできるだけ排除し、頭のなかをすっきりとさせて会話を始め、相手との話が進むにつれて自分はなるべく聞くことに専念するように心がけよ、ということ
  2. 診断的な問いかけ:このタイプの聞き方を特徴づけているのは、質問が相手の思考プロセスに影響を与えるという点。相手が最初に聞いてきたことに答えるかわりに、こちらから質問するということは、私がその会話の方向性に決める立場になる。あくまでも頼まれたことをきちんとやりたいという意思に基づくものなのか、それとも単に自分の好奇心を満たしているにすぎないのか、どちらなのか。
  3. 対決的な問いかけ:質問というかたちを取りつつも、自分の考えを差しはさむ。これが対決的な問いかけの本質的な要素。
  4. プロセス思考の問いかけ:相手との会話が少々おかしな方向へずれてしまったら、「大丈夫ですか」というような主旨の質問を、へりくだってしてみるといい。そうすれば、何がいけなかったのか、どうすれば修正できるのかを探ることができる

(4)自分が動き、自分が話す文化

  • いざ助言を口にする前に、その相談者もすでに同じことを検討した可能性があるかどうかなんて、あなたは考えるだろうか。誰でもそうだが、私たちは必要以上に「自分が話し手になること」に一生懸命になってしまう
  • 要するに、私たちは本能的にも経験からも、すでに面識がある人や信頼している人となら、複雑で互いに支え合わなければならない仕事でもうまくやれることがわかっている。ところが、そのような人間関係が確実に築けるように時間とお金を投資して努力するという心づもりができていない
  • 初期の段階で「謙虚に問いかける」を実践しておかないと、あとになってからではコミュニケーションが良好かどうかを判断するのは難しい。なぜかというと、部下は多くの場合、指示を理解できなかったことを認めたがらない

(5)「謙虚に問いかける」を邪魔する力

  • 人と話しているとき、私たちは開かれた自己が意図的に発しているものに留まらず、実にさまざまな信号を送っている。手振り、声のトーン、話し出すタイミング、服装や身につけているもの、視線の動かし方など、これらのすべてが何かしらのメッセージを相手に送っている。あなたに対するその人の総合的な印象は、あなたから発せられるすべての情報に基づいて形成される
  • こうした情報は本人の自覚のないままに送られているので、私たちには盲目の自己(blind self)があることを知っておかねばならない。それはつまり、相手に伝達されるものも知らずに発している信号なのだが、あなたに対して他人が抱く印象は、それらを基に作られている。
  • 私たちは誰でも、自分の不完全さを認識している。なぜならば、隠された自己には自分自身を疑ったり批判したりする気持ちが渦巻いているし、他人の目にも同じ部分が欠点として映っているのではないかと思っているから。もちろん、人はあなたの欠点を見抜いている。しかし、決してそれを口にしようとはしない。それをやってしまうと、あなたのほうもその人に対して欠点を指摘しなければならなくなるので、そんなことをすれば互いに自尊心を喪失してしまう。
  • 私たちは、観察し(Observation)、そこで見たものに対して感情的に反応し(Reaction)、それを分析・処理し、感情と結果と感情に基づいて判断し(Judge)、何かを起こすべく表立って行動、介入(Intervention)する。「謙虚に問いかける」は、介入に分類される行動の一つ。
  1. 観察:私たちは見えているものを考えたり論じたりするのではない。自分が考えたり論じたりできることが目に入る
  2. 反応:課題の遂行を優先する実利的な文化では、感情に左右されて判断してはいけないこと、物事は感情によって歪められること、そして感情に突き動かされて衝動的に行動してはいけないことも教わる。しかし、おかしなことに、私たちはまったく逆のことをしてしまうことが多い。自分ではあくまでも慎重な判断に基づいているのだと勘違いしている
  3. 判断人間が論理的に結論を導き出す能力には限界があり、その精度は根拠として採用したデータの質によって決まるという点を、早い段階から認識しておくべき。
  4. 介入:何らかの判断を下すと、私たちは行動に出る。トラブルを招くような反射的反応とは、不正確なデータに基づく判断としての介入であり、必ずしも不適切な判断そのものだとは限らない。
  • 文化的にも個人的にも、人は異なる歴史を持っているので、誰一人として同じではない。もっとも重要なことは、その状況における自分の役割や立場、地位に関する認識があるからこそ、私たちは「自分は何が適切かを理解している」と決めてかかってしまう傾向がある

