1.はじめに
EQに関するダニエル・ゴールマン氏の著書は、以下に続き2冊目です。
EQは、Emotional Intelligence Quotient(感じる知性)のことで、IQ(Intelligence Quotient, 知能指数)の対置概念です。
序文において、以下の通りEQの重要性が記されています。
- リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くこと
- リーダーシップとは、気持ちに訴える仕事
- 優れたリーダーシップを発揮するためにはEQは欠かせない
以下では本文から引用し、より具体的に見ていくことにしたいと思います。
2.内容
(1)リーダーの一番大切な仕事
- 本来のリーダーシップとは、単に仕事がきちんと達成されるかどうかに気を配るだけではない。リーダーには、メンバーとの感情レベルのつながり、すなわち共感も求められている。組織の盛衰は、かなりの部分、リーダーが感情のレベルで適切に対処できるかどうかに影響される。
- リーダーは発言回数が最も多く、その発言は皆から注目される。リーダーはふつう、提示された問題に関して最初に発言する。他のメンバーは、リーダーの発言内容を踏まえたうえで発言することになる。リーダーの見解は特別な重みを有し、集団を代表して「意味づけを管理する」ことになる。すなわち、リーダーは、目の前の状況をどう解釈しどう反応するかを提示する役割を担う。
- リーダーの影響力は、発言だけにとどまらない。発言していないときでも、リーダーは注目されている。集団にかかわる問題が提起されたとき、人々はリーダーの反応に注目する。そして、リーダーの反応を最も信頼すべきものとして、それに倣おうとする。特に人によって異なる反応を示す微妙な状況下では、人々はリーダーを見る。ある意味で、リーダーは感情の基準を作る。
- リーダーの感情および行動が部下の感じ方や仕事ぶりに影響を与えることは疑いない。そうしてみると、リーダーがいかに自分自身の雰囲気をコントロールし、いかに周囲の雰囲気を方向付けるかは、単に個人的な問題ではなく、企業の業績を左右する要素であるといえる。
(2)共鳴型リーダーと不協和型リーダー
- 共鳴が起きていることを示す兆候の一つは、リーダーの明るく熱意に満ちたエネルギーに共振する集団の姿。共鳴は、リーダーシップの感情面へのインパクトを増幅し延長する。共鳴が大きいほど、人と人っとの相互作用が活発になる。EQの高いリーダーは、ごく自然に共鳴を起こすことができる。熱意と行動力を示して、グループ全体を共鳴させる。
- 不協和型のリーダーの中には、「的外れ」と呼ぶべきタイプもある。本人としては前向きの共鳴を求めているのだが、部下たちが負の感情にとらわれていることに全く気付かない。言い換えれば、従業員が組織の現実に怒りや不安を抱いているのに、リーダーはそれに気づかず明るいメッセージを送り続け、結果として誰一人共鳴しない、というケース。
- 自分の気持ちを認識できなければ、それをコントロールすることもできないし、まして他者の気持ちを理解することもできない。EQの高いリーダーは、自分の内なる信号に敏感だ。自分自身がどう感じているか認識できない人間に、他人がどう感じているか理解できる道理はない。
(3)EQとリーダーシップ
- 絶妙なユーモアは優秀なリーダーの特徴のひとつ。ユーモアを効果的に使うのに、コメディアンのようなセンスやネタが必要なわけではない。後で考えればつまらないジョークでも、張りつめた空気の中で笑いやほほ笑みを誘うことができれば、それで十分。
①自己認識
- 「自己認識」とは、自分の感情、自分の長所や限界、自分の価値観や動機について深い理解を有している、ということ。自己認識のしっかりしている人は現実的。自分を過小評価することもないし、根拠のない楽観に酔うこともない。さらに、自分に対して正直だ。あるがままの自分を隠さない。自分の端緒を笑ってみせる余裕もある。
- 自己認識の優れたリーダーは、自分の価値観、目標、夢なども理解している。自分が何のために何を目指すのかを自覚している。自己認識の優れた人間は、自分の価値観に合った決断ができるので、仕事に対していつも前向きでいられる。
②自己管理
- 自己認識ができてはじめて、自己管理が可能になる。自分が何を感じているかわからなければ、自分の感情を管理できるはずがない。逆に感情に支配されてしまう。やっかいなのは、負の感情が圧倒的な支配力を持っていること。
