1.はじめに
安藤さんの本は、以下の「とにかく仕組み化」に続き2冊目です。
”とにかく仕組み化”の「おわりに」もある、識学シリーズ3部作について著者が推薦する読み方は以下の通りですが、結果として私は完全に逆から読み進めています。
- まずは、仕事ができるプレーヤーになる(「数値化の鬼」のエッセンス)
- そして、マネジャーへと頭を切り替える(「リーダーの仮面」のエッセンス)
- 最後に、人の上に立ち続ける(「とにかく仕組み化」のエッセンス)
自身としては、マネジャーは人事評価対象の部下がいる管理職、リーダーは必ずしも管理職でなくてもプロジェクトや業務・タスク単位で一般社員がなれるもの、と考えていて、使い分けたほうがいいと捉えています。その意味で、図らずも副題では「マネジャー」に頭を切り替えると表現しており、「マネジャーの仮面」のほうがしっくりきます。
実際、本書のはじめににおいて、”マネジメントのノウハウを、初めて部下やスタッフを持つ「中間管理職」を想定している”と書かれています。以下では、特に印象に残った部分に絞って引用していきます。
2.内容
仮面は比喩。リーダーが冷静に淡々と成果を出すために立ち返る、いわば「軸」
仮面をかぶるように、「5つのポイントだけ」に絞ってマネジメントする。
- 「ルール」:場の空気ではなく、言語化されたルールをつくる
- 「位置」:対等ではなく、上下の立場からコミュニケーションする
- 「利益」:人間的な魅力ではなく、利益の有無で人を動かす
- 「結果」:プロセスを評価するのではなく、結果だけを見る
- 「成長」:目の前の成果ではなく、未来の成長を選ぶ
- 「いい人」になろうとしていないか?
- 「待つ」ことを我慢できるか?リーダーが手を差し出せば、そのぶん部下の失敗は減るかもしれないが、学ぶ機会を奪ってしまうことにもなる。
- 部下と「競争」していないか?過去のやり方を押し付けて、部下と競い合ってはいけない。上司が部下より現場に詳しい必要はない。
- 「マネジメント」を優先しているか?一番重要な資質は、「自分の数字、個人の数字がたとえ悪かったとしても、しっかりと部下を指導できる」ということ。
- 「辞めないかどうか」を気にしすぎていないか。頑張りたい人間は、全員活かす。辞めさせないために部下に合わせる必要はまったくない。
(1)安心して信号を渡らせよ-「ルール」の思考法
- リーダーがやることとして、もっとも大事なのが、「ルールを決める」ということ。例外を作ってしまうと、チームや組織は非常に脆くなる。「あの人は許されているのに、なぜ自分はダメなのか」と言い出す人が現れると、組織はぐちゃぐちゃになる。
- ルールが明確でないことは、部下にとってもストレスになる。リーダーの顔色をうかがい、空気を読みながら行動しないといけないから。どこに地雷が埋まっているかわからないところで自由に振る舞うことなんてできない。逆説的だが、ちゃんとルールがある会社の方がギスギスせず、組織内の人間関係が良好になる。
- 会社は学校ではないから、そのルールを「言語化」してシェアすることが必要。ルールは「全員が守れる範囲」で統一すべき。共通のルールを守っていることがイコール、その組織の一員であるという認識を持つことになる。
- 大事なのは、ルールがないことによるストレスから部下たちを自由にすること。ルールがないと、みんなが見えないルールを探りあって疑心暗鬼になる。ルールがなく個々の裁量に任せてしまうと、仕事の優先順位に対する認識の違いが生まれる。ルールが決まっていれば、「やると決まった人がやって」と一言で済む。
(2)部下とは迷わず距離をとれ-「位置」の思考法
- 優しい上司は、今の部下にとってはいい上司だが、「未来」に視点を移すと、部下は成長できないためマイナスの存在となる。しかし、「未来」に視点を移すと、「あのときは大変だったけど、頑張っておいてよかった」と、部下にとってその上司の存在はプラスに転じる。
- 部下のやる気を気にする必要はない。それぞれの立場にいる人に、その役割と責任に応じて上から下へ仕事が下りてくるだけ。任せた仕事が終わったあと、お菓子や飲み物を買ってあげるようなリーダーもいるが、それは部下を子供扱いしているようなもの。
- 上司が相談に乗っていいことは次の2つ。
- 「部下の権限では決められないこと」を決めるとき
- 「部下が自分で決めていい範囲なのかどうか」を迷ったとき
(3)大きなマンモスを狩りに活かせる-「利益」の思考法
- 「利益にならない」と思えば、いい人であってもついていかない。本当についていきたいと思われるリーダーは、「利益をもたらしてくれる人」。仕事に厳しくても、「数年後には成長できるはず」と利益を感じさせることが大事。
- 独立して社会から評価を得る仕組みも、組織の中で上司から評価を得る仕組みも、本質的には一緒。独立して社会から評価を得る仕組みも、組織の中で上司から評価を得る仕組みも、本質的には一緒。会社で評価されない人が、社会から評価されることなんて、滅多にない。独立して成功できる人は、組織でもやっていける人。
- 集団で大きな利益を獲得し、獲得した利益を分配する。そうすることで、個々の人間が1人ずつ取り組むよりも、結果的に多くの利益、分配を獲得することができる。
