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外交談判法 カリエール著

1.はじめに

本書は、立派な交渉家となるために必要な資質と知識について書かれた、1716年にフランスの外交官により記された書物です。

本来は外交官としての心得を説いた内容ですが、現代の一般社会人に向けて、部門長に代わり組織を代表して行動することにも応用が利く、非常に示唆に富む内容となっています。

以下に、いくつか引用してみたいと思います。

(主君=自国の代表、君主=敵国の代表)

2.内容

  • 無経験の交渉家は、人が彼に敬礼すると、それが彼が代表している主君の地位に対して敬意を払っているのに過ぎないことを忘れて、得意になるのが普通。
  • 大使の主たる目的は、主君と任国の君主の間の良好な関係を維持することであるべき。大使は、任国の君主の権力を保ち、または増大させる手段としてのみ、おのれの主君の権力を代表するのが筋合いであって、任国の君主に屈辱を与えたり、その恨みや妬みをかきたてるために主君の権力を使ってはならない。
  • ことに大国を統治する主権者にとって、近くや遠くの国々と、公然とまたは秘密裏に、平時と戦時とを問わず、絶えず交渉を続けているということがいかに有益なことであり、また必要欠くべからざることでもある。
  • どんなに強い国でも、他の諸国がこの国に敵意を燃やし、またはその繁栄を妬んで、団結してやってきたときに、同盟国無しでは、これらの諸国の軍隊に抵抗できるほどに強くはない。
  • 立派な交渉家にとって必要なことは、何を言うべきかをよく自分で検討していない状況では、話したくてむずむずしていても、その欲望に抵抗できるような自制心を持つこと。相手の提案に対して、即座に、よく考えもしないで、返答しようと見栄を張らないこと。
  • 情報を買いたければ、与えざるを得ない。この取引から一番大きな利益を得るのは、相手よりも限界が広いので、訪れる機会を一層上手に利用できる人。
  • スパイに使うほど、適切で必要な金の使いみちはない。かかる出費を要路の大官がおろそかにするならば、それは弁解の余地のない過ちである。
  • 優柔不断ということは、大きな問題を処理する場合には極めて有害である。不利な点を色々と比較考慮したうえで決心して、その決心を粘り強く貫くことのできる果断の精神が必要
  • あまりに有能な人は、かえって凡人にしばしばうまく逃げられてしまう。時々、自分の手腕を信じ過ぎて凡人にだまされる。凡人を味方にしようと思うならば、彼らの役に立つように、彼らから好感を持たれるように自分の手腕を用いるべき。
  • ぺてんはいやしむべここと。一生の間には何回も交渉事を扱うため、嘘をつかない男だという定評ができることが彼にとっての利益であり、この評判を彼は本物の財産のように大切にすべき。
  • 感情を抑えていつも冷静な人は、気短で怒りやすい人と交渉する場合に極めて有利。勝負にならないような違った武器で戦っているようなもの。この種の仕事で成功するには、口を動かすことより、耳を働かせることの方がはるかに必要。沈着で控えめで大いに用心深く、いかなる場合にも忍耐強いことが必要。
  • 人間というものは、自分に対して役に立とうとしてくれている者に対しては、こちらも進んで親切にしたくなるもの。そして、相互に親切にしあうことこそ、友情の最も確実で長続きする基礎。
  • 君主を研究して、彼の性癖、愛着の対象、美徳と弱点を知り、必要な場合にはこの知識を利用できるようにしておくことが大切。交渉家は、任国の君主と同時に、君主の大臣や腹心の人たちを研究しなければならない。彼らの痛いところはどこか、彼らの意見や情熱や利害関係はどんなものかを見抜かねばならない。また、彼らが君主の考えに対し、どの程度の影響力を持っているか、そこでなされる決定に対してどのような関与しているかを見抜かねばならない。
  • 主権者たちは、あまりいつも褒められているので、通常、大抵の人よりは一層鋭く、賛辞の良し悪しを味わい分ける。彼らに喜ばれるためには、賛辞は機智にあふれていて、その場にピタリとふさわしいものでなければならない