- 感情は非常に伝染しやすく、特にリーダーの感情はメンバーに伝わりやすいので、リーダーの第一の課題は感情面の「衛生管理」に努めること、すなわち自分の感情をしっかり管理すること。感情の伝染性を考えると、リーダーの感情は単に個人の問題ではない。
③社会認識
- 社会認識、特に共感は、リーダーが共鳴を喚起するという基本的役割を果たすために不可欠な能力。人々の気持ちに自分の感覚を同調させることによって、リーダーは集団に安心感を与えたり、怒りを鎮めたり、高揚した気分に参加したりと、場面にふさわしい対応ができる。
- しかし、共感は「ぼくもOK、きみもOK」などという甘ったるい関係を意味するものではない。集団の感情に追従したり全員に気に入られようとするのがリーダーの役割ではない。それでは身動きひとつできなくなってしまう。そうではなくて、共感とは従業員の気持ちをよく考慮したうえで聡明は判断を下すこと。
④人間管理の関係
- 自己認識、自己管理、社会認識の3要素がそろって、最後のEQである人間関係の管理が可能になる。人間関係の管理は、結局のところ、他者の感情をどう扱えるかにかかっている。それはとりもなおさず、リーダーが自分自身の感情を知り、部下たちの感情を汲むということ。
- 社会的スキルの優れたリーダーは社交ばかりしているわけではない。重要なことは独力では達成しえないという前提をわかったうえで仕事をしている。そういうリーダーは、行動を起こすべき局面が到来するときまでに、すでに必要な人間関係を作っている。
(4)前向きなリーダーシップ・スタイル
①ビジョン型リーダーシップ
- ビジョン型リーダーは目指すところを言葉で描いて見せるが、そこへ到達する方法は押し付けない。部下たちが自由に考え、試し、計算されたリスクを冒して道を見つける。全体像を提示されたうえで各自の仕事がどこにあてはまるかを理解した部下たちは、自分の役割を明確に把握できるようになる。
②コーチ型リーダーシップ
- コーチ型リーダーシップでは課題の達成よりも個人の育成に重点が置かれ、感情面できわめて良好な反応や結果につながることが多い。個々の従業員との対話に心を砕くことによって、リーダーはラポールと信頼を築いていく。
- このタイプのリーダーは従業員を単なる仕事の道具と見ることはなく、一人ひとりを心から大切に思っている。そうしたリーダーの姿勢は、従業員に伝わっていく。その結果、従業員たちはパフォーマンス・フィードバックを心を開いて受け止めるようになる。リーダーの言葉を自分自身の向上に役立つアドバイスとして聞けるようになる。
- 当然ながら、コーチ型リーダーシップはイニシアチブを示す部下、プロとして能力向上を目指す部下に対して最大の効果を発揮する。モチベーションに欠ける部下、手取り足取り教えなければならない部下には、コーチ型の指導はうまくいかない。拙劣なコーチ型リーダーシップは、マイクロマネジメントかコントロール過剰の印象を与える結果となる。
③関係重視型リーダーシップ
- 自分の感情を周囲と共有する姿勢は、関係重視型リーダーシップの1つの特徴。このスタイルのリーダーは、人の気持ちを大切にする。課題や目標の達成よりも部下の感情面のニーズを重視する。皆を満足させ、仲良くさせ、チームの共鳴を引き出す。部下を人間として大切にする関係重視型リーダーのもとには忠実な部下が育ち、組織の結束が強まる。
④民主型リーダーシップ
- 関係者全員を巻き込む民主的なスタイルは信頼と尊敬の気持ち、すなわちコミットメントを醸成する。1対1の話し合いや集会に時間をかけて利害関係者の懸念に耳を傾けることで、民主的リーダーは集団のモラールを保つ。その結果、関係者全体に前向きのインパクトを及ぼすことができる。
- もちろん、民主的リーダーシップにも欠点はある。リーダーがこのアプローチに頼りすぎると、会議が延々と続くばかりでいつまでも結論が出ず、目に見える成果は会議の予定が詰まったスケジュールばかり、ということになりかねない。リーダーが重要な決断を先延ばしにしていつまでもコンセンサスを探っていると、組織は混乱し、方向を見失い、仕事が遅れ、衝突が激化する。
(5)危険なリーダーシップ・スタイル
⑤ペースセッター型リーダーシップ
- ペースセッター型のリーダーは目標達成しか頭にないので、部下への思いやりが欠如しているように見えてしまう場合がある。その結果、不協和感が生じる。
