1.はじめに
自分でやった方が早い病。どんな方も、程度の差はあれ、この病にかかったことがあるか、今もかかっていると思います。そして、完治することは難しいはずです。
そして、副題には、「自分も相手もラクになる正しい”丸投げ”」とあります。
自分で抱えることなく、相手の成長を促しつつ、個人でなくチームで戦う。この大切さがよくわかる良本です。
以下では、印象に強く残った部分だけ引用・紹介していきます。
2.内容
(1)「どう頼むか」にはコツがある
- "やってみよう"と思ってもらえる意欲を依頼側がつくりだす必要がある。そのためには、「感謝される」「褒められる」「自分しかできない特別感」の3つがポイント。
- 依頼内容の目的がはっきりすると、その依頼の全体像が見えて、ただの「作業」に意義と価値が足されて「仕事」になる。そのことで、そのタスクが自分ごと化されて、参加意識が芽生える。地味なこと、簡単に見えることこそ、その目的を明確にして、どう役立つのかを伝えることが大切。
- 「この仕事をやってほしい」というこちらの都合を、「その仕事をやりたい」という相手の欲求に沿った文言に変換する必要がある。「欲求充足」という考え方。
- 依頼がうまくいくためにも、ポイントを改めて確認してみる。創出意欲(相手がやりたいという文脈になっているか)目的の明確化(なぜ必要なのか理由を伝えているか)欲求充足(利己的都合ではなく相手にメリットがあるか)選択肢の提示(断る余白があるか、スケジュールに相談の余地があるか)負担の配慮(負担を減らす工夫や相談の余地があるか)
- 「ごめんごめん、申し訳ないけどこれやってくれないかな」と必ず謝りながら依頼してくる人がいた。申し訳ないという気持ちの表れだろうが、謝られてもモチベーションアップにはつながらない。ぜひ自信を持って依頼して任せてみる。
(2)「誰に頼むか」ですべてが決まる
- 「優秀か優秀じゃないか」よりも「向いているか向いていないか」、もっと言えば「相手がやる気になるか」という基準でアサインをしていく必要がある。
- ビジネスは究極の団体競技。人は短所と長所を持ち合わせているもの。欠点を受け入れ、お互い補完しあい、チームワークで成果を最大化するのがマネジメントの醍醐味。個人の欠点がそのままチームの欠点にはならない。リーダー自身も弱みがあっても大丈夫。
(3)「丸投げ」の前後にあるもの
- 重要な「相談」にたどり着くために、ぜひ「雑談」「冗談」から始める。これが三談論法の法則。当然、1回の面談ですべてがわかるわけではない。コミュニケーションは継続性が重要。
- ホウレンソウがビジネスの基本と言うが、それは上司に対しての一方通行ではなく、上司からメンバーに対しても同様。次につながるフィードバック。感謝と評価もセットで行う。
(4)時代にあった任せ方
- 勇気を持って時には仕事を減らす決断が必要。労働力は無限ではないので、許容量を超える仕事が発生し続けたら、どこかで洪水が起きてしまう。
- 相手の時間を奪うくらいなら素直に断る。すぐに返信することが大切。ビジネスの場では配慮はいらない。依頼する側からしたら次の人に当たれるので早い方がいい。あなたが断れば次の人に当たるだけ。ドライなようにも聞こえるが、それがビジネスというもの。
(5)それでも「任せられない」人に
- メンバーを今の自分と比較しない。任せて責任を持たせれば、自分の力で進むことで必ず成長していく。失敗は投資。長い目で見れば、たとえ小さな失敗があったとしても、その何倍もの成果をもたらしてくれる。
- 「自分でやったほうが早い」のは今だけの話。先を見れば、チームとしての総力は個人の力の比ではない。大切なのは、メンバーの可能性を信じること。
- 「任せた」と言いつつ、指導の名のもとに細かくチェックする「中途半端な丸投げ」は、やる気を削ぐ、一番やってはいけないこと。主体性が奪われ、成長は止まり、指示待ち人間の出来上がり。
