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限りある時間の使い方 FOUR THOUSAND WEEKS オリバー・バークマン著

1.はじめに

本書のイントロダクションに

「本書は、時間をできるだけ有効に使うための本だ。

 ただし、いわゆるタイムマネジメントの本ではない。」

と記されています。

生産性とは罠で、効率を上げれば上げるほど、ますます忙しくなり、ますます多くのタスクが積みあがる、という内容が本文中にも出てきます。

タイトルからは、”ライフハック”的な香りがしますが、真逆の内容になっていて、以下に印象的な内容を採り上げていきます。

2.内容

(1)現実を直視する

①なぜ、いつも時間に追われるのか
  • 自分には限界がある。その事実を直視して受け入れれば、人生はもっと生産的で楽しいものになるはずだ。もちろん、不安が完全に無くなるわけではない。限界を受け入れる能力にも限界はある。だとしても、現実を直視することは、他の何よりも効果的な時間管理術だ。
  • 限界を受け入れるというのは、つまり「何もかもはできない」と認めること。タフな選択はいつだってやってくる。大事なのは、意識的に選択すること。何に集中し、何をやらないか。どうせ全部はできないのだから、少なくとも自分で決めたほうがいい。
②効率化ツールが逆効果になる理由
  • 実際はそれほど簡単には割り切れない。どの人をがっかりさせるか、どの場面で失敗するか、自分の限界というみじめな現実に直面することを意味する。
  • 例えばメールを早く処理することで、メールがさらに増えるという悪循環を生む。これがいわゆる「効率化の罠」だ。どんなに高性能な生産性ツールを取り入れても、どんなにライフハックを駆使しても、時間は決して余らない
  • 世界が提供してくれる体験の数は実質的に無限なので、どんなに頑張っても、人生の可能性を味わいつくしたという感覚を得ることはできない。むしろ、効率化の罠にどんどんはまってしまうのがオチ。すばらしい体験をすればするほど、「もっとすごい体験をしなければ」と思うようになり、結果的に無力感が増していく
  • 楽しいことをすべて体験したいという衝動に打ち勝ち、すべてを体験するのは不可能だという現実を受け入れよう。それを理解していれば、自分に許された数少ない体験を心から楽しめるようになる。そして、人生の限られた時間のなかで、やりたいことをもっと自由に選べるようになる。
  • 便利さの支配が広がるにつれて、日々の活動はだんだん二極化していく。一方には、すごく便利になったけれど、退屈だったり自分の本来の好みに合わないことがある。もう一方には、不便なままにとどまり、そのせいどものすごくイライラすることがある。
③「時間がある」という前提を疑う
  • もしも夏休みが何度でも無限にやってくるなら、そこに特別な価値はない。無限には続かないからこそ、価値がある。時間は無限にある、あるいは時間の使い方を工夫すればあらゆることができると思っている人は、天国を信じているのと同じようなもの。彼らは自分の時間が限られていることを自覚していない。だから、時間の使い方が重大な問題であることに気づかない。
  • どんなに不快な出来事でも、それを体験できるということは奇跡的。その経験が快適かどうかよりも、そこにいて何かを経験しているという事実のほうが、圧倒的に重要
  • 選べなかった選択肢を惜しむ必要はない。本当はなかったかもしれない貴重な時間の過ごし方を、自分自身で選び取った結果。
④可能性を狭めると、自由になれる
  • まず自分の時間の取り分を確保しないと、どんどん他のことに時間を使ってしまい、本当に大事なことができなくなる。余った分を投資しようと思っていても、絶対に余らない。確実にやり遂げるための唯一の方法は、今すぐに実行すること。今やらなければ時間はない。
  • 同時に進行する仕事の数を、削れるところまで削る。もしも行き詰まったら、1つを放棄して枠を空けても構わない。大事なのは、始めたことを絶対にやり遂げることではなく、中途半端なプロジェクトがどんどん増えていくのを防ぐこと
  • 大きな石が多すぎる世界で、適度に魅力的な選択肢こそが危険。自分がぜひやりたいと思うことにノーと言う。それはとても難しい。それでも断ることを学ばなくてはいけない。人生は一度きりしかない
  • 僕たちのつくるものは、決して完璧ではない。目指すレベルに届かないのではないかという心配など、もう必要ない。頭のなかの完璧な基準に追いつくことは、どうしたって不可能。だから、肩の力を抜いて、まず始めてみたほうがいい。
⑤注意力を自分の手に取り戻す
  • 時間と同じく、注意力にも限界がある。意識しなくても自然に入ってくる情報が無ければ、人間は生きていけない。一方で、僕たちはある程度まで、意識的に注意をコントロールできる。この自発的な注意力をうまくつかえるかどうかで、人生の質は左右される
  • 意味のある体験をするためには、その体験に注意を向けなくてはならない。注意を向けていないことは、起こっていないのと同じ。注意を向けることが、献身の始まり。
  • アテンション・エコノミーは、人々の関心を操作し、ひいては限りある人生の使い方までコントロールしようとする巨大な機械。その誘惑はあまりに大きく、人の限りある注意力でそれを完全に跳ね除けることは難しい。人生の限られた時間は、気づかないうちに巧妙に盗まれ続けている
⑥本当の敵は自分の内側にいる
  • 僕たちが気晴らしに屈するのは、自分の有限性に直面するのを避けるため。つまり、時間が限られているという現実や、限られた時間をコントロールできないという不安を、できるだけ見ないようにしている。
  • 僕たちの邪魔をするのは気晴らしの対象ではない。嫌な現実から逃れたいという僕たち自身の欲求だ。僕たちにできる最善のことは、不快感をそのまま受け入れること。重要なことをやり遂げるためには、思い通りにならない現実に向き合うしかない。その事実を受け入れ、覚悟を決める。

