1.はじめに
「シン・ニホン」でも有名な安宅和人さんの本です。
2010年に初版が発売されて以来重版を重ね、今でも多くの書籍で平積みで売られているところをよく目にします。
数年前に読みましたが、再読してみて改めて価値を認識したので、以下で引用しながら内容を紹介したいと思います。
2.内容
(1)はじめに
- 「悩む」=「答えが出ない」という前提のもとに「考えるフリ」をすること
- 「考える」=「答えが出る」という前提のもとに「建設的に考えを組み立てること
- 仕事とは何かを生み出すためにあるもので、変化を生まないとわかっている活動に時間を使うのはムダ以外の何物でもない。これを明確に意識しておかないと「悩む」ことを「考える」ことだと勘違いして、あっという間に貴重な時間を失ってしまう。
- 10分以上真剣に考えて埒が明かないのであれば、そのことについて考えることは一度止めたほうがいい。それはもう悩んでしまっている可能性が高い。
(2)この本の考え方ー脱「犬の道」
- バリューのある仕事とは、「イシュー度」と「解の質」の両方が高い仕事。「イシュー度」とは「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」、そして「解の質」とは「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」。このマトリクスをいつも頭に入れておくことが大切。
- 絶対にやってはならないのが、「一心不乱に大量の仕事をして右上に行こうとすること」。労働量によって上に行き、左回りで右上に到達しようというアプローチを「犬の道」と呼んでいる。(以下引用をご参照)
- プロフェッショナルとしての働き方は、「労働時間が長いほど金をもらえる」というサラリーマン的な思想とは対極にある。働いた時間ではなく、「どこまで変化を起こせるか」によって対価をもらい、評価される。あるいは「どこまで意味のあるアウトプットを生み出せるか」によって存在意義が決まる。
- 「一次情報を死守せよ」というのは珠玉の教えの一つ。現場で情報に接するときに、どこまで深みのある情報をつかむことができるか、それはその人のベースになっている力そのもの。その人の判断尺度、あるいはメタレベルのフレームワークの構築力が問われ、ここは一朝一夕に身につくものではない。
(3)イシュードリブン 「解く」前に「見極める」
- 「犬の道」に入らないためには、いろいろな検討をはじめるのではなく、いきなり「イシュー(の見極め)から始める」ことが極意。つまり、「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析を設計していく。
- チーム内で「これは何のためにやるのか」という意思統一をし、立ち返れる場所をつくっておく。一度で十分でない場合は何度でも議論する。これはプロジェクトの途中でも同様。
- イシューが見え、それに対する仮説を立てたら、次にそれを言葉に落とす。イシューを言葉で表現することではじめて「自分がそのイシューをどのようにとらえているのか」「何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのか」ということが明確になる。言葉で表現しないと、自分だけでなくチームのなかでも誤解が生まれ、それが結果として大きなズレやムダを生む。
- 言葉にすることで「最終的に何を言おうとしているのか」をどれだけ落とし込めているかがわかる。言葉にするときに詰まる部分こそイシューとしても詰まっていない部分であり、仮説を持たずに作業を進めようとしている部分。
- 一見イシューのように見えても、その局面で答えを出す必要のないもの、答えを出すべきでないものは多い。「イシューらしいもの」が見えるたびに、「本当に今それに答えをださなくてはならないのか」「本当にそこから答えを出すべきなのか」と立ち返って考える。これであとから「あれは無理してやる必要がなかった」と後悔するようなムダな作業を減らすことができる。
- 「インパクトのある問い」がそのまま「よいイシュー」になるわけではない。「答えが出せる見込みがほとんどない問題」があることを事実として認識し、そこに時間を割かないことが重要。
- 現場に出て一次情報に触れた際には、現場の人の経験から生まれた知恵を聞き出してくる。読み物をどれだけ読んでもわからない勘どころを聞き、さらにその人がどのような問題意識を持っているかを聞いておく。現在の取組みにおけるボトルネック、一般的に言われていることへの違和感、実行の際の本当の押さえどころなど。お金では買えない知恵を一気に吸収したい。
- 情報量がある量を超すと急速に生み出される知恵が減り、もっとも大切な「自分ならではの視点」がゼロに近づいていく。「知識」の増大は、必ずしも「知恵」の増大にはつながらず、むしろあるレベルを超すと負に働くことを常に念頭に置く必要がある。その分野について何もかも知っている人は、新しい知恵を生み出すことが極めて難しくなる。手持ちの知識でほとんどを乗り越えてしまえるからだ。
- 人がある領域について関心を持ち、新しい情報を最初に得ていくとき、はじめはいろいろなひっかかりがあり、疑念を持つもの。それを人に尋ねたり解明したりしていくたびに、自分なりの理解が深まり、新しい視点や知恵がわいてくる。これが消えないレベルで、つまり「知りすぎたバカ」にならない範囲で情報収集を止めることが、イシュー出しに向けた情報集めの極意の一つ。
