管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊+

現役課長が身銭を切る価値のあるのおすすめ本だけを紹介するページ(社会人向け)

WORK SHIFT ワーク・シフト リンダ・グラットン著

1.はじめに

原題はシンプルに、”The Shift"です。

2011年に発刊され、2025年に人間はどんな風に働いているかを予測し、漫然と迎える未来でなく、主体的に築く未来に向けどうすれば好ましい道に進めるのかが記載されています。

既に10年が経過し2025年に近づいてきていますが、①直接対面して接する機会が減り、自宅でオンライン会議がつながる、②データやアプリをサービスの形で利用するクラウドが急速に発展する、③ごく一握りの成功者が莫大な富を独占する「勝者総取り」の社会が出現する、④石油・石炭への依存から脱却するための対策を講じるなど、2021年時点で驚くほどこの本に書かれていることが現実になっています。

そのうち、まだ発展していない、立体映像電話や遠隔手術も2025年には大きく広がっているかもしれません。

2.内容

(1)未来を形づくる5つの要因

  1. テクノロジーの進化:①テクノロジーが飛躍的に発展する、②世界の50億人がインターネットで結ばれる、③地球上のいたるところで「クラウド」が利用できるようになる、④生産性が向上し続ける、⑤ソーシャルな参加が活発になる、⑥知識のデジタル化が進む、⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する、⑧バーチャルな空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる、⑨人工知能アシスタントが普及する、⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
  2. グローバル化の進展:①24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した、②新興国が台頭した、③中国とインドの経済が目覚ましく成長した、④倹約型イノベーションの道が開けた、⑤新たな人材輩出大国が当時しつつある、⑥世界中で都市化が進行する、⑦バブルの形成と崩壊が繰り返される、⑧世界の様々な地域に貧困層が出現する
  3. 人口構成の変化と長寿化:①Y世代(1980~1995年生まれ)の影響力が拡大する、②寿命が長くなる、③ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える、④国境を越えた移住が活発になる
  4. 社会の変化:①家族の在り方が変わる、②自分を見つめ直す人が増える、③女性の力が強くなる、④バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える、⑤大企業や政府に対する不信感が高まる、⑥幸福感が弱まる、⑦余暇時間が増える
  5. エネルギー・環境問題の深刻化:①エネルギー価格が上昇する、②環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる、③持続可能性を重んじる文化が形成され始める

(2)「漫然と迎える未来」の暗い現実、「主体的に築く未来」の明るい日々

  • 変化に押しつぶされないために私たちは3つの「シフト」を行う必要がある。
  1. 広く浅い知識しか持たないゼネラリストから、高度な専門技術を備えたスペシャリストへのシフト
  2. 孤独に競い合う生き方から、他の人と関わり協力し合う生き方へのシフト
  3. 大量消費を志向するライフスタイルから、意義と経験を重んじるバランスの取れたライフスタイルへのシフト
  • シフト①:専門分野こそ違っても、専門技能を習得した人々に共通する性質は、技能を磨くために長期間集注して打ち込むことが苦にならないこと。あまりに仕事が忙しくなると、仕事の作業の手を休めて、自分より高度な技能の持ち主の振る舞いを観る時間も無くなる。自分の技能を高めるのは、達人たちの仕事ぶりを観察し、自分との細かな違いを知ることが不可欠。ゆでガエルにならないために、専門技能を身に付けるという「シフト」を選択する必要がある。
  • シフト②:目指すべきは、自分を中心に据えつつも、他の人たちの強い関わりを保った働き方を見出すこと。私たちがあまりに多忙な日々を送らざるをえないのは、多くの場合、あらゆることを自分でやろうとしすぎるのが原因。強力な人的ネットワークを築ければ、自分の方にのしかかる負担をいくらか軽くできる
  • シフト③:消費をひたすら追求する人生を脱却し、情熱的に何かを生み出す人生に転換すること。ここで問われるのは、どういう職業生活を選ぶのか、そして思い切った選択を行い、選択の結果を受け入れ、自由な意思に基づいて行動する覚悟ができているのかという点。
  • 友人がいつも遅刻し、共同課題でほぼ確実に失敗するとわかっていれば、あなたはその友人を信頼しないだろう。コミュニティや社会で信頼が担う役割は極めて大きい。信頼は、仕事上の人間関係の潤滑油。私たちは誰を何を信頼するかという決断を日々下している。他の人や組織を信頼できれば、私たちは不確実な状態を抜け出せる。人と人が強力し合うためには信頼が欠かせない。
  • 2025年の世界では、どこで生まれたかでなく、才能とやる気と人脈が経済的運命の決定要因になる。聡明で意欲があれば、グローバルな人材市場に加わり、豊かな生活を送れる可能性がある反面、アメリカや西欧に生まれても、聡明な頭脳と強い意欲の欠けている人は、下層階級の一員になる
  • 人々の健康と幸福感を大きく左右するのは、所得の絶対値でなく、他の人との所得の格差。何を買い何を身に付けたり使ったりするかによって、その人の社会階層が判断される面が大きい。物質主義的傾向が強い世界では、所有物がその人の成功の度合いを判断する物差しになる。
  • 2025年に企業で指導的立場に就く世代の調査で、最も好ましいニュアンスで用いられた言葉は「フィードバック」だった。上司や同僚や仕事上の知人が自分のことをどう思っているかをもっと知りたいと熱望していた。社会に向けて自分のイメージを構築することが常に求められる時代には、自分のイメージに関してフィードバックを得ることが極めて重要。
  • イノベーションは、特定のグループなり企業なり政府なりが単独で行うものではなく、コラボレーション的・ソーシャル的性格が極めて強くなり、多くの人の努力が重なって実現するものになる。異なる専門技能や世界観、意見を持つ人たちがアイデアを共有し、それを発展させていくケースが増える。
  • 一言でいえば、ダイバーシティモノカルチャーを凌駕する。多様な視点を持つ人々のグループと、同じ視点を持った人ばかりが集まったグループが競い合えば、たちまち前者のグループが後者に大きな差をつける。人々が互いに結びつき、協力し合い、アイデアや知識を共有するようになる変化は、働き方の未来に大きな影響を及ぼす。