(2)幻想を手放す

⑦時間と戦っても勝ち目はない
  • 問題は、先の計画に固執しすぎると、不安が逆に悪化するということ。たまに大惨事を防ぐことができたとしても、それ以外のときはかえって邪魔にしかならない。未来のすべてを計画通りにしたいと思っても、絶対に安心感は得られない。なぜなら未来は本質的に、誰にも知ることができないから。
  • 人生の4000週間の時間にしても、本当は誰も手に入れることはできない。目の前の1週間は、決してあなたの思い通りにはならない。制約だらけの時と場所に放り込まれて、次に何が起こるかわからない不確実な瞬間瞬間をただ生きるしかいない
⑧人生には「今」しか存在しない
  • 実際、人生のあらゆる瞬間はある意味で「最後の瞬間」だ。時は訪れては去っていき、僕たちの残り時間はどんどん少なくなる。この貴重な瞬間を、いつか先の時点のための踏み台としてぞんざいに扱うなんて、あまりに愚かな行為。
⑨失われた余暇を取り戻す
  • 本当は、余暇を「無駄に」過ごすことこそ、余暇を無駄にしないための唯一の方法。何の役にも立たないことに時間を使い、その体験を純粋に楽しむこと。将来に備えて自分を高めるのではなく、ただ何もしないで休むこと。
  • 休息を休息として楽しむために、まずは事実を正しく受け入れよう。あなたの日々は、完全無欠の未来のための準備期間ではない。そんな仮定で生きていたら、人生の4000週間を十分に生きることはできない。
  • 純粋な趣味は、生産性や業績を重視する文化に対する挑戦状。誰にもほめられない活動をするほうが、結果を気にしなくてすむ。自分だけのささやかな時間はとりわけ貴重なもの。
⑩忙しさへの依存を手放す
  • 真の賢者とは、風に吹かれても折れずにしなる木や、障害物を避けて流れる水のようなもの。事物はあるがままにそこにあり、あなたの意志で変えられるものではない。世界に影響力を行使する唯一の方法は、現実に逆らうのではなく、現実に合わせて動くこと
  • 本を読む時間なんかない、と人は言う。実際は、時間はあっても、読書に気持ちを集中できないだけ。時間をコントロールしたいという僕たちの傲慢さを、読書は許してくれない。無理に急いで読もうとしても、意味がすり抜けていくだけ。何かをきちんと読むためには、それに必要なだけの時間がかかる。それは読書だけでなく、嫌になるほど多くのことに当てはまる事実
  • ものごとには必要なだけの時間がかかるものだし、どんなに急いでも不安が減るわけではない。世界のスピードを思い通りに動かすことなど不可能。急げば急ぐほど、もっと急がなければという不安が増すだけ
⑪留まることで見えてくるもの
  • 難しい問題に直面したとき、僕たちは未解決の状態に耐えられず、とにかく最速でなんとかしたいと思う。コントロールできないという不快感を逃れるためなら、本質的な解決策でなくても気にしない。うまくいくかどうかをじっと見守るよりも、さっさとやめたほうが気持ちが楽になるから。
  • 初期の試行錯誤の段階で諦めてしまうようでは、決してオリジナルの作品はつくれない。辛抱強くみんなと同じ道を歩んできた人だけがたどり着ける、豊かで独創的な境地というものもある。
