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傾聴術 ひとりで磨ける”聴く”技術 古宮 昇 著

1.はじめに

傾聴の本質的な態度とはどういうものかについて、しっかり学べる本です。

特に第2章では、9人の登場人物からそれぞれの悩みごとの相談を受け、自身としてどう応答するか、傾聴トレーニングの実践場面があります。まず自身で応答案を実際に書き出してから、その後に著者の解説を読むという進め方です。これが副題にある、「ひとりで磨ける”聴く”技術」というところです。

想定応答例がいくつか記載され、それぞれの良し悪しについて解説があるので、自分としてどれに近いのかが確認できます。また、応答内容そのものだけでなく、それをどのような関係性で、どのタイミングだったらいいのか悪いのかも含めて解説があり、非常に勉強になります。

以下では、特に印象に残った部分を引用して紹介します。

2.内容

あなたがどの立場にあっても、共通して大切なことがある。それは、話し手の気持ちを話し手の身になって理解するとともに、「理解しています」ということを相手に伝えること。

(1)「傾聴」という援助法について

  • 悩み苦しむ人を支える方法のひとつとして、解決策やアドバイスを与えることのほかに、その人の話に親身になって耳を傾ける(傾聴)という方法がある。悩み苦しむ人にとって何より大きな助けになるのは、しばしば自分の話をじっくり聴いてもらい、自分のことを親身になってわかってもらうこと。
  • 悩みや苦しみを抱えている人の話を聴くときに大切なことは、話し手の気持ち・思いを、聴き手ができるだけありありと、ひしひしと想像して感じながら、「あたかも自分のことのように」親身になって聴くこと。
  • 本来の自分らしさ、たくましさ、しなやかさが輝き出すためには、自分に正直になることが必要。でも私たちは誰でも程度の差はあれ、「こんなことを思ってはいけない」「こうでなければならない」などの観念によって自分を縛り、不自由になっている。この縛りから自由になればなるほどラクになり、生き生きしてくる。自分らしさが輝く。
  • 傾聴することが人の支えになり助けとなるのは、聴き手の共感的で受容的な態度が、ある程度は話し手に伝わるから。ただこのとき、聴き手のそのような態度が話し手に伝わるためには、聴き手の傾聴力が必要。傾聴力とは以下の3つ
  1. 話し手の気持ちを理解する力
  2. 理解したことを言葉で伝える技術
  3. 聴き手が話し手を信頼し、こころもからだも緩めてその場にいられること

