課長がおすすめする仕事に役立つ本100冊+

現役管理職が身銭を切って買って読む価値のあるおすすめの本だけを紹介するページです

銃・病原菌・鉄(上) ジャレド・ダイアモンド著


 

1.はじめに

通常、学校で学ぶ世界史は、何年にどこで何が起こったのかを、時系列で同一年代で地域比較をしながら、事実を学んでいきます。

しかし、本書では、なぜそれがそのように起こったのか、なぜ人類社会の歴史はそれぞれの大陸によってこうも異なる経路をたどって発展したのか、その逆の展開は無かったのかについて考察しており、単に世界史だけでなく、生物学や文化人類学を含め総合的に学べる内容となっています。

本来、上巻では第3部が1章分だけ収蔵されていますが、ここでは第2部までのレビューとし、第3部以降は下巻の紹介時にまとめて記載します。

2.内容

(1)勝者と敗者をめぐる謎

①平和の民と戦う民の分かれ道
  • 人口密度が低いところや、小さな環礁地帯のように総人口が少ないところ、そして総人口も少なく密度も低いところでは、経済面での変化はあまり起こっていない。そうした社会の人びとは、家族単位で自給自足の生活を送っており、社会的な分業はほとんど見られない。分業化は、より大きくかつ人口の稠密な島で進展し、世襲の職人制が維持されてきた。
  • ポリネシアは経済や社会、そして政治において非常に多様である。この多様性は、それらの島々の総人口や人口密度が島によって異なっていることに関係している。それらの島々の人口面での差異は、広さや地形、そして他の島々からの隔絶度が島によって異なるためである。そしてこれらの差異は、島民の生活形態の違いや食料の集約生産の方法の違いに関係している。
②スペイン人とインカ帝国の衝突
  • 世界史では、いくつかのポイントにおいて、疫病に免疫のある人たちが免疫のない人たちに病気をうつしたことが、その後の歴史の流れを決定的に変えてしまっている天然痘をはじめとして、インフルエンザ、チフス、腺ペスト、その他の伝染病によって、ヨーロッパ人が侵略した先住民の多くが死んでいる。
  • 集権的な政治機構と航海技術は、ヨーロッパ人が他の大陸に進出するための不可欠な要件だった。スペイン人がペルーにやってくることができた要因の一つは、インカ帝国になかった文字を彼らが持っていたことである。情報は記述されることによって、口承よりもはるかに広範囲に、はるかに正確に、より詳細に伝えられる
  • 要するに、読み書きのできたスペイン側は、人間の行動や歴史について膨大な知識を継承していた。それとは対照的に、読み書きのできなかったインカ帝国側は、スペイン人に関する知識を持ち合わせていなかったし、海外からの侵略者にについての経験も持ち合わせていなかった。それまでの人類の歴史で、どこかの民族がどこかの土地で同じような脅威にさらされたことについて聞いたこともなければ読んだこともなかった。
  • スペイン側を成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。本書のタイトルの『銃・病原菌・鉄』は、ヨーロッパ人が他の大陸を征服できた直接の要因を凝縮して表現したものである。