(3)働き方を「シフト」する

仕事の世界で必要な資本は三種類ある。

  1. 「知的資本」:未来の世界では、キャリアで成功を収めるうえで知的資本の役割がますます大きくなる。ただし、特定の一つの分野だけで専門知識と技能を育むことには危険が伴う。職業人生が長くなれば、まず、ある分野の知識と技能を深めていき、やがて関連分野への移動や脱皮を遂げたり、全く別の分野に飛び移ったりする必要が出てくる。つまり、いくつかの技能を連続的に習得していかなければならない。⇒第一のシフト
  2. 「人間関係資本」:孤独が深まる未来の世界では、活力を与えてくれる人間関係が不可欠。私たちは、孤独に競争するのではなく、他の人たちとつながりあってイノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する必要がある。⇒第二のシフト
  3. 「情緒的資本」:自分自身について理解し、自分の行う選択について深く考える能力、加えて勇気ある行動を取るために欠かせない強靭な精神を育む能力が必要となる。大量消費より上質な経験をすることが望まれる時代には、情熱を持って何かを生み出す生活に転換する必要がある。⇒第三のシフト
①第一のシフト

以下の二つの資質が重要。

  1. 専門技能の連続的習得:未来の世界でニーズが高まりそうなジャンルと職種を選び、浅い知識や技能ではなく、高度な専門知識と技能を身に付ける。その後も必要に応じて、他の分野の専門知識と技能の習得を続ける。
  2. セルフマーケティング:自分の能力を取引相手に納得させる材料を確立する。グローバルな人材市場の一員となり、そこから脱落しないために、そういう努力が欠かせない。
  • ゼネラリストがキャリアの途中で労働市場に放り出されるケースが増えている。そうなると、一社限定の知識や人脈と広く浅い技能を持っていても、大した役に立たない。
  • 今必要とされているのは、昔の職人のように自分の専門分野の技能と知識を深める一方で、他の人たちの高度な専門技能と知識を活かすために人的ネットワークを築き上げること。仕事は複雑化しており、いくら専門技能や知識があっても、一人では仕事を仕上げられない。私たちには、産業革命前の職人のような専門性と、産業革命以降の分業体制の両方が求められる。
  • 他の専門技能より高い価値を持つ技能は、①その技能が価値を生み出すことが広く理解されていること、②その技能の持ち主が少なく、技能に対する需要が供給を上回っていること、③その技能が他の人に模倣されにくく、機械によっても代用されにくいこと。
  • 未来の世界では、知識と創造性とイノベーションを土台に置く仕事に就く人が多くなる。そういう職種で成功できるかどうかは、仕事が好きかどうかによって決まってくる面が大きい。仕事を単調で退屈だと感じている人は、日々の世界はさしあたり無難にこなせるかもしれないが、大好きなことに取り組むときのようなエネルギーはつぎ込めないはず。
  • 中世の職人のように、私たちも学ぶべき点のある人たちのそばに身を置く必要性が高まる。どこで生活し、どういうコミュニティの一員になるかが、これまで以上に大きな意味を持つようになる。
  • キャリアの脱皮をはかるコツは以下の3点。
  1. 新しいチャンスが現れたとき、未知の世界にいきなり飛び込むのではなく、新しい世界を理解するために実験をする。
  2. 自分と違うタイプの大勢の人たちと接点を持ち、多様性のある人的ネットワークを築く。潤沢な情報や視点が手に入るだけでなく、他の専門分野で活動している人の生き方を見ることにより、自分がその分野に脱皮できるかどうかを判断するヒントを得られる。
  3. はじめのうちは本業をやめず、副業という形で新しい分野に乗り出す。既存の仕事をフルタイムで続けて収入を確保しつつ、新しい分野の経験を積み、専門技能や知識を磨き、信用を築き、同時に新分野での自分の適性を試す。
  • 大勢の中で自分の存在を際立たせる、セルフマーケティングが重要になる。自分の仕事に自分の刻印を押すなり、署名をするなりすること。あなたの手掛けた仕事が誰の目にもあなたの仕事だとわかるように、明確な特徴を持たせる。
②第二のシフト