  • 我々に対して愛情を示してくれる人々に対して、こちらも愛情を抱かないでいるということは難しい。そして、愛情というものは、大掛かりな献身的行為よりは、むしろ不断の心遣いを怠らず、世話や親切やちょっとした尽力をしばしば繰り返して行うことから生まれるのが普通。
  • 自分の個人的な情熱を満足させるために振る舞うならば、それは自分の感情のために主君の利益を犠牲にすることによって、自分の無能力や不忠実を証明する。
  • 状況は変化するものであって、どれほど決心が固く、強情な人でも、実は長続きせず移り気であるに過ぎない。彼らの考えも決心も、すべてその時々の彼らの想像力の状態によって左右されるものでしかない。
  • 立派な交渉家に必要な資質の中で最も必要なものは、人が言おうとすることを、注意深く噛みしめながら傾聴することができ、相手が述べたことに対して、的外れでないその場にあった返事はするが、こちらの知っていることや望むことをせかせかと全部言ってしまおうとは決してしないこと。交渉の主題を説明するにあたって、最初は相手の事情を探るのに必要な程度に留める
  • いくら自分にとって有利な企てでも、最初からその全貌と、それから起こりうるすべての結果を見せられると、やろうという決心がつかない人間が世の中には多い。しかし、そういう人たちでも、少しずつ順を追って入らせると、こちらの誘導するがままになる。なぜならば、一歩歩くともう一歩、さらに何歩も歩いてみたくなるから。
  • 有能な交渉家にとって必要なことは、ずるくて抜け目ない人だと思われたいなどというバカな思い上がりを気を付けて避けること。でないと、交渉相手に警戒心を抱かせる。反対に、彼は実があり、うそをつかず、彼の意図は公正なものであるということ相手に納得させるよう努力すべき
  • 腕利きの交渉家ならば、条約の条項の起草を引き受けるべき。なぜならば、条項を文章にする人間には、既に合意をみた条件を、当事者間で決めた事柄に違反しない範囲内で、主君にできるだけ有利な言い方で表現することができるという利点があるから。
  • どんな国民や国家にも、悪い法律もあろうが、よい法律もたくさんある。彼はそのよい法律を褒めるべきで、よくない法律のことは口にすべきではない
  • 交渉家は、軽々しく約束をしてはならないが、一旦約束したことは几帳面に実行しなくてはいけない。人は断られた場合よりも、約束が守られないことに対して、一層激しく腹を立てるもの。
  • 有能な交渉家ならば、主君の権利や主張に有利なすべての条件を、極めて明瞭に条文の文面に表現させなければならない。一点の疑いも残さないように、詳しく的確に規定させなければならない。そのためには、彼がその条約に使われている言語を十分に知っていて、そこで用いられる言葉がどれだけのことを意味しうるかを承知し、最も適切で表現力に富んだ言葉を選べることが必要
  • 思慮のある交渉家ならば、公信を書くときには、報告の対象である君主や大臣の目に触れるかもしれないから、最もな苦情の種を彼らに与えないように書くべき。
  • 彼の振る舞いが悪く、横柄で筋が通らず、人聞きの悪い行状があって憎らしがられるようになると、君主までがその国で憎まれるおそれが大いにある。
  • 問題になるのは、通常、何を報告するかということよりは、どのような言い回しで、また、どういう意図で報告するのかということ。
  • 無学で主君の権勢を笠にきてのぼせ上がっている交渉家は、自分を権威づけるために、主君の利害とは無関係の事柄に関して理由もなく主君に名前を出すきらいが強い。これに反して、分別のある交渉家は、主君の名前と権威に累を及ぼすことを避け、本当に然るべき場合でない限り、決して主君の名前を引き合いに出さない

3.教訓

本ブログを見ていただける方は、むしろ部門長よりも、中間管理職や責任者クラスの方が多いものと推察します。私もその一人です。

社内外の関係者と交渉・協議を行う際には、個人的な利害や一時的な感情に左右されることなく、常に組織を代表しているという自覚を持ち、誠実に対応したいと考えます。

また、今は社内通達や取扱マニュアルなど、文章を起案することも多いので、自らの意図をしっかり伝えることができる言葉・表現を選び抜きたいと思います。

その他、メールやツイートをする際にも参考になる、現代にも通じる内容が盛りだくさんです。 自分の能力を過信して短絡的に発言すると、いわゆる”炎上”してしまう可能性があり、充分留意したいと考えています。