(2)食糧生産にまつわる謎

①食糧生産と征服戦争
  • 農耕民は土地を耕し家畜を育てることによって、1エーカーあたり、狩猟採集民のほぼ10倍から100倍の人口を養うことができる。この数字は、食料を自分で生産できる人びとは、当初から狩猟採集民よりも人数面において軍事的に優位にあったことを示している。
  • 馬は、第一次世界大戦においてトラックや戦車が使われるようになるまで、敵を襲撃するための乗り物であり続けた。馬あるいはラクダを家畜化し、その利用方法を編み出した人びとは、そうしなかった人びとに比べて軍事的にはるかに有利な立場にあった。
  • 植物栽培と家畜飼育の結果として生まれる余剰食糧の存在、また地域によってはそれを運べる存在が、定住的で集権的であり、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会の誕生の前提条件だった。したがって、栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、帝国という政治形態がユーラシア大陸で最初に出現したことの根本的な要因である。
②持てるものと持たざるものとの歴史
  • 食糧生産を他の地域に先んじてはじめた人びとは、他の地域の人たちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発展させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程を歩みだしたのであり、この一歩の差が持てるものと持たざるものを誕生させ、その後の歴史における両者間の絶えざる衝突につながっている
③農耕を始めた人と始めなかった人
  • 狩猟採集生活と食糧生産生活は、二者択一的に選ばれたわけではなく、食料獲得戦略の一つとして、いくつかの生活様式の中から選ばれた。食料採集と食糧生産が併存する生活は、食料採集だけの生活や食糧生産だけの生活と優劣を競い合う関係にあった。
  • 狩猟採集から食糧生産に移行した要因は、入手可能な自然資源が徐々に減少したこと、狩猟採集が難しくなったときに栽培可能な野生種が増えたこと、食糧生産の技術(刈入・加工・貯蔵)が次第に発達したこと、人口密度が上昇するにつれてそれに見合う食料を確保する手段として食糧生産が加速したことである。
  • 最後の要因は、食糧生産者は狩猟採集民より数の上で圧倒的に多かったため、それを武器に狩猟採集民を追い払ったり殺すことができた(技術的により発達し、各種疫病への免疫を持ち、職業軍人を有していたことが、彼らに有利に働いたことはいうまでもない)。ちなみに土着の狩猟採集民が食糧生産の方法をよそから習得して農耕民になった地域では、農耕民にならずにいた人たちが、出生数で農耕民に圧倒されている。
④毒のないアーモンドのつくり方
  • 食物を最初に作り始めた狩猟採集民は、果実ができるだけ大きく、味に苦みがなく、油分が多く、繊維質が長いといった実際に自分が検証できる特性に着目した。そして、それを基準に野生種の中から選抜し、好ましい特性に優れている個体を何世代か繰り返し収穫し続けることで、意識しないままにその植物の分布を助けるとともに、野生種を栽培種に変化させてきた。
  • 小麦や大麦は、穂先に実り、自然にまき散らされ、地面に落ちて発芽する。しかし、突然変異を起こした個体は、穂先の実をまき散らさない。野生の状態では、このような個体の種子は、穂先で宙ぶらりになったまま死に絶えるので、子孫を伝えたい植物にとっては致命的である。ところが、穂先からまき散らされない実ほど、人間が採集するのに好都合なものはない。
  • こうして収穫に好都合な突然変異を起こした個体の実を幾世代にもわたって栽培し続けることで、人間は自然淘汰のベクトルを完全に反転させてしまったーそれまで種の存続に必要とされた遺伝子が死を招くものとなり、死を招くものが存続の遺伝子となった
⑤リンゴのせいか、インディアンのせいか
  • 最初に農耕をはじめた人たちが自分たちの生活環境に自生している野生種についてよく知っており、その知識を生活に役立てていたことを示している。彼らは、現代のもっとも博学な植物学者よりも詳しい知識を自分たちの周囲に生えている植物について持ち合わせていた。
  • 現実には、何百もの競合する社会が存在する大陸などの地理的に広大な範囲を見た場合、新しいものの受け容れに対してより寛大な社会と、それに抵抗を示す社会が混在している。それゆえ、新しい作物や家畜、技術を取り入れることによってより強力となり、取り入れに抵抗を示す社会の人びとを数で凌駕し、追放し、征服し、あるいは抹殺してしまうことも可能となった。
  • 栽培化可能な野生種の分布状況は地域によって異なり、それに呼応して自然発生的に食料生産がはじまった年代も地域によって異なり、農耕に適した肥沃な地域のなかには近代になるまで食料生産が独自に始まらなかった地域もありえた。
  • ヨーロッパ人がアメリカ大陸に入植してくる以前に、アメリカ先住民が北米原産のリンゴを栽培化できなかった原因は、先住民の側にあったわけでもなければ、野生リンゴの側にあったわけでもない。北米では、生物相全体において栽培化や家畜化が可能な動植物の種類が限られていたことが、食料生産の開始を歴史的に遅らせてしまった。
⑥なぜシマウマは家畜にならなかったのか
  • 家畜は、肉や乳製品といった食料を提供してくれるし、農業に必要な肥料や、陸上での輸送運搬手段、物作りに使える皮類、軍事的な動力なども提供してくれる。また、農耕動物として働き、鋤を引いてくれるし、織物のための毛も提供してくれる。さらに、さまざまな最近に対する免疫を人びとに植え付け、それらの最近に全くさらされたことのない人びとの命を奪ってくれる。大型哺乳類の家畜は、こうした重要な役割を果たしてくれるがゆえに、それを保有する人間社会にとって特に重要なのである。
  • 少数を除いて、餌の問題、成長速度の問題、繁殖の問題、気性の問題、パニックになりやすい性格の問題、序列制のある集団を形成しない問題などがあって人間が家畜化できない。野生哺乳類のうち、ほんのわずかの動物だけがこうした問題をすべてクリアでき、家畜と人間といい関係を持つに至った
  • ユーラシア大陸に家畜化可能な大型の草食性哺乳類が多数生息していたのは、哺乳類の地理的分布、進化、そして生態系という3つの基本的要素がそろって存在していた結果である。
⑦大地の広がる方向と住民の運命
  • 植物の発芽や成長、病気に対する抵抗力も、自生地の気候にうまく適用している。季節ごとに変化する日照時間や気温、そして降雨量は、植物に発芽のタイミングを教え、苗木の成長を促し、開花や成熟のタイミングを知らせる自然のシグナルである。植物は自然淘汰の過程を通じて、生存環境の気候に適した反応を示すように遺伝子がプログラムされている。そして、その生存環境の気候的要因は、その場所がどの緯度に位置するかによって決まるものが多い
  • 肥沃な三日月地帯の農業が西はアイルランドから東はインダス渓谷にわたる温帯地域に急速に伝播できたのは、ユーラシア大陸が東西方向に広がりを持つ陸地だったからである。
  • 大陸が東西に広がっていること、あるいは南北に広がっていることは、農業の伝播のみならず、技術や発明の広がっていく速度にも影響を及ぼした。初期のユーラシアの農民が、他の大陸の住民よりも創意工夫に優れていたことを証明するものではない。人類の歴史の運命は、大陸の広がりの違いを軸に展開していった

3.教訓

たまたま、この時代の日本に生まれたので、今の生活を当たり前に過ごしていますが、いつどこで生まれるかによって、本当に違った運命が待っているということを改めて考えさせられる内容で、冬期休暇中にじっくり向き合って読むには最適の本でした。

また、偶然に今の社会が出来上がったのではなく、ユーラシア大陸の動植物の多様性や陸地の広がり方、気候などが相まって、ある程度の必然性で成り立っているという理論について、しっかり理解することができました。

第2部までは食料生産についての話題が中心でしたが、第3部以降では病原菌や科学技術の話題に展開していきます。新型コロナウイルスが、このように変異しながら増殖していく理由も、上巻の最終章を読めば理解できます。

下巻を読み終えた段階で、改めて全体総括したいと思います。