1.はじめに
対話をする際、基本的には傾聴を念頭に置きますが、「なぜそう考えたのか」などの質問をすることで、より相手のことを知ることができます。そして、会議や研修などに参加した同僚に対して、「どうだった?」と聞くこともよくある日常です。
また、業務改善にあたって、「なぜ」を5回繰り返して原因分析するという話もよく耳にします。
しかしながら、本書では今までの常識として疑わなかった、「なぜ?」「どう?」という質問について、真っ向から否定する直球のタイトルに興味を持ち購入しました。
以下では、特に印象に残った部分を引用して紹介していきます。
2.内容
(0)よくない質問が「会話のねじれ」を生み出す
- 質問には、よい質問とよくない質問がある。よくない質問の代表例が「なぜ?」「どうして?」と聞く質問。まず第一に、相手の「思い込み」を引き出してしまい、それがコミュニケーションのねじれにつながる。
- 「なぜ質問」が悪い第二の理由は、最悪の答え、つまり「言い訳」を引き出すから。私たちは、あまり好ましくない自分の行為に対して、「なぜ」と聞かれるとつい「言い訳」してしまう。
- 質問する側とされる側の間に力関係が存在する=対等でない、モチベーションに差がある場合、たとえば上司と部下、親子の場合などはそれが顕著。知識、情報、経験などに差があり、信頼関係が築かれていない場合、「なぜ質問」は力関係やモチベーションの差を強化するだけの危険な質問として機能する恐れがとても強い。
- 他にも、良くない質問の例としてあげられるのは、「どう?」を使った質問。「どうでしたか」という質問は、尋ねるほうは気軽に、安易に尋ねられるものの、答えるほうには手間のかかる、面倒な質問。つまり、質問はしているものの、なんとなく惰性でコミュニケーションを取ろうとしているだけで、知りたいことが具体的に浮かんでいない。
- 「問題は何ですか?」と聞いてしまうと、「なかったはずの問題」が生み出されてしまう。本来、もし相手がこちらに聞いて欲しい問題があるのであれば、必ず相手から語り始めるはず。だから、他者を手助けするためには、問題についてもこちらからは直接に尋ねないほうがいい。
- 「いつも質問」の問題は、事実を正確に引き出すことができない点。「いつもは」「普通は」「一般に」などなどを使った質問は、事実を尋ねているようでいて、実は全く違うことを尋ねている。すべて相手の思い込みを尋ねているにすぎない。自分が事実だと思っていても、相手は「思い込み」を答えているのに過ぎないとしたら、それが致命的なズレとなる。
(1)「事実質問」は最良の知的コミュニケーション
- 「会話のねじれ」を生み出さないために重要なのは、思い込み質問を極力排除し、事実質問に絞って対話を進めること。
- 事実を淡々と聞いていくことで、これまでの経緯をすっきり浮かび上がらせることができる。浮かび上がった事実をもとに、より建設的な話ができるようになる。お互いに、知り得なかった新しい情報に気づき、互いの人間関係もより深まる。
- 会議や議論の場に臨んだら、とにかく「空中戦と地上戦」の違いを意識するように努める。そして、「このままだと空中戦になるな」と思ったら、心の中で事実質問を試みる程度で十分。当面は観察に徹しながら、機会を待つのでよい。
- そもそも、人間の認知・記憶には限界がある。時間が経つにつれて、記憶は覚えやすいよう、都合のいいように改変され、人はそれを事実と思い込んでしまう。これは人間なら誰しも仕方のないこと。そこで必要になるのが、改めてもう一度、事実を淡々と確認すること。自分が事実と思っていたことが実は事実ではなかった、という確認を1つ1つ重ねていくにつれて、人はやっと事実の認知の違いに向き合うことができる。
(2)事実質問のつくり方 定義と公式
- 5W1Hのうちの、WhyとHowを除いた疑問詞を使った質問は事実質問。つまり、When、What、Where、Who。
- 結論としては、Yes/Noで答えることができる質問のうち、過去の出来事や、今実際に起こっていることに関する質問が事実質問。つまり、「過去形」と「現在進行形」の質問が、事実質問。
- もう1つの基準として、「主語が明確で具体的」が挙げられる。「みんながそう言っているんですか」などの質問は、主語がはっきりしていないので、事実質問ではない。
- 自らの経験の中に埋もれた宝を探し出すためには、誰かほかの人に上手に聞いてもらうことで、絡まった記憶の糸を解きほぐすことが必要。つまり、過去の経緯を正確に思い出しているうちに、相手はそれに基づいて再分析を始めるということ。今の曲がった記憶をもとに考えさせてしまってはいけない。