- 長期的に成長していくためには、「もうちょっと、もうちょっと」を日々、積み重ねること。そのための「いい緊張感」をつくるのがリーダーの仕事であり、リーダーの仮面の力。
- 下手に安心感があり、ぬるま湯の中にいる人ほど、まわりと仲良くやっていないことに、つい「恐怖」を感じてしまう。しかし、それは本来、感じる必要のない怖さであり、もっと未来に恐るべき「恐怖」があることを認識しておかなければいけない。
- 言い訳に逃げて現状を変えようとしない部下には、ちゃんと詰めていく必要がある。「詰める」とはあくまで淡々と事実を確認していくだけ。「何やっているんだ」ときつく追い詰めるわけではない。
- 言うときと言わないときとでムラがあると、言われたときだけ頑張ろうとする。常に一定のテンションを保つことが、リーダーには求められる。そうしないと、「機嫌がいいときはゆるく、機嫌が悪いときは口うるさい」などと思われてしまう。
- 会社組織において、他と比較されない「絶対的価値」はない。つまり、「相対的評価」を受け続ける。脱サラしてお店を出しても、近くのお店と競争になる。フリーランスになっても、他のフリーの人と仕事の取り合いになる。競争から逃れることはできない。その現実を、メンバー全員に受け入れさせるべき。
- 「どう感じているか」は個人の感想。反省させることが目的ではないので、すべて受け流す。見るべきポイントは、「次にどのような行動をするか」だけ。具体的に行動を変化させない限り、また同じことを繰り返す。
(4)褒められて伸びるタイプを生み出すな-「結果」の思考法
- 最初に「目標設定」をして、ちゃんと仕事を任せる。最後に「結果」を報告してもらい、評価する。その点と点の管理を身につける。まず、目標設定のときにすべきことは、ルール設定と同じく、明確な言語化。
- 過去の自分のやり方を押し付けるのはNG。リーダーとしては、部下に寄り添っていて面倒見がいいように思えるかもしれないが、こうしたリーダーが成長を止める。目標さえ決めれば、途中のプロセスは部下が創意工夫したり、失敗を繰り返したりして試行錯誤するはず。見かねて手を貸してしまうと、部下が失敗から学べるチャンスを奪う。
- もちろん、「何から手をつけたらいいかわからない」という部下もいる。特に、新人や部署異動してきた人には、最初はやり方を説明すべき。この段階での、「見て学べ」「背中を見ろ」という指導は間違い。
(5)先頭の鳥が群れを引っ張っていく-「成長」の思考法
- 「結果」と「評価」の差を正しく認識できない人は、成長できない。だからこそ、自己評価ではなく他者評価が必要であり、日ごろからリーダーがフェアに接していることが大事になってくる。自分以外の他者から評価されることから逃げることは、資本主義の下では不可能。
- 不足しているギャップを受け止めず、「言い訳」が可能な状態になると、人はそちらに逃げる。リーダーが言い訳のできる状況を潰しておくコミュニケーションを日頃から取っておくことが求められる。
- 組織適応能力までを含めて「優秀さ」。組織適応能力と能力の重要性は、50対50の関係。だから、どんなに元の能力が高くても、適応能力が低かったら、どの会社に入っても半分の力しか発揮できない。それに、能力のある人間に限って、「適応したくない」というようなことを言い出す。
- 「変化」を正しく理解していない会社の特徴は、「人事異動や組織再編が多い」ということ。それはまさに「良くなったように見える」だけで、実際には何も変わっていない。
3.教訓
マネジャーを経験する前に読むと、少し構えてしまいそうな印象も持ちましたが、経験をしている立場からすると非常に共感できる内容です。
自身も、以前に担当者として勤務経験をしたことのある部門で初めてマネジャーをしたので、メンバーとはよく見知った関係でした。しかし、メンバーとは一定の距離を取るようにしていました。ランチも基本的に1人で食べ、夜も自分から飲みに誘うことはありませんでした。というのも、そこで何かが決まってしまうと、参加していない人からしたら違和感が残ります。「あの人とだけ話をしている」という空気が蔓延すると、組織運営上は面倒なことになります。(以前に社内にタバコ部屋があったときには、そこで大事な決定がされていた、ということもありました・・)
また、評価設定において、課題設定の文章が日本語としては何の問題もない表現だとしても、それだけでは十分ではありません。実際に期末の振返りの際、設定内容に対して○○ができたからA、ここができなかったからCとか、客観性をもって評価できる内容にできるよう、最初から盛り込んでおかないといけません。
さいごに、何より大事にしたいのは”Next Action”です。今はこういう状況です、ということは実務をやっていればしっかりと説明できます。一方で、ではそれを受けて、目指すゴールにたどりつくためには、いつまでに何をするのか、打ち手を考えることが必要です。
以上について改めて考える機会を得られる良本ですので、ぜひ経験の浅いマネジャー職の方には、手に取って全体を読んでいただくことをおすすめします。