管理職おすすめの仕事に役立つ本100冊×2

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静かな退職という働き方 海老原嗣生 著

1.はじめに

静かな退職、英語ではQuiet Quitting。最近メディアでも見聞きすることが多くなりました。そして、帯には以下の記載があります。

仕事は最低限だけ、プライベート重視・・。新たな労働観に、マネジャーはいかに対処すべきか。静かな退職者が生きる道とは?

上司としても部下としても、新人にも中年にも、役職定年者にも、いろんな立場に自分を置き換えてみても、学びが多そうだと感じ、手に取りました。

期待通りの内容で、以下では特に印象に残った部分だけを抜粋します。

2.内容

(1)日本にはなぜ「忙しい毎日」が蔓延るのか

  • 丁寧にいい仕事をすればするほど労働生産性は下がり、手を抜くと上がる。そういう意味においては、欧州の働き方や日本の「静かな退職者」のそれは正しく、間違っているのは日本の「常識」だと言えそう。つまり、日本人が今までやってきた「顧客と真面目に向き合う」働き方は、ブルシット・ジョブの塊。
  • 私たちはなぜ、こんなにも「やっている感」を醸し出しているのか?その答えは、「それが評価につながる」、いや「何かあった時に言い訳になる」からだろう。つまり、なれ合いのために、ブルシット・ジョブを繰り返している。その分、労働時間がいたずらに延び、結果、生産性が下がり、私生活を犠牲にせねばならない。
  • 本質を自分流にしっかり保てば、ブルシットな作法は極限まで省略していける。それはすなわち、本質さえしっかり保っている「静かな退職」ならば、上司や周囲の人も彼を否定できない、ということにもなる。

(2)欧米では「静かな退職」こそ標準という現実

  • 日本では当たり前だったストイックなキャリア観は、欧米では一部のエリートだけの話。大多数は、大して頑張らず、緩く長く今のままで働き続けている。それが世界のデファクトスタンダード
  • 欧米では、細かく担当分けされていて、誰が何をやるか明確。日本だと緩やかにお互いカバーし合ったりする。そういうやり方が良い面もある。でもそうするとただ乗りする人が出やすいのも事実

(3)「忙しい毎日」が拡大再生産される仕組み

  • ちょっとした進化・変化も、日々の単位の落としてみれば、ほんの小さな業務変更であり、それが積み重なることで、気づくと仕事風景が大きく変わっている。現場で実務をこなして日々の小さな変化を乗り越えてきた人たちは、何も怖くはないが、実務から離れて空疎な仕事をしていた人たちは、まるいでついていけず、いつしか浦島太郎になってしまう。
  • 「上司から受ける能力評価」とその積み重ねで昇給が決まるため、手抜きや露骨なサボタージュはやりづらい。一方で、給料は着実に上がるから、「真新しい難題」を押し付けられても、「昇給した分、能力も上がったことになっているから」引き受けざるを得ない。これは、欧米と比べてマネジメントが非常に容易だということにもつながる。そこに年次管理が加わるため、「同期の中で遅れるわけにはいかない」「後輩に抜かれたくない」という気持ちが強まる。

