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交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から 島田久仁彦 著


 

1.はじめに

この本を読むきっかけは、2022年度の上智大学プロフェッショナル・スタディーズにおいて、「2101 人を動かす究極の交渉・コミュニケーション術:“納得”の導き方」として、著者島田久仁彦氏自らが担当する講座があり、著書としての紹介されていたことでした。

交渉そのものにフォーカスした内容というより、交渉となった舞台での自らの立ち振る舞いに触れた部分が長かったという感想も持ちましたが、いくつか印象に残った部分について触れていきたいと思います。

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2.内容

  • さまざまな合意の中でも、結局長続きするのは、当事者同士が納得している合意だけ。いくら力で押さえつけても、その下に不満がくすぶっていれば、争いはいつか必ず再燃します。どんな交渉でも、表面の勝ちばかりを追っていると、その場はよくてもいつか必ずしっぺ返しがきます。「負けた」と感じた相手の思いが、次第に「損をさせられた」「だまされた」「恥をかかされた」という不満に変わって蓄積してゆき、結果的に思わぬところで想定外の妨害をされたこともありました。
  • 大事なことは、互いに「一緒に結果を導き出した」という達成感を共有すること。交渉というのは、一度きりということはほとんどなく、多くの場合は何度も同じ人物と相まみえ、徐々に合意を積み上げていくもの。継続的に話し合うことで互いに相手のやり方がわかってくるものですし、相手のスタイルに理解を示す過程で信頼は生まれてきます
  • 「ごめんなさい」「お願いします」と人に頭を下げるのは、どっちもタダ。それでその場をしのげたり、得たい情報が得られたりするのなら、これほどいいことはないじゃないか。だから無駄なプライドは捨てなさい。逆に、もし知ったかぶりをして、「教えて下さい」と頭を下げることができなければ、専門家の貴重な知見を活かすことは永遠にできないままでしょう。
  • 「エレベーター・プレゼンテーション」の際に言われたのは、「俺を真っ白な紙だと思って説明しろ」ということでした。つまり、予備知識ゼロの人間だと思って、そんな人間にもわかるように説明しろ、ということです。彼だってその概略は知っています。それでも、その案件について何も知らない人間を想定して説明を求めたのは、調停の現場に備えてのことでした。
  • 「情報を紙1枚にまとめる技術」は情報を整理して端的に提示するもの。トップの人間は30秒で情報をインプットし、即座に判断を下さねばなりません。そのとき、紙を裏返している時間などありません。ホッチキス止めのメモなんて論外です。
  • 「わかった。じゃあ俺が先方に謝っておく。俺はお前のボスだ。お前の代わりに俺が謝って問題が解決できるのだったら、お前はすぐに戻ってこい。お前自身にできることがあるなら、それをやってから帰ってこい。その判断は任せる。ただ、焦って何とかしなきゃと1人でどんどん穴を掘っていくのだけはやめてくれ。そのときは、問題解決のために誰かを送るし、俺がそちらに行ってもいい。」彼のこうした態度は、リーダーシップというものを真に体現していると思います。
  • 仕事をした本人を人前でも評価する。そうすることによって、褒められた部下は自分の仕事に誇りと同時に、責任を感じることになります。それが「センス・オブ・オーナーシップを持たせる」ということ。
  • いかに相手に話をさせるかということが決定的に重要。知らず知らずのうちにこちらに有用な情報をどんどん与えてくれますし、何より「自分の主張を聞いてくれた」という気持ちになってもらうことで、合意への道のりがスムーズになるからです。
  • 合意案が長持ちするかどうかは、相手の心情を汲み取ったうえで、相手の納得のいく案に落とし込まれているか否かで決まります。そのためにはWhat?だけでなくWhy?(どうして提案を呑めないのですか?どうしてそのような主張をされるのですか?)についても、相手の話をじっくりと聞かなければなりません。「なぜ?」と何度も相手に踏み込み、本当に望んでいることは何かをつかみ、そこから解決策を考える