- 適度のプレッシャーは部下に意欲を与えるが、強いプレッシャーが続くと部下の意欲は衰える。意欲が衰えると、部下は自分が生き残ることしか考えなくなる。プレッシャーは革新的な思考力を締め付けてしまう。
⑥強制型リーダーシップ
- 強制型リーダーはめったに部下を褒めず非難ばかりするので、部下たちはモラールや自尊心など良い仕事をするためのモチベーションを徐々に失っていく。結果的に、彼らは自分の仕事がより大きな共通のミッションに貢献しているとは感じられなくなってしまう。
- リーダーが感情をコントロールできず共感能力にも欠ける場合、共生型リーダーシップは最悪の形を呈する。強制型リーダーシップを効果的に使うには、「然るべき理由で、然るべきときに、然るべきやり方で、然るべき相手に対して怒る」EQが必要。
EQの低いリーダーのもとからは、優秀な人材が離れていく。どんな業界においても、優秀な人材ならば出来の悪い上司のもとで我慢する必要などない。EQの低いリーダーは、自分を改善するか、そもなければ消え去るべき。
(6)EQリーダーを作る5つの発見
- 総じて、われわれは他人のパフォーマンスについて悪いフィードバックも良いフィードバックも躊躇しがち。そのくせ、自分はそうしたフィードバックを欲しがる。率直な評価は他のどんな情報より気になるもの。
- 調査をしてみると、自分は変われない、と諦めているリーダーが多かった。フィードバックの内容に納得できたとしても、長年続けてきたスタイルを変えるのは無理だと考えている。リーダーが変わる見込みがないのなら、不快で気まずい思いをしてまで正直なフィードバックをする価値はない、と考えてしまう。だが、リーダーはときに人生そのものを変えてしまう大変革を遂げることができる。
- 習得したリーダーシップ・スキルを長期にわたって維持できるかどうかは、受講者の動機およびトレーニングに臨む姿勢による。要するに、本人が本気で学びたいと思わなければ身につかない、ということ。強制的に学習させられたことは、試験勉強と同じで、一時的に身についたとしてもすぐに忘れてしまう。
- リーダーシップの学習は、ゴルフやギターの学習と同じ。やる気があれば、そしてやり方をきちんと理解すれば、誰でも上達できる。
(7)EQリーダーへの出発点
- リーダーとして組織を率いていこうとするならば、自分一人の理想像だけでは十分ではない。リーダーは、組織の理想像を提示しなければならない。目的意識や方向性がなくては、組織全体に興奮が伝わっていかない。全体のビジョンをまとめあげるには、リーダー自身が他者の希望や夢に対して心を開いていなければならない。
- 自己認識の歪みを矯正するいちばん確かな方法は、言うまでもなく、周囲の人々から正しいフィードバックを受けること。ならば、正しい情報を十分に得て歪んだ自己認識を正しくしていくことなど簡単なはず。なのに、なぜそうでない人が多いのだろう?
- 「リーダー」と呼ばれる立場になる人間は、多かれ少なかれ、重要なフィードバックを得にくいもの。他人の感情をわざと傷つけたいと思う人間はあまりいない。そのため、「感じよく」しようと気を使いすぎて、無害化したフィードバックをもらっても、向上のために必要な情報が抜き取られているのではかえって逆効果。
- リーダーとして十分に力を発揮するためには、自分を取り巻く情報フィルターに風穴を開けなくてはならない。リーダーに向かって声を上げる人間は、ほとんどいない。だからこそ、リーダーは自分から真実を求めなければならない。
(8)集団のEQをどう高めるか
- 集団が自分たちの直面する現実を感情のレベルで、さらに言えば本能的なレベルで本当に理解することが、まず何より重要。問題の根は、長い年月の間に染みついた行動の基本原則や習慣である場合が多い。チームについて論じる場合はこれを「規範」と呼び、組織について論じる場合は「文化」と呼ぶ。
- チームの基本原則や感情を無視し、リーダーシップの力だけで人々を変えられると考える失敗は、どこの会社でも見られる。リーダーが新しい職場に着任し、集団の規範や感情を無視して改革を進め、共鳴型でなく強制型とペースセッター型を併用して力ずくで仕事を推し進めようとする結果、反抗が噴き出す。
- 感情は伝染するものなので、チームのメンバーは良きにつけ悪しきにつけ互いの言動から感情の影響を受ける。メンバー1人が怒っているのにチームがそれを認知できなければ、その怒りが悪い連鎖反応を起こすきっかけになりかねない。反対に、チームがそうした場面にうまく対処できれば、1人の感情がチーム全体をハイジャックする心配はない。