(2)傾聴トレーニングの実践-応答の仕方

  • 人に不安を感じざるを得ない相手を、あなたが「変えよう」「救おう」とするほど、あなたのその態度・思いは、人におびえる相手にとってさらなる脅威になる。それでは安心してこころを開くのは難しくなる。
  • 対話の初期から話しづらい気持ちを直接的に取り上げても、話し手はそれ以上、素直に語ることはできない。しかし、話をじっくり聴く対話が何度か繰り返され、ある程度の信頼関係ができ、話し手が個人的なことも率直に話せるようになったのに、「何を話せばよいかわからない」といった発言をするなら、話しづらさを取り上げることが必要になってくる。
  • 聴き手が話し手にほめ言葉や過度のねぎらいを言うのは、「良い聴き手だと思われたい」といった聴き手の欲求から来ることが多い。聴き手のそのような気持ちは援助の妨げになる。というのは、こころの傷つきが激しい話し手のなかには、聴き手に腹を立てて攻撃することが心理的に必要な人がいるから。腹を立てたからといって聴き手が不安定になると、話し手は安心して怒りを出せなくなる。
  • 苦しいことや悩み事に直面して取り組もうとする援助の対話において、聴き手が話し手にしゃべらせようとして、些末な話題を出すのはよくない。おしゃべりをしているからといって意味のある対話になっているとは限らないし、沈黙しているからといって話し手の心に何も起きていないというわけでもない。要は、話したり沈黙したりしている話し手の心に、何が起きていて何が表現されているんかを、できるだけ話し手の身になって理解することが大切。
  • 本当の自己洞察のためには、話し手と聴き手の対話がもっともっと深まることが必要。対話の早い時点で、話し手が自身のことを振り返っているかのような発言をしたのは、おそらく心理学の本や講演などで、「親が変われば子どもが変わる」といった知識を得て、聴き手から認められたい気持ちが働いたため。
  • 聴き手が共感的に、理解的に、受容的に傾聴していけば、話し手は彼女にとって重要な事柄を必ず語る時がくる。しかも、話し手にとって最も適切なときに適切な方法で語る。その時には、聴き手から質問されたから答える、という答え方とは情緒的な意味合いのかなり違う、より深いこころの動きを伴う、より純粋な語りになる。
  • 話し手は最も深刻な問題や気持ちについて最初から自由に語れるわけではない。より話しやすい事柄から始め、聴き手の共感的で受容的な態度が伝わるにつれて何を話しても安全だと感じられ、徐々に問題の本質へと話が近づいていく。だから、話し手の内容がいかに些細でつまらないことのように思えても、真心で耳を傾けることが大切。
  • 話し手を責めても問題は解決しない。誰だって責められるのは嫌。他人を責めるほど、解決から遠ざかってしまう。同様に、自分を責める自己嫌悪と罪悪感も、解決を遠ざける。本当の解決につながる変化は、話し手が相手への不満と怒りをこころおきなく語り、表現し、受け止められる過程によって生じる
  • 親が「ああでなければならない」「こうしなければならない」と子どもに教えるとき、子どもにとってそれは拒絶。「ありのままの自分は、無条件で尊重される価値のある存在ではない。親から教えられた条件を満たさない限り、自分は愛される価値のないダメな人間だ」というメッセージを受け取るから。もちろん、親は子供にそんなメッセージを伝えたつもりはないが、子どもはそう受け取る。
  • 傷つきが深い人に”正しい”理屈で話して圧力をかけても、解決にはつながらずかえって問題がこじれかねない。このような人にとって必要なのは、彼らの「失敗なんかしたらとんでもないことになる」という恐怖とおびえ、そんな恐怖を抱かざるを得ない劣等感、自己無価値観の苦しみを共感的にわかってくれる人の存在。
  • 私たちが人を支えるためには、自分自身が高い程度に満たされていることが必要。自分が満たされていなければ、話し手が苦しさを訴えているのに、それをじっくり受け止めるどころか、自分のことをわかってほしい気持ちが先に立ってしまう。人の支えになろうとする人は、他人を助けようとする前に、まず自分が援助を得ることが必要。そうでないと無理をして苦しくなる。
  • マイナスの感情を話し尽くすことができるほど、自殺などの行動によって感情を表す必要性が低下する。また、言葉による表現が十分になされるほど、今はくじけてしまっている成長への欲求と、話し手が本来持っている強さを取り戻す助けになりえる。
  • 話し手の苦しみを感じながらも、理解したことを聴き手ができるだけ的確に簡潔に言葉にして返すことができれば、共感的理解がより伝わりやすく、より支えになれる。聴き手が「まずAでそしてBなんですね。そしてCになってDなんですね」のように言葉を多く重ねると、話し手の感情が削がれる。また、話し手にとって長く聞き続けることは負担にもなる。
  • 聴き手は、話し手にとってその寂しさ、愛情欲求、怒りと憎しみをありありと感じることは、あまりに辛すぎることも同時に理解しなければならない。相手へのあまりに激しい愛情欲求と怒りに、彼自身が自発的に気づく前に聴き手がそんな指摘を言うと、彼が傷つく。
  • 「話し手の言うことはおかしいなあ」という感覚が起きたときには、話し手を正そう、変えようとするのではなく、「おかしいと感じるのは、話し手のことを十分に理解していないからだ。もっと話し手の身になって理解しよう」とする。それが援助的な態度。