  • 利害を通すために、自分の信念を曲げられるかどうかが問われているのです。自分自身が支持できる考え方と、交渉官として主張している内容が真逆の場合もありましたが、それでも本当に信じ切っているかのように振る舞う。それが交渉プロフェッショナルの姿なのです。
  • どのようにすれば、利害関係者に多くの利益をもたらすことができるかという1点で交渉を進める。そしてどちらにも負けを作らないと同時に、明らかな勝ちもつくらない。程度の差はあったとしても、全員に勝ったと思ってもらう。それが、プロの調停官としてのやり方。
  • たいてい本当にクリティカルなイシューは10個のうちせいぜい2個か3個くらい。揉めている相手にはこういえばいい。「この3つのために、あなたはこれまでできた7つの合意を全部蹴飛ばすわけですね?」「この3つで揉めることに、おsれだけの価値があるのですか?」。複数のイシューがある場合、合意できるものから合意する。これが交渉の鉄則です。
  • 結論→理由→結論」という構造で伝えるようにします。国際的な交渉の場でよく見られる日本人スピーカーの傾向として、「話が長い」「起承転結で展開する」ということがあります。交渉の場で公的にスピーチする場面では、はじめにいきなり「結」から入らないと、インパクトが格段に落ちてしまいます
  • 交渉相手をその気にさせる秘訣は、「最初に完全無欠な案を提出しない」こと。国際交渉のような場で合意に達するには、参加するみんなが「この交渉で何かを得た」もしくは「自分の主張が反映されている」と思えることが何よりも重要です。「最初に出す提案は70点、もしくは60点くらいを目指してほしい」と言われたものです。つまり、「関わる人たちが改善にコミットできる余地を残しておきなさい」というわけです。
  • 交渉においてはもちろん、普段の生活でも、他人から押し付けられたものに対しては抵抗したくなるのが人情です。条件を提案する立場からすれば、相手にコミットできる余地を残し、自発的に作成に関わってもらえば、それだけ合意への道のりが容易になります。「相手にコミットさせよ」ということは、分野にかかわらず、交渉そして調停の大原則です。
  • 広く情報を集め、また顔と名前を覚えてもらうには、とにかくチャンスを見つけては外へ出ていくことです。複数の利害が複雑に絡み合う国際交渉の場においては、自分側のメンバーで内輪の議論をしているだけでは、交渉全体の進展は望めません
  • あえて「自分」を消し、チーム全体の成果を挙げることに徹した外交ができることは、相手の警戒を解くことにもつながります。「自分」というものを出さずに、チームの駒の1つとして、それぞれの役割に沿った外交を徹底・実施することによって、相手は警戒心を緩めてどんどん情報を入れてくれる。
  • 外交もビジネスも、巷で言われているように欧米化する必要など、絶対にありません。もちろん、相手のやり方を知っておくことは重要です。海外の土俵で経験を積み、さまざまな分野で知見を広げておくことは大いに賛成ですが、いいところは貪欲に取り入れる一方で、「日本人であること」には誇りを持ち続けてほしいと思います。
  • ほとんどの人は、「他人にどう見られているか」という他者の視線に神経を尖らせるあまり、「自分の信念は何なのか」「それを実現するにはどうすればいいのか」という本質的なことを考える、または理解することを忘れがちなのではないでしょうか。他人の目に映る印象に気を揉むより、自らがどんなスタイルで生きていくかを考えるほうがよほど大切だと思います。

3.教訓

確かに、ファシリテーターとして持っていきたい方向と、当事者が思っている内容が異なることは多くあります。

そこで、表面的に合意しようと思えばできることもあります。

ただ、そうしたところで、面従腹背になってしまっては、何の意味もありません。

やはり、交渉の目的は、単に合意に達することではなく、合意後に当事者が納得して行動が変わることだと思います。

そのためには、相手が何を考えているのか、なぜそう思っているのか、まずは話をしてもらうことが必要で、人によってこだわりポイントはさまざまであるため、わざと改善余地のあるものを目の前に置いて、それについて自分の意見を語ってもらうというやり方は非常に参考になりました。