- 相手が悩み事や気になることなどを語り始めたら、「どうして」と原因や動機を尋ねるのではなく、「最近それが起こったのはいつですか」と尋ねる。困ったらまずはすべての質問の最初を「いつ」と変えることからやってみる。そこからさらに「その前は」と聞いていくと、相手はどんどん思い出す。次に、どこ・誰・何などを聞き込んでいく。あるいは逆に、「最初はいつでしたか」から始めて、現在に向けて進んでいくこともできる。
- 「解釈は無数、事実は1つ」。事実だけを確認すれば、会話のねじれが起きることは、理論上ありえないことがわかると思う。こうした仕組みに立って事実質問術の本質を一言で表すなら、「考えさせるな、思い出させよ」という大原則に集約できる。
①「なぜ?」と聞きたくなったら「いつ?」と聞く
- 特に継続的な出来事や現象、あるいは繰り返し起こっていることについては、初めと終わりがあるから、「一番最初はいつ?」「一番最近はいつ?」と聞く。その後は「その前は?」と時系列で聞き続けるのが常道。「なぜ?」と聞くと考え始めてしまうが、「いつ?」と聞き続けられると思いだそうとする。このプロセスが、思い込みを排して、事実を確認していく行為となる。
②「なぜ?」と聞かずに「Yes/Noの過去形」に変える
- 特に「○○したことある?」というYes/Noで答えられる過去形の質問にするのが効果的。この問いかけに対して、相手が答えをはぐらかすなど、しっかり答えてくれないのであれば、あっさり引き下がるのがお互いのため。相手はその気持ちを聞いて欲しいだけで、あなたのアドバイスなどはなから求めていない。
- 過去の行為についての質問を、感情を高ぶらせて聞いている場合は、確実に「詰問型」になる。詰問型抑制の場合、とにかくそこで立ち止まってしばらく待ってみること。そこでやっと、定番の「いつ質問」ができるようになる。「どうして」ではなくて、「まずいと最初に気が付いたのはいつ?」という具合に、さらには連絡するまでになにがあったかを時系列で聞いていけば、事態の経緯が明らかになり、どこに問題があったかも自然に浮かび上がってくる。
③「どう」と聞かずに「何」「いつ」「どこ」「誰」と聞く
- まどろっこしいように思えるかもしれないが、相手が答えやすい事実質問から入っていくことで、状況を具体的に思い出してもらう環境を整えることができる。正確に思い出して答えてもらえなければ、質問する意味はない。
④「いつもは」ではなく「今日は?」、「みんなは」ではなく「誰?」と聞く
⑤次の質問に困ったら「他は?」と聞く
- 「他は質問」の効果は、対象のことからいったん離れる点にある。これまでの質問は基本的には時間軸に沿って深掘りしていく質問だったが、この「他は質問」はいったん今のトークテーマから離れ、似たようなものを思い出す道をさりげなく提案する、「空間軸」に基づく質問。つまり、視野を広げてみてはどうですか、という投げかけをこの質問によってできる。
(3)事実質問の繋ぎ方 始め方から終わり方まで
- まず重要なのは、常に事実質問をしなくてはならないという強迫観念を持たないようにすること。つまり、最初は何から聞いてもいい。
- 事実質問の本質は、実は、質問することより、相手の話を聞くことにある。相手の話をよく聞いていないと、次に何を質問すればいいのかすぐにわからなくなる。
- 「聞く」という日本語には、「聴く」という意味と「訊く(尋ねる)」の意味があり、その両方ができてこそ、真の傾聴。その意味では、事実質問は、究極の聴く技術の上に成り立っていると言える。こちらが相手の話をよく聞こうとしていることが伝わると、徐々に距離が縮まり、心を開いてくれるようになる。ここに事実質問の本領がある。
- 聞いている側の都合や思惑で、話題を勝手に変えたという印象を持たれると、両者の心理的な距離は確実に遠くなる。1回なら少しだけかもしれないが、それが重なるとやがては距離を縮めるのが難しくなるところまでいく。心を開いて話をするという雰囲気はなくなってしまう。
- 記憶が怪しそうな場合は、「覚えていますか?」とひとこと付け加えること。これもよく覚えておく。そうしないと、相手は適当に繕って答えてしまい、かえって混乱を招くことにもなりかねない。
- 終わり方、締めくくり方のイメージを持って話を進めても意味がない。互いが幸福な気持ちで終わることができた話し合いであっても、問題について大きな気づきをもたらし鮮やかに終えた対話であっても、予断を持たず淡々とシンプルな事実質問を繋いでいくのみ、という大原則をしっかり維持しながら対話していった結果でしかない。
- 事実質問の技術的ポイント
- 考えさせるのではなく、思い出させる質問をすること
- 相手の答えの上に次の質問を継ぐこと
- 相手にとって答えやすいかどうかを常に自らに問いながら質問を作ること
(4)事実質問がすべて解決する