- チームの感情的傾向を見守り、底に潜んでいる不協和感をメンバーに認識させてやることが、リーダーの最も大切な役割。感情的現実に正面から向き合えたとき、チームは初めて変革に向けて動き出す。「ここの雰囲気、良くないよね」といった単純な気持ちを認知するだけで、チームは変化への決定的な第一歩を踏み出すことができる。
(9)組織の現実、組織の理想
- 組織の文化や感情的現実などについて話し合うことによって、人々が問題や夢や理想へ到達するプロセスに対して当事者意識を持つようになる。組織の問題点だけでなく長所にも注目することによって、人々の視線が変革のビジョンへ向くようになる。そして、自分の夢や個人として貢献できることを、大きな全体像の中で考えるようになる。
- 洞察を得るには、静かな環境に引きこもって熟考する機会を定期的に持つのがよい。単なる「仕事」を超えて人々を組織に引きつけている要素が何なのかを把握できてこそ、リーダーは皆が共鳴できるビジョンに到達することができる。
- 第1の課題は、神聖不可侵な中核が何であるかを把握すること。その際に、自分の視点だけでなく、他者の視点からも見ることが大切。第2の課題は、たとえ人々が大切に思っていることであっても、変えなければならない部分があるならば、それをはっきり見極めること。そして、その認識を他者にも理解してもらうこと。
- 周囲と共鳴するビジョンを打ち立てるには、リーダーはまず自分の気持ちを知り、さらに他者の気持ちを知ることから始めなければならない。数字だけでは、人々の心に響くビジョンを構築するには不十分。リーダーは、感情のレベルで「見る」ことができなければならない。
- リーダーが人に重点を置くとき、感情の絆が形成され、そこに共鳴の種を蒔くことができる。そして、人々は良いときも悪いときもリーダーについていくようになる。
- 組織としてEQの高い慣行を維持していくためには、規則や規制や人事慣行が目標と同じ方向を向いていることが重要。EQの高いリーダーシップを目指しても、それを評定制度や報償制度で評価しなければ意味がない。したがって、ビジョンを強化するために、必要ならば規則も変えるべき。
(10)進化し続ける組織
- 組織というものは、本来的に新しい学習を促進する方向には動きにくい。実際、組織に変化を広めていこうとすると、リーダーはパラドックスに直面しなければならない。組織とは、慣例と現状の上に安住したがるもの。
- 文化は、個々のリーダーの力で変えられるものではない。行動を改めようと努力する個人がいても、基本的なパターンが変わらなければ、リーダーシップ研修の目標を達成することは不可能に近い。
- 頭だけを使うプランニングの練習を増やしても、社員の意欲を引き出すことはできないし、文化を変えることもできない。たとえ最高のリーダーシップ育成プログラムであろうとも、血の通わぬ方法で実施したのでは、今日の組織に必要な変革を促進する効果はほとんどないだろう。感情のレベルでかかわるとき、人は変化する。
3.教訓
最後のほうでは、「経営層の関与が必要」「必要なら制度を変える」「コスタリカで合宿する」「サプライズでストンプ」など、今の自身の所属部門・役職では難しいことや、グローバルな大企業でないと実現できないことなど、少し現実離れした話が続きました。
そういった個別の話を除けば、組織運営においていかに感情が大事か、しっかりと学ぶことができる良書です。2.にも赤字で書いた通り、EQの低いリーダーは、自分を改善するか、そもなければ消え去るべき、とまで言及されています。
変に一人で頑張っても「空回りしている」と見られる可能性もあり、かつ、「空回りしているか?」と聞いても、メンバーから忖度して正直なフィードバックをもらえない可能性については留意しなければなりません。
そうならないように、以下のことは常々意識を切らさないようにしたいと思います。
- まずは自身が本気でリーダーシップについて学ぼうとしていることをメンバーにも認知してもらうこと
- 形式的に面談して結果にフォーカスするのではなく、相手の感情を理解しようと努めること
- いきなり自分の意見を表明してしまうとそれが基準になってしまうので、まずは相手から言葉で話してもらうこと
そうすることで、この人には本当に思っていることを伝えていいんだ、と思ってもらえるよう、メンバーとの関係性を構築していきたいと考えています。