(4)「静かな退職」を全うするための仕事術

  • 「静かな退職者」が、社の業績の足を引っ張るのであれば、長い目で見れば、よほど余裕があり、しかも管理が甘い組織でもない限り、そうした類の労働者は疎んじられ、やがて排除されていくことになるのは言うまでもない。だから、「静かな退職者」とて、組織にとってあまりにもお荷物であってはならないのはまず大前提。
  • まず第一に気を付けるのは「身なり」「言葉遣い」「マナー」。同じ業績でも、日常の態度が悪いと、明らかに「ダメな奴」「評判が悪い」という烙印を押されてしまう。逆に言うと、マナーさえ一流であれば、話の中身に意義があるかどうかなど、多くの場合、あまり問題視されない。ここに気づく。
  • 負荷が少なく心象点稼ぎをするためには、「反論をしない」という鉄則も心する。ただ単に、誰の話でも原則、ノーと言わないだけのこと。ただし、例外として「自分の業務が増えるような場合」のみ、上手に反論すること。「私より××さんが向いている」という話は厳禁。ただ単に、私ではもったいないから、他を当たってほしいと伝えるに留める。
  • 自分がそれをやらなければならなくなった時は、実に快く請け負い、そこでも心象点を稼ぐべき。最後に残ったピースを自分で請け負って、仕事は完遂できたこと。そして、上司の悩みの種も解消できたこと。こうした点をしっかり理解してもらい、自らの存在感を大いに高めることにする。
  • 「本当に効果があるのかどうかわからないけど、やっておくべきだ」というような意味のない常識を全て排除すること。そのためには、「これって本当に業績アップにつながるか」と考える癖もつける。
  • 「高い確率で業績につながる可能性が見える」仕事はしっかりやること。そして、評価や業績に関しては「下位3割には入らない」こと。この2つを念頭に置く。
  • 何でもかんでも全部引き受けるわけではなくて、「あるタイプの顧客」「あるタイプの特殊タスク」に通じ、自分の得意としておく。これは所属する部署の中で、自分の存在価値を著しく高めることにつながるだけでなく、自分のペースで仕事をすることができるようになる。「厄介な仕事」は、他者から敬遠されるから、自分だけの聖域となり、業務プロセスをブラックボックス化させることが可能。
  • 後輩指導「4つの鉄則」
  1. マナー:そっけない指導は「不親切」という心象に変化してしまう
  2. 「業績につながる可能性が高いこと」を集中的に伝える:過剰指導者は、その延長戦上で「精神論」に及ぶことが多い
  3. 自分の「静かな退職」哲学をうまく伝える
  4. 「Way」で指導する:”成功への道筋”を示す型の指導法

(5)「静かな退職者」の生活設計

  • 意外かもしれないが、「静かな退職者」こそ、リストラになりにくく、なおかつ転機でも有利。「静かな退職者」は、高みにのぼらず実務をこなし続けている。しかも、年収は同期で管理職になった人よりもかなり低い。安くて実利を上げる人なのだから、会社はそれほど厳しい態度はとらないはず。
  • WPP」型の老後の生活設計をお勧めする。「Work Longer(長く働く)」「Private Pensions(個人年金)」「Public Pensions(公的年金)」の頭文字。公的年金は1年繰り下げで増加幅は8.4%の定率増加。70歳に遅らせると、月額は約1.4倍にもなる。
  • 「いつ死ぬかわからないから、早くもらうに越したことはない」と考える人と、「簡単に死にはしないから後で金に困るのは嫌だ」と考える人、主張はまちまち。ただ、ここで提示した生き方は、「少なくとも、個人年金については、70歳までに100%手に入れられる」わけであり、その後、思いもよらず長生きした場合は「公的年金が毎月25.8万円で生活が楽」になる、おいしいところ取りと言うことができそう。

3.教訓

「この仕事は意味ないなぁ」と思いながら対応した経験は、誰しも一度はあると思います。いろいろと忖度し過剰な仕事を止めれば、生産性は上がるのは指摘の通りだと思います。ただし、仕事内容や指示に反論するのでもなく、仕事を蔑ろにするのでもない。お荷物になってはいけない、最低限の仕事はする、周囲に節度ある態度で接する、といったことも重要性が説かれています。

すなわち、リーダーではないけれど、会社からは必要とされる。上司からも疎まれずに頼られる。その意味で、本書はフォロワーシップに通じるものがあると感じました。

そもそも、全員がリーダーになりたいと考えているわけでもないし、実際に全員がリーダー的にふるまえばその組織はうまく機能するはずもないです。色んな価値観があってよくて、全員が上へ上へということだけがキャリアでもありません。

さらにWPP理論についても、人生100年時代においては、選択肢として考えておいたほうがいいと思います。自分で死期は選べず、思いのほか長生きする可能性もあります。その場合、医療費やリフォーム費用など、想定しない出費が発生するリスクも出てきますので、自助努力もできる部分は対応していきたいと考えています。

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