⑫時間をシェアすると豊かになれる
  • 時間を意味のあることに使うためには、他人と協力することが不可欠。たとえ時間があり余っていても、共に過ごす人がいなければ、まったく意味がない。それどころか、逆に苦痛に感じられる。昔の人が罪人を島流しにしたのはそのため。
⑬ちっぽけな自分を受け入れる
  • 本当の話、あなたが人生で何をするかは、そんなに重要なことじゃない。あなたが限られた時間をどう使おうと、宇宙はまったく、これっぽっちも気にしていない。
  • 並外れたことをやろうという抽象的で過剰な期待は、きっぱり捨てよう。そんなものにとらえれず、自分に与えられた時間をそのまま味わったほうがいい。宇宙を動かすという紙のような幻想から地面に降り立ち、具体的で有限な、案外すばらしいこともある人生をありのままに体験しよう。
⑭暗闇のなかで一歩を踏み出す
  • その仕事を続けることが人間的成長につながるか、それとも続けるほどに魂がしなびていくかと考えれば、答えは自然と明らかになる。できるなら、快適な衰退よりも不快な成長を目指したほうがいい
  • 誰に認めてもらわなくても、自分はここにいていい。そう思えたときに、人は本当の意味で善く生きられる。「こうあるべき」というプレッシャーから自由になれば、今ここにいる自分と向き合うことができる。自分の強みや弱み、才能や情熱を認め、その導きのままに進んでいくことができる。

(3)エピローグ

  • 希望を捨てたとき、あなたは自分の力で歩みだすことができる。自分の限界を認めるとは、すなわち希望を捨てること。
  • 世界を完璧なものにしようとする無駄な努力をやめれば、自分にできることを始められる。何もかもをやるという幻想を手放せば、本当に大事なことだけに集中できる

3.教訓

本書は、時間の使い方そのものに関してではなく、時間というものに対する考え方について問いかけた内容です。

世の中の人すべてが、歴史に名を刻むような人ばかりではありません(私も含め)。だから過剰な希望を捨てて現実を見るように、と説きます。

一方で、すべてを諦めよう、頑張るのをやめよう、ということではなく、「快適な衰退ではなく不快な成長を目指そう」というように、自分ができる努力の領域を見定めて、そこにはすぐに取り掛かり、しっかり時間を確保できれば、独創的な境地にたどり着けるとも説いています。

また、重要だと思ったことは、「時間を意味のあることに使うためには、他人と協力することが不可欠」という部分で、「電話は自分一人で持ってても意味がない。他のみんなが持っているから、あなたの電話にも価値が生まれる」という比喩は秀逸だと感じました。

意識高い系として個人的な見栄ばかり張るのをやめて、自分の限界を素直に認めたうえで、地に足着けて、周囲と協力しながら、自分のなすべきことに注意を向ける、というのは、まさに今の時代に向けたメッセージとして有用だと感じた良本でした。

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