(6)謙虚に問いかける態度を育てる

  • 「謙虚に問いかける」という態度を新たに学ぶためには、「自分が話し手になる」という古い習慣を手放さなくてはなれない。そうすると、2種類の不安が押し寄せてくるので、これらにうまく対処する必要がある。
  1. 生き残りの不安:ある行動ができるようにならない、自分は不利になる、と気づいたときに抱く不安。
  2. 学習する不安:学習すべき課題と向き合い、習得しようと努力を重ねていくうちに、困難やマイナス面を予想して心配する不安。このような不安があると、人は変わることに対して抵抗を感じてしまう。学習することへの不安が生き残りの不安を上回っていると、私たちは変化を拒み、学びを避けるようになる
  • 「謙虚に問いかける」を学ぶことは、いかに速く走るかを学ぶのではなく、物事を慎重に見渡して、その場で現実に起きていることをきちんと評価するために減速する方法を学ぶこと。
  • 「謙虚に問いかける」は、状況が正しく見極められていることを前提としているので、「ほかに何が起きているか」と自問することは不可欠。一見矛盾するようだが、これには謙虚な姿勢で自己と向き合う術を学ぶことも含まれる。
  • あなた自身が身構えずに弱点をさらけ出してもよいという気になれば、より親密な会話を引き出すことができ、「尋ねる」「話す」「認める」を繰り返すうちに、信頼と心を開きやすい雰囲気が生まれる。

3.教訓

かつての自チーム内に、「●●だとは思いませんか?」と形は質問の形式をとりながらも、思った通りにならない現状について批判をまき散らすメンバーがいました。そして「誰も質問に答えてくれない」、とよく不満を漏らしていました。それは、まさに本書でいう「対決的な問いかけ」でした。

当時も、「その相手は、質問ではなくて批判として受け止める。反応が無くて当然。」と言うことを幾度となく伝えましたが、スタンスを改めてくれることはありませんでした。加えて、質問の中身だけでなく、質問の仕方や態度も、年齢や役職も上の相手であるにもかかわらず、「謙虚さ」は微塵も感じることはできませんでした。

他にも、着地想定を見いだせないまま、議論を炎上させることを目的に、あおるような質問をやたらと繰り返す人もいました。そういう方々が、”信頼に基づく良好な人間関係”を築けておらず、職場から浮いていたのは言うまでもありません。

 

自身でも、回付される文書をチェックした際に、「ここは気になりませんか?」という聞き方をすることがあります。それは、「自分で文章を書いていて、見た目や表現、誤字脱字が気にならないのかな」という純粋な質問と、「そういうところは気にしてくださいね」という自身の意見・要求を、意図して織り交ぜています。

そのような、客観的に見ても明らかにおかしな場合でなく、主観的な部分で認識の相違が発生することもあります。その場合は、「自分の意見と違う」と言う前に、「なんでそう思ったの?」と聞くように意識しています。そうすることで、相手がその考えに至った背景や前提条件を確認でき、より深い意見交換ができるようになります。

また、意見表明でなく質問を受けた際にも、回答する前に「なんでそんなことを聞くの?」ということを確認することもあります。そうしないと、「実際に起こっていること、本当に確認したいことは何だろう」が理解できないことや、「都合のいい質問の仕方で、こちらにうんと言わせて言質を取りたいだけではないか」と思うこともあるからです。

 

「謙虚に問いかける」とはどういうことか、そうするとどういう効果があるかということを学べる良書でした。自身でも毎回それができているわけではありませんので、内省の意味も込めて勉強になりました。