- 人は成長する。成長しないなら自分に問題があると考える。あえて厳しい言い方をすると、「チームに任せられる人がいない」というのは「私はマネージャーとして無能です」と言っているのと同義語。「自分でやったほうが早い」というのは、育成を無視し組織を弱体化させる罪。
- 多少自分の考えと違っても目をつぶる。積極的に失敗させる。自分で考え自分で進むことで成長を促す。もちろん、取り返しのつかない大事故にならないように気をつける必要はあるが、それ以外は大らかに見守る。
(6)育成の真髄
- ティーチングの目的は、相手がスキルを習得すること。レベルに合わせて話す。マネージャーが「教えてもできない」と怒るのは間違っていて、「できるように教えられなかった」と反省すべきこと。
- 成功体験の最後のステップは「成功体験を教える」。メンバーが後輩に教えることで、スキルを完全に習得できた状態になる。教えるには経験を体系化したり言語化してより深く理解することになるから。
- マネージャーが部下の能力にキャップをしてしまうことも散見される。バイアスでメンバーの成長を制限していないか。成長を妨げてしまうネガティブなレッテルは、今すぐ破り捨てる。
- 叱られないか、責任を取らされないか、という不安や心配がないチームは生産性も上がるというもの。
- 歳を取ってやっちゃいけないのは説教、昔話、自慢話。
- 自分のコピーやクローンを育てるという思想は、成長を妨げる危険な思想。誰かのコピーを目指して、本人を超えたことはほとんどない。その人の劣化版、下位互換で終わってしまう。画一的な人格の組織は、多様な価値観が求められる時代にも逆行する。
(7)任せる技術は褒める技術
- 問題はメンバーでなく自分にあった。メンバーの良さを自分が見つけられていないだけだった。1つの事象もフレームの仕方、つまり切取り方を変えれば(リフレーミング)、ポジティブになる。
- 大雑把→おおらか
- 頑固→ブレない・自分の意見がある
- 面倒くさがり→効率的
- 飽きっぽい→好奇心旺盛
- 仕事が遅い→丁寧で慎重。
- 結論から伝えると、ビジネスで叱ってはダメ。冷静に問題を「指摘」して、なぜそれが問題なのか、どうすべきか「指導」して、改善できるように一緒に考え「誘導」する。
(8)モチベーションの上げ方「4+1」
- 共通の目的を示すことで、組織の中ではたとえ小さな存在だとしても、大きな存在の一部として価値を感じる。その先の未来や将来への期待が生まれる。目的こそが人を動かす原動力となる。
- 成長ループの「まみむめも」。
- 任せる:相手の意欲や適性に沿って、適度なチャレンジがある依頼をする
- 見守る:任せたら口を挟まない
- 報いる:成果に応じてフィードバックと褒めることを忘れない
- 目指す:次のゴールを示し、その魅力を伝える
- 目的提示:なぜやるかを明確にする
3.教訓
少しマネージャー目線が多いと思いますが、本書の考え方自体はマネージャーに限らず有用だと思います。
というのも、ずっと同じ担当者がが同じやり方で作業を続けても、気づきも生産性向上も得られないからです。若手や経験の浅い担当者にやり方そのものから任せ、口出しをせずに見守ることで新担当が成長し、組織知化・複線化でき、チームとしての総合力を伸ばすことができるのは、マネージャーのアサインの仕方次第という面もあるものの、担当者同士でも工夫できることだと思います。
その際に大切なのは、自分のコピーを作ろうとしないことで、いちいち指示を出さずに相手の裁量に任せ、自ら考えてもらうようにすることです。最初は少し時間がかかりますが、失敗の中から学ぶこともあり、長期的にはプラスとして捉える必要があります。
前の部長からも、「思い切って任せたらいい」と何度か言われていたことを思い出し、本書の内容が余計に心に沁みました。
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