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知識創造企業 野中郁次郎・竹内弘高著

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知識創造企業(新装版) [ 野中 郁次郎 ]
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1.はじめに

初版は1996年で、その当時は最先端であった、実企業での実製品開発のケーススタディをベースに、以下の3つを野心的な目的として書かれています。

  1. 西洋の学者とマネージャーに日本生まれの知識創造理論を提示すること
  2. 日本企業の絶え間ないイノベーションはなぜうまくいったのかを新たに説明すること
  3. 日本と西洋の経営実践を統合し、それに基づいて企業経営の普遍的モデルを作り出すこと

形式知」と「暗黙知」の変換による知識スパイラル、ミドルマネージャーに求められる役割、通常業務をこなしながらプロジェクトチームを掛け持ちし違った知識文脈の間を柔軟に移動しながら知識のダイナミック・サイクルを作り出す能力など、多くの示唆に富む内容となっています。

ホンダのシティ、パナソニックのホームベーカリー、キヤノンのミニコピア、シャープの電子辞書など、若者からすると実物にピンと来ない人もいるかもしれませんが、実物がわからなくても、本書の内容を十分に理解できると思います。

読書大全で紹介されている200冊の中にも、数少ない日本の書籍として選ばれています。

 

2.内容

(1)知識とは

  • ドラッカーの「ポスト資本主義社会」は、新しい経済においては、知識は単に伝統的生産要素としての労働・資本・土地と並ぶもう一つの資源というより、ただ一つの資源であると論じている。知識が一つのというより唯一の資源であるということが新しい社会の特徴。
  • 暗黙知を組織内部で伝達・共有するには、誰にでもわかるように言葉や数字に変換しなければならない。このように暗黙知形式知へ、また逆に暗黙知へ変換されるときにこそ、組織の「知」が創られる。
  • 組織観からすれば、会社は何のためにあるのか、どこを目指しているのか、どんな世界に住みたいのか、どうすればその世界は実現できるのか、といったことを社員全員が理解していることの方が、客観的な情報を処理することよりもはるかに重要。
  • 日本のマネージャーは、直接体験や試行錯誤から学ぶことの大切さを重視する。日本人は「心」と「体」の両方を使って学ぶ。この「心身一如」を強調する伝統は、禅仏教が確立されて以来の日本的思考の特徴。
  • 知識創造の3つの特徴とは以下の通り。
  1. 表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。
  2. 知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。
  3. 新しい知識は曖昧さと冗長性のただ中で生まれる。
  • メタファーによって、人々は既知のものを新しく組合せ、わかってはいても言葉にしにくいものを表現し始める。アナロジーはメタファーと比べると、2つのアイデアあるいはモノの特徴を明らかにする方法としてはやや論理的。それは2つの事物のどこが似ていてどこが違うのかをはっきりさせる。その意味で、アナロジーは純粋な想像と論理的な思考を媒介するもの。
  • 新しい知識はいつも個人から始まり、個人の組織が組織全体にとって大事な知識に変換される。
  • 曖昧さは、ときに新しい方向感覚の源泉として有意義であるばかりでなく、物事に新たな意味を見出したり、新しく考え直すきっかけともなる。この意味で、新しい知識はカオスから生まれてくる。
  • 冗長性を持つ組織を作ることは、頻繁な対話とコミュニケーションを促進する。冗長性は、社員の間に「認識上の共通基盤」を創り、暗黙知の移転を助ける。組織成員は情報を重複共有してこそ、お互いが四苦八苦しながら表現しようとしていることを分かり合える。この情報共有という冗長性によって、新しい形式知が組織全体に広まり、一人ひとりのものになる。
  • ドルマネージャーの役割は、トップの現実を超える理想とビジネスの最前線のときに混沌たる現実の間を橋渡しすること。中間的なビジネス・コンセプトや製品コンセプトを創り出し、トップの「かくあるべきだ」という思考と第一線社員の「現実はこうだ」という思考を仲立ちする。彼らは、第一線の社員の暗黙知とトップの暗黙知を統合し、形式知に変換して、新しい製品や技術に組み入れる。
  • 日本語では、メッセージがそれだけで了解できる文法的な決まりによって伝達されることは少なく、文脈(コンテキスト)に頼ることが多い。したがって、この日本語の特徴である曖昧さは、人々にその時々のコンテキストについての暗黙的な知識を持っていることを要請する。
  • 西洋社会では、個人の自己実現を人生の目標とすることが奨励されるが、日本では和を大事にしながら全体の一部として生きることが理想とされる。日本人にとっては、他人のために生きることは自分のため。他人との関係において自己を実現することが、日本人に備わった性向。

