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経営者の条件 ピーター・F・ドラッカー著

 1.はじめに

数々の名著を残したピーター・ドラッカー氏の本のうち、自身が一番感銘を受けた本書を採り上げます。

ダイヤモンド社ドラッカー名著集でも、1番の番号が振られているのも理由がわかる気がします。

日本語の表題は「経営者の条件」ですが、現代は「THE Effective Executive」です。

タイトルだけ見れば、社長に向けた経営指南書のように思えますが、実際には「業績を上げるために自らをマネジメントする方法」が書かれている内容です。

エグゼクティブとは、知識労働者全般を指していて、「自らの知識あるいは地位ゆえに、組織の活動や業績に対し、実質的な貢献を行うべき者」と定義されており、言ってみればオフィスワーカー全員が該当します。

それゆえ、マネジメントの立場ではない人が読んでも参考になることばかりで、以下で具体的な内容に触れていきたいと思います。

 2.内容

(1)成果を上げるために身に付けるべき5つの習慣

以下の5点が提示され、その詳細がそれぞれ2章~6章に記されています。

  1. 何に自分の時間がとられているか知る。残された時間を体系的に管理する。
  2. 外部の世界に対する貢献に焦点を当てる。仕事の過程でなく成果に精力を向ける。
  3. それぞれの状況下における強み、すなわちできることを中心に据える
  4. 最初に行うべきことを行う。優先順位を決定し、それを守る。
  5. 成果を上げる意思決定を行う。
①汝の時間を知れ

時間は他をもって代えることのできないユニークな資源で、時間こそ普遍的な条件です。

一緒に働く人間が多いほど、仕事や成果でなく、互いの相互作用により多くの時間が使われます

そこで、以下3点の時間管理に取り組む必要があります。

  1. 何の成果も生まない仕事を見つけ、その仕事を直ちに止める
  2. 自分がなすべき仕事に取り組めるよう、他の人にできることは任せてしまう
  3. 他人の時間を浪費していることを整理する。

 ただし、時間浪費の原因を容赦なく切り捨てていっても、自由になる時間はさほどおおくありません。

そこで、重要な仕事に当てるまとまった時間を確保し、重要でない仕事が浸食していないかと目を光らせなければなりません。

②どのような貢献ができるか

 成果を上げるためには貢献に焦点を合わせ、仕事から目を上げて目標に目を向ける、すなわち自らの責任を中心に据える必要があります。

いかに肩書や地位が高くても、努力に焦点を合わせたり、下に向けての権限を重視する人は、他の人の部下にすぎません。これに対し、新人であっても、貢献に焦点を合わせ、結果に責任を持つ人は、厳格な意味においてトップマネジメントと言えます。

貢献に焦点を合わせない組織は、腐って死んでしまいます

  • 組織は常に目的を持たなければならない。
  • 自らを変革できない組織は、明日への変化に生き残ることはできない。
  • 新しい地位の要求するものに応えて自ら変化していく能力が意思が欠如し、これまでと同じことを続けていけば失敗する運命にある。

また、貢献に焦点を合わせることによって、人間関係も生産的になります。

  • コミュニケーション:まず部下が自ら期待される貢献を十分に考える。その後で初めて、上司には部下の考える貢献についての有効性を判断する権限と責任が出てくる。
  •  チームワーク:貢献にに焦点を合わせることで、横へのコミュニケーションが生まれ、チームワークが可能となる。組織構造でなく、状況や要求に従って、自発的に協力して働く
  • 自己開発:なすべき貢献のためにはいかなる知識や技能を身に付け、強みを仕事に適用すべきか、いかなる基準をもって自分の基準とすべきかを考える。
  • 人材育成:貢献に焦点を合わせるならば、部下、同僚、上司を問わず、他人の自己開発を触発する。属人的な基準でなく、卓越性を要求する。
③強みを生かせ

 成果を上げるためには、利用できる限りの強み(同僚・上司・自分自身)の強みを使わなければなりません。組織の役割は、一人ひとりの強みを、共同事業のための建築用ブロックとして使うところにあります。

あらゆる分野で強みを持つ人間はいません。他人に成果を上げさせるためには、「彼とうまくやっていけるか」を考えるのではなく、「彼はどのような貢献ができるか」を問います。弱みに焦点を当てるのでなく、強みだけを意味あるものとするように、組織を構築しなければなりません。

その4原則は以下の通りです。

  1. 天才にしかできない職務を作らない。平凡な人が非凡な成果を上げるように組織する。
  2. 職務は、初めから大きく多くを要求するものとして設計する。その場合においてのみ、変化した状況の新しい要求に応えていくことができる。
  3. その人が現実にできることを評価する。一方で、強みに直接関係のない評価項目もある。人間性や品性はそれ自体で何事もなしえないが、それがなければ他のあらゆるものを破壊し、人を失格にしてしまう
  4. 強みを手にするためには弱みを我慢する。強みや実績を持つ者には機会を与える。逆に、成果を上げられない人間は異動させる。そうでないと他の者を腐らせ、機会を奪われている他者に不公正である。

自らの仕事においても、強みからスタートしなければなりません。

「何もさせてくれない」というのは言い訳にすぎず「何ができるか」という質問から始め、意識的に行動します。自分が得意であると知っていることを、自分の得意な方法で行うことによって成果を上げます。 