(3)傾聴の実際

  • 傾聴の本質的な態度とは、話し手が何を考え、何を感じ、何を表現しているのかを、できるだけ話し手の身になって、ひしひしと、ありありと想像して理解し、その理解を言葉で返そうと努めること。
  • 聴き手に必要なのは、謝ったり弁解したり説明したりすることよりも、相手の辛さ、傷つき、寄る辺なさなどを共感的に理解し、その理解を相手に言葉にして返し、共有すること。
  • 話し手の質問や発言が何の表現であるかについて見当がつくなら、その理解を言葉にして返すことが、共感的理解を伝える効果的な方法のひとつ。でも、話し手が何を伝えたくて質問や発言をしたのかが理解できない場合は、できるだけそれを明らかにするような応答を心がけることが大切。たとえば、「そのことがどう気になるのか、教えていただけますか」のような応答。
  • 傾聴の専門家になるには、話し手が表現していることを、短くわかりやすく言葉にして返す技術を繰り返し練習して向上させることが必要だが、理解することの大切さに比べると、「何を言うか」は決して本質的に重要なことではない。
  • 「正しく聞こう」とか「上手に返そう」という意識は、話し手の世界に共感的・理解的に浸ることを妨げる。そうではなく、「話し手が何を感じ、考え、表現しているのかを、あたかも話し手であるかのようにできるだけひしひしと、ありありと、生き生きと想像して理解しよう」として聴くように心がける。

(4)傾聴力をつけるために

  • 人の役に立つ援助者になるために最も大切なこと。意識からすべてが始まる。必要なことは、人の役に立つ有能な援助者になる、と強くはっきりと決意する
  • 傾聴を学びはじめたときには、話し手の話を聞きながら、頭のなかでは「何と言って返そうか」とあれこれ考えてしまいがち。でも、それをしているときには私たちは自分の考えに注意が向いており、話し手からこころが離れているので、傾聴はできていない。
  • 沈黙には意味がある。たとえば、話し手が自分の感情や考えを吟味しているのかもしれない。混乱して話せないのかもしれない。話したいことが浮かんだけど、何かの理由で話すことをためらっているのかもしれない。
  • 聴き手は沈黙の意味を理解するために、沈黙する話し手と一緒にいながら、自分の体を感じることを通して話し手の気を感じる。また、必要に応じて問いかける。そのときは、「話させよう」「緊張を和らげよう」「話やすくしよう」という意図で問いかけるのではない。あくまで「理解しよう」とする

3.教訓

本書を読むと、ただ相手の話を黙って聴くことが傾聴ではない、と理解できます。

うんうんとうなずくだけで何も変えてくれない上司は、「傾聴地蔵」と呼ばれることもあるようです。

www.nikkei.com

傾聴とは、ひしひしと、ありありと理解するだけでなく、その理解を相手に言葉にして返すことまでが求められます。相談している側からすると、話をしても何も返してくれないと、この人は話を聞こうとしてくれているのかと感じます。そうでないと判断すれば有意義なやり取りは生まれずに、表面的でこの場をやり過ごせばいいだけの、無駄な面談時間となってしまいます。

だからといって、「どのように返そうか」と考えながら話を聴いていると、相手の本心を聴くことに集中できず、相談事を語る際の表情も読み取ることができず、傾聴していることにはなりません。これは、キャリアコンサルタントの勉強をしているとき、かなり早い段階で壁にぶち当たったので、実体験をもって理解できます。

本書の4章でも、傾聴力を上げるためには、練習相手を見つけて繰り返し練習すること、それを録音して聞き直すこと、話し手からFBを受けることの大切さが語られています。実際に、キャリアコンサルタント試験に向けて、養成講座の通学終了後も、同じクラスの人を中心に、毎週集まって自主的なロールプレイの練習をしていました。

傾聴力をつけたいと考えている方は、ぜひ本書を手にとって、漫然と読むのではなく、9人の相談内容への返し方を自身で書き出すことで実践力をつけていくことをおすすめいたします。