- 大原則は、「問題・課題はこちらが解決するものではない」「当事者がそれを行うよう促し、行えるように支援するもの」ということ。「解決はしてはいけない、させるもの」と短く言い換えることもできる。
- 解決は、外部のあなたがするものではない。あなたにできるのは、その人の思い込みを取り去り、事実を示すことにより、その人の内的対話を促すことまで。そして「信じて待つ」「解決してくれるのを待つ」ほかない。まずはこの前提をじっくり飲み込む。この心構えがなければ、あなたがこれからしようとしているのはどこかで「おせっかい型」のアドバイスになるリスクを秘めている。
- 問題を現実と理想との距離と定義するなら、問題分析の核心は、その距離を明らかにする作業になる。そしてその作業こそ、事実質問術の最も得意とするところ。事実質問を通じて、その問題が実際に起こった状態をいくつか思い出してもらえば、問題の姿が具体的なイメージを伴って浮かび上がってくる。
- 事実質問による8つの「分析と解決の公式」
0.相手の回答を自分の言葉で言い直すのは厳禁
- 「問題」を語り始めたら、「いつ」から始める
- 「そもそも解決したいの?」と聞きたくなったら、「これまでに何か対処した?」と聞く
- 「どうしていいかわからない」と言われたら、「他の誰かに聞いてみた?」と聞く
- 「本当に問題なの?」と聞きたくなったら、「誰が、どう困ったの?」と聞く
- 「一体なぜその選択をしたの?」と聞きたくなったら、「他にどんな選択肢があったの?」と聞く
- 「○○が足りない」と言われたら、「いくら/いくつ足りないの?」と聞く
- 「できない」と言われたら、「それをやるのは、誰が決めたんですか?と聞く
- 「わかっているのにどうしてやらないの?」と言いたくなったら、「軽く微笑みながら、しばらく相手の目を見つめる」
- 相手の答えに対して「それはこういうことですね」という具合に、相手が使っていない言葉をこちらから持ち出して言い換えたり、整理して、相手に同意を求めることをしない。この流れを作ると、誘導が始まり、期待した応えが出てきてしまう。相手が自分に忖度をしてきたり、また相手が思い込みをベース話しだすようになる。
- 「いつ?」質問の最大の目的は、相手にできるだけ正確に思い出してもらうことにある。自分の問題を正しく見るのは誰にとっても至難の業。私たちは、何事につけ自分の都合のいいように捉える。その歪みを自分で正せるよう、正確に思いださせるのが聴き手の役割。過去の経緯を正確に思い出しているうちに、相手はそれに基づいて再分析を始める。「問題は、正しく把握できれば、半分は解決したようなもの」。
- 事実質問で解決を試みるためには、相手を信頼して対話に臨む一方で、「それは本当だろうか?」という疑問を持つ必要がある。つまり相手の言うことを鵜呑みにしないで、事実を聞いていく姿勢が大切だということ。特に困ったことがないのに、何となく「問題だ、問題だ」と言い合っているだけかもしれない。
- 人が選択をする時、ほとんどの場合は他に選択肢があるだろう。そこで他の選択肢の質問によってその時のことをはっきり思い出してもらえれば、思わぬ背景やエピソードが出てくること請け合い。
- 「誰が決めたんですか?」という質問は、団体や組織相手のコンサルティングにおいては、とても強力な質問になる。決めるプロセスに関与していない人、あるいはそのプロセスを共有されていない人にとっては、その決め事は極論すれば、自分事ではない。頭では理解していても、自分事と捉えて行動するのは容易ではない。自分のことを振り返れば、おそらく納得がいくはず。
- 「変化は内側から起こる。外部者は信じて待つのみ」というのが他者への働きかけの真髄。
3.教訓
カウンセリングを勉強していると、相手への共感が重要、と教わります。しかし、その人が何を経験したのか、あたかも同じ絵を見てみないことには、「ああ、だからあなたはそう感じたんですね」という心から共感することは難しいです。
そのためには、事実質問をすることが非常に有用です。まずどう感じたのかを聞くのではなく、「いつ」「誰と」「どこで」「何を」したのかを聞く。そうすると、相手がその当時のことを思い出すことになり、自身も相手と同じ情景を思い浮かべることができます。
そのような対話を続け、信頼関係ができたところで、どんなことを感じたのか、内省が進むように聞いていきます。その時には「なぜ質問」が必要な場面も出てきます。なぜと聞く代わりに「○○の理由は何ですか?」と尋ねるといいと書かれている以下の本と併せて読むと勉強になると思います。
「いつ?」から始める。
そして聞き方には、「一番最近は?」と「一番最初は?」の2通りがあり、「その前は?」or「その次は?」と時系列で聞いていく。
そのうえで、変化が内側から起こるのを外部者は信じて待つのみ、を忘れずに対話を重ねていきたいと思います。