④最も重要なことから始めよ

成果を上げるための秘訣は、最も重要なことから始め、しかも一時に一つのことだけに集中することです。上方への貢献に焦点を当てるほど、まとまった時間が必要です。

また、力を集中するためには、もはや生産的でなくなった過去のものを捨てる必要もあります。古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法です。

そして集中できるエグゼクティブがあまりに少ないことは、「劣後順位(=取り組むべきでない仕事」の決定と、その決定の順守は困難だからです。優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気です。

その順位決定の法則は以下の4つです。

  1. 過去ではなく未来を選ぶ。
  2. 問題ではなく機会に焦点を合わせる。
  3. 横並びでなく独自に方向を決める。
  4. 無難で容易なものでなく、変革をもたらすものに照準を高く合わせる。

集中とは、「真に意味あることは何か」「最も重要なことは何か」という観点から、時間と仕事について、自ら意思決定を行っていく勇気のことです。

⑤意思決定とは何か

成果を上げるためには、あまり多くの意思決定を行わず、重要な決定に集中しなければなりません。

また、個々の問題解決でなく、戦略的・基本的なことに考え、概念的な理解に基づいて、不変のものを見なければなりません。

そして、意思決定のプロセスは以下の通りです。

  1. 「これは一般的な問題か、例外的な問題か」「何度も起こることか、個別に対処すべき特殊な問題か」を見極める。特殊に見える問題も、やがては新しい一般的な問題の第一号となるのではないかと疑う必要がある。
  2. 「その意思決定の目的は何か」「達成すべき最低限の目標は何か」「満足させるべき要件は何か」を明らかにする。意思決定は目的に適合していなければならない
  3. 「何が正しいか」からスタートする。最初から「誰が正しいか」「何が受け入れやすいか」という観点からスタートしてはならない。
  4. 「誰がこの意思決定を知らなければならないか」「いかなる行動が必要か」「誰が行動を取るか」「行動すべき人間が行動できるためには、その行動はいかなるものであるべきか」を問い、意思決定を行動に変える。新しい方針とは逆の行動が評価されるのであれば、その逆の行動こそトップが本当に望み、報いようとしている行動と受け取られてしまう。
  5. 自ら出かけていって、自らの目で確かめることは、意思決定の前提が有効であるか、陳腐化しており再検討の必要があるかを知る最良の方法である。

(2)成果を上げる意思決定とは

1つの分野に長い間関わりながら、自分の意見を持たないと、観察力の貧しさや頭の鈍さを疑われます

意見を表明する者に対しては、現実による検証について十分に考えることを求めなければなりません。そして「この仮説の有効性を検証するためには何を知らなければならないか」「この意見が有効であるためには事実はどうでなければならないか」を問わなければなりません。

判断を行うためにはいくつかの選択肢が必要であり、何が問題であるかについて正しい洞察を得ることができます。

相反する意見の衝突、異なる視点での対話、異なる判断の間の選択があることが重要であり、意見の不一致が存在しない時には意志決定をすべきではありません

意見の不一致が必要な理由は3つあります。

  1. 意思決定を行う者が組織の囚人となることを防ぐ唯一の手段。
  2. 反対意見だけが選択肢を与えてくれる。選択肢のない意志決定は博打である。
  3. 反対意見は、何にも増して想像力を刺激するために必要である。

したがって、成果を上げるエグゼクティブは意図的に意見の不一致を作り上げます。意見の不一致はもっともらしい決定を正しい意思決定に変え、正しい意思決定を優れた意思決定に変えてくれます。ほとんどの人が自分の見方が唯一の見方だと言う確信からスタートしていますが、一つの行動だけが正しく、他の行動はすべて間違っているという仮定からスタートしてはなりません

そして最後に、「意志決定は本当に必要か」を自問しなければなりません。何も意思決定しないという代替案が存在するからです。

何もしなくても何も起こらないのであれば、手をつけてはいけません。

意志決定には勇気が必要です。絶対にしてはならないことは、「もう一度調べよう」という誘惑に負けないことです。自らの決断力の無さのために、有能な人たちの時間を無駄にすべきではないのです。

とはいえ意思決定の意味について完全に理解しているという確信なしに意志決定を急いではなりません。

3.教訓

  • エグゼクティブの仕事は成果を上げることであり、成果を上げることは修得できる。
  • 成果を上げている者はみな、成果を上げる努力をしている。
  • 自分をマネジメントできない者は、他人をマネジメントできるはずはない。

以上のことをもう一度肝に銘じ、自分にできることは何かを考え目的意識を持って行動し、勇気をもって意思決定していこうと思います。そして、意思決定をしないという選択肢があることも心に留めておきたいと思います。

また、何か管理職としての威厳を示すために、こと細かい注文を付けたり、意味もなく話しかけたりすることは、自分が一切やっていないとはとても言えませんが、それが相手の時間を奪ってしまうことにつながります。

もちろん、コミュニケーションだったり、今後のための示唆だったりと、必要な指摘・会話はあります。今言うべきことか、個別の成果につながるか、組織の方向性に沿ったもので全体の底上げにつながるか、といったことは確りと意識し、自分が正しい行動を取れていたか後から振り返り、次の機会に備えたいと考えています。