(4)仮説ドリブン
- おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ(サブイシュー)」にまで分解していく。サブイシューを出すことで、部分ごとの仮説が明確になり、最終的に伝えたいメッセージが明確になっていく。イシューを分解するときには「ダブりもモレもなく(MECE)」砕くこと、そして「本質的に意味のある塊で」砕くことが大切。
- 人に何かを理解してもらおうとすれば、必ずストーリーが必要になる。まだ分析も検証も完了していない時点で「仮説がすべて正しいとすれば」という前提でストーリーをつくる。どういう順番、どういう流れで人に話をすれば納得してもらえるのか、さらには感動・共感してもらえるのか、それを分解したイシューに基づいてきっちりと組み立てていく。
- 「どんなデータがあれば、ストーリーラインの個々の仮説=サブイシューを検証できるのか」という視点で大胆に絵コンテをデザインする。もちろん、あとから触れるとおり、現実にそのデータが取れなければ意味はないが、そのデータを取ろうと思ったらどのような仕込みがいるのか、そこまでを考えることが絵コンテづくりの意味でもある。
- 分析とは比較、すなわち比べること。分析と言われるものに共通するのは、フェアに対象同士を比べ、その違いを見ること。
- 軸の整理が終われば、次は具体的な数字を入れて分析・検討結果をイメージをつくっていく。「数字は細かく取ればいい」というものではない。最終的にどの程度の精度のデータがほしいか、それをこの段階でイメージする。
(5)アウトプットドリブン
- ストーリーラインと絵コンテに沿って並ぶサブイシューの中には、必ず最終的な結論や話の骨格に大きな影響力を持つ部分がある。そこから手をつけ、粗くてもよいから、本当にそれが検証できるのかについての答えを出してしまう。重要な部分をはじめに検証しておかないと、描いていたストーリーが根底から崩れた場合に手がつけられなくなる。
- アウトプット時のトラブル対応でもっとも簡単なのは「人に聞きまくる」こと。格好よく言えば「他力を活用する」わけだ。それなりの経験ある人に話を聞けば、かなりの確率で打開策の知恵やアイデアを持っているもの。自分の手掛ける問題について、「聞きまくれる相手」がいる、というのはスキルの一部だ。自分独自のネットワークを持っているのは素晴らしいことだし、直接的には知らない人からもストーリーぐらいは聞けることが多い。
- 人に尋ねようのない問題や独自のやり方がうまくいかないときは、「期限を切って、そこを目安にして解決のめどがつかなければさっさとその手法に見切りをつける」というもの。
- どんなイシューであろうと、分析・検証方法はいくつもあるし、どれかが絶対的に優れているということもさほどない。自分の手法より簡単で時間のかからないアプローチがあれば、当然それでやるべきだ。この冷徹な判断が僕らを助けてくれる。
- 1回ごとの完成度よりも取り組む回転数を大切にする。「受け手にとって十分なレベル」を自分のなかで理解し、「やり過ぎない」ように意識することが大切。
(6)メッセージドリブン
- どんな話をする際も、受け手は専門知識は持っていないが、基本的な考えや前提、あるいはイシューの共有からはじめ、最終的な結論とその意味するところを伝える。つまりは「的確な伝え方」をすれば必ず理解してくれる存在として信頼する。「賢いが無知」というのが基本とする受け手の想定だ。
- 「このチャートで何を言いたいのか」ということをしっかり言葉に落とす。この仕上げの段階まで来ると、「何を言うか」とともに「何を言わないか」も大切になってくる。
- それぞれのチャートが本当に一つのメッセージしか含んでいないこと、そして、それが正しくサブイシューにつながっていることを確認する。
- どんな説明もこれ以上できないほど簡単にする。それでも人はわからないというもの。そして自分が理解できなければ、それをつくった人間のことをバカだと思うもの。人は決して自分の頭が悪いなんて思わない。
- プロフェッショナルの堰合では「努力」は一切評価されない。確かに手の込んだ仕事をすれば多少の感銘はしてもらえるかもしれないが、それもあくまできっちりとした結果が生み出されてのこと。常に最初に来るのは結果であり、努力はその評価の補助手段であり、「芸の細かさ」をアピールするものに過ぎない。
- すべての仕事は結果がすべてであり、この結果があるレベルの価値に到達しないと、その仕事はいかなる価値も持たず、多くの場合マイナスになる。
3.教訓
「コンサル一年目が学ぶこと」で基本姿勢を理解し、本書で考える・分析する・伝えることの本質を理解すれば、1通のメールを出すことから、社内外向けの説明資料を作ることまで、何を大切にすればよいかをしっかり学ぶことができると思います。
本書の中はふんだんに図表で示されていて、コラムまで含めてしっかり読み込むことでデスクワークの基本が学べる良書だと思います。
特に、以下については、今後も継続的に意識していきたい項目です。
- やみくもに手を出さず、何から手をつけるか事前に考えること。
- アウトプットの質にこだわること。
- 自力をつけることは大事だが、時間をかけ過ぎることは慎むこと。