  • 同じ志を持つ仲間(ポッセ)は、以前一緒に活動したことがあり、あなたのことが好きで、あなたの力になりたいと思ってくれる人であることが重要。充実したポッセを築きたければ、他の人と協力する技能に磨きをかけなくてはならない。他人の上手にものを教え、多様性の強みを最大限生かし、うまくコミュニケーションを取る技能が不可欠。
  • ポッセの基盤をなすのは信頼関係。親友だからとか大好きな人だからという理由でメンバーを選ぶわけではなく、課題を処理する能力があると信頼できる人物。ポッセのメンバーとして認められるためには、他のメンバーと同等の能力を持っていると信頼される必要がある。お互いのために時間を割くつもりがあるメンバーである。
  • ポッセを築くことは、単なる人脈作りとはまるで違う。ポッセの土台をなすのは、アイデアと知識を深く共有すること。そういう関係は、相手の言葉に耳を傾け、相手から学ぶ姿勢、そして、自分と考え方が近く、力になってくれそうな人を引き付ける能力があってはじめて確立できる。
  • ポッセのメンバーを引き付けるには、まず自分が積極的に発信しなくれはならない。その際、自分が何を成し遂げたかだけでなく、どういう難題にぶつかっているかを語ることが重要。あなたが何に関心があり、どういう課題を抱えているかを語ってはじめて、他の人たちはどうすればあなたと共同行動を取れるかがわかる。
  • 人との付き合いの面ではカメレオン人間になること。自分と極めて異なるタイプの人たちのグループに加わるときには、そのグループの流儀に合わせて自分のスタイルをある程度変更するつもりでいるべき。また、プッシュばかりでなくプルを心掛ける。多様な人たちに自分に興味を持ってもらい、向こうからアプローチしてもらう必要がある。
  • 自分と違うタイプの人たちが集まるグループに人的ネットワークを広げたいのであれば、そのグループを丁寧に観察し、グループの暗黙のルールを見出し、その一部を真似するべき。そうやってグループに適応しなければ、あなたはいつまでもよそ者扱いされたままで、ビッグアイデアクラウドの重要な構成要素になるかもしれないグループから締め出され続ける。
③第三のシフト
  • 漫然と過ごしていては、新たなチャンスを活かせない。選択肢が広がることの恩恵に浴するためには、自分がどういう人間でありたいのか、そして恩恵と引き換えに何をあきらめる覚悟があるのかについて、厳しい選択をしなくてはならない。仕事とそれ以外のバランスを取り、新たに重要になる活動に時間を割かない限り、これらの「シフト」は実現できない。
  • バランスの取れた生活、やりがいのある仕事、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための「シフト」を実践し、自分の働き方の未来に責任を持たなくてはならない。そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神を育んで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。
  • 私たち一人ひとりにとっての課題は、明確な意図を持って職業生活を送ること。自分がどういう人間なのか、人生で何を大切にしたいのかをはっきり意識し、自分の前にある選択肢と、それぞれの道を選んだ場合に待っている結果について、深く理解しなくてはならない。そのためには、自分が望まない選択肢にきっぱりとNoという勇気が必要。「普通」でありたいと思うのではなく、他の人とは違う一人の個人として自分の生き方に責任を持ち、自分を確立していく覚悟が必要。

3.教訓

目まぐるしく技術が進歩する現代において、いつ自分の知識や持っている技術が陳腐化するのかはわかりません。そのため、常に学ぶ姿勢を保ち、実力を維持できるよう努力することが必要です。

自分の判断基準で考えたり、過去の栄光に固執したりすることなく、時代や属する集団に合わせて変化し、自分から押し出さなくても相手から求められるような人間であり続けたいと思います。

また、しっかりと自分の置かれた立場を周囲に説明できる発信力を高め、自分が助けてもらえる状況を作り出すことも一つの実力であると考えます。