(2)組織的知識創造の理論

  • 知識創造には2つの次元(①認識論的次元、②存在論的次元)がある。
  1. 存在論的次元:厳密にいえば、知識を創造するのは個人だけ。組織は個人を抜きにして知識を創り出すことはできない。組織の役割は、創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を創り出すこと。
  2. 認識論的次元:「暗黙知」と「形式知」との区別による。暗黙知は特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい。一方、明示的な知すなわち「形式知」は、形式的・論理的言語によって伝達できる知識。
  • 知識変換モードは4つに分類される。
  1. 「共同化」:個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する
  2. 「表出化」:暗黙知から形式知を創造する
  3. 「連結化」:個別の形式知から体系的な形式知を創造する
  4. 「内面化」:形式知から暗黙知を創造する
  • 形式知暗黙知に内面化するためには、書類・マニュアル・ストーリーなどに言語化・図式化されていなければならない。文書化は、体験を内面化するのを助けて暗黙知を豊かにする。さらに文書はマニュアルは、形式知の移転を助け、ある人の経験を他の人に追体験させることができる。
  • 内面化は、実際に他の人の経験を追体験しなくても起こりうる。例えば、あるサクセスストーリーが組織のメンバーにその話の本質と臨場感を感じさせることができれば、過去の経験が暗黙的なメンタル・モデルになることもありうる。そのようなメンタル・モデルが組織の多くのメンバーに共有されると、その暗黙知は組織文化の一部となる。
  • 個人の暗黙知が組織的知識創造の基盤。組織は、個人レベルで創られ蓄積される暗黙知を動員しなければならない。その動員された暗黙知が、4つ知識変換モードを通じて「組織的に」増幅され、より高い存在レベルで形にされることを「知識スパイラル」と呼ぶ。存在レベルが上昇するに連れて、暗黙知形式知の相互作用がより大きなスケールで起こる。
  • 組織的知識創造を促進する要件は以下の5つ。
  1. 「意図」:企業が知識を創り出すためには、意図を明確にしてそれを組織メンバーに提示し、彼らのコミットメントを育成しなければならない。トップやミドルは、「真実とは何か」「人間とは何か」「生きるとは何か」といった本質的な疑問を問いかけることによって、根本的価値へのコミットメントの重要性に組織の関心を引き付けることができる。
  2. 「自律性」:組織のメンバーには、事情が許す限り、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべき。そうすることにより、組織は思いがけない機会を取り込むチャンスを増やすことができる。また自律性によって、個人が新しい知識を創造するために自分を動機付けすることが容易になる。
  3. 「ゆらぎと創造的なカオス」:トップの経営哲学やビジョンがはっきりしないとき、その曖昧さは実行スタッフのレベルで「解釈の多義性」を生み出す。「創造的カオス」の恩恵は、組織成員が自らの行動について考える能力があって初めて実現される。そういう内省が無ければ、ゆらぎは破壊的なカオスになりやすい。
  4. 「冗長性」:組織的知識創造が起こるためには、個人やグループの創り出したコンセプトが、それを直ちに必要としない他の人たちにも共有される必要がある。情報を重複共有することは、暗黙知の共有を促進する。他のメンバーが言語化しようと努力しようと努力していることをお互いに感じ取ることができるからである。この意味で、情報の冗長性は、知識創造プロセスを加速する。
  5. 「最小有効多様性」:複雑多様な環境からの挑戦に対応するには、組織は同じ程度の多様性を内部に持っていなければならない。最小有効性を持っている組織のメンバーは、数多くの事態に対処できる。最小有効性は、組織の全員が情報を柔軟に様々な形ですばやく組み合わせたり、平等に情報を利用できるようにすることによって強化される。
  • これまでの諸概念を使い、さらには時間の次元をも組み込んだ組織絵的知識創造のファイブ・フェイズ・モデルを提示する。①暗黙知の共有→②コンセプトの創造→③コンセプトの正当化→④原型の構築→知識の転移である。

(3)知識創造のためのマネジメント・プロセス

  • 知識が専ら個人の心の中で創られ、他人との相互作用を通じて増幅あるいは洗練されないということは、別の問題を引き起こす。トップダウン・モデルの場合は、数人のトップマネージャーの運命が会社の運命になってしまう危険性がある。ボトムアップ・モデルの場合は、個人の優位性と自律性のために、知識創造に大きな時間がかかる。知識創造のペースは、特定の個人の忍耐と才能次第。
  • ミドル・アップダウン・モデルでは、トップはビジョンや夢を描くが、ミドルは第一線社員が理解でき実行に移せるようなもっと具体的なコンセプトを創り出す。ミドルは、トップが創りたいと願っているものと現実世界にあるものとの矛盾を解決しようと努力する。つまり、部下たちにある概念的枠組みを与え、自らの経験の意味を理解できるよう、彼らを助ける。
  • 知識創造企業が新しい知識を創るには、全員の参加が必要で、一人ひとりがナレッジ・クリエイティング・クルーである。
  1. ナレッジ・プラクティショナー:第一線の社員。基本的な役割は、知識を体得すること。
  2. ナレッジ・エンジニア:ミドル・マネージャー。トップが持っているビジョンとしての理想と第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスの現実をつなぐ「橋」の役割を果たす。会社のビジョンに従って、新しい知識を工夫しながら創り出す。
  3. ナレッジ・オフィサー:トップ・マネージャー。会社はどうあるべきかについてのグランド・コンセプトを創り出し、企業ビジョンや経営方針声明の形を取った知識ビジョンを確立し、創られた知識の価値を正当化するための基準を設定することによって、会社の知識創造活動に方向感覚を与える。

(4)新しい組織構造

  • ビュロクラシー官僚主義)によるコントロールは、個人の自発性をそぎ、不確実で急激に変化する時代には逆機能になるコストを伴う。その外にも、組織内部の抵抗、緊張、責任回避、手段の目的化、セクショナリズム、組織成員の動機付けの阻害といったことも挙げられる。
  • タスクフォースは、その時限性から、創られた新たな知識は、プロジェクト完了後ばらばらになり、他の組織成員へは容易に伝わらない。したがって、知識を組織全体に幅広く伝えながら連続的に利用するのには不向き。多数の小規模なタスクフォースだけで構成された企業組織は、企業全体のゴールやビジョンを設定し達成する能力がない。
  • ビュロクラシーとタスクフォースを互いに排除するというより相互補完的と見る「ハイパーテキスト型組織」構造が目指すゴール。知識は、伝統的な階層組織であるビジネス・システムと、典型的なタスクフォース組織であるプロジェクト・チームの2つのレイヤーの間で、ダイナミックに変換される。2つのレイヤーで創られた知識は、次に第三のレイヤー知識ベースで再分類され、新しい文脈に組み込まれる。

3.教訓

まさに、自身がミドルマネージャー職にいるので、期待され果たすべき役割を再認識することができました。

そして、自身が非製造業に務めているので、製品開発の場面については、システム開発の場面に置き換えながら読みました。実際、通常業務を担いつつ、複数のシステム開発プロジェクトを掛け持ちしながら仕事をすることが多いので、他部門の方との接点も多く、本書で推奨されているような恵まれた環境で仕事ができていると感じることもできます。

さらに、最小有効多様性については、経験談としても納得感があります。これまで担ってきた業務経験の違いで、通常運営を遂行するには得意不得意が生じることがありますが、突発事象やイレギュラー案件が発生した場合には、むしろ通常業務外の知識が役に立つこともあり、最近の言葉としての「インクルージョン」を大切にしていきたいと考えています。